蘭の会2005年6月詩集「声」 (c)蘭の会 AllrightsReserved
モノフォビア・・・孤独という名の メロディ
さなかの声から(短歌) 声(短歌) 声
父の言葉 かけらのゆくえ 音叉
別離 目覚めよと呼ぶ声の聞こえ
雨季 close to you
脳が見る世界 聞こえてくる声
0003 九鬼ゑ女
http://home.h03.itscom.net/gure/eme/モノフォビア・・・孤独という名の
何度か試してみました
なにも見えないこの場所で
私を呼ぶ声がするので
耳を欹てるのですが
声は
あっというまに
どこかに攫われてしまうので
なにを言っているのか
聞き取れません
たとえ見えていたとしても
ひとりぼっちでいることに
変わりはないことだけは
わかっていましたから
しかたなく手探りで
歩いています
それでも
時間だけが
コトリともせず
素通りしていくのが怖くって
早足で追いかけては
孤独と言う名のその人に
まだかしらん?
まだかしらん?と、
何度も問うてみるのです
だから
答えてくれますか
そう、ゆっくりと
0059 汐見ハル
http://www3.to/moonshine-worldさなかの声から(短歌)
「声色」を「怖い色」だと思っててゆびの骨じゅうかみつく吐息
撥ねあがるフェイドアウトを待つ爪がシーツの波に溺れ三日月
鉄まじりの声に鼻をつまんだ日なみだの由来を改札で訊く
汗だくでパスワードはじくメガホンが甘い言葉は要りません、と夏
なかゆびで喉の尖りをころがして昨日の声の輪郭は何処
鈍色の水面にひかる思い出が月にかたちをなくしてゆきます
灯台で知った地球のまるいこと見上げるばかりの君を測れず
振り向けどふりむけど香水のごと声はジュゴンの泡にはじけた
さかな色うろこはちのこ真珠貝きらきらひかってさわれないもの
水底に翳るひかりが生む波紋つまりは君の声ということ
0096 土屋 怜
http://blog.livedoor.jp/cat4rei/父の言葉
小柄で気のちいさい父
結納返しの日
夫になろう相手の親に
「娘には、農家の仕事を手伝わせないで下さい。
そのように、育てていませんから」
お酒の力を借りてきっぱりと
言い放ってくれた
父が逝った今も 耳に残る響き
くり返し くり返し
たどってみる父の想い
ごめんね
未熟な娘は
未だ迷いは絶えないや
0097 陶坂藍
http://www.keoyon-44.fha.jp/かけらのゆくえ
ちっちゃな唇からこぼれ出す
「あのね」で始まるその声は
今日一日のきらきらを
たっぷり含む水玉になり
私にそっとふりそそぐ
ひとつたりともこぼしたくない
耳を澄ませ、腕を伸ばすけど
頭の中で大音量のノイズ
どうしても上手く捕まえられない
「あとで」と耳を塞いだら
ばしゃり!と床に弾けてしまった
慌ててかき集めようと
その行方を目で追うけれど
あまりにいちいち光るから
ぎゅうっと固く瞼を閉じた
そのかけらはいまどこに
眠りについたちっちゃな頬に
ひとおつふたつくっついて
明日はちゃんと拾えるように
ふかふかお布団を用意しよう
ちっちゃな頬に誓ったら
あれ、こんなところにも
私の目からひとおつふたつ
昼間のかけらが落ちてきた
0099 叶
http://www.geocities.jp/sirotanhouse/page049.html音叉
揺れる心にこだまする
甘く痺れるその声は
胸の鼓動と歌いだし
私のすべてを支配する
叶 さんの詩はこちらのHTML版でもお楽しみいただけます。
000b 佐々宝砂
http://www2u.biglobe.ne.jp/~sasah/目覚めよと呼ぶ声の聞こえ
かあさんは裏庭にチガヤを植えなかった。
壁を緑に塗らなかった。
とうさんは健康的に山を登り、
かあさんは家で本を読み、
かあさんはおもての庭に紫陽花を植え、
家の壁は地味な灰色に塗られた。
ながされてきたのよ。
おおきな波。
しろくあわだつ波、
チガヤの穂のような、
しろくなめらかなこまかい泡の波、
秋には赤く染まる波。
帰りたい、帰りたい、
でも、おまえがいるから帰らない。
風に耳を澄ませなさい。
おまえには聞こえるはず。
わたしにはもう聞こえないけれど、
おまえにはまだ聞こえるはず。
覚えておきなさい、
七回目の大波がきたときに、
乗り遅れたら、
もうおしまい。
わたしの裏庭にはチガヤがない。
わたしの壁は緑ではない。
わたしの夫は健康的に釣に出かけ、
わたしは家で本を読み、
わたしはおもての庭に忍冬を植え、
家の壁は薄いベージュに塗られている。
夜半に目覚めるたび、
視界いちめんに黄色と黒の市松模様、
アール・デコ調のそれが、
かあさんの言った波とは思えない。
思えないけど、
もしかしたらそうかもしれない。
風に耳を澄ませば、
かすかに海鳴り、
あれは、
あれはほんとうにそうなのかもしれない、
でも何度目かわからない。
目覚めよと呼ぶ声の聞こえるはずもなく、
わたしはここにない目を閉じる。
0115 伊藤 透雪
http://tohsetsu-web.cocolog-nifty.com/shine_and_shadow/脳が見る世界
声色、声音、間
ヒトは言葉で伝えようとする
自らの脳が知った情報、
脳が思う何かを
脳に組み込まれた翻訳機は
自らの言語へ翻訳する
勝手に 納得したり
わからないと不満を呈したり
間違っていると言ってみたりする
他のヒトの脳で感じること
他のヒトの目が捉えた光の色や像
他のヒトの耳が捉えた音の流れ
それは「差異がある」ことを
しばしば忘れて
大脳を共有しているような
錯覚を起こす
「常識」
私の脳は全ての音を感じ
取捨することはできない
私の脳は声色や声音、間から
他のヒトの感情を推察しにくい
ヒトの世界は
ヒトの脳が見ている世界にすぎない
常識という意識は
脳が見て聞いた記憶でしかない
世界は非常識で満ちている
0118 紫桜
http://www.geocities.jp/beautyundermoon/聞こえてくる声
流れ込む大量の情報を検討する
客観的な結論は何か
妥当な解決策は何か
出した答えは本物なのか
ふと
思考を止めて
心を空洞にする
雑音を消し去り
心音と耳鳴りを聞く
そうだ
大量の情報なんて関係ない
客観的な結論が正しいとは限らない
妥当な解決策に納得できた試しはない
そうなんだ
静かに耳を傾ける
内なる声は
湧き上がってくる声は
何と言っている
その声が答えだ
本物になるために
いばらの道を進め
何を躊躇する
何を怖がる
それ以外の道を選択することのほうが
よほど納得できないくせに
かき消しても聞こえてくる
内なる声
湧き上がる声
その声がきっと連れて行ってくれる
この人生のずっと先まで
きっと連れて行ってくれる
[ご注意] |