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2007年4月詩集「朝」
  
発条  
明け方の旅  
朝を 夢見て   
地軸  
モンキーハウスの朝の唄  
The girl doesn't like the worm.  
路地に蜻蛉が飛んだ  
決意の朝  
朝を  






















http://hippy2007.blog61.fc2.com/
yoyo
 

太陽があがりきらない朝

早起きとは違う覚醒

明らかなのは今日がきた

休日の予定を描きつつ

ごろごろするのが猫のようで

すりよって叫んで

甘えさせてよっていいたい

あなたに今日会うのだから


















発条

九鬼ゑ女
 

季節が浮いたり沈んだり

だからあたしも浮いては沈むの繰り返し



季節がころころ転がってはいきなりかくん

止まった拍子だ

あたしの発条がびよーんと弾け飛んだ    /ぜんまい



どこだ

どこだ

慌てふためきながら

眼を凝らして何度も探したが見つからない



季節はというと

うつらうつらと惷朧を抱えたまま          /しゅんろう

あたしに構わず朝に向かって馳せて行く       /あした



さて・・・・



どうしようか?


















明け方の旅

http://www5.plala.or.jp/natuno/brunette/brunette_top.htm
ナツノ
 


カーテンが揺れて
ガラス窓から朝がやってくる
夜明け前の舟に 戻りたがる私の背を
明るいほうへと 押すけれど

だって 長い廊下のさんざめき
朽ちかけた板張りの あの建物の壁には
陽だまりのにおいや
鉛筆ナイフで刻まれた言葉とともに
埃にまみれた笑顔やおしゃべりが 取り残されていたから

彼女たちが広い草はらを てんでに走りまわると
あちこちにスカートの裾が まあるくひるがえり
手をつないで 夢 語り合ったり

でもこの溝を飛べなかった
彼女たちは誰ひとり 私のことは気に留めないから

少し さびしかったよ

握りしめた手の中の
目覚めの国へむかう 汽車の切符が温かい

みんな
ここに置き去りにされたのではないのだね 
安心していいんだね
私は 帰るよ また来るからね


















朝を 夢見て 

雪柳
 

 
ため息の霧の中
 
更けゆく夜の 帳の中に
 
諸々のものを包み込み
 
忘れたふりして 夢見よう
 
 
 
そのうち
 
夜は明けるのだから
 
いつだって
 
朝は やって来るのだから
 
 


















地軸

宮前のん
 

この星は
地軸と呼ばれる棒の周りを
今日もグググと回転している
太陽を周りながら1年かけて
365回の朝を迎える
軸は北極星を指していて
35.7度に傾いている
この傾きが
季節を産むのだ

おんなじように
この私も
目には見えない軸の周りを
今日もグググと回転している
世界を周りながら1年かけて
365回の朝を迎える
そして、軸は彼方を指していて
35.7度に傾いている

この傾きが
愛を産むのだ


















モンキーハウスの朝の唄

http://lyriclilyth.at.webry.info/
佐々宝砂
 

わたしたちはいつかきっと死ねるのだから
ジム・モリソンもシド・バレットも
ヴォネガットだって死ねたのだから
今は死ねなくても
こころさわやかに朝の唄をさえずろう
ゆっくりと自分を殺してゆくために
薬を飲んだり煙を吸ったりしなくても
こわれやすいからだは
いまこのときわたしたちのものであるだけで
イソフラボンをどんなに摂取しようとも
コエンザイムQ10を口からあふれ出すほど食べようとも
一秒ごとに崩壊に向かう
崩壊しなくてはならないし
崩壊できるのだから
わたしはうれしいし安心する
宇宙は今日もきわめて不平等で不均一
かなしいかわいいマックスウェルの悪魔くんが
わたしの指先でちょっとだけ働いているけど
エントロピーは非情にも順調に上昇中
そうわたしたちはいつかきっと死ねるのだから
だから春の朝わたしの庭はぎっちりと生殖の気配
全部服脱いで庭に飛び出そう
わたしは72歳じゃないし処女でもないから
遠慮は要らない
すべて猥雑であれ
すべて嘘であれ
すべて無駄であれ
すべて荒唐無稽の抱腹絶倒のクソったれであれ
すべてスットコドッコイのトンチンカンのボケナスであれ
猥雑と嘘と無駄と
荒唐無稽の抱腹絶倒のクソったれと
スットコドッコイのトンチンカンのボケナスに幸いあれ
限りない愛と限りあるお金と薔薇水が
わたしの庭をかき乱す
あのカオスにわたしもいつか同化するのだから
かなしいかわいいマックスウェルの悪魔くん
そんなにせっせと働かなくてもいいよ
わたしの膝においで
一緒にモンキーハウスの朝の唄をうたおう
心地よいセックスのあとの心地よい眠りのような
だらしなくて幸せな朝の唄をうたおう

(カート・ヴォネガット追悼)


















The girl doesn't like the worm.

芳賀 梨花子
 

あんまり まぶしくない朝だった
それでも わたしは目が覚める
誰もいなくなったベッドで
しょうがないから
ぼさぼさの髪の毛なんて
あとまわしにして
まず冷たい水をコップにいっぱい
歯医者で口をゆすぐような
ステンレス製のコップで
これじゃないと駄目だ
きんと冷えた水じゃないと駄目だ
それからお気に入りの箱に
お行儀よく詰め込まれた
チョコレート
血糖値をあげよう
いっこで十分な甘く濃い瞬間
昨日の夜より
これから始まる一日が
どんなに無意味なことだろうと
わたしには
この濃度が必要
それから部屋の隅においてある
子犬のハウスを開ける
どうだい今日のお目覚めは
子犬のくせして はしゃがずに
ちらっと横目で わたしを見る
パピーフードにお湯をぶっかけて
そのついでに
わたしのためのコーヒーも入れる
インスタントだけど
お気に入りの渋み
これだよな、と
子犬はがつがつと食らう
生命力ってこういうことなんだ
膝を抱えて子犬を眺めながら
そんなふうに感じる
だったらわたしは
何時ならば生きているのだろう
昨日の夜は確かに生きていた
朝を教えてくれない人としか
実感できないなんて
まったくもってナンセンス
テレビをつける
ニュース番組だって堕落
人のことは言えないけれど
世の中ってつくづくこの程度
救いはきょうの占いが
結構いいせんいってること
黄色いハンケチがラッキーアイテム
そんなもん、映画じゃあるまいし
眉山に気をつかうほうがまだまし
それから口紅ぬって
マスカラで嘘をかさねて
今日はエゴイスト
誰のために
きっと、それはチョコレートと等価値
ほんとうの救いは
おなかがいっぱいになった子犬
そして、わたしを見上げる
その眼差し
気がつけばいいのに
今日もわたしは
携帯電話を忘れることはない

But the early bird catches the worm.


















路地に蜻蛉が飛んだ

伊藤透雪
 

浅い眠りから覚めたとき、部屋にはまだ群青
の名残が掛かっていた。窓から千鳥がさえず
る声がかすかに聞こえてくる。ぼんやりして
いる脳に染み入るのは高速道を渡る車にきし
む高架の鳴き。夜鳴き鳥かと思いこませた音
は、ぴいぴいと耳を伝ってくる。再び眠る気
持ちにならず、外気に触れてすっきりしよう
と外に出ると、空には既に水色が広がってき
ていた。春の花々が路地の鉢やプランターで
咲いている。花びらに朝露の小さな雫を見つ
けてしゃがみこみ、そっと花びらに触れると
弾けて飛んだ。ベルベットの花びらはまだ陰
に彩度を奪われている。しかし空に白が現れ
る頃、太陽は東の彼方から起き出し光を散乱
しはじめた。雲の輪郭がくっきりとしてきた
ら、金色に縁取られた鱗雲を見つけた。まも
なく夜の群青は消え去り、路地に光が差し込
む。そのまん中を、一匹の蜻蛉が飛んでいく。
時の流れがゆっくり動き始めた。



















決意の朝

http://www.geocities.jp/beautyundermoon/
紫桜
 

丑三つ時といわれる時間
あなたから電話が架かった
酔いにまかせて
今日は楽しかったという

大切な人とつつがなく
暮らしているにもかかわらず
思い出したように
忘れた頃に架けてくる

私の声と会話は
平凡な幸せのスパイスなのか
私の幸せを願うと言いながら
私の心が離れるのを寂しがる

あなたは
今も変わらず想い続けている
私の感情を利用している
受け入れてしまう自分が苦しい

切り際に
どうして架けてしまったんだろう
と呟くあなたは
自意識過剰と自覚しながら
自分を少しも理解していない

夜中に架かる電話は
単なる感情の乱れ
朝には冷静さを取り戻し
気まぐれと酔いの勢いで架けた電話を
少しは後悔しているのだろうか

夜中に書いた文章は
朝もう一度読め、と言われる
とくにラブレターは
夜は感情が乱れるから
必ず朝もう一度読め、と言われる

夜中の電話のあとは
いつも寝付けない
朝にはきっと冷静さを取り戻し
私だけを想ってくれる人を
かけがえのないと想ってくれる人を
必ず探すのだという決意を持って
なんとか眠りに落ちる

それなのに
決意の朝を迎えても
追い駆ける感情が止まらない


















朝を

赤月るい
 

朝が来ないんです
あさか、こないんです

まちわびている

朝は
泣きつづけても
私が目覚ましをかけなくても
やってきます
やってくるのですが

私の朝は
自分が 探しに行かないと
歩いてつかみにいかないと
いつまでも
来ないんですよ、ね 

ねぇ
だれか、

誰に訊いても答えてくれない
確認したくても
誰も教えてはくれない

けれど
わかりかけている

わたしの朝は
望んだ夜明けをつれてこれるのは
きっと
私だけ、なのでしょう

世界でひとりだけ


























2007.4.15 発行/蘭の会

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(編集 遠野青嵐・佐々宝砂)
(ページデザイン/CG加工 芳賀梨花子)