説文解字私註 八部
- 文十二 重一
- 八
-
別也。象分別相背之形。凡八之屬皆从八。
- 分
別也。从八从刀、刀以分別物也。
- 尒
詞之必然也。从入、丨、八。八象气之分散。
- 曾
詞之舒也。从八从曰、𡆧聲。
- 尙
-
曾也。庶幾也。从八向聲。
- 㒸
从意也。从八豕聲。
- 詹
-
多言也。从言从八从厃。
- 介
畫也。从八从人。人各有介。
- 𠔁
-
分也。从重八。八、別也。亦聲。孝經說曰:“故上下有別。”
- 公
平分也。从八从厶。八猶背也。韓非曰:背厶爲公。
- 必
分極也。从八、弋、弋亦聲。
- 余
- 余
語之舒也。从八、舍省聲。
- 𠎳
二余也。讀與余同。
八部 舊版
分
- 説文解字
別也。从八从刀、刀以分別物也。
- 康煕字典
- 刀部二劃
『唐韻』府文切『集韻』『韻會』方文切、𠀤音餴。『說文』別也。从八刀、刀以分別物也。『易・繫辭』物以羣分。
『增韻』裂也、判也。
『廣韻』賦也、施也。『增韻』與也。
『玉篇』隔也。
『前漢・律歷志』一黍之廣爲一分。分者、自三微而成著、可分別也。
半也。『公羊傳・莊二年』師喪分焉。『荀子・仲尼篇』以齊之分、奉之而不足。
徧也。『左傳・哀元年』熟食者分、而後敢食。
與紛通。『荀子・儒效篇』分分乎其有終始也。『淮南子・繆稱訓』禍之生也分分。《註》猶紛紛。
『周禮・天官』以待國之匪頒。《註》匪讀爲分。
『唐韻』扶問切『集韻』『韻會』符問切、𠀤汾去聲。名分也。『禮・禮運』禮達而分定。
均也、分劑也。『禮・曲禮』分毋求多。
分位也。『漢諸葛亮出師表』此臣所以報先帝、而忠陛下之職分也。
『集韻』方問切、紛去聲。均也。『左傳・僖元年』救患分災。
『正韻』府吻切、音粉。『爾雅・釋器』律謂之分。《註》分音粉、律管可以分氣。
『韻補』叶膚容切、音丰。『曹植・七啓』太極之初、渾沌未分。萬物紛錯、與道俱隆。
叶膚眠切、音近徧。『班固・西都賦』九市開場、貨別隊分。人不得顧、車不得旋。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 刀と八に從ひ、八は亦た聲符。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
刀で物を兩分する形の字。
𡭗
- 説文解字
詞之必然也。从入、丨、八。八象气之分散。
段注は䛐之必然也。从丨八。八象气之分散。入聲。
とする。- 康煕字典
- 小部二劃
『唐韻』兒氏切『集韻』『韻會』忍氏切『正韻』忍止切、𠀤音邇。『說文』辭之必然也、从入亅八。八象气之分散。『徐曰』言之助也、指事。篆作𡭗、今文作𠇍。通作爾。𡭗汝也。爾而𠀤通、稱人曰𡭗。
語辭。『禮・檀弓』鼎鼎爾、猶猶爾。爾亦作𡭗耳。
姓。
『韻會』毛氏曰、𡭗从入、从小。今作𠇍、誤。
- 解字(白川)
- 爾の省文。聲義とも爾に同じ。
- 文字コード
- 尒(U+5C12; JIS:1-47-59) 𡭗(U+21B57)
爾に同じ。
曾
- 説文解字
詞之舒也。从八从曰、𡆧聲。
- 康煕字典
- 曰部八劃
『唐韻』昨稜切『集韻』『韻會』徂稜切、𠀤音層。『說文』詞之舒也。从八从曰𡆧聲。『九經字樣』曾从𡆧。𡆧、古文窻字。下从曰、上从八、象氣之分散也。經典相承、隷省作曾。『詩・大雅』曾莫惠我師。『論語』曾是以爲孝乎。『孟子』爾何曾比予於是。
『廣韻』經也。『增韻』嘗也。『韻會』乃也、則也。
與層通。『後漢・張衡傳』登閬風之曾城兮。『文選』作層城。
『廣韻』作滕切『集韻』『韻會』咨騰切、𠀤音增。『書・武成』惟有道曾孫周王發。『爾雅・釋親』王父之考爲曾祖、孫之子爲曾孫。《註》曾、猶重也。
『左傳・襄十八年』曾臣彪將率諸侯以討焉。《註》曾臣、猶末臣。《疏》曾祖曾孫者、曾爲重義。諸侯之於天子、無所可重。曾臣猶末臣、謙𤰞之意耳。
『楚辭・九歌』翾飛兮翠曾。《註》曾、舉也。
與橧同。『禮・禮運』夏則居橧巢。『釋文』橧、本又作曾。
與增同。『孟子』曾益其所不能。『孫奭・音義』曾當讀作增。
姓。『姓氏急就篇』曾氏出於鄫、姒姓、莒滅鄫、子孫在魯者別爲曾氏。『孫奕・示兒編』曾字除人姓及曾孫外、今學者皆作層字音讀。然經史𠀤無音、止當音增。『韻會』今詳曾字有音者、合從本音。餘無音者從層音、亦通。
- 音
- ソウ。ソ。ゾウ。ゾ。
- 訓
- かさねる。かつて。すなはち。
- 解字(白川)
- 甑の象、甑の初文。累層するものの意に用ゐる。「かつて」「すなはち」など副詞的に用ゐるのは假借。
- 解字(藤堂)
- 八(湯氣)と田(甑)と曰(焜爐)を合はせ、上に蒸籠を重ね、下に焜爐を置き、穀物を蒸かす甑の象。層を成して重ねる意を含む。甑の原字。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文、金文は蒸して煮炊きする器の一種を象る。甑の初文。後に假借して虛詞(助詞、副詞の類)に用ゐる。
- 表
- 常用漢字(平成22年追加)
- 《漢字表字體》曽
- 《人名用許容字體》曾
「すなはち」の訓は、感歎或は反語の意。「何曾」を「なんぞすなはち」と訓む。
㒸
- 説文解字
从意也。从八豕聲。
- 康煕字典
- 八部七劃
『唐韻』『集韻』𠀤徐醉切、音燧。『玉篇』今作遂。『增韻』俗作㒸、非。
- 音
- スイ
- 訓
- したがふ。つひに。おとす。
- 解字(白川)
- 𧰵殺されてゐる犧牲の象。この犧牲を供することにより、事を遂行する。金文にこの字を墜の意に用ゐる。
- 解字(藤堂)
- 重い豚の象。遂、墜、隊などの音符として用ゐられる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は八と豕に從ひ、小篆と同じ形。構形初義不明。金文は遂に通じ、完成を表す。
介
- 説文解字
畫也。从八从人。人各有介。
- 康煕字典
- 人部二劃
『廣韻』古拜切『集韻』『韻會』『正韻』居拜切、𠀤音戒。際也。『易・繫辭』憂悔吝者存乎介。《傳》介謂辨別之端。『左傳・襄九年』介居二大國之閒。
助也。『詩・豳風』爲此春酒、以介眉壽。
大也。『詩・小雅』神之聽之、介爾景福。
『爾雅・釋詁』介、善也。
因也。『左傳・僖七年』求介于大國。又『文六年』介人之寵、非勇也。『史記・魯仲連傳』平原君曰、勝請爲紹介。『孔叢子・難訓』子上曰、士無介不見。
『揚子・方言』介、特也。物無耦曰特、獸無耦曰介。
小也。『揚子・法言』升東嶽而知衆山之峛崺也、况介丘乎。
閒厠也。古者主有𢷤、客有介。『禮・聘義』上公七介、侯伯五介、子男三介。
隔也。『左傳・昭二十年』晏子曰、偪介之關、暴征其私。《註》介、隔也。迫近國都之關。
貴介。『左傳・襄二十六年』王子圍、寡君之貴介弟也。
保介、農官之副。『詩・周頌』嗟嗟保介。
凡堅確不拔亦曰介。『易・豫卦』介于石。『孟子』柳下惠不以三公易其介。
介介、猶耿耿也。『後漢・馬援傳』介介獨惡是耳。
側畔也。『楚辭・九章』悲江介之遺風。
一夫曰一介。『左傳・襄八年』亦不使一介行李告于寡君。
兵甲也。『禮・曲禮』介冑則有不可犯之色。
水鱗甲亦曰鱗介。『禮・月令』孟冬之月、其蟲介。
『前漢・五行志』春秋成公十六年雨木冰。或曰今之長老名木冰爲木介、介者甲兵象也。
國名。『春秋・僖二十九年』介葛盧來朝。《註》介、東夷國。葛盧、名。
姓。晉介之推。
與芥同。『前漢・元后傳』遇共王甚厚、不以往事爲纖介。
叶居吏切、音記。『馬融・長笛賦』激朗淸厲、隨光之介也。牢剌拂戾、諸賁之氣也。
『說文』作爪、从人介于八之中。『正譌』爪、分畫也、限也。从人从八、分辨之義。別作个。詳丨部个字註。
- 訓
- はさまる。たすける。へだてる。よろひ。
- 解字(白川)
- 身の前後に甲を著けた人の象。介冑の介を本義とする。
- 解字(藤堂)
- 人と八(兩脇に分かれる)の會意で、兩側に分かれること。兩側に分かれることは、兩側から中のものを守ることでもあり、中に介在して兩側を取り持つことでもある。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は、人と、二點あるいは四點に從ふ。二點は人の左右に分かれ、兩者の間の意を有す。本義は介乎、介於。介に從ふ字は多く間にあるの意を有す。田の間の境を界、スカートの中央のスリットを入れる處を衸、齒が互ひに磨切するのを齘、物を刮げるを扴、人と人とが接すれば往々にして互ひに嫉むので妬むことを妎といふ。
- 一説には鎧を著た人の形を象る。
- 甲骨文では、副、次を表し、庶に相當する。
- 戰國竹簡では個を表し、一介は即ち一個のこと。また、[矢介]字が介を表し、耿介の意を表す。
- 漢帛書は讀みて界に作り、相連なる境界を表す。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
公
- 説文解字
平分也。从八从厶。八猶背也。韓非曰、背厶爲公。
- 康煕字典
- 八部二劃
- 《古文》㒶
『唐韻』『正韻』古紅切『集韻』『韻會』沽紅切、𠀤音工。『說文』平分也。从八从厶。八、猶背也。厶音私。『韓非曰』自營爲厶、背厶爲公。『徐曰』會意。『爾雅・釋言』無私也。『書・周官』以公滅私、民其允懷。
『玉篇』方平也、正也、通也。
『禮・禮運』大道之行、天下爲公。《註》公猶共也。
爵名、五等之首曰公。『書・微子之命』庸建爾于上公。
三公、官名。『韻會』周太師、太傅、太保爲三公。漢末大司馬、大司徒、大司空爲三公。東漢太尉、司徒、司空爲三公。
官所曰公。『詩・召南』退食自公。
父曰公。『列子・黃帝篇』家公執席。『前漢・郊祀志』天子爲天下父、故曰鉅公。
婦謂舅曰公。『前漢・賈誼策』與公倂倨。
尊稱曰公。『賈誼策』此六七公皆亡恙。
相呼曰公。『史記・毛遂傳』公等碌碌。
事也。『詩・召南』夙夜在公。《註》夙夜在視濯垢饎爨之事。
星名。『隋書・天文志』七公七星、在招搖東、天之相也。
姓。『韻會』漢有公儉。
諡法、立志及衆曰公。
與功通。『詩・小雅』以奏膚公。『大雅』王公伊濯。
『集韻』諸容切、音鐘。同妐。夫之兄爲兄妐。一曰關中呼夫之父曰妐。或省作公。通作鍾。
『韻補』叶姑黃切、音光。『東方朔・七諫』邪說飾而多曲兮、正法弧而不公。直士隱而避匿兮、讒諛登乎明堂。
- 訓
- きみ。おほやけ。
- 解字(白川)
- 儀禮の行はれる宮廟の廷前のところの平面形を象る。廷前の左右に障壁があり、其の中で儀禮が行はれた。卜文、金文に厶に從ふ形のものはなく、方形の宮廟の前に、左右の障壁の線を加へる。その廷前を公といひ、その廟に祀る人を公といふ。そこで神德を讚へる歌を頌といひ、族内の爭訟を裁くを訟といふ。領主として祀られるを公、その家の私屬を私といふ。その關係を社會化して公私といひ、公は公義、公正の義となる。
- 解字(藤堂)
- 厶は私の原字で、三方から圍んで隱すことを示し、八は反對に左右に開くさまを示す。甲骨文、金文は、八と口の會意で、入口を開いて公開すること。『韓非・五蠧』に
背私謂之公。
とあるやうに、私の對義。 - 解字(落合)
- 甲骨文は、八と口の會意字と、八と丁の會意字の二つがあり、別義。西周金文は後者の字形を承けるが、兩義を殘す。
- 前者は物を二分する形の八と、器物の形から成り、祭祀の對象、即ち父輩の祖先を指し、公父とも稱す。
- 後者は建物を表す丁と、前庭を表す八より成り、公宮、即ち殷都の施設を指す。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 比較的信じられる説に、口が大きく腹が深く底が圓い器の象、瓮の初文、本義は瓮器といふ。後に公私の公に借用し、また、長輩の尊稱に用ゐる。
- また一説に、八は分ける、その下は物の形。物をひとしく分けることを表す。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
必
- 説文解字
分極也。从八、弋。弋亦聲。
- 康煕字典
- 心部(一劃)
『唐韻』𤰞吉切『集韻』『韻會』『正韻』璧吉切、𠀤音畢。『說文』分極也。从八戈。戈亦聲。『趙宧光箋』弋猶表識也、分極猶畺界也、故从八弋。
定辭也。『詩・齊風』取妻如之何、必告父母。
專也。『揚子・太𤣥經』赤石不奪、節士之必。《註》石不可奪堅、丹不可奪赤、猶節士之必專也。
期必也。『論語』子絕四、毋意、毋必。
審也。『後漢・劉陶傳』所與交友、必也同志。
果也。『後漢・宣帝紀贊』孝宣之治、信賞必罰。
必育、人名。燧人氏之佐也。『羣輔錄』必育受稅俗。《註》受賦稅及徭役、所宜施爲也。
『字彙補』赤犮必力。山名。河水所出也。見僧宗泐記。
『古今字考』幷列切、音縪。組也。『周禮・冬官考工記』玉人之事、天子圭中必。《註》謂以組約其中央、以備失墜。○按周禮考工釋文、必卽組也、讀如縪者、俗讀之也。弓檠之䪐从韋、正譌欲舉以駁『說文』、迂矣、當以『說文』爲正。又按必字不从心、『字彙』幷入心部。『正字通』因之、取其形似、便於檢閱爾。
- 訓
- かならず。もつぱら。
- 解字(白川)
- 柄のある兵器の、刃を裝著する柲の部分の象。柲の初文。戈、矛、鉞の頭部を柄に裝著する形は弋、その刃光の發する形は必、尗で、尗は叔(白の意)の初文。かならずの意は假借。
- 解字(藤堂)
- 棒切れを伸ばすため兩側から當て木をして締め附けたさまを象る。兩側から締め附けると動く餘地がなくなることから、ずれる餘地がなく、さうならざるを得ざる意を含む。柲の原字。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文の柲は兵器の柄の形を象る。金文に柲の形の兩側に聲符の八を加へて必につくる。本義は兵器の柄。後に必須の必に借用し、木を加へて柲字をつくる。金文は本義に用ゐ、また、副詞に用ゐて、必須、一定の意を表す。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
余
- 説文解字
語之舒也。从八、舍省聲。
- 𠎳
二余也。讀與余同。
- 康煕字典
- 人部五劃
『唐韻』以諸切『集韻』『韻會』羊諸切『正韻』雲居切、𠀤音餘。『說文』語之舒也。『爾雅・釋詁』我也。
四月爲余月。
接余、荇菜也。
『前漢・匈奴傳』單于衣繡、褡綺錦袷被各一、比余。《註》比余、髮之飾也。
姓。由余之後。
『集韻』詳於切、音徐。余吾、水名。在朔方。
『集韻』同都切、音徒。史記檮余、匈奴山名。
于遮切、音邪。褒余、蜀地名。一作褒斜。『漢陽厥𥓓』褒斜作褒余。
叶演女切、音與。『楚辭・九思』鷃雀列兮讙譁、雊𨿜鳴兮聒余。抱昭華兮寶車、欲衒鬻兮莫取。
與餘同。『周禮・地官』委人、凡其余聚以待頒賜。《註》余同餘。
- 音
- ヨ
- 訓
- われ
- 解字(白川)
- 把手のある細い手術刀。これで膿漿を盤に除き取るを艅といひ、兪の初文と見られる。説文解字に
語の舒やかなるなり
とするが、靜かに刀を動かすを徐といふ。 - 金文では余は一人稱主語に、朕は所有格的に用ゐることが多い。代名詞の用法は假借。
- 解字(藤堂)
- スコップで土を押し擴げるさまと、八(分散させる)の會意。舒の原字。ゆつたりと伸ばし擴げるの意を含む。
- 代名詞の用法は假借。
- 解字(落合)
- 傘のやうな形の亭屋の象とする説が妥當だが、甲骨文の用法は一人稱の假借の用法に限られるため、確證なし。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文、金文は、簡易な茅の屋の形を象り、舍の初文。本義は房舍。後に一人稱代名詞に借用する。甲骨文や金文では、代名詞の他、假借して舍や捨となす。
- 戰國竹簡では代名詞に用ゐ、また、假借して餘となす。
餘は別字。