とけるまで
溶ける・熔ける・融ける
球体パズル
そら
バースデーキャンドル
暗闇の女王
とけるまで
yoyo
夏でもないのに
帰り道
アップルシャーベットを
ほおばりながら
ちゃりんここいで
すってんころりん
あっちゃもこっちゃも
傷だらけ
青たんできて
アイスはとけて
どろどろぐっしゃり
知らないおじさん
助けてくれて
ちゃりんこひきあげ
荷物をひろって
ありがとうござます
っていう頃は
どっかにいってしまていて
痛みが増して
夜中の路地裏
見果てぬ夢と
刹那の欲と
現実ばかりは厳しくて
とけていくこと
祈っています
溶ける・熔ける・融ける
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九鬼ゑ女
いつまでもウジウジするな
枯渇するほどに喘ぐな
でも、でもね
このまんまじゃ
あたし…と・け・ちゃ・う
日常という
曖昧模糊な日々に?
そうだ!
蜃気楼を求めて
たまには
砂漠を彷徨ってみようか
ああ、だめだめ
そこにはきっと
大きなうわばみがいて
ぞうを、いえ、あたしを飲み込んじゃうだろう
飲み込まれたあたしは
やっぱり
そこでもとけだしちゃうんだろうな
溶ける・熔ける・融ける
ええい、どうせとけついでだ
赤い乱雲の上を駆ける龍よ
おまえに心ごと引き上げてもらおう
そして、時空にとけてゆくあたしの
そのひとこまひとこまを
描写してもらうのだ
…誰かに、…そう、誰かに
球体パズル
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沼谷香澄
まさに
その
前日
五十歳の息子と四十六歳の娘が
茶の間の座卓を挟んで向かい合い
組木パズルを
扱い倦ねていた
手にしては戻し
かき集めては取りこぼし
その間に時間は
無為に進んだようにも
淀んでいるようにも
止まって待っているようにも
その全てであるようにも
感じられた
どうしても
解けなかった
らしい
あんなに器用だったのに
似た様な太さの
少しずつ違うピースを
適度な間隔を保ちながら
手で持って組み上げる
一度手順を覚えれば
二度三度四度五度
繰り返し解ける
そういうものだ
翌日
狭い個室
難題を難題としてついに乗り越える事のないままに
ただ呼吸だけする存在になった人物の手に
球体に組み上がったパズルを持たせた
木製の球体は手から離れて足のほうへ転がっていった
それからきっかり半日後に
病人だった人物を含め全員が帰宅した
パズルは私が持っている
それ以来悪夢を見ない
呪縛が
解かれた
そら
ふをひなせ
そらに抱かれて抱きかえす
あのなかぞらに落ちていく
孤独にも似て満ちたりて
そらとわたしの和(こた)えがとける
バースデーキャンドル
宮前のん
届けられた宅配便からは
覚えのある香水が仄かに香る
ビルの上からでも目立つほど赤い
大きなリボンと小さなカード
プレゼントの中身は
いつだって欲しいものじゃない
あの人は
破られるための約束に
何度も言い訳のように届け物をする
中身はもう色褪せてるのに
ケーキの上に並んだ
色とりどりのキャンドル
融けた雫が滴り落ちて
残った時間までもが
少しずつ失われてゆく
吐息で揺らす小さな灯
願い事は、いつも秘密
暗闇の女王
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伊藤透雪
街の灯りも落ちた夜更け、君は暗闇の中に目
覚め瞳を輝かせる。窓の薄明かりだけで立ち
歩き、やがてグラスに氷を落としウィスキー
を注いだのを持ってきた。
ひとりごくりと喉を鳴らして飲みながら、目
覚めた僕を見て微笑う。遠く目を細めた先に
君は何を見ているのか、僕は黙っている。
私は昼に生まれたのよ。
だから夜にこがれてるのね、夜が一番好き。
全く君らしい言葉だね。
僕を見ないで話す唇が、薄明かりの中で薄く
動く。白い横顔に明かりが揺れている。僕は
いつものように頬杖つきながら見つめてる。
光景を焼き付けるために、そのまま壊れない
ように慎重に。
その後いつも横たわって昔の男の話をする、
君は全く変わっている。僕など時々いないみ
たいに君はひとり過去に沈んでいく。
その寝顔の安らぎにかろうじて満ち足りて僕
はただ見ているのさ、きっと。
*
夜の闇に溶けていく気だるい夢が、君の髪に
宿っている。漆黒の艶めきの中に閉じ込めた
、数多の男たちの嘆きが僕の心に届くとき
微かな優越に酔うけれど、それも今だけなの
かもしれない。
今の連続が未来としても、先など見えない暗
闇で抱き合う時間さえ短く感じてしまうほど
君はいつも現実にいない。目の覚めないまま
眠り続けてキスを繰り返しても目覚める時間
は短くて。いつも暗闇に生きている、君は僕
の女王。
ベッドサイドでグラスの氷が溶けて、からん
と音を立てた。
2009.11.15発行
(C)蘭の会
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CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂
ページデザイン・グラフィック/佐々宝砂