CopyRights2002(c)蘭の会 AllrightsReserved
ツイノアカリ 「私は知っている。」
「黄金のライオン 〜 または kaleidscope 〜」 高いところにいる月は 循環する夜空 湖と母と月 試してごらんなさい The Change of My Life レモネード 分譲地ノ夜 地球照 つきよ |
0003 キキ http://village.infoweb.ne.jp/~fwnp7456/
ツイノアカリキャベツの葉の青を
月明かりに透かし
いちまいずつ
確かめながらむしっていると
気持ちが治まっていくのだった
みずみずしい葉で
部屋を埋めていく
こんなに角のきちんとした部屋でも
こぼれていくものはあり
この青たちも
明日にはしぼんで
かの泣くような声で身をひそめるはず
(食べる?
これはあのひとの首だ
と抱いて
ひんやりと
言葉など通じなくても
いい
とおもう
眼を閉じた顔も
いま、埋もれて
(食べた、
しゃりしゃりと
やさしい音がこだまする
もう、
いい、
ふいに響きすぎた言葉は
それらと同じ重さで葉に沈み
冷蔵庫から
みっつめのキャベツを取り出したところで
我に返る
わたしは何におびえていたのだっけと
眠るひとに寄り添い
だまって
月の灯りを抱いた
0007 愛萌
「私は知っている。」
あれだけ蠢き合ったベッドで
シーツになすりつけた熱も
離れてしまえば一瞬で
冷めてゆこうとしている
引きちぎられたカーテンに
赤い爪のあとを残して
死んでしまえなかった
私は後悔している
忙しなく仕事をこなし
満足させれば興味をなくし
自分のためだけに哂う
あなたの頭の中には
きっと怪物が住んでいる
ブレーカーの落ちた部屋で
月明かりを頼りに
愛という言い訳をして
重ねあった体も
明日には洗い流されている
巧妙なアリバイを
絶妙なタイミングで
微妙なアクセントに
執拗に絡ませる
あなたは自分が
神だと思う
私を支配する
悪魔だと酔う
けれど。
私は知っている
すべてわかっている
何もかも本当は
夢の中の夢に過ぎない
感じる体温
痛み
苦しみ
快感
すべて
今ここにあると
証明する
術など、どこにもないことを
私は知っている。
0013 朋田菜花 http://www.asahi-net.or.jp/~sz4y-ogm/
「黄金のライオン 〜 または kaleidscope 〜」眠るライオンのように水に浮かぶきみに
僕はなんどでもくちづけをしよう
月の光とともに墜ちてきた銀の涙が
ふたりの絹の肌を濡らしている
パピルスの茂みを抜けて葦の小舟で
僕らの故国へと源流を溯ろう
蜃気楼が陽炎ではなくアセチレンのように
蒼い燐光を放つ神殿への階段となる
さあ、
そんな逢魔が刻の一瞬を掴め
伝説のライオンのように翼を持つきみに
僕は抱きしめられたまま
回廊をめぐり
陶酔のままに歌物語を紡ぐ・つむぐ・紡ぐ
織りなす錦の帯は虹と輝き天空の龍となってうねる・うねる
それはひとときのまぼろし以上に確かな真実のプリズム
抱き合ったまま蜜色の湖水でうつらうつらと眠る
ふたりの語り部が
夢のなかで描いた艶なる宴
ただ母音だけで紡がれた交響楽
0023 ナツノ http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette_top.htm
高いところにいる月は闇のベールを操るものが
その杖で 気まぐれに 暗黒をひとかきすれば
月もあらわれ
風が起こり 夜空は星で満たされる
夜の顔は 漆黒ではなく
天高くにあがった月が 静かに下界を照らしている
なんて穏やかな 晴れ渡った夜よ。
ちいさな私がここに立ち
あなたを見上げている事など 気づきはしないだろうが。
この大地の存在の ひとつひとつに
優しく濡れた光を ふりそそぐ
美しい 夜の空の主(あるじ)よ。
今宵、あなたにかしずき 心の全てを打ち明けます(ウソ)
口から流れ出てしまった おろかな言葉達を
かき集めるすべを 教えて下さい。
時を巻き戻す 時空のネジを
どうか 空から落としてはくれまいか。
昔、自転車で月を追いかけた。
どんなに走ってみても
あなたは 同じ距離だけ遠くに離れ 静かに笑っていた。
天空の隅々にまで まなざしをふりそそぎ
銀色の指先を広げる
美しい 夜の空の主よ。
どうか私に 時を巻き戻す 時空のネジを
空から落としてはくれまいか。
私が歩いてしまったおろかな過去を
ぬぐい去るすべを 教えて下さい。
0037 とかげ
循環する夜空こぼれていくつぶつぶが
目に見えるようだよ
いきものの上に
月がふる
ときおりバクがとおりかかっては
ぶふう、と鼻息をもらす
おまえはゆめを見ないのかと言うので
わたしはゆめを見ませんと言うと
そうかと言ってとおりすぎる
特に不満げでもなく
月とてふりっぱなしではいけないから
地球のいきものが眠り
めでたくその寝息は月に帰るのだ
そうして月には地球がふる
(ゆめはいらないのでバクがつまみ食いをして)
循環というものはそうやってできている
一頭の威厳あるバクに
あした月がすこし欠けたら
それはわたしのせいですか
と聞くと
今夜はたくさんのいきものが
よく眠っているので
おまえひとりくらい眠らなくても
大して変わるまいと言う
すこし安心する
すこしだけ眠くなる
わたしが眠るまで地球は眠らずに
ただ月のふるのをうけとめているのだろう
けれど今日も
わたしはゆめを見ない
たぶん
0043 鈴川ゆかり http://plaza.rakuten.co.jp/niveau
湖と母と月
1.
月はまるで母のようだった
太陽は決して父であり得ず
忍びつづける彼女は
信仰によって柔らかい光を
放っているように見えた
2.
無表情で机に向かい続ける私は
家の狂った自転速度について
計算を続けている
微分や積分やベクトルが使えれば
大気圏くらいは抜けられる筈だから
「あなたは勉強をして家を出なさい
何処へでも好きなところへ行きなさい」
母さん ごめん
私はそうするつもりでした
もう 何年も何年も前から
3.
真夜中の
ベランダに出る
茂る緑の深さに閉ざされて
空は小さな湖も同然だ
街灯もなければ夜も長い
小さな町など
いつもなら簡単に沈む筈だが
今夜の十六夜月は
薄くたなびく雲も 鈴虫の鳴く声も
たった一本貫く
国道の途切れ途切れのノイズも
全部一緒くたにして吸い込みかねないほどの
光を放っています
小さな湖など
一瞬にして空になるほどの
母さん
いっそあなたが
この家の引力を
振り切る術を持てば
それとも
「いずれこの家に戻ってくるから」と
私がひとこと言えれば
絶えず水面は穏やかなのでしょうか
0045 雪柳 http://ip.tosp.co.jp/i.asp?I=yukiwatari
試してごらんなさい
満月の夜
丑三つの時刻
鏡に月を映したら
柘植の櫛を口にくわえて
覗いてごらんなさい
鏡に映っているのは
あなたの真実
満月の夜に 現れる
あなたの本性
月に 導き出された
〜 夜の顔 〜
ねぇ
どんな顔が 映ってますか?
0051 Ray
The Change of My LifeI almost forget when I had the first period.
It was a like dawn in my life.
It gave me thousands possibilities,
but it also gave me millions troubles.
I almost recall when I had the last period.
It was a like sunset of my life.
I had spent all savings of my possibility,
but also still have a lot of troubles.
I'm sometimes, no no so often, depressed.
I know the reason, but you would never figure out.
I'm sometimes, no no each time, thirsty of you.
I know the reason, but you would never find out.
When I take a night gown off,
I put my lips to your ear, and wisper.
"It's the change of my life."
*****
最初に「月」を見たのは何時だったのか、もう忘れかけている。
それはまるで女にとっての夜明けのようで。
数え切れない「子」を持つことと、
気も遠くなるほどの「痛み」の夜明け。
最後に「月」を見たのが何時だったのか、まだ覚えている。
それは女にとっての落日のようで。(それでいて月は昇らない。)
「子」を持つことをとっくに諦め、
しかし依然、形を変えた「痛み」はあり続ける落日。
時々、いえいえ、しばしば激しく落ち込む。
理由は知っている、でもあなたは思いも及ばないだろう。
時々、いえいえ、しばしば激しくあなたが欲しくなる。
理由は知っている、でもあなたは気づきもしないだろう。
夜着をスルリと体から落とす時、
私はそっとあなたの耳に唇を寄せ、囁くだろう。
「私は潤わなくなってる。」と
0059 汐見ハル http://www3.to/moonshine-world
レモネード申し訳程度に添えられてる薄くそがれたレモンの輪切りを
いっそ満月と取り替えてみたなら
いくらかはましな恋になったかもしれない
濃密に甘い香りなんてしたのかもしれない
だって満月は蜂蜜で出来ているんでしょう?
あのひとが言ったわ 冬の海月明かりの下で
手探りでたしかめたいとしい鼻梁とともに
いつだってなぞるみたいに思い返してる
でも現実にはぺらぺらレモンをストローにひっかけて
そのままばくりとくらいついてしまったから
私はまさに辛酸を舐めてしまったし
レモネードの海に浮き沈みする可愛いぷるぷるチェリーには
可哀相に めぐり逢うべき相手が居なくなってしまった
相も変わらず所在無げなまま 漂いながら
伴侶を突き刺した無慈悲な棒筒に
慰められるでもなく殺されるでもなく半端になぶられるものだから
ねぇ 満月よここに来て?
私の胸のうちがわを光で満たして?
ねぇ 満月よここに来て?
すでに水っぽいこの恋を甘く満たして?
そうすればこのぷち残酷を徒労のように繰り返すこともなく
来ないあのひとを待つことなくこのレモネードを飲み干してしまえるでしょう
000a 宮前のん http://plaza5.mbn.or.jp/~mae_nobuko/
分譲地ノ夜
山高帽を目深にかぶったウサギが2羽
突然 僕のアパートにやってきた
「分譲地を、お買いになりませんか?」
怪しいものではありませんから と
背の低い方のウサギは丁寧に名刺を差し出した
うさぎ公社 月面不動産
営業本部長 ウサ田ぴょん吉
頭から帽子を取るとウサ田さんの紅い瞳の中に
キラキラとした三日月のカケラが光っていたので
とてもハンサムなウサギだな と思った
分譲地というのは月面の土地のことだった
月のウサギは餅をついて生計を立ててきたが
最近 餅を食べる人が少なくなった上に
月見をする人も滅多に居なくなって見物料も取れず
切羽詰まったウサギ達は月面を分譲地として
切り売りすることを思いついたらしい
もう1羽の背高ノッポは気が早いらしくて
せかせかと手続き用の書類を出して
僕の部屋のテーブルの上に並べはじめた
「本当は地球から見えている面の方が
綺麗なんですけどね。裏面の方が
割安になっておりますです、ハイ。」
月までどうやって行くんですか と尋ねると
「カグヤ姫交通社の月面直行バスは
東京駅の裏から毎日出てますから」
と言われて ああなるほどな と思った
でも僕は貧乏学生なんで
とても分譲地など買う余裕は無いです と断った
よかったら彗星のシッポもオマケに付けますよ と
ウサ田さんは魅力的な誘い文句を言ったが
値段は到底支払える額ではなく
僕のバイト代では100年はかかってしまう
残念そうに帰りかけたウサ田さんに
なぜ僕なんかに勧めに来たのですか と尋ねると
「だって あなたは アパートの窓から毎日の様に
月を 愛おしそうに眺めていたではありませんか」
とニッコリ笑って ちょっと頭を下げた
白い2本の耳が 軟らかそうにおじぎをした
(大事に使ってくれる人の方が良かったんだが。。)
(やはり背に腹は代えられないですねえ。。。)
2羽のウサギがブツブツ言いながら
窓の下をトボトボ歩いて帰って行くのを
僕はなんとなく申し訳ない気持ちで見送った
それから数日後のある満月の夜
夜食を持ってコンビニから帰ろうとした僕は
ふと夜空を見上げて飛び上がりそうになった
月が黒い水玉模様になっている!
僕は急いでアパートに跳んで帰って
この前もらったウサ田さんの名刺を探して
すぐ月面不動産に電話をかけてみた
ウサ田さんは しょぼくれた声で電話に出て言った
「いえね。私としては月を大事にしてくれる人に
売りたかったんですよ。でも、他の皆がね、
お金にならなきゃ意味が無いって ねえ。。
可哀想に、あんなに真っ黒に汚されて。。。」
ウサ田さんは電話口の向こうで
ぐすぐすと鼻をならして泣いていた
それから僕は毎晩のように月を眺めていたが
黒い水玉模様は日増しにどんどん多くなっていって
月はとうとう夜空の群青色にまぎれて消えてしまった
それからというもの 地球では新月のように
真っ暗な夜が続くようになってしまった
小さな星たちが母親を亡くした子供の様に
寂しげに またたくようになった頃
僕はアパートの窓から
以前 月のあった辺りを
ぼんやりと眺めていた
今まで流すことのできなかった物が
急に僕の頬にあふれて落ちた
000b 佐々宝砂 http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/
地球照あのひとはあそこにいるのだと
思い馳せてみる二日月の夜
量子テレポーテーションの実験成果を問う
いたって事務的なメールを受信し
月の裏側での勤務を希望する
いたって事務的なメールを送信する
貴重な自由時間は無為のうちに過ぎる
娯しみ少ないドーム基地で
手すさびに描く絵は
いつもどうしたことかモノクロの横顔ばかりで
ハードに保存する気にもならず
描かれては消され描かれては消され
逡巡のあと私は
簡潔な私信を地球に送信する
私は元気だ と
健康でちょっと肥りすぎたくらいだ と
孤独な夜の顔は
あのひとには見せない
地球には見せない
月の裏側のように
天窓を仰げば
満月より明るい地球照
反射に反射を重ねて
この光は
本当にあのひとのもとに届くのだろうか
私を乗せた月球は
こうしているあいまにも
わずかずつわずかずつ
あのひとから遠ざかってゆくのに
000c 芳賀 梨花子 http://www.stupidrika.com/hej+truelove/
つきよそのばん
おつきさまがあった
ほっとした
おつきさまは
まっかだった
つぎのばん
ねむくなった
ひとりはふたり
でも、ふたりじゃなかった
それは、しあわせ
それとも、ふしあわせ
どっちなのかな
かんがえていたら
なみだが、ぽろり
あくびのせい
そのつぎのばん
おつきさまは
みちていった
まるでたまごみたい
だから、わたし
まよねーずといっしょに
こねくりまわされて
たまごさんどいっちになった
でも、しあわせ
だけど、ふしあわせ
よるは
おつきさまのせかい
みちたりかけたり
いそがしいようで
いそがしくない
しんじつはたまごさんど
とっても、おいしいよ
こんばん、たべてごらん
[ご注意]
著作権は作者に帰属する
無断転載お断り
詳細は蘭の会にお問い合わせください
⇒蘭の会へ連絡する
(編集 遠野青嵐)
(ページデザイン CG加工 芳賀梨花子)