■ 第2回 かたちから入れ!
講義に入る前に道具を準備してもらいましょう。詩を書くのに絶対必要な道具は、言葉と意欲です。あると便利なのは、国語辞典・漢和辞典・類語辞典・歳時記と、どうでもいいような雑学知識と、人生経験です。ま、辞書と知識と経験がなくても、言葉と意欲さえありゃ詩は書けますのでご安心を。
前回書きましたが、サルレトは初心者向き詩作入門です。詩の初心者にとって、言葉と意欲以外に何が必要か。詩人ギルドのサルレト以前にレトリック入門を書いたとき、私は直喩の話からはじめました。ギルドのサルレトでは、リズムと隠喩(特に擬人法)の話からはじめました。今回もリズムの話からしようと思いますが、前とはちょっと違うアプローチで行こうと思います。つまり、いきなり「かたち」から入ってもらいます。「かたち」から入るのはやだとおっしゃるかたもおありでしょうが、詩はかたちだと言い切った某有名詩人もいますし、初心者はまず「かたち」から入るとだんだんソノ気になってくるというのが相場です。
前回「思いを書きたい」で行きなはれ、と言ったくせに全然違う展開やんけ!と怒らないでください。そのうちそこにつながります。少なくとも、次回からは、つながります。今回はまず、「かたち」から入ってもらいます。
では「かたち」から入るとはどういうことか。野球やるんだったら、グローブとバットとボールを買って、ユニフォームを着て素振りをすれば「かたち」だけは揃った気がします。しかし詩人の場合は? 詩人らしいアヤシゲな格好してマイク握って詩作を叫べば、それで「かたち」から入ったことになるのかとゆーと、それはそれでいいような気もするけど、私が今ここで言わんとしていいる「かたち」はそういうのと違います。詩の「かたち」です。
決まった「かたち」のなかに納まった詩を「定型詩」といいます。定型詩には、俳句・短歌・四行詩・五行歌・旋頭歌・ソネットなどがあります。今回は四行詩を課題にしようと思います。四行に詩句が収まっていればそれで四行詩なのですが、今回は特に七五定型でやってもらおうじゃないのと思うとります。具体的な例をあげましょう。
四行詩・例文1
風に舞ひたる菅笠の 何かは道に落ちざらむ 我が名はいかで惜しむべき 惜しむは君が名のみとよ (芥川龍之介)
これは文語体で四行詩を書いた例です。どこの行も七・五のリズムになっています。口語でももちろん七五定型詩を書くことは可能で、たとえば中原中也の「よごれつちまつた悲しみに」の冒頭部分は七五定型になっています。七五定型にすると、とても調子がよくなります。例にあげた芥川の詩はすこししんみりしていますが、少し勢いづいた感じの詩のほうが七五には似合いです。
四行詩・例文2
なんてったって蘭の会 女ばっかり集まって 男流詩人こきおろし らんらん井戸端会議なの (佐々宝砂)
という感じでてけとーに書いて七五になるようになってくればしめたものなのですが、七五調なんてどうやって書いたらいいかわからーんと嘆くひとのために、裏技を教えておきましょう。七五の四行詩を簡単に書くには、「水戸黄門」主題歌または「どんぐりころころ」の替え歌をつくればいいのです! 「水戸黄門」の主題歌のメロディで「どんぐりころころ」が歌えることはわりと有名なことではないかと思いますが、上にあげた芥川の四行詩も実は「水戸黄門」のメロディで歌えます。
七五で書くときの注意事項をいくつかあげておきます。
まず第一に、七と五でできているからといって、切れ目部分に無駄な空白をいれることはやめましょう。「なんてったって 蘭の会」と書かずに「なんてったって蘭の会」とつなげて書いて下さい、という意味です。俳句の初心者は、よく「なんとかや なんとかかんとか なんとかや」という感じに空白を入れたがりますが、あの空白はなんてったって無駄です。詩のなかに間をあけたいという理由での空白なら、それは無駄な空白じゃないので、空白をいれてもかまいません。
七と五のあいだに空白を入れない書き方だと、「句またがり」というテクニックが使えます。上に書いた私のアホ四行詩の最後の行がそうで、「井戸端会議」というひとつながりの言葉が、七と五にまたがっています。そういう書き方もありです。七と五のあいだに空白を入れる習慣があると「らんらん井戸端 会議なの」になってしまい、「井戸端会議」という言葉が不自然にきれてしまいます。つまり空白を入れる習慣によってひとつのテクニックを失ってしまいかねないので、やめたほうがいいよってことなのです。句またがりが成立するためにはいくつかの必要条件があります。日本語は「さく・ら」「よん・ぎょう・し」という風に、2音ごとに切ることができます。しかし、「よ・んぎょ・うし」とか「さ・くら」という風に切ることはできません。音の切れ目と句の切れ目があってる場合にだけ、句またがりができるのです。
ただし、俳句や短歌ではない七五の詩で句またがりをする場合、「桜咲く丘にふたりで」というように、「3・2・2+1・4」というような句またがりのしかたをすると、七五調でなく五七調になってしまいます。今回はあくまで七五の詩なので、こういう句またがりはなしということにしますよ。
ところで、いくら七五定型だからといって、本当に厳密に七五にする必要はありません。一音くらいの字余り字足らずは許されます。字足らずよりは字余りの方がリズミカルに読めます。特に、伸ばす音「ー」・つまる音「っ」がある場合には、字余りが2音でもなんとかまとまります。「ん」がある場合にも、字余りがあまり気にならなくなります。「ん」という音は、普通の日本語の音の半分の長さしかないからです。まあだいたい「水戸黄門」の節で歌えたら許容範囲というところでしょう。「どんぐりころころ」で歌えるなら、完全に許容範囲です。字数を数えてみるとわかりますが、「水戸黄門」と「どんぐりころころ」の歌詞は、実際にはきれいな七五定型にはなっていません。いずれも微妙に字余りです。七の句も五の句も字余りで、八六のかたちになっていたとしても、なんなら九六だとしても、それでも七五定型なんです。俳句や短歌をつくるとき指折って数える習慣を持っている人は、その習慣をなるべくはやく捨ててしまいましょう。なぜそうなのか?ということを書き出すととてもややこしい話になります。今はまだ、そこまで書きません(書けません、とも言います)。
てな感じで今回講義はおしまいです。
○課題1「七五の四行詩をつくろう」 内容はどんなものでもかまいません。口語でも文語でもおっけーです。とにかく七五調の四行詩にトライ。
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