説文解字私註 殺部

殺部

説文解字
戮也。从殳杀聲。凡殺之屬皆从殺。
𢿹 古文殺。
𢽅𢽘 古文殺。
𢁛 古文殺。
説文解字注
本字及び釋は上に同じ。
𣪩 古文殺。 註に按鉉本宋刻無此字。李燾本同。といふ。
𢿹 古文殺。
𢽅 古文殺。
𢁛 古文殺。 註に按此葢卽杀字轉寫譌變耳。加殳爲小篆之殺。此類甚多。といふ。
𠮁 籒文殺。 註に按鉉本宋刻無此字。李燾本同。類篇云、史文殺作𠮁。臣光曰、說文失收。故集韵今不載。といふ。
康煕字典
殳部七劃
《古文》𢁛𢽅𢿹𢽆𢼡𢿔𧤿
『唐韻』所八切『集韻』『韻會』『正韻』山戛切、𠀤音煞。『說文』戮也。『周禮・春官』內史掌王之八柄之法、以詔王治。五曰殺。《疏》太宰有誅無殺。此有殺無誅者、誅與殺相因、見爲過不止、則殺之也。又『秋官』掌戮、掌斬殺賊諜而搏之。《註》斬以鈇鉞、殺以刀刃。
『爾雅・釋詁』殺、克也。『郭註』隱元年公羊傳曰、克之者何、殺之也。
獲也。『禮・王制』天子殺、則下大綏。諸侯殺、則下小綏。大夫殺、則止佐車。《註》殺、獲也。
同死。『孟子』凶年不能殺。
忘也。『莊子・大宗師』殺生者不死。《註》李軌云、殺、猶亡也。亡生者不死也。崔云、除其營生爲殺生。
薙草曰殺。『禮・月令』利以殺草。
霜殺物曰殺。『春秋・僖三十三年』隕霜不殺草。『左傳・桓五年』始殺而嘗。
以火炙簡爲殺靑。『後漢・吳佑傳』欲殺靑𥳑、以寫經書。《註》殺靑者、以火炙𥳑令汗、取其靑、易書、復不蠹、謂之殺靑。亦爲汗靑、義見『劉向・別錄』。
矢名。『周禮・夏官・司弓矢』殺矢、鍭矢、用諸近射田獵。《註》殺矢、言中則死。又『考工記』冶氏爲殺矢、刃長寸、圍寸、鋌十之。
刷也。『釋名』摩挲猶抹殺。
『集韻』『韻會』𠀤桑葛切、音薩。散貌。『史記・倉公傳』望之殺然黃。《註》徐廣曰、殺、蘇葛反。正義曰、蘇亥反。
掃滅之也。『前漢・谷永傳』未殺災異。
騷殺、下垂貌。『張衡・東京賦』飛流蘇之騷殺。
『集韻』私列切、音薛。與𨇨同。蹩𨇨、旋行貌。『莊子・馬蹄篇』蹩躠爲仁。向崔本作弊殺。
『廣韻』『集韻』『韻會』𠀤所界切、音鎩。降也、減削也。『周禮・秋官・象胥』國新殺禮、凶荒殺禮。『禮・大傳』五世而緦殺同姓也。又『禮器』禮不同、不豐不殺。
『正韻』所賣切、音曬。義同。
毛羽敝曰殺。『詩・豳風・予羽譙譙傳』譙譙、殺也。
『周禮・天官・瘍醫』劀殺之劑。《註》殺謂以藥食其惡肉。
噍殺、音也。『禮・樂記』其哀心感者、其聲噍以殺。《註》噍則竭而無澤、殺則減而不隆。
剪縫也。『論語』非帷裳、必殺之。亦作𧜁。
韜屍之具、上曰質、下曰殺。『儀禮・士喪禮』䞓殺、掩足。
疾也。『白居易・半開花詩』西日憑輕照、東風莫殺吹。《自註》殺、去聲。
『正字通』今樂府家有元殺、旁殺之別、元人傳奇『白鶴子』一殺、二殺卽其遺聲也。俗讀生殺之殺、非。
『集韻』或作
『集韻』『韻會』𠀤所例切、音㡜。亦降也。
『集韻』式吏切、音試。同。『前漢・高帝紀』項羽放殺其主。《註》殺、當作弑。又『班固・西都賦』掎僄狡、㧖猛噬、脫角挫脰、徒搏獨殺。《註》殺、亦叶式吏切。
叶色櫛切、音瑟。『梁肅・兵箴』傳美干戈、易載以律。古之睿知、神武不殺。
叶式列切、音設。『束皙・近遊賦』繫複襦以御冬、脅汗衫以當熱。帽引四角之縫、裙爲數條之殺。殺、一作𧜁
康煕字典・煞
火部九劃
『廣韻』所八切『集韻』『正韻』山戛切、𠀤音鎩。『廣韻』俗殺字。『白虎通』五祀春木主煞上、故以所勝祭之也。『又』金味所以辛何、西方煞傷成物、辛所以煞傷之也。猶五味得辛乃委煞也。
『集韻』所介切、音𧜁。本亦作殺。『正韻』所賣切、音曬。𠀤詳殳部殺字註。
簡体字
(1) サツ。セツ。
(2) サイ
(1) ころす。ほろぼす。
(2) そぐ。へらす。けづる。
解字(白川)
㣇と殳の會意。殳は祟りをなす獸の象。祟の初形。この呪靈を持つ獸に對して、殳(戈)を加へて殺す意。この獸を殺すことによつて、敵より加へる呪詛が減殺される。そのやうな呪儀を示すことが、字の本義であつた。廟中でその呪儀を行ふことを㝮といひ、罪人を放竄することをいふ。『書・舜典』竄三苗于三危(三苗を三危に竄す)の竄を、『孟子・萬章上』に殺、『史記・五帝紀』に遷、説文解字㝮字條に引いて㝮につくる。みな聲義近く、通ずるところのある字である。『左傳・昭元年』に周公殺管叔而蔡蔡叔(周公管叔を殺し蔡叔をはなつ)とあり、蔡の初文は㣇、故にその字をまた殺の字に用ゐた。殺はのち死殺の意に用ゐる。
は近代の俗字。急疾の意を示したものであらう。また收煞、煞尾のやうに收束の意に用ゐる。
解字(藤堂)
乂(刈り取る)と朮(もちあは)と殳(動詞の記號)の會意。秫(もちあは)の穗を刈り取り、その實をそぎ取ることを示す。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文に、虫と攴に從ふ字形があり、一説に殺字の前身であるといふ。金文の殺は[虫攴]の簡體の上に意符の人を加へたもので、字形は𩰫攸比鼎や𩰫比簋蓋を參照のこと。この種の字形の人は左下角に書かれ、その上に逆さに書かれた虫や小點と結合し、髮の毛を振り亂す人のやうな形に變化し、説文解字の古文の𢽘のやうな形となる。本義は殺戮。一説に[虫攴]字は殺の初文で、本義は擊打といふ。
金文では殺戮を表す。
戰國楚系文字に異構の字があつて、説文解字の古文の𢁛に近い。郭店簡《唐虞之道》、《語叢一》、《語叢三》の各篇の字形を參照のこと。
古書では殺戮を表す。『左傳・桓公二年』二年春、宋督攻孔氏、殺孔父而取其妻。『國語・魯語』臣違君命者、亦不可不殺也。
また衰敗、凋零。を表す。『儀禮・士冠禮』以官爵人、德之殺也。『呂氏春秋・長利』吾先君周公封於魯、無山林谿谷之險、諸侯四面以達、是故地日削、子孫彌殺。高誘注殺、衰也。また草木が枯れ萎えることを表す。『呂氏春秋・應同』及禹之時、天先見草木秋冬不殺、禹曰、木氣勝。
また交戰、戰鬪を表す。『三國演義・第1回』殺到天明、張梁、張寶引敗殘軍士、奪路而走。『喻世明言・葛令公生遣弄珠兒』李存璋唐朝名將、這一陣、殺得大敗虧輸、望風而遁、棄下器械馬匹、不計其數。
また副詞となし、程度が深いことを表す。唐・杜甫『清明』之二春水春來洞庭闊、白蘋愁殺白頭翁。元・關漢卿『竇娥冤』第二折兀的不痛殺我也。
當用漢字・常用漢字

説文解字
弑弒臣殺君也。『易』曰、臣弑其君。从省、聲。
康煕字典
弋部九劃
『唐韻』『集韻』『韻會』式吏切『正韻』式志切、𠀤音試。『釋名〔釋喪制〕』下殺上曰弑。弑、伺也、伺閒而後得施也。『類篇』弑、殺也。自外曰𢍿、自內曰弑。
『集韻』或作𢎍
ころす
解字(白川)
形聲。聲符は。式に拂拭の意があり、邪氣を祓ふことをいふ。『易・坤・文言傳』に臣弑其君(臣其の君を弑す)の文を引く。『釋名・釋喪制』に弑は伺なり。閒を伺ひて、而る後施すことを得るなりと伺、施の音を以て解する。施にも殺す意がある。
左偏はの從ふところと同じく、呪靈を持つ獸の形。これをつて、後から加へられてゐる呪詛を共感呪術的に減殺することを殺といふ。またこれを拂拭することを弑といふ。
解字(藤堂)
の略體との會意、式は亦た音符。式はと同系で、人が道具を用ゐて作爲することを意味し、何かする意。弑は、下が上を殺すといふのを避ける一種の忌み言葉。