蘭の会2005年2月詩集 「Switch」(c)蘭の会
スイッチ スイッチ−私の中にある変換器 リセット シーソーゲーム 純子 ヤマダ電機で1980円 スイッチ 素朴なメンタリズム asleep at the switch. スイッチ 呼び出し音 スイッチの役目 |
0023 ナツノ
http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm スイッチ−私の中にある変換器
眠る時
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0043 鈴川夕伽莉
http://yaplog.jp/yukarisz リセット
どのくらい前だったか
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0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-world シーソーゲーム
ひとさしゆびと
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0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/ ヤマダ電機で1980円
母、妻、女
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000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/ 素朴なメンタリズム
満月の夜はパーティーの夜だ。
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000c 芳賀 梨花子
http://rikako.vivian.jp/hej+truelove/ asleep at the switch.
誰かがまたがって私の首を絞める。苦しくて、苦しくて、もがいて、もがいて、でも、太い指は首をひしゃげようと力を込める。私は抵抗しなくてはいけないので、その誰かの腕に爪を立てる。これは男の腕だ。そこで、やっと、またかと思う。私はこの男に何度となく犯されて絞め殺されている。男はさらに力を込めて、だから私もさらに力を込めて、でも、今朝は死に至る前に爪が折れた。指先から血が流れているような気がする。真っ暗闇の中で口に含んだら、しょっぱかった。それに中指だけが温かい。午前4時。枕元のショールをはおり、暗闇には無駄な眼鏡はかけず、ベッドの下で犬が噛んだスリッパと靴下をひっぱりだして、身体を縮こめて身につける。それにしても寒い。寝室から廊下に出て、突き当りのドアまで重い頭をのせたまま歩く。身体と頭が別々だったらいいのに。ドアを開ける。明かりはつけない。東側に窓がきってあるけど、観葉植物のシルエットは街灯に映し出されている。夜明けはまだ遠い。ネルのパジャマと腰骨に引っかかっているローライズなビキニパンツを急いで下ろして、白く磨き上げた陶器にペタッと座る。こんな時間だから、ドアなんて閉めない。目をつぶって、身体の中に滞留している昨夜のナイトキャップにおさらばする。身体が震える。トイレットペーパーが残り少ない。女の子は前から後へ。小さい頃から教えられてきたけれど、私は大人になってから、そのたびビデも使う。指先をもう一度、舐めてみる。やっぱりしょっぱい。便座に座ったまま、いつも置いてあるところから銀色のライターを取って火をつける。舐めたときから気がついていたけれど、1センチほど伸びた爪が折れて、中指だけ初潮を迎えた女の子の指のようになっている。煙草に火をつける。マニキュアをした人差し指と、初潮を迎えた女の子のような中指が火のついた煙草をはさんでいる。人差し指と親指で煙草をつまむ男の仕草は好きだ。肺の奥まで煙を吸い込むと、くらくらする。でも、胃の中は空っぽ。煙草を吸うことにとによって血管が収縮し便意を催すというところまでには至らない。とりあえず、コーヒーでも飲んでおけばよかったかな。ならば、お風呂に入ろうかな、と思った。残り湯は思っていたより温かかったし。6時にタイマーをセットした乾燥機がガタガタと熱を放っている。乾燥機に残り時間を示すデジタル時計の明かりで私は裸になり、真っ暗なバスルームの冷たいタイルの上にたつ。窓ガラスの冷気が熱を奪い去っていくので、私は震え、Hにあわせたシャワーをひっぱりこんでバスタブにつかる。血はもう止まっているのに、温まってくると指先がジンジンしてくる。真っ暗闇のバスタブの中で「痛い」と小さな声で言ってみる。それから、もう少し大きな声で「痛い」と言ってみる。ごしごしと血を洗い流す。初潮を迎えると女郎屋に売られてしまう女の子が主人公の映画を見たことがある。確か、深夜にひとりで見た。その女の子にとって初潮は絶望だった。私は5年生のとき、もう身長が158センチもあったし、絶望的な経験もしてしまったけれど、まだ、初潮を迎えていなくて、お友達にナプキン持ってる?と聞かれて困ってしまった。その時から、ずっと、私は鞄の中にナプキンを一個持ち歩いていた。それなのに、ユーミンのDESTINYみたいに、本当に必要な日にそれを持っていなかった。中学二年の時。最悪なことに、それは夏休みのプールサイドで。水からあがったら、自分の水着がなんか妙な色になっていった。私は走って更衣室に戻った。でも、鞄の中にナプキンはなく、キティーちゃんのタオルとかお財布とかメモ帳とか、そういうのばっかり入っていた。だから、私はティッシュを何枚も重ねてパンツを履いた。お友達に、今日はもう帰るねといったら、タンポンなら平気だよ、とタンポンを渡してくれた。でも、そんなもの使えないよと泣いて、お友達にひどく笑われた。中指でそこをまさぐってみる。こんなもののために映画の中の女の子も泣いていた。中指は私を妙な気分にさせたけど、他の指がそれを許さない。私の指は、毎晩のように首を絞めに来る男の腕を傷つけるためにあるから、女のそれも傷つけてしまう。お風呂のお湯が40℃を越えた頃、私は眠くなって、すっかり中指のことなど忘れてしまう。そして、毎朝、お湯に飲み込まれそうになって、再び目を覚ます。バスタブから勇敢に立ち上がり、熱いシャワーを頭からかぶって、シャンプー。背中の真ん中辺りが痒い。ボディーブラシ。実は、ますます肌を傷つけてしまうので、使わないほうがいいみたい。それでも、ゴシゴシと嫌なことを洗い流すように、私は身体を洗う。それから、もう一度、熱いシャワーを浴びてバスルームを出る。寒さに慌てて趣味の悪いピンク色のバスローブをはおる。その辺にほっぽってあったタオルで髪の毛をぐしゃぐしゃと拭く。それから、おもむろにドライヤーをとりだして、ガーガーと髪の毛を乾かす。その頃、犬が起きてきて、朝ごはん頂戴と足元で私を見つめているから、ドライヤーで脅かすと後ずさりして恨めしそうにしている。私はお構いなしに髪の毛にドライヤーをかけ続け、半乾きになったら、くるくるっとお団子にまとめる。そうしておくとカーラーを巻かなくても柔らかくウエーブしたヘアースタイルのなるのだ。ホワイトニング効果のある化粧水を顔にペタペタと塗りこんで、それから日焼けと乾燥から肌を守るクリームを塗って、さっきまで履いていたのとは違うビキニパンツをはいて、パンツとおそろいのブラジャーを着けて、肘と膝と踵に油っぽいクリームを塗って、長袖のTシャツを着る。それから、鳥肌が立っている素足をローライズのジーンズにつっこむ。本当はタイツを履きたいところだけど、お風呂上がりタイツは勘弁ってかんじ。ましてやパンティーストッキングなんてサイアク。だから、靴下を二枚履く。それから、さっき、脱ぎ捨てたスリッパを履いて、タートルネックのセーターを着込んで、歯ブラシに研磨剤入りのトゥースペーストをたっぷりつけて歯を磨く。グルグルと何度もうがいをして、それからコンタクトレンズをいれて、お目目をパチパチして、ファンデーションの色はトゥルーベージュ。ペタペタと肌に叩き込む。チャコールグレーの眉毛を慎重に描いて、少しキラキラするフェイスパウダーをはたく。頬と顎に赤みをさして、眉尻と、目元に白いハイライトを入れて、筆タイプのアイライナーで今日の自分を作る。それから、睫にたっぷりとマスカラ。仕上げに口紅。人はどうして唇を晒して生きているのかな。爪が折れた中指で唇をなぞる。鏡の中の自分。あっかんべーをしてみる。いろんなものを味わってきた舌を見つめる。悪夢なんてテレビみたいにプチンとスイッチを切ってしまえればいいのに。私は、それから、キッチンに行って、明かりをつけて、暖房をつけて、テレビをつけて、カウンターによっかかりながら天気予報を見て、パチン、パチンとネイルニッパーで他の指の爪も短く切りそろえ、やすりをかけた。
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0113 チアーヌ
http://plaza.rakuten.co.jp/chiamia/ スイッチ
大事だったはずのいろんなものが
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0115 伊藤 透雪
http://tohsetsu.exblog.jp/ 呼び出し音
押したら最後
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0118 紫桜
http://www.geocities.jp/beautyundermoon/ スイッチの役目
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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
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