■ 第3回 音の雰囲気
前回は七五の四行詩を書いてもらいました。今回は五七です。五七の詩で有名なのは、北原白秋の「落葉松」です。しんみりしたいい詩ですが、あの詩の「しんみり」は、内容以上に五七のリズムに負うところが大きい。七五の詩と比較するとよくわかるのですが、五七の詩はリズミカルなのにしんみりゆっくりした感じになります。
例1 ツバメ飛びかう夕暮れに たったひとりで空を見る
例2 ツバメ飛ぶ夕暮れどきに ただひとり空を見ている (いずれも佐々宝砂。ギルドサルレトで既発表)
上のふたつの例文、内容はほぼ同じ。例1は七五、例2は五七のリズムです。口に出して読むと、例2の五七の方がゆっくりしんみりすることがわかるでしょう。内容がしんみりしていても、例1はどこか調子いい感じがします。
音にはいろいろな種類と性質があります。例1が「たった」という跳ねる音を含んでいることも、調子いい感じがするひとつの理由です。谷川俊太郎の有名なことばあそびうたに「かっぱかっぱらった」というのがありますが、あの詩の調子のよさは字数(正しくは拍数)の調子のよさだけによるものではありません。跳ねる音を繰り返していることが調子をよくしていますし、"pa"という破裂音を繰り返していることも、勢いづいた雰囲気を醸し出すのに一役買っています。
ということは、逆に、音の選択によってしんみりやんわりねっとりした雰囲気を醸し出すことも可能なわけです。K音、T音、P音などが硬質で破壊的で勢いづいた感じを出すならば、しんみりやんわりねっとりした音とは、いったいどの音でしょうか。またあっさりすっきりした軽い感じを出す音は、どの音でしょうか。あるいはどっしりもっちりじっとりした重い音は? 答え自体はすでに書いたよーなもんですが(笑)、ここでは解説しません。自分で考えてみてください。さほど難しい問題ではないと思います。
いま話したのは子音についてですが、母音にもそれぞれ違う雰囲気があります。母音にはそれぞれの色がある、と断言して、それを詩にした人もいます。有名な詩人の有名な詩なのでご存じの方も多いでしょう。ランボーの「母音」という詩です。日本語の場合は、どうでしょうね。口を大きく開けて言う「ア」は開放的で明るい。「オ」はまあ開放的ですが、「ア」ほどではない。「エ」は開放的かどうかというより、日本語にわりと少ない音なので、すこーしエキセントリックな感じがします。「ウ」は苦しがってうなってるか、文句をいってるみたいです。「イ」は、人によって感じ方が違うかもしれませんが私にとっては、子どもが「イーっ」と言ってるのを連想させ、拒否や硬い態度を思い出させます。口の開け方が狭いせいで、間口が狭い態度を思い出させるのかもしれません。
で、第一回まえせつの話につながります。「思いを書きたい」場合に、リズムが醸し出す雰囲気と音それ自体の持つ雰囲気は、かなり利用できる、ということです。単に「イライラする」と書いても、イライラした感じは必ずしも伝わりません。イライラしてるという事実だけは伝わりますが、感じはわかりません。ま、私には「イ」は拒否を感じさせる音ですし(これはさっき書きましたね)、「ラ」は日本語にわりと少ない音でややエキセントリックで外国っぽい。「イライラ」という音自体が「イライラ」を表現してます(当たり前です)。しかし、それだけではつまらんです。音やリズムの醸し出す雰囲気を利用して、イライラする方がずーっと詩だし、面白いですね。イライラするのはあまり面白くないですが。
てなわけで今回はおしまい。
○課題2「五七の四行詩をつくろう」 どの行も五七リズムになった四行詩をつくってください。テーマはなんでもOK。ただし今回は前回よりちょっと難しくします。「しんみりやんわりねっとり」した音を多用して、「しんみりやんわりねっとり」な感情を表した四行詩にして下さい。がんばっ。
で私自身が例をあげないのもなんですから、私は「どっしりもっちりじっとり」で書いてみます。
はだれ雪半ば流れて 白肌も泥にまみれる ざわざわと鈍くうごめき 春の蛾は重く羽ばたく (佐々宝砂)
なんか暗いな(笑)。
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