4月詩集 春の闇 CopyRights(c)蘭の会 AllrightsReserved.
はやかわあやね 菟野くうぴい 愛萌 朋田菜花 NARUKO 沼谷香澄
阿麻 鈴川ゆかり 雪柳 吉野櫻 Ray のん 佐々宝砂 芳賀梨花子
久しぶりに会う貴女の
左手の薬指に指輪が光る
結婚したの?
そう聞くと「えぇ」と答える貴女
暫しの沈黙が続く中で
僕はずっと考えていた
どうしてきみは他の人と
どうしてきみは僕を置いて..
薄ら寒い夜だった
貴女はどんな風にこの夜のことを
御主人に説明したのだろう
何と言って
家を出てきたのだろう
僕はこれからどうすればいいのだろう
貴女と行くつもりだったレストランも
貴女と見にいくつもりだった夜景も
シャンパンの中を浮遊する気泡のように
弾けては砕けてゆく僕の想い
いっそのことその手から
銀色に光る醜いものを引きちぎり
貴女を僕のものにしてしまえばよかった
だけど
きみの涙はみたくなかった
いや、そうではなくて
桜の舞い散る季節には
いつも貴女を思い出す
春楼の雄叫びにも似たあの夜を
春の闇に包まれて
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垂れた提灯が ボクを照らす
対になるのは 君
せいっぱい手を伸ばせば届く距離に君は立っている
どこからか
君の肌と同じ色をした花弁が
雪のように降りてくる
風が強くて
近いはずなのに 君の声が聞こえない
何を話しているのか分からない
もっと
もっと
花弁が降ってきて
君の顔が見えなくなる
せいっぱい手を伸ばせば届く距離なのに
顔も見えず
声も聞こえない
提灯も激しく揺れる
右へ左へ 前へ後ろへ
ボクの顔をぼんやり照らしたかと思えば
瞳の中に遠慮なくヒカリを差し込んでくる
そうだ
せいっぱい手を伸ばせば届くのだ
伸ばしたその手が 君を掴むのだ
風が止んで
桜の淡雪が消えた
ざわめかしい空気の叫びも消えた
提灯は まだ 少し揺れている
君は もういなかった
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そろそろと
咲き始めた
桜の中で
息を引き取ったら
降りしきる花弁の雨が
私の体を包み込み
欠片も残さず
食べてくれるだろう
淡いピンクの湖に
溶けた体は
赤から肌色
そして白へと変わり
あの優しい花の
一部になる
ひび割れた幹に
頬を押し当て
流れる水の
音を聞きながら
想う
この中に
生まれ変われたら
幸せに
なれるだろうか
訪れる永遠の季節に
いつも
在れるように
そうして
春は
私に
甘い
誘惑をして
音もなく
過ぎてゆく
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大黄河を行く一艘の丸木船
啼かないで
夜の翼
噛まないで
仕組まれた理想像
言祝いではいけない
それはやさしい毒薬
言霊ではありはしない
それはぬかるみの中の舟唄
それでも
全部を奪い去ってしまうなんてこと
運命の神様は決してしない
もし
君が今
何かをなくしたのが
本当であるなら
いつか必ず別なカタチで還ってくるよ
未来のいつの日にか
愛している
君の その不揃いな螺旋を
いつも見つめている
君の その朽そうで朽ちない
誇りかな作業手順書を
泥土の中では
歩くより丸太に掴まって流される方が
速いのかもしれない
それでも
君はその流れを翻弄されながらながれて行き
私は遠く河岸から眺めていることしかできない
啼かないで
闇にすむ小鬼達
屠らないで
飢えた齧歯類
この人は
これからもまだ
遠い河口を
そのさきの大洋をめざし続けるのだから
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奪いたい
まだバニラの匂いで
青臭い彼の唇を
何も知らない
胸の柔らかさも
腰に包まれる生温かさも
薄い胸に
ささくれだつ指の節に
刻みつけてやりたい
漆黒の部屋は醜く
闇をその肢体で華麗に切り裂く
時が急ぐように容赦なく
朝に呼び戻されるまで絶え間なく
灼熱の赤にその頬を染め上げて
その蒼い早春と
冬眠させておいた愛を混ぜ合わせて
妖しく靡く愛を引き摺りだす
この嵐が
花びらを撒き散らしながら
夏へと心変わりするまえに
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真ん中に大きな口の開いている絵本の口に飴をつっこむ
新暦の弥生の空に桜咲き黄砂に霞むビルのあけぼの
目は底へつながっている目を開けて真昼の朝の水銀灯の
北の窓の白く明るいカーテンはきっと鉛で出来ているんだ
闇に咲く桜は青い他人事他人を眠らせて降る月光
いつもよりわずかに広い空の下道を探して汗かいていた
ああ何も言わなくていいもちあげる頭のむこうから春雷が
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町のどこかで
ひとり静かに
からだをちぢめ
心に飛び込んでくる
ほこりだらけの
樹液と すっかり溶け合いながら
おらが春・・・
洩れ続ける理性がここにある
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だって
満月を絡め取る枝
蕾に踵を食べられてしまったの
ずぶぬれの川の底から
見あげた丘の上の
小さなクリニック
モーニングアフターピルください
そうすれば
ふともものあいだの泥から
元気なカエルが飛び出す
こともない
はず
あったかい水辺
犬に噛まれただけ
はじめて嘘をついた
かつてスカートだった
引き裂かれたうすももいろの
マーメイドラインだった筈の
泥かぶり姫
あたし
花のこぼれる枝に
侵蝕されていく
夢を見ているの
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闇にともる 常夜灯
昼ののどかな陽射しの中では
ひとかたまりに映る 桜の花も
闇にふちどられたかのように
花びらの ひとひらまでもがくっきりと
あでやかに眼にとびこんで
悩ましいほどに 惹きつける
闇をてらす 常夜灯
昼ののどかな陽射しに たわむれ
浮かれてゆるんだ 心の箍の
生じた隙間のさびしさを
闇がふちどり 愛と見紛う
潤んだような艶めかしさに
私の心が とろけ出す
春の闇の艶めかしさは
私の理性を溶かしてしまう
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祖母のベッドサイドでは
黄色いアイリスが枯れた
何もかもが黄色い春
ミモザが
レンギョウが
ナノハナが
祖母も明らかに黄色く
皮膚の下からほとばしる
止まらない血
は汚染されてもなお赤い
注射針に注意ですよお孫さん
刺さったら私も感染するんですね
インターフェロンに
強ミノ?
とかありましたねそういえば
今は
ラシックスとかアミノレバン
話題にならない日は無いんですよ
我が家
レバーを久しく食べていない気がする
母よ無意識ですか
黄色い
黄色い
黄色い
何処へ行っても
畜生
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シュシュっと
音だけ聞こえる
潅水器
夜の四十万に
立ち向かうのか
東から
西へと移る
水の音
角度を違え
フェンス打ちつつ
眠れずに
目だけ閉じてる
午前2時
スプリンクラーと
孤独を分かてる
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母に瓜二つの首筋が痒かったので
首筋の付け根あたりをポリポリと掻きむしるうちに
皮膚の下からボロボロとこぼれ落ちるものがあって
寝る前の床に座って何しろ初めて見るしろもので
それを仮に@と名付けたとして
@はどんどん剥けた皮膚の割れ目から
幾らでも一つまた一つとこぼれ落ちてきて
傷だらけのうなじには薄らと血が滲んで
ボロボロと床に落ちて小山を作ってゆくので
そこへ通りがかった母がにじり寄ってきて
この母親は私の実の母ではないのだけれど
床に盛り上がったそれらを拾い集めて
白くて器用な指で別の何かを作りはじめたので
それを仮に#と名付けたとして
義母の細い指先は踊るように動き回り
フフフと含み笑う間に#はどんどん作られて
お土産のクッキーの缶を包んであった薔薇模様の包装紙の
綺麗に取り置きしてあったので飾られていくので
薔薇模様の包装紙で幾重にも包まれたまま
お誕生日にいただいた花束の赤いリボンで彩られ
居間に続く6畳一間の仏間に持って運ばれ
チンチンと2回の鐘と共に供えられたので
それを仮に£と名付けたとして
彩られた赤いリボンが蝶のように解き放たれ
£は観音開きの黒い扉を強引に押しあけて
真っ暗な仏壇の闇の中を無我夢中で進み込み
薔薇模様の包装紙がもどかし気に破られたので
義理の母親の白くて細い指で作られた
£の中に幾重にも秘められた#が内包されている
その中の@のボロボロとこぼれ落ちる様を
きっと目を細めて眺めているに違い無いので
彼女は眺めるに違い無い
違い無いと
夢想しながら
ふ と
母の首筋は
春の三日月の色をしていた
と思いだした
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きのう
生きている友に手紙を書いた
行かなかったけれど
忘れたわけではないと
きょうは異常乾燥注意報が出ていて
どこかの土手が延焼したと
広報が単調に喋っている
どうせ誰かが消すだろう
野焼きの炎は許された範囲でしか燃えない
虫にあふれる野は焼かれても
白い壁はひっそりと冷たい
心配することは何もない
夜更けてゆく部屋でピアノを弾けば
春の闇が舌にからむ
無味無臭の
しかしねっとりした
この闇を飲みこむことはむずかしい
きのう
生きている友に手紙を書いた
言葉は届いた
届いたけれどただそれだけだったと
書いたけれど
投函しなかった
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とおりゃんせ、とおりゃんせ
いきはよいよいかえりも宵闇
かごめかごめはのぞんで手篭め
おとこのからだはいったりきたり
わたしのからだはいったきり
ゆーらりゆらゆら雨こんこん
さくらは散る散る愛満ちる
みちみちだんごをくばりません
たなからぼたもちおちません
みっちゃんぴかぴかかみなりさん
かみなりさんはおおこわい
おへそおへそはせいかんたい
おにさんこちらはおにがしま
はだかのふたりはからみあう
まだまだやうやうしらくなりません
よめどひこんはいにしえの
だまされ愛されうえにしたに
だいみょうぎょうれつしたにしたに
わたしは舌でいいきもち
もちもちかめよかめさんよ
わたしのここにはいりゃんせ
![](haruyami_icon.jpg)
2002/4/15発行
推奨環境IE5.5以上文字サイズ最小
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(ページ及びグラフィック製作 芳賀 梨花子)