乍 - 漢字私註

説文解字

乍

止也、一曰亡也。从徐鍇曰「出亡得一則止、暫止也。」鉏駕切。

十二亡部

説文解字注

乍

止亡䛐也。各本作「止也一曰亡也」六字。今正。乍無亡義。淺人離析所改耳。補䛐字者、如下云「止䛐也」。亦本有䛐而後人𠜂之。乍與母同意。毋者、有人姦女而一止之、其言曰毋。𠆦者、有人逃亡而一止之、其言曰乍。皆咄咄逼人之語也。亡與止亡者皆必在倉猝、故引申爲倉猝之稱。『廣雅』曰、暫也。『孟子〔公孫丑上〕』今人乍見孺子將入於井。『左傳〔定八年〕』桓子乍謂林楚。文意正同。而『左傳』俗本改乍爲咋。

从亾一。會意。鉏駕切。古音在五部。

一、逗、有所礙也。礙者、止也。說从一之意。毋字从一、亦是有所礙之之意。

康煕字典

部・劃數
丿部四劃

『唐韻』鉏駕切『集韻』『正韻』助駕切、𠀤槎去聲。『增韻』暫也、初也、忽也、猝也、甫然也。『孟子』今人乍見孺子。又『荀悅・雜言』一俯一仰、乍進乍退。

又『集韻』『類篇』𠀤卽各切。同作。三代鼎文款識、作皆書爲乍。

音訓義

サ(漢) ジャ(呉)⦅一⦆
ソ(推)⦅二⦆
サク(推)⦅三⦆
たちまち⦅一⦆
しばらく⦅一⦆
あるいは⦅一⦆
ながら⦅四⦆
官話
zhà⦅一⦆
粤語
zaa3⦅一⦆
zaa6⦅一⦆

⦅一⦆

反切
廣韻・去聲』鋤駕切
集韻・去聲下』助駕切
『五音集韻・去聲卷第十一・禡第十七・床二・乍』鋤駕切
聲母
牀(正齒音・全濁)
等呼
官話
zhà
粤語
zaa3
zaa6(又讀、罕讀)
日本語音
サ(漢)
ジャ(呉)
たちまち
しばらく
あるいは

⦅二⦆

反切
集韻・去聲上・莫第十一・祚』存故切
『五音集韻・去聲卷第十・暮第九・從一・祚』昨誤切
聲母
從(齒頭音・全濁)
等呼
日本語音
ソ(推)
止也。(『集韻』)

⦅三⦆

反切
集韻・入聲下・鐸第十九・作』即各切
『五音集韻・入聲卷第十五・鐸第二・精切一・作』則落切
聲母
精(齒頭音・全清)
等呼
日本語音
サク(推)
作に同じ。『集韻』に作の或體として擧げる。

⦅四⦆

國訓
ながら

解字

白川

象形。小枝を撓めて、垣などを作る形に象る。作の初文。

『説文解字』に止むるなり。一に曰く、亡なり。亡に從ひ、一に從ふ。とするが、は人の屍骨の象で、乍とは關係がない。

釋名・釋宮室笮、迮也。編竹相連迫迮也。(乍は迮なり。竹を編みて相ひ連ね、迫迮するなり。)とあるのが、字の原義に近い。(補註: 中國哲學書電子化計劃は乍を笮に作る。)

卜辭に「邑をつくる」、「庸(城)を乍る」のやうに用ゐ、大規模な工作事業をいふ。

金文には「乍(とつ)ぐ」「乍(𣧫)す」「乍(さいはひ)す」のやうに用ゐる。

副詞として、たちまち、あるいはの意に用ゐる。

藤堂

象形。刃物でさつと<形に切るさまを描いたもので、刃物で切れ目を入れること、ある動作をすることを表す。作の原字。

作が作爲に意に專用されたため、乍は急切な動作を表す副詞となつた。

萬葉假名では乍甲乍乙の場合の意味(補註: 甲が起こるかと思へば、急に乙が起こるの意)を誤解して「〜しつつ」と訓じたため、のち「〜ながら」の訓が生じた。

落合

象形。甲骨文はの下部を含んでをり、衣服を作る樣子を表した字と推定される。作の初文。甲骨文の異體字には縫ひ目を表現した字形や、を加へた字形(𫾩)もある。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. つくる。作成する。造營する。《殷墟小屯中村南甲骨》50甲午貞、其令多尹作王寢。
  2. なす。行爲する。發生させる。受動で使はれることもある。
    • 《合補》1938貞、不惟帝令作我禍。
    • 《合集》738己丑卜㱿貞、王亡作禍。
  3. 祭祀名。《合集》1404庚申卜爭貞、作大丁。

古文でを加へた作の字形が作られた。人は人爲を表す意符とされる。

漢字多功能字庫

甲骨文は刀を用ゐて草木を伐採するさまに象り、柞の初文。草木を除去することを表す。『詩・周頌・載芟』載芟載柞毛亨傳除木曰柞。後に轉じて一切の勞作、工作、作爲となし、更に轉じて建造、建設、鑄造などを表す。後に乍を突然、暫時などの義を表すのに用ゐるやうになり、ゆゑにを加へて作字をつくり、勞作、工作を表す。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

戰國竹簡での用義は次のとほり。

『説文解字』は制止を表すとするが、本義に非ず。

屬性

U+4E4D
JIS: 1-38-69

關聯字

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