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なかのゆみ 菟野くうぴい 愛萌 NARUKO 沼谷香澄
海猫 阿麻 宵薫 山崎みふゆ ユーリ とかげ 槙原由乃
雪柳 吉野櫻 Ray のん 佐々宝砂 芳賀梨花子
0001 なかのゆみ |
たまご |
たまごいろした
きいろいひよこ
ぽちょんとおとがして
めだまやきみたいなたいようと
あさのうたごえかわしたら
たまごがぽろぽろうまれでて
あか
あお
きいろ
きみどり
みどり
いろんないろで
わらってる
たまごのうたをうたおうか
たまごのかけらをすくおうか
きいろいいろの
たいように
たまごのしろみがひかってる
とろとろとろぉり
おいしそう
学校の横の住宅は古かった。
壊されて地下付き貸し家になっていた。
その横の横の横に、新生公園って公園がある。
私はそこのブランコが大好き。
揺れていると 戻った気がする。
いつに戻るのかは
わからないけれど。
けれど、そんな私は まなまなの木が大好き。
これは、私にしか見えない木。
私の“せい”より高かない。
まなまなの木は、日本語を喋る。
今日も、ぶらぶらぶらんこいんぐな私の横で
「空気が吸いたい。」
今日は、そういった。
私も、空気が吸いたい。衰退。すーはーすぅ
0007 愛萌 |
「卵の罪」 |
何人も
訪れることはない
冷たく凍る大地に
ひとつの
卵が
落ちている
卵は
誰に
暖められる
こともなく
今
まさに
絶命
しようとしていた
卵の母親は
どうしようもない
罪人だった
意味もなく
大勢の人間を殺し
その罪から
逃れるためだけに
胎内に卵を宿した
けれど
そんなことで
すべてを
許されるはずはなく
卵を産み落とした
次の瞬間
断罪のため
死刑になった
そうして
卵は
母親の
罪の
贖いに
今
ここで
ひとり
ひとり
―――――――――――――――――――嗚呼。
卵が
何をしたと
いうのだろう?
自分を産んだ女の罪を
なぜ
何も知らない
自分が
贖う必要が?
ぬくもりも
人の
優しさも知らず
十日と経たずに
殺される
その卵を
誰が
責める
誰が
責めると
いうのだろう?
嗚呼、嗚呼。
私が涙を流すのは
ただのエゴだと
誰かが嘲う
0019 NARUKO |
コウノトリのタマゴ |
初冬の青く晴れた日
ガラガラとマフラーから得体の知れない反響音をさせるブルーのステーションワゴンは
緩く間延びした真昼の陽射しの中
動物園へと入っていった
迷い込んだ展示室のなかほど
すきまなく綿の敷きつめられたアクリルケースに
等間隔にきちんと並ぶ
タマゴたちをみつけた
まっしろいのや乳白色やクリーム色や
小さな斑点のあるものやスベスベのものや
タマゴというのはいろいろなんだ
と、ため息とも驚きともいえない声を
ほっと吐きだした先にあったのは
ひとつだけ なぜか斜め半分に割れてる
コウノトリのタマゴだった
コウノトリも自分の子供はタマゴで産むのだ
そんなアタリマエのことが
コウノトリ という名前の前では
なんだか違ってみえてたりもした
ひとつだけ割れたタマゴっていうのが
偶然にも、コウノトリだったんだけど
偶然にも、そこに眼が止まった私は
必然と、辺りは急速に遠くなって
そのアクリルケースの前から
意識はほどなく散ってゆく
赤ちゃんは、幸せな夫婦のところに
等しくやってくるのだろうか
子供に教える時のためだけに利用される
コウノトリにはなんの罪もないのだけど
かすかでわずかなのぞみを
わらにすがるおぼれるもののように
神に祈る無神論者のように
空爆でつかみとろうとする平和主義者のように
コウノトリの使者に託して待っている女は
割れたタマゴの前に立ち尽くしたまま
静かな涙を産み落とす
けれどそれは
通りすぎてゆく家族連れの雑踏が
瞬時に掻き乱してしまい
小さなカタチにもなれず ただ 消えてゆく
斜め半分に割れたタマゴの主は
きっと
胸の奥の羽毛の中で
無言のやさしさに包まれて眠っていたのだろう
そして
今ごろはきっとちいさな羽を
うんとのばし
はばたく時を待ちわびているのだろう
小さく肩をたたかれて
私はアクリルケースの前に戻ってくる
肩にあった手はそっと下におりてきて
私の右手をゆっくりと握りしめる
初冬の青く晴れた日
ガラガラとマフラーから怪音のするブルーのステーションワゴンは
西に傾いた陽射しを
のっぺりした背中にゆらゆらと反射させながら
動物園からゆっくりと走り出していった
0024 沼谷香澄 |
http://homepage2.nifty.com/swampland/ |
くうらん |
シフォンケーキに入れるたまごの黄身は白身より一個分減らさなくてはならなかったのだ。
焼きあがった小麦粉と砂糖とたまごの混合物の底に二ミリほど金色の層がありちょっと削って口にしてみると樹脂のような質感のそれはたしかに小麦粉と砂糖とたまごの味がしてしかしそれはシフォンケーキとは別の食べ物だから包丁を差し入れてぺろんと、
切り離す
夕焼け、窓外に金色の
空の底、電線とビニールハウスの骨組みでこまぎれになった空に染め付けられた金色この風景には名前があった英語だったゴールデン、その次の単語は何だったろうか。
太陽は窓から見える風景には含まれておらず。
イメージの中でゆるゆるとうごく金色の球体。
降りてくるものだけ相手にしていればよいのだ。
そのとき
イメージの中のたまごの黄身がくるんと、
分裂する
薬缶、目前に湯の湧いた
いのちが奔流ならばそれは内を向いてひたすら内を向いて流れているのであり。
しゅうしゅうと音を立てて湯は煮えたぎりこんな湯では紅茶は入れられないのでガスを止めると音は止まる、はずが静かに小さく沸騰は続いていて。
イメージの中のたまごの黄身がぱちんと、
破裂する
金色、流れ出して底に溜まる。
0027 海猫 |
http://www.bb.wakwak.com/~umineko/ |
女帝の卵 |
おめでたい12月
1日
女帝の卵は産まれ
1月はさらにおめでたいであろう
女帝の雛は育まれ
「強く、賢く、美しく」
侍従たちの砦の中
わたしは女帝に憧れる
地位も立場も平民の
定められた私淑
「紫綬褒章」とは無縁の
血の指針
流れるままに
流れのままに
月の定率に従い
過ごしにくくも
自由な暮らし
すでにわたしの卵は産み育まれた
わたしという女の役割を欠いた
女帝とは似ても似つかない
平民ゆえの貧しさの中
リビングで
月餅を食べながら
ガス台の前
卵を
ポン ポ ポ ン、と鍋に入れ
《奇異な戯れは二度とすまい。
だまされるものカー ちくしょうメッ!
この、ろくでなシー の!
あほんだラー、の!
くそったレー !!》
グラ ラ ラーーーーーーーーリ、ル、レ、ロ。
グララ ラーーーーーーーーーバ、カ、ヤ、ロ。
卵、ぐつぐつ
ぐつぐつ
無言の
タンパク温度
わたし、ブツブツ
ブツブツ
戯言の
被害者意識
湯音とともに沸きあがる高感度の
糾弾
卵はすでに
茹で上がり
なにはともあれ。
おめでたい12月
1日
パカリ
パカ リ リ
ゆで卵は冷水で覚ましてから
剥くに
かぎる
0028 阿麻 |
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/6859/ |
赤ちゃん戻り |
閏年のバースディが やってくる。
あの日の
わずかな隙間に ヒヨコは生まれ
忘れ去られてく寸前、ピヨピヨと鳴いて
母のやさしい膝に乗り・・・やがて
チョコチョコ降りていく
遊び飽きた殻を握り締めても、やがてだんだん途切れてなくなる、ルーツ。
あの足取り 巣立ちのあと 風に煽られ夜の道を
うごめき
昼間の渇きの中 わずかな水を求めて叫ぶ・・・行方知れずの日々たどり、
やがて自分の歳さえあやふやなまま、とうとう帰って来たの
数が少ない、残り少ない・・・誕生日
この世にたった一つの 少しだけ、かなしい逃げ場所へ。
四分の一にまで齢(よわい)縮めてでも、だまし果(おお)せたい 赤ちゃん戻り。
いま漫画のカリメロと、私もおんなじ殻をかぶり
楽しく笑い、転がり・・・ヨチヨチふざけて
母の膝によじのぼり、降りたりして甘えながら
覚えたばかりの
チョコチョコ歩きに 夢中で憩う。
遊び飽きた殻を捨て去り、足跡がそこで途切れる、ルーツ。
0030 宵薫 |
http://users.goo.ne.jp/dubious |
イースターの朝
少し湿った匂いに
アナタが去ったことを知るねぇ
サヨナラって書いたタマゴは
何処に隠したの
0032 山崎 みふゆ |
ヨード |
生温かくて
ぬるっとした
この水の中が好き
目を閉じて
膝抱え
トクトク波打つ
鼓動を感じて
そこにあるのは
只 安らぎの闇
たゆたう水の
温かさ
ここで ずっと こうしていさせて
ここで こうして まどろんでいたいの
コツコツと
目醒めを急かす
音がする
止めて
お願い
邪魔をしないで
ここに いさせて
まどろんだまま
固い固い殻の中
生温かい水の中
もう少しだけ待って
あと少し……
あたしを守って
もう少しだけ……
0034 ユーリ |
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=endra |
コップ一杯の死 |
調弦
いちばんの静けさとともに
先生
先生
卵達の争いを止めて
半球という名の宮から
その者たちの
言葉は
それは
私には眼がひとつないのです
私のくぼみに気泡がたまり
悲しき音色
私の喉は空気にさらされ
あえぐばかり
だけども鳥は鳴くのです
姿はけして見えない
ふたしかな声
先生
僕の制服を返してください
裸のままで弾くヴィオラ
うめき声のまま
満ち
引き
私には胴がない
ただただ丸いばかりのあごをしゃくり
眼球には憂いもなく
まばたきができない
波ではあるけれども
ミニマルなテクノ
先生
どうか
止めてください
取り上げてしまってください
この厚い紙の束を
窓は重く
支えるものない手足
マッチ棒は
すっかり灰になる
運命
なのだから
インクの匂いは
卵を立ち上がらせ
その者達は
次々に
テーブルから
転げ落ちたのです
先生
僕を欲しかったのですね
僕の背中には
殻が刺さり
あなたのくちびるはきいろく光ってみえたのです
みずがないことを
誇りにして
ワイン色の幕は引かれる
チゴイネルワイゼン
ゆるやかな目覚めとともに
0037 とかげ |
代償 |
記憶のおくの
おくのほうで
いつかわたしは
ニワトリだったかもしれない
わたしはときどき血を流すし
ニワトリは今もたまごを産む
世界をつつもうとする
らせんの流れと
一つの収束へ向かう
時の流れ
らせんの真ん中を見るために
女は血を流し
時のむこうを見るために
男も血を流す
そして
ニワトリはたまごを産む
月の下で
土の上で。
ヒトもたまごを産めたらいい
けれども
わたしはもう
ニワトリではない
つるりとすべらかな
たまごの肌は
ひどくつめたいまま
私の手から
すべりおちていき
ニワトリは
二度とふりむかない
0039 槙原由乃 |
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/ym48pure/index.html |
おひさま |
タマゴの黄身はおひさまのようだね
おひさまとコロナと輝く明日
人はみんな
おひさまが大好き
目玉焼きの初々しさ
ヒマワリのまっすぐ
恋しいあの人の笑顔
おひさまとコロナとまぶしい朝
あたしのひとつの心臓が
おひさまを浴びて死ぬまで生きる
毎朝ひとつのタマゴを食べて
毎月ひとつのタマゴを捨てて
あたしはひとりで死ぬまで生きる
今朝あたしは目玉焼きを失敗したけど
おひさまは破れない
あたしの心臓もまだ破れない
あたしのタマゴもまだまだ破れない
おひさまは今日もオレンジ
真ん中でコロナを放って輝いている
人はみんな
おひさまが大好き
男も女も誰も彼もが
真ん中目指して死ぬまで生きる
コロナが破れるその日まで
真ん中目指して突き進む
0045 雪柳 |
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=yukiwatari |
卵マジック |
アバウトママのお料理は
野菜炒めに肉炒め
チクワ・はんぺん・厚揚げまでも炒めます
一応ね
塩味・味噌味・しょうゆ味
替えてみたり致します
ときに味付け失敗し
しょっぱくなったら奥の手に
卵を追加いたします
見る間にまろやか色取りも良く
子供たちも喜んで
あっという間に胃袋の中
ミスった事などおくびにも出さず
心の中で卵に感謝
冷蔵庫には欠かせません
我が家に多い炒め物
失敗ごまかす魔法のアイテム
アバウトママの必需品
0049 吉野櫻 |
エレクトラ |
少女の姿をしたエゴイズム
の乾いた殺意のために
無精卵
は「あ」と声を上げて
ペンペン草とネコジャラシの間に
崩れ落ちたのだった
その殻から溢れ出しているのは
母親の力だ
荒れ果てた庭の土に
殺された無精卵が横たわる
そして
電気もつけない二階の窓で
少女は幽かな断末魔を
夜の囁きの中に聞く
その囁きの中で
痩せた土が
母親の力を飲み干す
巨きなうねりが夜に生まれていく
0051 Ray |
http://www40.tok2.com/home/stgeorgeutahusa/ |
コミュニケーションの卵 |
耳澄まし
心を向けて
聞こうとも
殻隔てれば
何もわからず
私から
発するものは
何もかも
殻の中にて
虚しく響く
突いてる
殻の隙間に
ヒカリ入り
異国のことばが
意味をもちだす
身を守る
親巣も殻も
無いけれど
飛び回りたい
ことばの空を
000a のん |
いちばん。 |
ねえ ママ
のぶくん よりも
ゆうちゃん よりも
ぼくが おおきいでしょ
ぼくが かしこいでしょ
ぼくが いちばんでしょ
うん そうだね
でも本当は
ぼくがいちばん よりも
ぼくのいちばん の方が
大事なのだけれど
小さな あんよで
あるきながら
ころびながら
お前の たまごは
いつ孵化するのかな
000b 佐々宝砂 |
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/ |
悲歌 |
原発近くの悪臭漂うドブ川のほとり、
それでも春には溝蕎麦が咲き。
眠る卵は来る年を夢みる。
やわらかな殻をもつカナヘピの卵、
泡をかためたカマキリの卵、
優しい網にくるまれたクモの卵、
米粒より小さなうすみどりの真珠は、
あれは、きっと、白い蝶の卵。
溝蕎麦は強い植物である。
それは汚染に耐え、
土壌を浄化し、
ほのかに赤い花を咲かせる。
だから卵は夢みていられる。
原発近くの悪臭漂うドブ川のほとり、
冬枯れの木を見上げて、
溝蕎麦の種子は来る年を思っている。
また春はくるのだと思っている。
000c 芳賀 梨花子 |
http://www.stupidrika.com/index.htm |
体内ファシズムとレジスタントなわたし |
ねぇ、知らないうちに
ねぇ、正確なリズム
ねぇ、心臓も
ねぇ、わたしのからだ
海みたい
潮の満ち引き
お月様と一緒
28日周期で
満月のわたしは血だらけ
新月のわたしは眠たげ
私の卵ちゃんは
ちんけな
アルピナ種のおたまじゃくしと
無節操に恋をする
許せないわ、許さないわ
それなのに
宿主である私の人格なんて
お構いなしに
サディスティック卵ちゃんは
神経回路をジャックする
ファックしろ!
効率性を考えろ!
神経系統の統合をはかれ!
いちいち、うるさい
うるさい、うるさい、うるさいんだよ
飲んだら駄目だ
生殖器じゃないところも駄目だ
でっぱりとへっこみ
人間には性差があるのだ
その隙間を明渡せ
ジーガガガビーィイイイイイ
地上波は混線中
ただいまより
衛星回線に切り替えます
えーあーうー
グラインドする腰によって
子宮壁の攻防は
防戦虚しく侵攻されました
なんなのよ、しっかりしろ
わたしの大脳
サイレンが鳴り響く
警戒警報発令だ
海馬領域は快感の記憶で沸騰中
このままでは
二分後に卵ちゃんの支配下に入ります
卵ちゃんの望みは細胞分裂
快楽と生殖
もしくは
エゴイストとナルシストの
境界線を死守するために
いけ、いけ、いくのだ
後方援護は後背位で
アルカリ性の公海領域で待機せよ
介入するならゴムで完全武装
人口爆発には注意せよ
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佐々宝砂のページにて使用された素材
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宵薫のページにて使用された素材
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(ページ及びグラフィック製作 芳賀 梨花子)