世界に雨が降ると 置き場のないままに置かれたかげが ほんのひとすじ浮いた しかたなくあしのゆびに 浮いたかげを縫いつけようともがいては 針に傷つけられるゆびさきの場違いな赤さを思い また かつて触れたかっただれかのことを想い ほおにおちた雨のつめたさにさえ むくわれようとしている 輪郭のにじむ世界の いまにもくずれさりそうな気持ちのうちに わたしはまたひどくだれかに触れたくなって わたしとはちがう ひとつのかげを持つだれかをさがす 世界には雨が降って 外と中を厳然と分けていくので わたしは黙ってとけていることができない
はらってもはらっても わたぼこり うすら白くつもる あかるくてあたたかい日に そうじをする ひざを抱える場所がない 空は青いけれど どこまでがあおいのかわからなくなる だからそうじをする はらってもはらっても うすら白くつもる わたぼこり はらってもはらっても あまりよく飛んでいかないから もうすぐ雨がふるかもしれない 冬にはかわくのだ そしてとんでいく わたぼこりとかそれに似たようなものぜんぶ わたしはとんでいかないから ともかくそうじをする はらってもはらっても わたぼこり うすら白くつもる
ああ、だれもいない まっすぐな背骨のきみの うしろの正面と言うところが そもそも存在してはいけない かつかつと うしろ姿をむさぼる 虫たちの脚、あし 焦燥感にかられて うしろを振り向こうとすると 背骨がわらう 背骨にあしは生えないというのに かつかつと 背骨をくらう虫の 触角のつやつやしたこと それから するりとのびた きみの白いあしのほね もうだれもいない わたしは ふりかえってはいけない