下 - 漢字私註
説文解字
底也。指事。胡雅切。
- 一・丄部
篆文丅。
説文解字注
底也。底當作氐。《广部》曰「底者、山凥也。一曰下也。」許氏解字多用轉注。轉注者、互訓也。底云下也。故下云底也。此之謂轉注。全書皆當以此求之。抑此底字當作氐。《广部》「一曰下也」四字、疑後人所綴、何者、許書無低字。《日部》昏下曰「从氐省。氐者、下也。」正與此下者氐也爲轉注。上、高也。下、氐也。高氐亦正相反相對。今本氐篆解云「至也」。亦當本作「下也」。如是正之。乃見許氏發揮轉注之恉。有好學深思者。當能心知其意也。
从反𠄞爲𠄟。有物在一之下也。此古文下本如此。如𨳌字從古文下是也。後人改𠄟爲丅、謂之古文。則不得不改丅爲、謂之小篆文矣。胡雅胡駕二切。古音在第五部。
篆文下。今各本篆文作。後人所改。
康煕字典
- 部・劃數
- 一部・二劃
- 古文
- 丅
- 𠄟
『廣韻』胡雅切『集韻』『韻會』『正韻』亥雅切、𡘋遐上聲。在下之下、對上之稱。『易・乾・文言』本乎地者親下。
又『說文』底也。『玉篇』後也。又賤也。
又『儀禮・士相見禮』始見于君、執摯至下。《鄭註》下謂君所。《賈疏》不言所而言下者。凡臣視袷已下、故言下也。
又『集韻』『韻會』𡘋亥駕切、遐去聲。『正韻』降也、自上而下也。『易・屯卦』以貴下賤。『詩序』君能下下。
又『爾雅・釋詁』下、落也。《郉疏》下者、自上而落也。草曰零、木曰落。
又去也。『周禮・夏官・司士』歲登、下其損益之數。
又『韻補』叶後五切、音戶。『詩・召南』于以奠之、宗室牖下。與女叶。《吳棫曰》毛詩下字一十有七、陸德明皆此讀。『𨻰第・古音考』與吳同。
又叶胡佐切、音賀。『曹丕・寡婦賦』風至兮淸厲、隂雲曀兮雨未下。伏枕兮忘寐、逮乎朝兮起坐。
- 部・劃數
- 一部(一劃)
『字彙補』古文下字。註詳二畫。
- 部・劃數
- 二部(零劃)
『六書本義』古文下字。註詳一部二畫。
音訓義
- 音
- カ(漢) ゲ(呉)⦅一⦆
- カ ゲ⦅二⦆
- コ(推)⦅三⦆
- カ(推)⦅四⦆
- 訓
- した。しも。もと。ひくい。⦅一⦆
- くだる。くだす。おりる。おろす。さがる。さげる。⦅二⦆
- 官話
- xià⦅一⦆⦅二⦆
- 粤語
- haa5, haa6〔粤語〕
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上聲・馬・下』胡雅切
- 『集韻・上聲下・馬第三十五・丅』亥雅切
- 『五音集韻・上聲卷第八・馬第十七・匣・二下』胡雅切
- 聲母
- 匣(喉音・全濁)
- 等呼
- 二
- 官話
- xià
- 日本語音
- カ(漢)
- ゲ(呉)
- 訓
- した
- しも
- もと
- ひくい
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・禡・暇』胡駕切
- 『集韻・去聲下・禡第四十・暇』亥駕切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・禡第十七・匣・二暇』胡駕切
- 聲母
- 匣(喉音・全濁)
- 等呼
- 二
- 官話
- xià
- 日本語音
- カ
- ゲ
- 訓
- くだる
- くだす
- おりる
- おろす
- さがる
- さげる
⦅三⦆
- 反切
- 『集韻・上聲上・姥第十・戸』後五切
- 『五音集韻・上聲卷第七・姥第八・匣・一戸』侯古切
- 聲母
- 匣(喉音・全濁)
- 等呼
- 一
- 日本語音
- コ(推)
- 義
- 下也。(『集韻』)
⦅四⦆
- 反切
- 『集韻・去聲下・禡第四十・駕』居迓切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・禡第十七・見・二駕』古訝切
- 聲母
- 見(牙音・全清)
- 等呼
- 二
- 日本語音
- カ(推)
- 義
- 假に同じ。『集韻』に假を亦た下に作るとする。
粤語
粤語では次のやうに音義を使ひ分ける模樣。
- 名詞(「した」)、形容詞(「ひくい」)の用義にはhaa6。
- 動詞については、haa6とする資料、haa5とする資料がある。
- 「打一下」など、動作の回數を表すにはhaa5。
解字
古くは𠄟の形。橫劃の下に短い橫劃を描いて下方を示す。後に縱劃を加へる。
白川
指示。掌を伏せて、その下に點を加へ、下方を指示する。
『説文解字』に底なり
とするが、掌の上下によつて、上下の關係を示す。
藤堂
指示。覆ひの下に物があることを示す。した、したになるの意を表す。上字の反對の形。
落合
指示。上とは逆に、基準となる線より下に點があることから「した」の意味を表す。
甲骨文での用義は次のとほり。
- した。しも。下の方向。低い所。《合集》28231
下⿰亻⿱冉土南田受禾。
- 下流。地名に附す用法もある。《合補》1885
貞、王從望乘伐下危。
- 下示の略。
- 下乙
- 先王の祖乙の別稱。《懷特氏等所藏甲骨文集》902
貞、王其入、勿祝于下乙。
- 下上
- 祖先神の總稱。下示と上示すの意であらう。上下や下上徹示とも言ふ。《甲骨拼合集》276
辛未卜㱿貞、王勿逆伐𢀛方、下上弗諾、…祐。
- 下示
- 比較的近い先王の總稱。下や九下示と稱されることもある。《合補》10463
求其下、自小乙。
古文で線と點を繫ぐ縱線が加へられた。
漢字多功能字庫
甲骨文は弧線の下に短い劃を置くことで、下の意を表す。刻むのが不便なため、後に多く弧線を橫劃に改める。段注本では『説文解字』の古文を改め𠄟に作る。按ずるに甲骨文や早期金文は𠄟に作るが、上や二の混同を避けるために、春秋晩期には多く縱劃を加へて下に作る。戰國期には六國の古文は既に𠄟に作らず。また楚系文字は多く下字の上部に別に短い橫劃を飾筆に加へる。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 上と相對する。徐中舒
上指上帝、下指地祇百神。
《合集》7428下上若(諾)、受(授)我又(祐)
は、地祇と上帝の承諾を得て、我に加護を授く、の意(劉興隆)。 - 「下示」の語が見え、「上示」と相對する。徐中舒は兩者いづれも商の先王を集めた廟の主の稱とする。《屯南》1115
下示五牢
は、五匹の祭牲を用ゐて下示を祭祀することを指す。
金文での用義は次のとほり。
- 方位詞に用ゐ、しばしば下界、世間を指すのに用ゐる。番生𣪕蓋
廣啟厥孫子于下
は、世にある汝の子孫を大々的に啓發するの意。 - 下官の語があり、魏の官署、卅五年鼎に見える。
- 「下淢」は地名。位置は不詳。長甶盉
穆王才(在)下淢㡴(居)
は、穆王は下淢の行在所にあるの意。
傳世文獻での用義は次のとほり。
- 尊者に對する謙遜の語に用ゐる。
- 低い位置の意から轉じて動詞となし、下雪など、下降の意を有す。
- 更に轉じて攻め下すの意。『戰國策・齊策六』
燕攻齊、取七十餘城、唯莒、即墨不下。
屬性
- 下
- U+4E0B
- JIS: 1-18-28
- 當用漢字・常用漢字
- 丅
- U+4E05
- JIS X 0212: 16-3
- 𠄟
- U+2011F
関聯字
下に從ふ字を漢字私註部別一覽・上部・下枝に蒐める。