呆ける
ポラロイド写真
鎮痛剤
Duple Dimension
呆ける
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九鬼ゑ女
呆けております
歳のせいだけでは
ないような
感情が麻痺して
秒刻みの隅っこで
おいてきぼりをくらったようで
うずくまるしかない 昨日今日
やはり
呆けているせいでしょうか?
「生」という言う文字に
惑わされっぱなしで
行く末という
見えないものに
振り回され
いっそ誰かに
突っ込みを入れてもらいたいところですが
…それでも
このまま呆けている日々も
まあまあかな と、
思えるようになったのは
どういうものかしらん
ポラロイド写真
宮前のん
今日
引っ越しのお掃除の最中に見つけた
埃だらけのポラロイド写真
あの日
レストランのサービスで
あなたの笑顔と
わたしの笑顔と
弾けるシャンパン
ケーキの灯り
フィルムすら残らないけど
少しずつ褪せていくけど
確かにあったこと
忘れない
鎮痛剤
佐々宝砂
退屈は静かな幸運。
怠惰が連れてきた。
悲しみはささやかな快楽。
中毒性があった。
不幸はちょっとした間違い。
よくある話。
病気は誰だってなる。
あなたもなる。
捨てられたのは遠い昔。
もう忘れた。
よるべないのは確かに困る。
困るがなんとか生きてきた。
追われたことはまだない。
追放より逮捕がましかな。
死んだら。
そのうちみんな死ぬよ。
忘れられたら。
それはきっといちばんの至福。
誰からも忘れられて
完全な孤独に守られて
痛みも苦しみもなく
静かに横たわる。
いつかきっと。
あなたもわたしも。
いつかきっと死ぬ。
Duple Dimension
伊藤透雪
テーブルに微笑みを並べ向かい合う喜びに浸る
夕べの背に翼をひろげ世界が瞳の全てに輝く
そして安らかな眠りを
*
髭を剃る手が鏡に止まり映った顔が歪む
これは誰だ?と 振り返るが誰もいない
いるはずもない私は独り
洗面台の後ろは うつろな薄明かり
覆い被さる影の名を呼ぶのさえ恐ろしい
きれいさっぱりと髭と共に去りゆく力
とにかく足元は崩れることもない
今日は始まった窓の外は曇り、
*
あなた、あなたと呼ぶ声に飛び上がる声を出したとき
傍らで心配そうなまなこが二つ
うなされてたわよ 大丈夫?
ああ、何か重たい鎖が胸を押しつぶすようだったが大丈夫だ
カーテンの隙間から明るい日が射している
朝ご飯はできているわよ
妻の声が耳をなでる
もう少ししたら起きよう、
*
昨日のことが思い出せない
今を生きるにはそれほど大切ではないが
何か大切なことを落としてきた
影が忍び寄る
生きるだけの最低限 見えない牢獄の壁に
しみを作り脂が浮いている
私を守っているのは暗がりの銀色なひかりの月
夢を記録しようと思う
何か落としてきた欠片でも見落とさないように、
*
サイドテーブルに置いた筈の日記帳がない
ここはどこだ?
あなた、起きたのね
と声が聞こえる
誰だ?
見知らぬ部屋に知らぬ女
見たとたんに視野が裂ける
倒れる、と思った一瞬歪む顔が、
*
*
日と月の狭間の小さな結節点で
女の影が浮かんでいた
南極の磁場で発光するオーロラを観測する探査船が発見した
古代のホモ・サピエンスと研究者たちは特定した
いつ死んだのかわからないほどその体は生々しく浮かんでいたという
眉間に深い皺を寄せたままで
テラ探査船コリドーが最初に見つけた謎の古代生物であった
2013.10.15発行
(C)蘭の会
CGI編集/遠野青嵐・佐々宝砂