説文解字私註 誩部
誩部
誩
- 説文解字
競言也。从二言。凡誩之屬皆从誩。讀若競。
- 康煕字典
- 言部七劃
- 《古文》𧮣
『唐韻』渠慶切『廣韻』渠敬切『集韻』『正韻』渠映切、𠀤音競。『說文』競言也。『廣韻』爭言也。
人名。與誩、崇誩、見『宋史・宗室表』。
『玉篇』虔仰切『廣韻』其兩切『集韻』巨兩切、𠀤强上聲。又『廣韻』『集韻』𠀤他紺切、音探。又『集韻』徒濫切、音淡。義𠀤同。
- 音
- キャウ。ケイ。
- 訓
- あらそふ
- 解字(白川)
- 言とは立誓して爭訟することであるから、善否を爭ふ意。善の初形は羊と誩に從ひ、羊は神判の羊、誩は立誓して爭ふ當事者を示す。競は誩と从に從ひ、二人竝んで祈る形。兢と聲義近く、神前に競進して祈ることをいふ。
善
- 説文解字
- 譱
吉也。从誩从羊。此與義美同意。
- 𦎍
篆文譱从言。
- 康煕字典
- 口部九劃
- 《古文》譱𦎍𠾄𧮟
『廣韻』常演切『集韻』『韻會』『正韻』上演切、𠀤音蟺。『說文』吉也。『玉篇』大也。『廣韻』良也、佳也。『書・湯誥』天道福善禍淫。
『詩・鄘風』女子善懷。《箋》善、猶多也。『禮・文王世子』嘗饌善、則世子亦能食。《註》善謂多于前。
『禮・曲禮・入國不馳註』馳善躙人也。《疏》善猶好也、車馳則好行刺人也。
『禮・王制註』善士謂命士也。
『禮・學記』相觀而善之謂摩。《疏》善猶解也。
『禮・少儀』問道藝、曰、子習于某乎、子善于某乎。《疏》道難、故稱習。藝易、故稱善。
『前漢・西域傳』鄯善國、本名樓蘭王。
與單通。『前漢・匈奴傳』單于曰善于。
『廣韻』姓也。『呂氏春秋』善卷、堯師。
『韻會』『正韻』𠀤時戰切、音繕。『毛氏曰』凡善惡之善則上聲、彼善而善之則去聲。『孟子』王如善之是也。○按『玉篇』『廣韻』『集韻』『類篇』善字俱無去聲。
『正字通』與人交讙曰友善。『史記・刺客傳』田光曰、所善荊卿可使也。
與膳通。『莊子・至樂篇』具太牢以爲善。
『集韻』或作嬗。
- 解字(白川)
- 正字は譱。羊は羊神判に用ゐるもので、解廌、誩は兩言で原告と被告の當事者。この當事者が盟誓ののち神判を受け、その善否を決する。敗訴者の解廌は、その人(大)と、自己詛盟の器の蓋を外した𠙴を、合はせて水に投じ、その穢れを祓つた。その字は灋で法の初文。廌を略して、のち法字となる。勝訴した解廌の胸に、心字形の文飾を加へて神寵に感謝する字は慶。善、慶、灋は羊神判に關する一連の字。のち神意に適ふことをすべて善といひ、また德の究極をいふ語となつた。
- 解字(藤堂)
- 羊は義や祥に含まれ、美味しく見事な供へ物の代表。言は、かどある明白なものの言ひ方。譱は、羊と二言の會意で、たつぷりと見事である意を表す。のち、廣く「よい」意となる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 金文は羊と二言に從ひ、言は聲符。古人は羊に美善の意があるとし、しかも祥に音近く通假し、吉祥と解く。故に本義は美善、吉祥。一説に言は亦た意符で、善言を指すといふ。二言に從ふのは、二人が互ひに向かつて好く言ふの意。
- 戰國文字は多く一言に從ひ、言の上部が羊と筆劃を共用する。戰國竹簡や小篆以後の善字は一言に從ふが、金文の善は大多數が二言(誩)に從ふ。恐らく、古代、善は獨善を指さずと言ひ、人間關係中の善を指したことを反映してゐる。
- 金文では美好を表す。
- 戰國竹簡では美好を表し、また、善事を表し、喜愛を表し、擅長を表す。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
競
- 説文解字
彊語也。一曰逐也。从誩、从二人。
- 康煕字典
- 立部十四劃
『廣韻』渠敬切『集韻』『韻會』渠映切『正韻』具映切、𠀤音傹。彊也。『書・立政』乃有室大競。『爾雅・釋詁』競、彊也。『左傳・僖七年』心則不競、何憚于病。
爭也、逐也、高也、遽也。『詩・商頌』不競不絿。《註》競、逐也。『左傳・襄十年』鄭其有災乎、師競已甚。《註》爭競也。『哀二十三年』、敝邑有社稷之事、使肥與有職競焉。《註》競、遽也。
『增韻』盛也。『左傳・昭三年』二惠競爽。
『集韻』或作𧫙。亦作傹。『周禮・春官・鐘師註』繁遏執傹也。『韻會補』又作倞。『開元五經文字』毛詩、秉心無倞。
借作境。『秦詛楚文』奮兵盛師、以偪𢓲邊競。
叶居良切。『黃庭經』魂魄內守不爭競、神生腹中銜玉鐺。
叶其兩切。『詩・大雅』靡所止疑、云徂何往。君子實維、秉心無競。俗作𥪰。
- 音
- キャウ。ケイ。
- 訓
- きそふ。すすむ。つよい。
- 解字(白川)
- 二竞を竝べた會意字。兄は祝。竞は祝が上に言を捧げる形。元の形を以て言へば、誩に二兄を加へた形。字形より言へば、二人竝んで祝禱する形。二人竝んで神前に舞ふことを巽といひ、僎、選といふ。神事にそのやうな形式を取ることが多かつた。
- 解字(藤堂)
- 二人と二言の會意。二人が言ひ合つて勝つか負けるかやり合ふことを示す。
- 解字(落合)
- 甲骨文は、冠を被つた二人が竝んでゐる形。甲骨文では祭祀名に用ゐられてをり、貴人が祭祀に參列することが原義、きそふの意は後起の派生義であらう。上部は篆文で口が加はり誩の形となつたが、寧ろ誩が競から派生した略字。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は二人あるいは二大に從ひ、頂部は頭飾を帶びる形を象り、全體では恐らく二人が頭に飾りを帶び肩を竝べ競ひ合ふ形。本義は競走、轉じて競爭。
- 金文に至り誩に從ふやうに變はる。誩に爭論の意があり、競の義符と聲符を兼ねる。西周中期金文に二大の間に圓形を一つ加へる形があり、二人が球を爭ふ形とも、圓形は只の飾筆とも言はれる。
- 甲骨文では祭名や人名に用ゐ、金文では競爭を表す。また通假し境となし、國境、疆土を表す。また人名や族氏名に用ゐる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
讟
- 説文解字
痛怨也。从誩𧷏聲。『春秋傳』曰、民無怨讟。
- 康煕字典
- 言部二十二劃
- 《古文》㾄
『唐韻』『集韻』『韻會』徒谷切『正韻』杜谷切、𠀤音獨。『說文』痛怨也。『徐鍇曰』象衆怨也。故从二言。『廣雅』惡也。『揚子・方言』讟、咎、謗也。『郭註』謗、言噂讟也。『左傳・昭元年』民無謗讟。『杜註』讟、誹也。『前漢・五行志』怨讟動於民。『師古註』讟、痛怨之言。
- 音
- トク
- 訓
- そしる。うらむ。にくむ。
- 解字(白川)
- 聲符は𧷏。𧷏に瀆、黷の聲がある。誩は言ひ爭ふ當事者。相爭つて互ひに怨痛することをいふ。