■ 第7回 ハミダ詩てみよう!
今回はまず、ちょっと詩の種類について書いてみます。前回書いてもらった「どんなふうに○○○○?」の詩は叙情詩という種類の詩にあたりますが、他にも詩の種類はたくさんあります。おおまかにわけて説明しましょう。
1.ことばあそびうた 言葉の音の面白さで成立する詩。 例「はるならさくら、うっつらうつら、ねるならまくら」
2.アフォリズム(箴言) 思想などを伝えるもの。一言で言い切る場合が多い。 例「夫婦はハサミのようなものだ」
3.叙情詩 気持・感情などを伝える詩。一番多い。短歌に多い。
4.叙事詩 おはなし・ストーリーを語る詩。たいてい長い。比較的少ない。
5.叙景詩 風景・情景などを写生する詩。俳句に多い。 例「雲の影渡りてゆけど砂灼くる」
主なものはこの5種です。アフォリズムはちょっと特別で、詩に分類するひともしないひともいます。詩でないとしても詩の親戚ではあるので、一応仲間にいれておきました。もちろん、詩は厳密に分類できるものではありません。いくつかの要素をあわせ持つ詩がたくさんあります。言葉遊びの要素を使いつつ基本的には叙情詩である詩とか、風景を描きつつ叙情を表した詩だとか。また、叙事詩を書くには叙景も叙情も必要です。なので、詩の分類については、まあこんなもんだ程度に考えておいてけっこうです。で。実は、上記5つに分類できない詩がある!というのが今回の主題なのであります。とりあえずハミダ詩と呼ぶことにします(てけとーなネーミングだ)。
ハミダ詩は、たいてい実験的・前衛的なものです。ハミダ詩の中でもいまいちばん前衛っぽいのは方法詩と呼ばれる詩であろうと思いますが、私には方法詩が初心者向きと思えませんので、そういうものがある、くらいに考えておいてほしいと思います。興味があったら「方法詩」または"pure poem"で検索してみてください。わけわかんなさに目が点になりますから。初心者にオススメな実験方法は、変な言い方ですが前衛のなかでも古典的なもの、具体的には活字切り抜きコラージュと自動記述だと思います。
活字切り抜きコラージュは、詩作に煮詰まってなんにもアイデアが湧かないときにたいへん有効な方法です。私もよくやります。やりかたは簡単です。誰でもできます。頭がアホになっているときも、手が動けばできます。似たようなことはパソコンでもできるのですが、あくまで手を使ってやってみる方が面白いので、まずは手を使ってやってみましょう。何か言葉の書いてあるもの(私は新聞を使います)を適当に切り抜き、箱か瓶のような入れ物に入れてガシャガシャ混ぜて、デタラメに取り出して、いいかげんに組み合わせます。適当でデタラメでいいかげんなので、当然ですが、わけのわからないものができます。いまここに新聞切り抜きを入れた瓶がありますので、少しとりだしてみましょう(私はこの瓶を「うたのもと」と呼んでいます、アクセントは「味の素」と同じね)。
・例文 差し向かいのミツバチに北海道探しに、記憶のカルシウム
まあこうしたものができるわけです。わけわかんないけどなんとなく詩でしょ。このまま作品にできないでもありません。切り抜きを紙に貼りつけたら、詩であるのみならず、美術品になる可能性もあります。こうした作品は、芸術用語で言うオブジェの一種です。オブジェとは「客体」という意味です。なぜ客体なのか。巖谷國士からの孫引きですが、エルンストがこんなことを言っています。「XとYを自分が主観的に結びつけたというのではなく、それらがおたがいに結びついてくる状況を自分が観客のように見た」。実際に切り抜きコラージュをやってみるとわかると思いますが、偶然に生まれる妙ちきりんな組み合わせを見て最初に驚くのは、自分自身です。もしかしたら、芸術の創造には主体となる作者は不要かもしれません。20世紀初頭にそんなことを主張したのが、エルンストをはじめとするシュルレアリスムの画家たちでした。
シュルレアリスムと言えば、詩の世界ではアンドレ・ブルトンが有名です。ブルトンは、活字切り抜きコラージュとは違う方法、自動記述という方法をとりました。自動記述は、なーんにも考えず、予定も立てず、超高速でやたらめたらに書いてみる、という方法です。自動記述には向き不向きがあります。できない人にはできませんが、嘆く必要はありません。ただ向かないというだけです。ですからすべての人にオススメとは言いませんが、とりあえず一度は試してください。ペンで書いてもいいし、パソコンで書いてもいいです。私の場合はパソコンの方がスピードが出て変なものができますが、人によるので、試してみないとわかりません。何が出てくるか、ホントにわからないのが自動記述です。自動記述は、コラージュとは逆方向、自分の中身を探ってみる方法かも知れません。
切り抜きコラージュと自動記述は、実験としてはすでに古い部類に入ります。けれど、古い方法をとっても、できあがるものは常に新しい、あなたにしか作れないものです。とにもかくにも試してみなきゃわからないのです。
てなわけで今回はおしまい。
○課題6「実験にトライ」 切り抜きコラージュ、または自動記述をやってみよう。 もちろん両方やってもOK!
参考文献;『シュルレアリスムとは何か』巖谷國士著・ちくま学芸文庫
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