しみ ナツノ 　 洗い桶に 水をため 今朝見た夢を そおっと泳がせる 水の中で 手の甲に　浮かんだシミも はがれてひらひら ひととき泳ぎだす　 朝ごはんの皿や椀と　 手のシミと　朝の夢が 一緒に　揺れる いつまでも見ていた せめてせめてもうしばらく 手繰っていたい　淡い夢 排水溝へ流すには セ　ツ　ナ　イ いっそもうひとつ 手の甲に張り付いて 儚い面影　留めるの そうやって　いくつもの シミを　増やして シルシを　増やして 年月は　流れて

父さんの椅子 http://blog.livedoor.jp/cat4rei/ 土屋　怜 　 がんを患い胸に転移し しばらくたつと ぜーぜーと　咳き込むので 布団で眠るのが辛くなってきた父 母さんが眠れなくなるからと リビングの椅子でよく仮眠を とっていた 後ろの壁紙は ヘビースモーカーの 父の煙で柱の形に十文字に 大きなシミができている 自分が苦しくても 母のことを気遣う父の 小さくなった姿が 壁のシミと重なって 思いだされる 椅子に座って寝るなんて どんな気持ちだったんだろう しんと静まる夜のリビングには 今も鳩時計のコチコチという 音が響く 椅子も壁紙のシミもそのままに・・・

染み抜き 宮前のん 　 秋の日差しを 馬鹿にしてたら 頬にシミが出来てしまった 化粧品を変えても 消えやしない 形成外科を訪ねても 消えやしない 気になって 気になって 眠れなくなって 食べられなくなって げっそりと痩せて とうとう拒食症で 死んでしまった だけど良かった やっとシミが消えて

星たちのゆりかご 佐々宝砂 　 遠い空に広がってゆく 暗黒のしみは 悲しみの元凶でも 憎しみの対象でもない あれは暗黒星雲 星間ガス 宇宙塵 宇宙のなかのごく限られた 物質の集中地帯 明るい星たちの光をさえぎり ぽっかりと暗く浮かび上がる あの黒いしみは おそろしいものではなくて いとおしむもの あれは星たちのゆりかご

2008.12.15　発行/蘭の会

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（CGI 遠野青嵐　　編集 佐々宝砂）