説文解字私註 予部

予部

説文解字
推予也。象相予之形。凡予之屬皆从予。
康煕字典
亅部
あたへる。われ。
解字(白川)
織物の横糸を通す杼の象。機杼の杼の初文。下に長く垂れてゐるのは絲。
『爾雅・釋詁』に賚、貢、錫、畀、予、貺、賜也。とあるのは、の假借義。
『論語・述而』に天生德於予と一人稱に用ゐるのはと通用の義。
解字(藤堂)
象形。丸い輪をずらせて向かうへ押しやるさまを描いたもの。押しやる、伸ばす、伸びやかなどの意を含む。杼の原字と考へても良い。
代名詞に當てるのは假借。
解字(漢字多功能字庫)
構形初義不明。甲骨文はと、二つの圖形が相重なるに從ふ。金文はただ二つの圖形が相重なる形。一説に二つの圖形が相重なるのは環の古文といふ。また一説に、予と呂は一字の分化したものといふ。甲骨文では通じてと讀む。金文では族氏名に用ゐる。意義は不詳。
戰國文字では余、を通じて予となし、我、給予などを表す。

は別字。

説文解字
伸也。从、予亦聲。一曰舒、緩也。
康煕字典
舌部六劃
『廣韻』商魚切『集韻』『韻會』『正韻』商居切、𠀤音書。『說文』伸也。『博雅』舒、展也。『揚子・方言』舒、勃展也。東齊之閒凡展物謂之舒勃。
『廣韻』緩也、遲也、徐也。『爾雅・釋詁』舒、敘也。『詩・大雅』王舒保作。《傳》舒、徐也。『釋文』舒、序也。『禮・玉藻』君子之容舒遲。《疏》舒遲、閒雅也。『淮南子・原道訓』柔弱以靜、舒安以定。《註》舒、詳也。
『爾雅・釋詁』緒也。《註》又爲端緒。
『韻會』散也、開也。
國名。『詩・魯頌』荆舒是懲。《疏》舒、楚之與國。『春秋・僖三年』徐人取舒。《註》舒國、今廬江舒縣。『韻會』唐置舒州、宋改安慶府。又『左傳・襄二十三年』明日將復戰、期于壽舒。《註》壽舒、莒地。
姓。唐舒元興。
鼎名。『左傳・定六年』文之舒鼎、成之昭兆、定之鞶鑑。《疏》舒鼎、鼎名。
『博雅』月御謂之望舒。『抱朴子・喻蔽卷』羲和昇光以啟旦、望舒曜景以灼夜。
『禮・內則』舒鴈翠、鵠鴞胖、舒鳧翠。《註》舒鴈、鵝也。舒鳧、鶩也。
『韻會』通作。『史記・建元以來侯表』荆荼是徵。《註》荼、音舒。又『周禮・冬官考工記』弓人斵目必荼。《註》荼、讀爲舒。古文舒荼假借字。
『五音集韻』羊茹切。與同。『晉書・地理志』豫、飾也。言稟中和之氣、性理安舒。舒讀作豫。
『韻補』叶商支切、音詩。『越采葛婦歌』增封益地賜羽奇、几杖茵蓐諸侯儀。羣臣拜舞天顏舒、我王何憂不能移。
ジョ
ゆるやか。おもむろ。のびる。
解字(白川)
形聲。聲符は。予に抒、紓の聲がある。予は杼の形。に「おく」「はなつ」の訓があり、舒とは杼をゆるやかにすることをいふ。故にまた伸びる意がある。
解字(藤堂)
の會意。いづれを音符と見ても良い。予の原字は□印のものを下に引いてずらせたさまで、ずらせて伸ばすの意を含む。舍は手足を伸ばして休む所。
解字(漢字多功能字庫)
金文はに從ひ、舍、予のいづれも聲符。本義は舒展、緩慢、從容であらう。
舍字の口と予が筆畫を共有してゐる。金文では姓氏に用ゐる。
戰國竹簡では序の通假字となす。

説文解字
㕕𠄔相詐惑也。从反。『周書〔無逸〕』曰、無或譸張爲幻。
康煕字典
幺部(一劃)
《古文》㕕
『集韻』胡慣切、音患。『說文』从反予、相詐惑也。『書・無逸』民無或胥、譸張爲幻。
『廣韻』化也。『金剛經』一切有爲法、如夢幻泡影。
『增韻』幻、妖術也。或作眩。『前漢・張騫傳』犛靬眩人。《註》眩、讀與幻同。卽今吞刀吐火、植瓜種樹、屠人截馬之類皆是也。
『唐韻』『集韻』𠀤胡辨切、音莧。義同。
叶熒絹切、音院。『陸機・刻漏賦』來像神造、去猶鬼幻。因勢相引、來靈自薦。
グヱン
まどはす。まぼろし。
解字(白川)
象形。の倒文。金文の字形は絲の上端にほつれの見える形。もし予の倒文とすれば、予は杼の形、その倒文は經緯が亂れ紛亂する意となる。それより幻惑、變幻、また幻化、幻術の意となつたのであらう。
『漢書・西域傳』に幻人を眩人につくる。幻、眩の間に、聲義の關係があらう。
解字(藤堂)
もと、杼字の原字を逆さにした形で、杼の中から僅かに絲の端が見えた形。のち、幺(細い絲)とㄅ印(かすかに搖れるさま)の會意となり、細い絲がほのかに搖れる姿を表す。
解字(漢字多功能字庫)
金文は幺に從ふ。構形不明。金文では姓氏に用ゐる。
當用漢字・常用漢字