説文解字私註 㗊部
㗊部
- 文六 重二
㗊
- 説文解字
眾口也。从四口。凡㗊之屬皆从㗊。讀若戢。又讀若呶。
- 康煕字典
- 口部九劃
『唐韻』阻立切『集韻』側立切、𠀤音戢。『說文』衆口也、从四口、讀若戢。
『集韻』測入切、音㞚。又訖立切、音伋。又北及切、音鵖。義𠀤同。
『字彙補』古文雷字。見七修類稿。
- 音
- シフ
- 訓
- かまびすしい
- 解字(白川)
- 口は祝禱を收める器。多くの祝禱の器を列ねて、かまびすしく神に祈ることをいふ。二口に從ふものに哭、嚴、喪、三口に從ふものに品、喿、區、四口に從ふものに嘂、囂、器などがあり、みな同じ立意の字。
嚚
- 説文解字
語聲也。从㗊臣聲。
- 𡅚
古文嚚。
- 康煕字典
- 口部十五劃
- 《古文》𠽺𡅚𡓶𠿦
『唐韻』語巾切『集韻』『正韻』魚巾切『韻會』疑巾切、𠀤音銀。『說文』語聲。
『玉篇』愚也。『書・堯典』父頑母嚚。『左傳・僖二十四年』口不道忠信之言爲嚚。『前漢・昌邑王傳』書作𡂨。
人名。『晉語』召史嚚占之。《註》史嚚、虢太史也。
『集韻』牛閑切、音訮。語聲。
- 音
- ギン
- 訓
- やかましい。おろか。
- 解字(白川)
- 㗊と臣の會意。嚚は『書・堯典』にいふ「嚚訟」の意。臣は恐らく犧牲、或は望氣して祈る巫祝の類であらう。古文の字形に、望の初文(補註: 𦣠)に㗊を加へた形のもの(補註: 𡅚)がある。神の徒隸たる者を臣といふ。媚飾を施した巫の形である萈を㗊の中に加へると𡅻、儀禮の人である頁を加へると囂、叫聲の意を加へると嘂。みな、かまびすしい狀態で祈ることをいふ。
- 解字(藤堂)
- 四口(やかましい)と臣(奴隸)の會意。臣は緊や堅に含まれるので、臣(かたくて卑屈な人)を亦た音符と考へても良い。頑なで下品な意を含む。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は五つの方形と聲符の臣に從ふ。方形は時にぞんざいに書かれ、口の形と混ざる。本義は衆人の話す聲。古文は別に𡈼を加へる。小篆は四口に從ひ、隸變の後、楷書は嚚と𡅚を分別して書く。
- 後に愚かで頑ななことを表す。また、姦詐、僞詐を表す。
- 甲骨文に辭が殘るも、意義不詳。
囂
- 説文解字
聲也。气出頭上。从㗊从頁。頁、首也。
- 𠽸
囂或省。
- 康煕字典
- 口部十八劃
- 《古文》𠽸
『唐韻』許嬌切『集韻』『韻會』虛嬌切『正韻』吁嬌切、𠀤音枵。『說文』聲也、气出頭上。从㗊从頁。頁、首也。『玉篇』喧譁也。『集韻』聲也。『左傳・昭三年』湫隘囂塵。『釋文』囂、許嬌反、一音五高反。『詩・小雅』選徒囂囂。《傳》囂囂、聲也。『釋文』囂、五刀反、亦許驕反。
『孟子』人知之亦囂囂、人不知亦囂囂。《註》囂囂、自得無欲之貌。
人名。『史記・黃帝紀』嫘祖生二子、其一曰𤣥囂、是爲靑陽。
『集韻』『韻會』『正韻』𠀤牛刀切、音敖。義同。『周禮・秋官』銜枚氏掌司囂。《註》察囂譁者。『釋文』囂、五羔反。
『詩・小雅』讒口囂囂。《箋》囂囂、衆多貌。『釋文』五刀反、韓詩作嗸嗸。『前漢・董仲舒傳』此民之所以囂囂苦不足也。《註》師古曰、與嗸同。
『詩・小雅』我卽爾謀、聽我囂囂。《傳》囂囂猶嗸嗸也。『釋文』囂、五刀反。
『字彙』山凹之地曰囂。『梁宣帝七山寺賦』神囂嵒嵒而特立。
鳥名。『山海經』梁渠之山有鳥、狀如夸父、四翼一目犬尾、名曰囂。
獸名。『山海經』羭次之山有獸、狀如禺、長臂善投、名曰囂。
水名。『山海經』嶓冢之山、囂水出焉。
山名。『山海經』北囂之山無石、其陽多碧、其隂多玉。
『集韻』地名。通作隞敖。詳前嚻字註。○按『經傳』『釋文』囂多讀敖、惟『小雅』車攻及『左傳・昭三年』『釋文』兼敖枵二音。
- 音
- ガウ
- 訓
- かまびすしい
- 解字(白川)
- 會意。頁は儀禮のときの禮容を示す。祈りの聲のかまびすしいことをいふ。
- 解字(藤堂)
- 四口と頁(頭)の會意。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 金文は四口と頁に從ふ。頁は頭部の突出する人の形を象る。衆口の騷がしいの意であらう。
- 金文は本義に用ゐ、騷がしいことを表す。また、姓氏、官名に用ゐる。莫囂は莫敖、楚の官名で、司馬のこと。
囂囂とは、騷がしきさま、多きさま、衆人の憂ふさま、自得して欲なきさま。
嘂
- 説文解字
高聲也。一曰大呼也。从㗊丩聲。『春秋公羊傳』曰、魯昭公嘂然而哭。
- 康煕字典
- 口部十一劃
『唐韻』古弔切『集韻』吉弔切、𠀤音噭。『說文』高聲也。一曰大呼也。从㗊、丩聲。公羊傳曰、昭公嘂然而哭。○按今『公羊傳・昭二十五年』作噭而哭。『周禮・春官・雞人』掌共雞牲、辨其物、夜呼旦以嘂百官。
『爾雅・釋樂』大塤謂之嘂。《疏》音大如叫呼聲。
『集韻』書作[吅丩吅]。
- 音
- ケウ
- 訓
- さけぶ
- 解字(白川)
- 丩聲。叫の初文。多數の祝告を列し、大聲で祈ることをいひ、擬聲的な語。
𡅻
- 説文解字
呼也。从㗊萈聲。讀若讙。
- 康煕字典
- 口部二十一劃
『唐韻』『集韻』𠀤呼官切、音讙。『說文』呼也。从㗊莧聲。『集韻』或作嚾。
『類篇』虛旰切、音漢。義同。
『玉篇』荒貫切、音渙。與喚同。
『博雅』鳴也。
『集韻』或作𡅱。『廣韻』書作𡅽。
- 音
- クヮン
- 訓
- さけぶ
- 解字(白川)
- 會意。萈は眉飾を施した巫女。多くの祝詞を竝べ、巫女が祈り立てることをいふ。廟中に巫女が祈ることを寬といふ。
器
- 説文解字
皿也。象器之口、犬所以守之。
- 康煕字典
- 口部十三劃
- 《古文》𡄛
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤去冀切、𢽽去聲。『說文』衆器之口、犬所以守之。『廣韻』器皿。『易・繫辭』形乃謂之器。《註》成形曰器。『書・舜典』如五器。《註》器謂圭璧。
『禮・王制』瘖聾、跛躃、斷者、侏儒、百工、各以其器食之。《註》器、能也。『論語』及其使人也、器之。《疏》度人才器而官之。
『論語』管仲之器小哉。《註》言其度量小也。
姓。見『姓苑』。
叶欺迄切、音乞。『曹植・黃帝三鼎贊』鼎質文精、古之神器。黃帝是鑄、以像太乙。
『集韻』或作𦈯。『玉篇』俗作噐。
- 解字(白川)
- 會意。犬は犬牲を以て清める意。金文の字形によると、犬は磔殺されてゐる形。犬牲を以て清めた器は、祭器、明器、禮器として用ゐられる。器とはもと彝器をいふ。彝とは鷄血を以て清める意の字。祭器の意より器具、器材の意となり、人に移して器量、器度をいふ。
- 解字(藤堂)
- 四口と犬の會意で、さまざまな容器を示す。犬は種類の多いものの代表として加へた。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 金文は四口と犬に從ふ。構形本義不明。一説に口は器物を象り、犬にこれを守らせるといふ。一説に數ある口は犬の吠える聲で、㹞の初文。
- 金文では器物、容器、食器を表す。また、人名に用ゐる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
- 《漢字表字體》器(U+5668; JIS:1-20-79)
- 《人名用許容字體》器(U+FA38; JIS:1-15-22)