説文解字私註 冂部
- 文五 重二
- 冂
-
邑外謂之郊、郊外謂之野、野外謂之林、林外謂之冂。象遠界也。凡冂之屬皆从冂。
-
古文冂从囗、象國邑。
-
冋或从土。
- 市
買賣所之也。市有垣、从冂从乁、乁、古文及、象物相及也。之省聲。
- 冘
淫淫、行皃。从人出冂。
- 央
中央也。从大在冂之内。大、人也。央㫄同意。一曰久也。
- 隺
高至也。从隹上欲出冂。『易』曰、夫乾隺然。
舊版
市
- 説文解字
買賣所之也。市有垣、从冂从乁、乁、古文及、象物相及也。之省聲。
- 康煕字典
- 巾部二劃
『唐韻』時止切『正韻』上止切、𠀤音恃。『說文』買賣所之也。『風俗通』市、恃也。養贍老小、恃以不匱也。『古史考』神農作市。『易・繫辭』日中爲市、致天下之民、聚天下之貨、交易而退、各得其所。『周禮・地官』五十里有市。『又』大市、日昃而市、百旅爲主。朝市朝時而市、商賈爲主。夕市夕時而市、販夫販婦爲主。《註》市、雜聚之處。又『冬官・考工記』面朝后市。『史記・平準書註』師古曰、古未有市、若朝聚井汲、便將貨物於井邊貨賣、曰市井。『漢宮闕疏』長安立九市。『張衡・西都賦』廓辟九市、通闤帶闠。
『廣韻』買也。『爾雅・釋詁』貿賈、市也。《疏》謂市買賣物也。『論語』沽酒市脯。
『管子・侈靡篇』市也者、勸也。勸者、所以起本。
天市、市樓、軍市、𠀤星名。『史記・天官書』房心東北曲十二星曰旗、旗中四星曰天市、市中六星曰市樓。『正義』天市二十二星、主國市聚交易之所。一曰天旗。『前漢・天文志』軍市十三星、在參東南、天軍貿易之市。
縣名。『前漢・地理志』新市縣、屬鉅鹿郡。
司市、官名。『周禮・地官・司市』掌市之治敎政𠛬、量度禁令。《註》市官之長。
- 訓
- いち。うる。かふ。
- 解字(白川)
- 市の立つ場所を示す標識の形を象る。
- 金文の字形は朿と同じく標識を樹てた形で、上に止(之)を加へる。止が聲符なのか意符なのかは不明。
- 『唐六典』に市を
建標立候、陳肆辨物
といふやうに、公認の場所に標識を樹て、監督官を置いた。城外近郊の廣場などがその地に充てられ、古くはそこで歌垣なども行はれた。『詩・陳風・東門之枌』に穀旦于差、南方之原。不績其麻、市也婆娑。
(穀旦(夜明け)に于差(雨乞ひの祈りの聲)す、南方の原に。其の麻を績がず、市に婆娑す。)といふのは、その場所での歌垣を歌ふものである。『周禮・地官』に「司市」の職があり、その規制の方法が詳しく記されてゐる。またそこで公開處刑が行はれることがあつた。 - 解字(藤堂)
- 平と止の會意、止は亦た音符。賣り手、買ひ手が集まつて、足を止め、平衡の取れた價を出すところの意を表す。止は趾の原字で、そこに行つて止まる意を表す。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は之と丂と數點に從ひ、金文は之と兮に從ふ。一説に兮は喧噪の聲、市場のやかましいさまの意であらうといふ。之は聲符である。
- 甲骨文では時を記すのに用ゐ、金文では本義に用ゐ、交易の所である市を表す。兮甲盤
其賈母(毋)敢不即次即市。
次とは市場を管理する機構といふ。商人が思ひ切らず市場や市場を管理する機構に來ないことを表す。 - 楚系金文や楚簡では丂に從はず土に從ふ。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
冘
- 説文解字
淫淫、行皃。从人出冂。
段注は冘冘、行皃。
とする。- 康煕字典
- ・冖部二劃
『唐韻』餘針切『集韻』『韻會』夷針切、𠀤音淫。『說文』淫淫、行貌。『前漢・揚雄傳』窮冘閼與。《註》孟康曰、冘、行也。
『唐韻』以周切『集韻』『韻會』夷周切『正韻』于求切、𠀤音由。『前漢・馬援傳』冘豫未決。『後漢・來歙傳』冘豫不決。《註》狐疑也。
- 音
- (1) イム
- (2) イウ
- 解字(白川)
- 耽、紞などの字から考へると、耳を傾け、枕する意の字と見るべきであらう。ただその義に用ゐた例はない。
- 解字(藤堂)
- 人と横劃の兩端に短い縱劃のついた印の會意。人の肩を重荷で押さへて、深く押し沈めるさまを示す。
冘冘は淫淫、ゆくさま。
冘豫とは狐疑すること、ためらふこと。
央
- 説文解字
中央也。从大在冂之内。大、人也。央㫄同意。一曰久也。
段注は央、中也。
とする。- 康煕字典
- 大部二劃
『廣韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤於良切、音秧。中也。『詩・秦風』宛在水中央。『淮南子・天文訓』中央爲都。『地形訓』中央四達、風氣之所通、雨露之所會也。
半也。『詩・小雅』夜如何其、夜未央。『上官儀詩』明月樓中夜未央。
盡也。『漢武帝・李夫人賦』惜蕃華之未央。
廣也。『司馬相如・長門賦』覽曲臺之央央。
未央、漢宮名、在長安。
於京切、音英。旗斿貌。『詩・小雅』旂旐央央。
鮮明貌。『詩・小雅』白旆央央。
『說文』从大、在冂之內。『徐曰』从大、取其正中、會意。
- 音
- (1) アウ。ヤウ。
- (2) エイ。ヤウ。
- 訓
- (1) なかば。つきる。やむ。ひさしい。
- 解字(白川)
- 人の首に枷を加へた正面形を象り、殃の初文。首に加へるので中央の意となる。
- 解字(藤堂)
- 大(ひと)としるしの會意。大の字に立つた人間の眞ん中である首の部分をしるしで示す。また人間の頭の眞ん中を押し下げた姿と解してもよい。眞ん中、眞ん中を押さへ附けるなどの意を含む。
- 解字(落合)
- 首枷をつけた人を象る。
- 甲骨文には固有名詞としての用例のみ見える。
- 後代には中央の意に用ゐられるが、假借とも、身體の中央に首枷の形があるからとも言はれる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文、金文は、大あるいは天に從ひ、人が頸部に枷鎖をはめる形を象り、災殃の殃の本字。
- 一説に、枷を嵌めるとき、頭が中央にあることから、中央の意を派生したといふ。一説に(枷を嵌める形ではなく)天秤棒を擔ぐ形を象り、人が天秤棒を擔ぐときはその中央に立つことから、中央の意であるといふ。
- 甲骨文では人名に用ゐる。金文では人名に用ゐるほか、鮮明なさまを表す。虢季子白盤
彤矢其央
。『詩・小雅・六月』織文鳥章、白旆央央。
毛亨《傳》央央、鮮明貌。
- 簡帛文字では殃の通假字となす。《睡虎地秦簡・日書甲種》
此皆不可殺、小殺小央(殃)、大殺大央(殃)。
《馬王堆漢帛書・老子乙本卷前古佚書》過極失當、天將降央(殃)。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
隺
- 説文解字
高至也。从隹上欲出冂。『易』曰、夫乾隺然。
- 康煕字典
- 隹部二劃
『唐韻』『集韻』𠀤胡沃切、音㿥。『說文』高至也。从隹、上欲出冂。易曰、夫乾隺然。○按今易繫辭作確然。
『集韻』克角切、音榷。隺然心志高也。
曷各切、音鶴。鳥飛高也。
忽郭切、音霍。義同。
『字彙』俗用爲鶴字、非。
- 音
- カク
- 解字(白川)
- 冂と隹の會意。隹が奮飛しようとするのを、冂で遮り止める意。確く執ることが原義であらう。冂は覆ひ遮る意。
- 鶴は高飛の鳥、榷は木を横に渡す、搉は擊つ意。それぞれ隺の聲義を承けるところがある。
- 解字(藤堂)
- 冖(わく)と隹(とり)の會意。鳥が高い所を目指して飛ぶさまを示す。鶴の元になる字。