レヴュー: 『日本人としてこれだけは知っておきたいこと』
諸元
- 著者
- 中西輝政
- 發行
- PHP新書 2006年
- 收得日
- 平成20年6月15日
評
筆者は、保守論客として名を知られた人である。よつて、本書の内容が、保守的な内容であることは、寧ろ當然である。一應、これを念頭に置かれたい。
まづ、著者は、戰後日本における「嘘」を告發してゐる。そして、大正期から戰後に至るまでの、容共的、社會主義的な思想を持つたGHQ民政局の連中や、國内言論界・學會について、指彈してゐる。皮肉として言はれる、「最も成功した社會主義國」日本は、實のところ戰前からその兆しがあつた訣だが、敗戰、そしてGHQによる占領統治により、決定的なものになつてしまつたのである。それをカモフラージュしたのは、筆者のいふところの「嘘」であらう。筆者はしかし、年月が經ち、その「嘘」が綻び始めてゐるとも指摘してゐる。昨今の世相を見るならば、なるほどその兆しもあるとは思ひもする。但し、その行き着く先がどうなるか、評者は何とも不透明にしか思へない。
續いて、筆者は、大東亞戰爭、日露戰爭、そして、大東亞戰爭に行き着いてしまふまでについて述べてゐる。ここで印象深いのは、現在の所、肯定的に見られることが多い、所謂幣原外交について、今日の腰拔け政府と變はらぬ腰碎け外交であり、これが、英國をして日本不信にせしめ、支那をして日本を侮らせた元兇であると、痛烈に批判してゐることである。かの松岡洋右にも觸れてをり、彼もまた筆者に痛罵されてゐるが、この兩者を同列に批判する文章を讀んだのは初めてであり、非常に印象深く感じると共に、かのフォン・クラウゼヴィッツを思ひ出さずにはゐられなかつた。筆者は兩者を論難した後、輕く吉田茂に觸れ、その持論が適當であつたと評價してゐる。思へば、戰後、左翼論客が跋扈する中で、サンフランシスコ平和條約、そして日米安保條約の締結に漕ぎ着けたのは、吉田茂である。筆者はそこまで觸れてゐないが。
その後、筆者は天皇について述べ、日本文明に言及して本書を締めてゐるが、その部分に觸れるのは後日としたい。
これは、評者もまた保守的思想を持つてゐるからと言へるかも知れないが、一讀して貰ひたい一册である。別に内容の全てを肯定しようといふ氣はない。但し、大筋のところで、本書の内容は廣く知られて然るべきものと考へる。
以上、平成20年6月15日記す。