光、あれ?
「光あれ」
初めに神は宣うた。
世界には光が滿ちた。
ところが。
「光だけでは眩しくてしかたない。なんとかしろ」
ある神が宣うた。
「これでは暑くてしかたない。なんとかしてくれ」
別の神が宣うた。
「これでは休むときがない。死んで仕舞ふ。過勞死させる氣か」
また別の神が、ご機嫌斜めで宣うた。
光を創つた神は拗ねていぢけて、引き籠もつてしまつた。
世界は再び闇に戻つた。
他の神々は、最初は安堵した。
しかし、そのうち闇ばかりの世界でも困りものだと思ひ始めた。
「とにかく彼奴を引つ張り出せ」
いづれかの神がさう宣つた。
神々は、光を創つた神をあの手この手でなんとか表に引き摺り出した。
その後、ある神が宣うた。
「光あるところに蔭あれ」
これで涼を取ることの出來る日蔭が出來た。
別の神が宣うた。
「一日は光のときと闇の時に分れよ」
これで皆が夜休むことが出來るやうになつた。
世界は、かくして落ち着くところに落ち着いた。
神々は、それから、諸々の生き物をつくり、産めよ殖せよと餘計なことを教へた。
時は過ぎ、人が現れ、殖えていつた。
人々は神々から下された話を書き留め、子孫に傳へた。
しかし、細かい部分はときに誤つて傳はり、ときに恣意的にねぢ曲げられた。
ある神が宣うた。
「人間どもに話なんかしてやるんぢやなかつた。彼奴らのいふ神話とやらは嘘つぱちばかりだ」