假名遣入門
歴史的假名遣で書く爲の入門。讀み方? そんなのは學校で習つた通りである。
注意事項
ウェブ上には本文書の外にも假名遣の學習を企圖して供されてゐるコンテンツがある。相性もあると思ふので、適宜に選擇、參照されたい。
本文書は字音の假名遣について體系的に扱ふものではない。今となつては和語同然に扱はれ、しばしば假名書きされるものについては、個別に取り上げる。
歴史的假名遣の表記と「現代仮名遣」の表記を竝べて示す場合、「現代仮名遣」の表記を[]内に入れて示す。
大原則
- 日本語は漢字かな交じりで書くものであるから、徒に漢字を避くべからず。わざわざ假名書きにして假名遣で躓くのは愚である。
- 使ふ頻度の高い表現から身に着けるべし。
- 滅多に使はない表現を一所懸命勉強しても嫌になるだけで益が少ない。
- 實際に文章を書く爲に繰り返し使つて身に著けるのが良い。さうでもしなければなかなか身になど著かぬ。
- 個別の語について假名遣に迷つた時は、國語辭書を引くべし。
基本原則
歴史的假名遣と「現代仮名遣」で特に異なる部分が表出するのは以下の假名が關はる部分である。
- じぢずづ (所謂四つ假名)
- あいうえお
- はひふへほ
- やいゆえよ (動詞活用を考へる際、ヤ行のイやエを考へる必要あり)
- わゐうゑを
語中語末の「わいうえお」は「はひふへほ」と書く例が多い。但し、あくまで多いだけであるから、何でもかんでも「はひふへほ」に直すと、間違へることになる。
- 形容詞の終止形・連體形の末は「い」(文語では「し/き」)である。間違へて「痛ひ」なんて書くと、とても痛々しい表記になる。正しく「痛い」と書くべし。
- 音便の「い」「う」は「い」「う」と書くべし。「書いた」「買うた」「貰うた」「ございます」の類。
- 上二つもさうだが、元々「はひふへほ」ではなかつたものを「はひふへほ」とは書かない。
「-oう」は「-aう」と書く例が多い。勿論例外もある。
- 助動詞「う」が附く場合。
- 「書かう」「行かう」「渡らう」「會はう」(四段動詞)
- 「白からう」「美味しからう」(形容詞)
- 「元氣だらう」(形容動詞)
- ウ音便やその轉。
- 「小さうございます」「おはやうございます」
- 「向かう」[向こう] 向かひの音便化した形。
- 例外の例。
- 「ようこそ」 よく+こその轉。
- 「とうに」 (疾うに) 疾くの轉。
- 「おとうさん」 ととの轉。
- 「もう」
- 「かげろふ」 (陽炎、蜉蝣) 「かげろひ」とも。
助詞「は」「へ」「を」
以下は「現代仮名遣」が日和つて表音化しなかつたので、歷史的假名遣と「現代仮名遣」の間で書き方に違ひがない。
- 係助詞「は」
- 格助詞「へ」
- 格助詞「を」
係助詞「は」に由來する終助詞については、「は」と書くのが理窟どほりであると思慮するが、文書作成者は「わ」と書きがちであり……(瀧汗)
副詞「かう」
例:「ああ言へばかう言ふ」
「斯(か)く」の轉なので「かう」と書く。
「この(此の)」「ここ(此處/此所)」「これ(此れ)」は「現代仮名遣」と同じ。
「さう」
副詞「さう(然う)」
例:「さう言はれてもねえ」
「然(さ)」の轉なので「さう」と書く。
「その(其の)」「そこ(其處)」「それ(其れ)」は「現代仮名遣」と同じ。
感動詞「さう(然う)」
例: 「さう、その通り」
形式名詞「さう」
助動詞として説明される「さうだ」[そうだ]の「さう」。樣態、傳聞の意。
樣(さま)の轉、或は「相(サウ)」の字音に由ると言はれる。
形式名詞「やう」
「やう」は「樣」の字音假名遣。
助動詞として説明される「やうだ」[ようだ]の「やう」。比況の意。
「しやう(がない)」「書きやう」「聞きやう」「考へやう」の「やう」も同樣。
「よう」と「やう」の區別
形式名詞「やう(樣)」なのか、助動詞「よう」なのかで區別する。「よう」は意志・推量・勸誘を意味する。「やう」は樣態を意味する。
さうは言うても判りづらい、と言ふ向きもあると思ふので、區別のポイントを示す。
- やう
- 漢字で「樣」と書いてをかしくない場合は「やう」である。
- 格助詞「が」や係助詞「は」が接續するとき(「しやうがない」「やりやうはある」)は「やう」である。
- よう
- 言ひ切りのとき(「〜について考へよう」)は「よう」である。
- 接續助詞「が」、「と」が接續するとき(「見ようが見まいが」「しようとする」「寢ようと思ふ」)は「よう」である。
- 上一段動詞、下一段動詞、カ變動詞、サ變動詞、一部の助動詞(活用形が下一段活用のもの)の未然形に附く。「しよう」「來よう」「見よう」「食べよう」「買はせよう」など。其れ以外(四段動詞など)の場合、同じ意味では助動詞「う」が附く。「買はう」「會はう」「黒からう」など。
副詞
強調は歷史的假名遣と「現代仮名遣」で異なるもの。
- 「まづ」(先づ) [まず]
- 「かへつて」(却つて) [かえって]
- 「いづれ」(何れ) [いずれ]
- 名詞(代名詞)の「いづれ」「いづこ」も同樣。
- 「おづおづ」(怖づ怖づ) [おずおず]
- 「たとひ」(假令、縱令) [たとい]
- 此の頃は「たとへ」[たとえ]とする例が多いか。
- 「なほ」 [なお]
- 「たうとう」(到頭) [とうとう] ※字音假名遣
- 「やうやく」(漸く) [ようやく]
- 『枕草子』の
やうやうしろくなりゆく山ぎは
の「やうやう」は、「やうやく」の轉。
- 『枕草子』の
- 「やをら」(徐ら) [やおら]
- 「つひに」(遂に、終に) [ついに]
- 同じ副詞でも「つい」は「つい」と書く。「つい~する」「ついうつかり」「ついさつき」などの「つい」。間違へやすいので注意。
- 「あるいは」(或は)
- 「現代仮名遣」も同じ。「あるひは」の用例もあるが、正しくは「あるいは」とのこと。
- 「もう」
- 「現代仮名遣」も同じ。
助詞
- 「は」「へ」「を」(既述)
- 「さへ」 [さえ]
- 「くらゐ」 [くらい]
- 「ぐらゐ」と濁る場合もあり。
- 名詞の「くらゐ(位)」も同樣。
- 「づつ」 [ずつ]
- 「現代仮名遣」でも「づつ」は「許容」されてゐるので、「ずつ」なんて書き方は綺麗さつぱり止めたらすつきりする。
四段動詞
「現代仮名遣」の下で「五段(活用の)動詞」とされてゐるものは「四段(活用の)動詞」である。活用語尾がオ段になることはない。未然形はア段になる。以下は例。強調は「現代仮名遣」と異なる語尾。
- 「書かない」 /「書かう」 [書こう]
- 「行かない」 /「行かう」 [行こう]
- 「渡らない」 /「渡らう」 [渡ろう]
ハ行四段動詞
アワ行五段動詞とされてゐるものは、ハ行四段動詞である。「わいうえお」ではなく、「はひふへ」で書く。「ほ」が出て來ることはない。以下は例。
- 「合ふ」: 合はない/合はう、合ひます、合ふ、合ふとき、合へば、合へ
- 「言ふ」
- 「思ふ」
- 「いはふ」 (祝ふ)
「ゐる」「をる」
「居る」は「ゐる」或は「をる」である。補助動詞の「(〜して)ゐる」「をる」も同樣。
「用ゐる」「率ゐる」もこの形。
「射る」「要る」等は「いる」。
「織る」「下る/降る」は「おる」、「折る」は「をる」。
「ぢや」
いづれも「現代仮名遣」では「じゃ」となるが、元の形を考へると「ぢや」が適當。
- 斷定の助動詞。「である」の轉。「だ」(關東其の他)、「や」(近畿其の他)と同源にして同義。
- 接続詞。「では」の轉。例:「ぢや、この邊で」
- 「では」の短縮。例:「お子樣ぢや話にならぬ」
助動詞「です」「ます」+ 助動詞「う」
「現代仮名遣」で「簡單でしょう」「遊びましょう」のやうになるものは、歴史的假名遣では「簡單でせう」「遊びませう」のやうに書く。
「です」「ます」の未然形「でせ」「ませ」に「う」を附けた形である。「ます」の場合は否定の形「ません」を思へば良い。否定の「ん」にせよ意志推量の「う」にせよ、未然形に附く。
形容詞
終止形・連體形
形容詞の終止形や連體形は「い」で終はる。間違つても「ひ」や「ゐ」にはならない。「白い」「黒い」「痛い」「辛い」「無い」など。
元々は終止形「し」、連體形「き」で終はつてゐたものが變化して「い」になつたものである。
未然形
形容詞の未然形は、「現代仮名遣」では「かろ」と書くところを、歴史的假名遣では「から」と書く。「白からう」「黒からう」「無からう」など。
元々は「白く・あら・ず」のやうにラ變動詞「あり」(口語では四段動詞「ある」)に由來する。これが縮まつて「白から・ず」のやうに變化した。
口語だとあまり出て來ない形ではある。
連用形
形容詞の連用形「〜く」はウ音便化することがある。
「現代仮名遣」だと「〜しく」が音便化した場合「〜しゅう」と書くが、歴史的假名遣では「〜しう」と書く。「嬉しうございます」など。
挨拶の「おはやうございます」は、「おはやく」が「おはやう」に轉じた結果である。
挨拶
挨拶で出て來る表現を纏めてみる。言はずもがなのものもある。
「おはやうございます」ございますはござりますの轉なので、「ござゐます」にはならない。「御座居ます」といふ宛字から類推するのは間違ひ。注意されたし。
「こんにちは」「こんばんは」「おやすみなさい」
「いつてらつしやい」「おかへりなさい」
「ただいま」ただいまは「ただ」+「今」なので、「ゐ」とか「ひ」にはならない。曾てTwitterで「おかへり」と挨拶すると「ただひま」と返してくれる人がをられたので、敢へて書いておく。
「おめでたうございます」「ありがたうございます」「どういたしまして」
「さやうなら」さやうならは漢字で書けば「左樣なら」である。
ハ行絡み要注意のもの
「現代仮名遣」に慣れてゐるとまごつきさうなものを集めてみた。中には良く知られてゐるものもあるが。
- 「あふぐ」 [あおぐ] (仰ぐ、扇ぐ)
- 「あふぎ」 [おうぎ] (扇) 言ふまでもなく、あふぎはあふぐものである。
- 「あふひ」 [あおい] (葵)
- 「あふる」 [あおる] (煽る)
- 「はふる」 [ほうる] (放る)
- 「たふとい」 [とうとい] (尊い)、「たふとぶ」 [とうとぶ] (尊ぶ)
- 促音便化した形が「たつとい」「たつとぶ」である。
- 「たふれる」 [たおれる] (倒れる)、「たふす」 [たおす] (倒す)
- 「さうらふ」 [そうろう] (候) ※さぶらふ(侍ふ、候ふ)の轉。さむらひ(侍)も同源。
- 「けふ」 [きょう] (今日)
- 「きのふ」 [きのう] (昨日)
- 「をととひ」 [おととい] (一昨日)
- 「さいはひ」 [さいわい] (幸ひ)
- 「あぢはふ」 [あじわう] (味はふ)
- 「かはいい」 (可愛い) / 古形は「かはゆし」 ※かほゆし(顏映し)の轉。
「ふ」にはならない例
うつかり「ふ」と書きがちな例。ハ行四段連用形をウ音便にした場合が該當。
「買うた」、「違うて」、「思うとる」、等。
「違ふて」のやうに「〜て」に接續する形を間違ひがち。正しくは「違うて」である。
尤も、關東では促音便を使ふのが專らと聞くので、こんな間違ひをするしないには地域差もあるのかもしれない。
お遊び
「なあ、あれ、ちやうちやうちやふ?」
「ちやうちやうちやふんちやふ?」
「ちやうちやうちやふん?」
「ちやうちやうちやふよ」
「ちやうちやうちやふんか……」
簡單な説明: 「ちやふ」←「違ふ」はハ行四段動詞。
「ア行」上一段動詞
現代語ではヤ行上一段、ワ行上一段、ハ行上一段のいづれかの活用をする。文語ではヤ行上一段、ヤ行上二段、ワ行上一段、ハ行上二段である。
該當例が少ないので憶えてしまふのが早い。
ヤ行上一段動詞
口語を用ゐる上では、「現代仮名遣」との差異はない。
該當するのは以下の四語のみ。射るは文語でも上一段活用、殘りは上二段活用。後者の文語形も併せて示す。
- 「射る」
- 「老いる」 / 「老ゆ」
- 「悔いる」 / 「悔ゆ」
- 「報いる」 / 「報ゆ」
ワ行上一段動詞
下三つを憶えれば濟む。上記も參照のこと。
- 「ゐる」(居る)
- 「率ゐる」
- 「用ゐる」
古い形でもワ行上二段の語はなかつた模樣。
ハ行上一段動詞
ヤ行でもワ行でもなければハ行であるが、例を良く知らない。文語ではハ行上二段活用。
- 「しひる」(強ひる、誣ひる) / 「しふ」(強ふ、誣ふ)
ハ行上二段活用から四段活用に移つた例もある。
- 「こふ」(戀ふ、請ふ、乞ふ)
なほ、文語でハ行上一段のものは、現代語でもハ行で活用する。結局形は變はらない。
- 「ひる」(干る、放る)
「ア行」下一段動詞
口語では、ア行下一段、ワ行下一段、ヤ行下一段、ハ行下一段動詞で活用するものが該當する。文語では各々下二段活用。文語で唯一下一段活用する「蹴る」は、現代ではラ行四段で活用するので、以下にはまるで關係ない。
上一段よりも語例が多いので厄介。ア行、ワ行は丸諳記、ヤ行になる場合を見定めて、消去法でハ行になるものを見定める。
ア行下一段動詞
「える(得る)」一語。複合語「心得る」を合はせても二語。丸諳記する。
- 「える」(得る) / 「う」(得) 戰前制定された法令で頻出する語。戰後は「できる」と言ひ換へられてゐる。
- 「心得る」(心得)
ワ行下一段動詞
下の三語のみ。關連語と一緒に憶えると良い。
- 「うゑる」(植ゑる) / 「うう」(植う)
- 「うわる(植わる)」は歴史的假名遣でも「うわる」なので、一緒に憶える。ゑもわもワ行。
- 「うゑる」(飢ゑる/餓ゑる) / 「うう」(飢う/餓う)
- 「飢わる/餓わる」といふ語はないので困るが、「うへる」といふ語もないので、「うえる」は「うゑる」と書くと思つておけば良い。
- 「すゑる」(据ゑる) / 「すう」(据う)
- 「すわる(坐る)」は歴史的假名遣でも「すわる」なので、一緒に憶える。
ヤ行下一段動詞
ア行でもワ行でもなければ、文語にすると「〜ゆ」になるものはヤ行、それが無理ならハ行であると區別する。
他動詞の形から、文語での形を知らずとも分る場合を把握しておくと良い。
- 「甘える」 / 「甘ゆ」
- 他動詞形: 「甘やかす」
- 「癒える」 / 「癒ゆ」
- 他動詞形: 「癒す」
- 「おびえる」(怯える、脅える) / 「おびゆ」(怯ゆ 、脅ゆ)
- 他動詞形: 「おびやかす」(脅かす)
- 「肥える」 / 「肥ゆ」
- 他動詞形: 「肥やす」
- 「聳える」 / 「聳ゆ」
- 他動詞形: 「聳やかす」
- 「絶える」 / 「絶ゆ」
- 他動詞形: 「絶やす」
- 「つひえる」(潰える、費える) / 「つひゆ」(潰ゆ、費ゆ)
- 他動詞形: 「つひやす」(潰やす、費やす)
- 「煮える」 / 「煮ゆ」
- 他動詞形: 「煮やす」
- 「生える」 / 「生ゆ」
- 他動詞形: 「生やす」
- 「冷える」 / 「冷ゆ」
- 他動詞形: 「冷やす」
- 「増える」 / 「増ゆ」
- 他動詞形: 「増やす」
- 「燃える」 / 「燃ゆ」
- 他動詞形: 「燃やす」
後は文語での形を把握するか丸諳記するかだが、それでも以下を憶えておけば良いらしい。少し量があるのは否めない。
- 「おぼえる」(覺える、憶える) / 「おぼゆ」(覺ゆ、憶ゆ)
- 「消える」 / 「消ゆ」
- 「聞こえる / 「聞こゆ」
- 「こえる」(越える、超える) / 「こゆ」(越ゆ、超ゆ)
- 「凍える」 / 「凍ゆ」
- 「冴える」 / 「冴ゆ」
- 「榮える」 / 「榮ゆ」
- 「饐える」 / 「饐ゆ」
- 「萎える」 / 「萎ゆ」
- 「映える」 / 「映ゆ」
- 「吼える」 / 「吼ゆ」
- 「見える」 / 「見ゆ」
- 「萌える」 / 「萌ゆ」
- 「悶える」 / 「悶ゆ」
ハ行下一段動詞
ア行でもワ行でもヤ行でもなければハ行である。以下は例。他にもある。
- 「耐へる」 / 「耐ふ」
- 「考へる」 / 「考ふ」
- 「答へる」 / 「答ふ」
- 「教へる」 / 「教ふ」
- 「與へる」 / 「與ふ」
- 「變へる」 / 「變ふ」
- 「傳へる」 / 「傳ふ」
- 「迎へる」 / 「迎ふ」
「經る」は「現代仮名遣」でもハ行で活用する。
- 「へる」(經る) / 「ふ」(經)
「わ」絡み
語頭
語頭の「わ」は「わ」と書く。例外なし。
語中語尾
語中語末の「わ」は、しばしば「は」と書く。たまに「わ」と書くものもある。「わ」と書くものを把握して、其れ以外は「は」と書けば良い。
語中語末が「わ」になる語
- 「あわ」 (泡)
- なほ、「粟」は「あは」である。
- 「あわてる」 (慌てる)
- 「いわし」 (鰯)
- 「うわる」 (植わる)
- 關聯: 「うゑる」(植ゑる)
- 「かわく」 (乾く)
- 「くわゐ」 (慈姑)
- 「ことわる」 (斷る)
- 「こわいろ」 (聲色)
- 關聯: 「こゑ」(聲)
- 「さわぐ」 (騷ぐ)
- 「ざわつく」「ざわめく」「ざわざわ」も「騒」であり、同樣。
- 「しわ」 (皺)
- 「しわい」 (吝い)
- 「すわる」 (坐る)
- 關聯: 「すゑる」 (据ゑる)
- 「たわいない」 (他愛ない)
- 「たあいない」、とも。
- 「たわむ」 (撓む)
- 「ひわ」 (鶸)
- 「ゆわう」 (硫黄)
- 「よわい」 (弱い)
- なほ、「齡」は「よはひ」である。
「う」絡み
語頭
語頭の「う」は「う」と書く。例外なし。
語中語尾
語中語尾の「う」は、しばしば「ふ」と書く。たまに「う」と書くものもある。「う」と書くものを把握して、其れ以外は「ふ」と書けば良い。
語中語尾が「う」になる語
いづれも音便の類である。「現代仮名遣」で「-oう」のものを、「-aう」と書く場合があるので注意。
- 活用語尾のウ音便
- 買うて(かうて)、言うて、思うて、問うて、等 (ハ行四段動詞連用形「ひ」→「う」)
- 赤う(あかう)、早う(はやう)、美しう、等 (形容詞連用形「く」→「う」)
- 應用: おはやうございます、ありがたう、ようこそ
- 「く」→「う」の轉譌
- かう (副詞: 斯う; 斯くの轉)
- かうし (格子)
- とうに (疾うに; 疾くの轉)
- かうばしい (香ばしい; かぐはしいの轉)
- 「ひ」→「う」の轉譌
- いもうと (妹)
- おとうと (弟)
- しうと (舅)
- なかうど [なこうど] (仲人)
- くろうと (玄人)
- しろうと (素人)
- かりうど (狩人)
- かうぢ [こうじ] (麴; かびたちの轉といはれる)
- 「み」→「う」の轉譌
- かうがうしい (神々しい)
- かうべ (首)
- かうべ (神戸) ※尤も神戸を「かんべ」と讀ませる地名の方が多い氣はする。某政令指定都市が有名なだけで。
- かうぞ (楮)
- こうぢ (小路)
- てうづ [ちょうず] (手水)
- 「わ」「ゐ」「を」→「う」の轉譌
- さうざうしい (騒々しい)
- まうでる (詣でる)
- まうす (申す; まをすの轉)
- てうな [ちょうな] (手斧)
- 他
- もう
- さう
- どう
- なう [のう] (Twitterで頻出?の「なう(now)」ではない)
- のうのう
- おとうさん (お父さん; ととの轉)
- やうか (八日)
- たうげ (峠)
- ゆわう (硫黄)
- めうが (茗荷)
- はうき (箒; ははきの轉)
- かうもり (蝙蝠)
- たうとう (副詞: 到頭; 字音假名遣)
- やうやう (漸う; やうやくの轉)
- かうむる (蒙る、被る; かぶるの轉)
- まうける (設ける、儲ける)
- はうむる (葬る; はぶるの轉)
- ゆうべ (昨夜; 夕べは「ゆふべ」なので要注意)
「お」絡み
語頭
語頭の「お」は「お」と書くものと「を」と書くものがある。「お」と書くものの方が多いので、「を」と書く例を憶えるべし。
語頭が「を」になる語
- を (小) ※接頭語
- をがは(小川) など
- を (尾、緒)
- をか (岡、丘、陸)
- をぎ (荻)
- をけ (桶)
- をさ (長)
- をしどり (鴛鴦)
- をす (雄、牡)
- ををしい (雄々しい)
- をとり (囮)
- をととし (一昨年)
- をととひ (一昨日)
- をとこ (男)
- をんな (女)
- をとめ (乙女)
- をつと (夫)
- をぢ (伯父、叔父、小父)
- をば (伯母、叔母、小母)
- をひ (甥)
- をどし (縅)
- をの (斧)
- をり (檻)
- をろち (大蛇)
- をかしい (可笑しい)
- をこがましい
- をさない (幼い)
- をかす (犯す、侵す、冒す)
- をがむ (拜む)
- をさめる (納める、收める、治める、修める)
- をしむ (惜しむ)
- をしへる (教へる)
- をどる (踊る)
- をののく (戰く)
- 關連語: わななく
- をはる (終る)、をへる (終へる)
- をる (折る、居る)
- 關連語: ゐる (居る)
語中語尾
語中語尾の「お」は、「ほ」と書くものと「を」と書くものがある。「ほ」と書くものの方が多いやうなので「を」と書く例を憶えるべし。
語中語尾が「を」になる語
- あを (青)
- 關連語: あゐ (藍)
- いさを (勳)
- うを (魚)
- かはをそ (川獺)
- さを (竿、棹)
- とを (十)
- ばせを [ばしょう] (芭蕉) ※字音
- みさを (操)
- みを (澪)
- みをつくし (澪標)
- めをと (夫婦)
- たをやか
- かをる (香る)
- しをれる (萎れる)
- 古語「しをる」は、ラ行下二段で「萎る」(自動詞)、ラ行四段で「枝折る(栞る)」「責る」、「萎る」(他動詞)。
- しをり (栞) は「栞る」に由來。
- まをす (申す) ※まうすの古形。
語中語尾が「ほ」になる語の例
飽く迄例であつて全部ではない。
- しほ (鹽、潮、汐)
- なほ (尚、猶)
- とほい (遠い)
- とほり (通り)
- こほり (冰)
- ほのほ (炎、焰)
- ほほ(頰)
困つたときは辭書を引くと良い。
「え」絡み
語頭
語頭の「え」は「え」と書くものと「ゑ」と書くものがある。數の少ない「ゑ」と書くものを憶えるべし。其れ以外は「え」と書けば良い。
語頭が「ゑ」になる語
- ゑ (繪、畫(画))、ゑがく (描く)
- ゑ、ゑさ (餌)
- いきゑ (生き餌)、ゑじき (餌食)
- ゑかう [えこう] (廻向)
- ゑしやく (會釋) ※字音
- ゑちご (越後)
- ゑぐい
- ゑぐる (抉る、剔る)
- ゑむ (笑む)
- ゑがほ(笑顏)、ほほゑむ(微笑む)
- ゑる (彫る)
讀みは「え」ではないが、ゑふ(醉ふ)も「ゑ」で始まる語である。尤も、「よふ」と書いたら良いとも言はれる。
語中語尾
語中語尾の「え」は「え」と書いたり「へ」と書いたり「ゑ」と書いたりする。「へ」と書くものが多いので、「ゑ」と書くもの、「え」と書くものを憶えるべし。
なほ、下一段活用動詞に係るものは、先に扱つたので、ここでは具體例は省略する。
語中語尾が「ゑ」になる語
「ゑ」の現れる語は次のとほり。
- ワ行下一段動詞
- うゑる(植ゑる)
- うゑる(飢ゑる)
- すゑる(据ゑる)
- こゑ (聲)
- 關聯: こわいろ(聲色)、こわね(聲音)など。
- すゑ (末)
- ちゑ (智慧) ※字音
- つゑ (杖)
- ともゑ (巴)
- ゆゑ (故)
語中語尾が「え」になる語
語中語尾が「へ」になる語の例
例が全くないのでは不親切なので示しておく。勿論示す以外にもある。
- ハ行下一段動詞
- うへ (上)
- いへ (家)
- とりあへず (取り敢へず)
「い」絡み
語頭
語頭の「い」は「い」と書くものと「ゐ」と書くものがある。數の少い「ゐ」と書くものを憶えて、其の他は「い」と書けば良い。
語頭が「ゐ」になる語
- ゐ(居)
- ゐる(居る)
- ゐどころ(居所)、ゐるす(居留守)
- ゐ(猪、亥)、ゐのしし(猪)
- ゐ(井)
- ゐど(井戸)、ゐもり(井守)
- ゐ(藺)、ゐぐさ(藺草)
- ゐなか(田舍)
- ゐばる(威張る)
語中語尾
語中語尾の「い」は「い」と書いたり「ひ」と書いたり「ゐ」と書いたりする。「ひ」と書くものが多いので、「ゐ」と書くもの、「い」と書くものを把握すべし。
なほ、下一段活用動詞に係るものは、上に掲げたので、ここでは具體例は省略する。また、形容詞の語尾は「ひ」にも「ゐ」にもならず「い」になることは既に述べたが、ここでは例を省略する。
語中語尾が「ゐ」になる語
- ワ行上一段動詞
- もちゐる(用ゐる)
- ひきゐる(率ゐる)
- あぢさゐ (紫陽花)
- あゐ (藍)
- 關連語: あを(青)
- かもゐ (鴨居)
- くらゐ (位)
- くれなゐ (紅)
- くわゐ (慈姑)
- しきゐ (敷居)
- しばゐ (芝居)
- せゐ (所爲)
- なゐ (地震)
- まどゐ (團居、圓居)
- もとゐ (基)
語中語尾が「い」になる語
- いる(射る)、老いる、悔いる、報いる (ヤ行上一段動詞)
- 白い、黒い、美しい、等 (形容詞)
一般にイ音便は「い」と書く。以下に例示する。イ音便由來と言はれる語も併せて掲げる。
- 書いて、叩いて、於いて、等 (カ行四段動詞連用形)
- おほいに (大いに)
- かい (櫂)
- かいぞへ (介添へ)
- かうがい (笄)
- かいなで (搔い撫で)
- かいまき (搔い卷き)
- かいまみる (垣間見る)
- さいなむ (嘖む、苛む)
- さいはい (采配)
- さいはひ (幸ひ)
- ぜんまい (薇)
- つい (副詞)
- 「つひに」とは別なので要注意
- ついたち (一日)
- ついたて (衝立)
- ついで (序で、次いで)
- ついて (就いて)
- ついばむ (啄む)
- ふいご (鞴)
- やいば (刃)
其の他、語中語尾に「い」が出て來る語を示す。
- あいにく (生憎)
- かはいい (可愛い) ※古形は「かはゆし」
- いいえ
- おぢいさん (お爺さん)
- おにいさん (お兄さん)
- はい (諾・yes・oui)
- なほ、灰は「はひ」である。
- ひいき (贔屓)
- むいか (六日)
- あるいは (或は)
- おいしい (美味しい) ※古語「いし」の頭に「お」を附けたのが元
- ひいでる (秀でる)
- ないし (乃至) ※字音
四つ假名の區別
記憶に頼りがちになる分野ではある。自分の使ふ語の假名遣を段々と把握して行くしかない。
動詞の活用語尾に四つ假名が出てくるもの、及び其の派生語
知つてゐると、ある程度は論理的に區別できる。
- 「〜んじる」「〜んずる」の兩形を取るもの (文語では「〜んず」の形)
- 結局はサ變「する」の變形であるから、「じ」「ず」を使ふ。
- 例: 甘んじる/甘んずる(甘んず)、先んじる/先んずる(先んず)、感じる/感ずる(感ず)、禁じる/禁ずる(禁ず)、信じる/信ずる(信ず)
- 「まぜる(混ぜる、交ぜる)」/「まず(混ず、交ず)」、「はぜる(爆ぜる)」/「はず(爆ず、彈ず)」の係累
- 「まず」「はず」の二つはザ行で活用する。本來的にザ行で活用するのは、この二語に限られるとか何とか。
- 派生的に「まじる」「まじはる」「はじく」「はじける」もザ行。
- なほ、「彈む」は「はづむ」であるから要注意。
- 其れ以外
- 上記を除いてはダ行で活用するので「ぢ」「づ」になる。
ダ行で活用する語及び其の關連語の例
- いでる、でる(出る) / いづ(出づ)
- 關連語: 「いづみ(泉、和泉、出水)」、「いづも(出雲)」、「くもづ(雲出)」
- はぢる(恥ぢる) / はづ(恥づ)
- 關連語: 「はぢ(恥)」「はづかしい(恥づかしい)」
- おぢる(怖ぢる) / おづ(怖づ)
- 關連語: 「おづおづ」
- とぢる(閉ぢる、綴ぢる) / とづ(閉づ)
- 「閉ざす」から類推すると間違つてしまふので要注意である。
- ねぢる(捻る、捩る) / ねづ(捻づ、捩づ)
- 關連語: 「ねぢ(捻子、螺旋、螺子、捩子)」
- めでる(愛でる) / めづ(愛づ)
- 關連語: 「めづらしい(珍しい)」、「めでたい(目出度い)」
- もぢる(捩る)
- よぢる(捩る/攀る) / よづ(捩づ/攀づ)
- 關連語: 「よぢれる」
其の他
類推できるものもあるとは思ふが、結局は「ぢ」「づ」になるものを個別に憶えるしかない。
「ぢ」の入る言葉の例
- あぢ(味)
- あぢ(鰺)
- あぢさゐ(紫陽花)
- いくぢ(意氣地) ※字音
- いぢける
- いぢらしい
- いぢめる(苛める、虐める)
- いぢる(弄る)
- うぢ(氏)
- うぢ(宇治) ※字音
- かうぢ(麴)
- かぢ(舵)
- かぢ(梶)
- かぢ(鍛冶)
- くぢら(鯨)
- けぢめ
- しめぢ(濕地、占地)
- すぢ(筋)
- ぢ(地) ※ 字音
- いぢ(意地)、ぢみ(地味)、ぢみち(地道)等々
- ぢか(直)、ぢかに(直に) ※ 字音「ヂキ」(呉音。漢音は「チョク」。)の轉
- ぢく(軸)
- ぢぢ、ぢぢい(爺)
- 「ちち(父)」を濁音にしたら「ぢぢ(爺)」になり、「はは(母)」を濁音にしたら「ばば(婆)」になる。
- 「〜ぢや」
- どぢよう(泥鰌)
- なめくぢ(蛞蝓)
- なんぢ(汝、爾)
- ひぢ(肘)
- ふぢ(藤)
- 「富士」は「ふじ」
- もみぢ(紅葉)
- わらぢ(草鞋)
- をぢ(伯父、叔父、小父)
- 「をぢ」の「ぢ」は「ちち(父)」の「ち」に由來する。
「づ」の入る言葉の例
- あづかる(與る、預かる)、あづける(預ける)
- あづき(小豆)
- あづさ(梓)
- あづま(東)
- いかづち(雷)
- いたづら(惡戲、徒ら)
- いづれ(何れ)、いづこ(何處)
- いなづま(稻妻、電)
- うづ(渦)
- うづく(疼く)
- うづくまる
- うづめる(埋める)
- うづら(鶉)
- おとづれる(訪れる)
- おのづから(自づから)、おのづと(おのづと)
- かかづらふ(拘らふ)
- かけづる(驅けづる)
- かたづ(固唾)
- かづける(被ける、潛ける)
- かはづ(蛙)
- きづく(築く)
- きづま(氣褄)
- くづ(屑)
- 「葛」は「くず」なので注意を要する。
- くづれる(崩れる)
- けづる(削る)
- さづける(授ける) / さづく(授く)
- さへづる(囀る)
- しづか(靜か)
- たづき(方便)
- たづさはる(攜はる)、たづさへる(攜へる)
- なづむ(泥む、滯む)
- なづな(薺)
- なまづ(鯰)
- はづれる(外れる)
- まづ(先づ)
- まづい(不味い、拙い)
- まづしい(貧しい)
- みづ(水)
- みづから(自ら)
- もづく(水雲、海蘊)
- ゆづる(讓る)
- よろづ(萬)
- わづか(僅か)
- わづらふ(患ふ、煩ふ)