説文解字私註 止部
- 文十四 重一
- 止
-
下基也。象艸木出有址、故以止爲足。凡止之屬皆从止。
- 歱
跟也。从止重聲。
- 𣥺
歫也。从止尚聲。
- 歭
䠧也。从止寺聲。
- 歫
-
止也。从止巨聲。一曰搶也。一曰超歫。
- 歬
不行而進謂之歬。从止在舟上。
- 歷
過也。从止厤聲。
- 𣥹
至也。从止叔聲。
- 𣦢
人不能行也。从止辟聲。
- 歸
女嫁也。从止、从婦省、𠂤聲。
- 𤴗
-
疾也。从止从又。又、手也。屮聲。
- 𤴘
機下足所履者。从止从又、入聲。
- 𣥂
-
蹈也。从反止。讀若撻。
- 歰
不滑也。从四止。
止部 舊版
歱
- 説文解字
跟也。从止重聲。
- 康煕字典
- 止部九劃
『唐韻』之隴切。『說文』跟也。
『玉篇』古文踵字。註詳足部九畫。
踵に同じ。
𣥺
- 説文解字
歫也。从止尚聲。
- 康煕字典
- 止部八劃
『唐韻』丑庚切『集韻』抽庚切、𠀤音橕。『說文』距也。
『集韻』除庚切、音棖。又齒兩切、音敞。義𠀤同。一曰蹋也。
『集韻』式亮切、音餉。『周禮・冬官考工記』維角𣥺之。《註》𣥺、讀如牚距之牚、取其正也。之亮反、又詩尚反。
『集韻』作䟫、與摚、蹚音義𠀤同。
- 䟫 足部五劃
『廣韻』直庚切『集韻』『韻會』『正韻』除庚切、𠀤音棖。『說文』歫也。『周禮・冬官考工記・弓人』維角䟫之。《註》讀如牚距之牚。《疏》䟫、正也。
又『集韻』抽庚切、音瞠。又式亮切、音向。義𠀤同。
『集韻』昌兩切『集韻』齒兩切、𠀤音敞。『博雅』蹋也。『類篇』距也。
歭
- 説文解字
䠧也。从止寺聲。
- 康煕字典
- 止部六劃
『唐韻』直离切『集韻』陳知切、𠀤音馳。『說文』䠧也、歭䠧不前也。通作踟𨆼。
『廣韻』直里切『集韻』丈里切、𠀤音峙。與峙通。供具也。『書・費誓』歭乃糗糧。『石經』从山作峙。
- 音
- チ。ヂ。
- 訓
- ためらふ。たちもとほる。そなへる。たくはへる。
前
- 説文解字
- 歬
不行而進謂之歬。从止在舟上。
- 康煕字典
- 刀部七劃
- 《古文》歬𣦃
『唐韻』昨先切『集韻』『韻會』『正韻』才先切、𠀤音錢。『增韻』前、後之對。又進也。『廣韻』先也。
『禮・檀弓』我未之前聞也。《註》猶故也。
『儀禮・特牲』祝前主人降。《註》前猶導也。
『集韻』『韻會』『正韻』𠀤子淺切、湔上聲。『說文』齊斷也。俗作剪。
『正韻』淺黑色。『周禮・春官・巾車』木路前樊、鵠纓。《註》前、讀爲緇翦之翦。淺黑也。
『韻補』叶慈鄰切、淨平聲。『劉向・九歎』陸魁堆以蔽視兮、雲冥冥而暗前。山峻高以無垠兮、遂曾閎而廹身。
- 音
- ゼン。セン。
- 訓
- まへ。さき。さきに。あらかじめ。みちびく。
- 解字(白川)
- 正字は歬、あるいは歬に刀を加へた形。止は趾指。舟は盤。盤中の水で止(足)を洗ひ、刀で爪を剪り揃へる。前は趾指の爪を切る意の字だが、前後の意から前進、また往昔などの意となる。
- 『史記・蒙恬傳』に
公旦自揃其爪以沈於河
(公旦(周公)自ら其の爪を揃り、以て河に沈む)とあつて、爪切ることは修祓の儀禮。その爪を河に投ずるのは、自己犧牲としての意味を持つことであつた。喪禮のときにも、蚤(爪切り)、鬋(髮切り)をする俗があつた。 - 解字(藤堂)
- 歬は止と舟の會意で、進むものを二つ合はせて揃つて進むの意。
- 前は刀と歬の會意、歬は亦た音符。剪(揃へて切る)の原字。
- もと、左足を右足のところまで揃へ、半步づつ進む禮儀正しい步き方。のち廣く、前進、前方の意に用ゐる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 金文は止と舟に從ひ歬につくる。止は足裏を象り、舟は鞋の形、鞋を履いて前に行くさまを象り、本義は前進。説文解字履字條に
舟象履形
とあり、金文の履の從ふ舟は鞋を象る。方位の前、時間の前は派生義。 - 小篆の歬は金文の歬に由來し、前進の意の本字である。小篆の𣦃(𠝣)が後世の前に當たるが、前字は本來は剪斷を表し、剪の本字である。後に歬字が廢棄され、前進の意を前字で表すやうになり、前が本來表す意は刀を加へた剪字で表すやうになつた。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
歷
- 説文解字
過也。从止厤聲。
- 康煕字典
- 止部十二劃
- 《古文》𡿌
『唐韻』郞擊切『集韻』『韻會』狼狄切、𠀤音靂。『說文』過也。一曰經歷。『書・梓材』殺人歷人。《註》歷人者、罪人所過。『前漢・天文志』合散犯守、陵歷鬭食。『韋昭註』自下往觸之曰犯、居其宿曰守、經之爲歷、突掩爲陵、星相擊爲鬭。
次也。『禮・月令』季冬、命宰歷卿大夫至於庶民。《註》歷、猶次也。
盡也。謂徧及之也。『書・盤庚』歷告爾百姓于朕志。『前漢・劉向傳』歷周唐之所進以爲法。『師古註』歷謂歷觀之。
踰也、越也。『孟子』不歷位而相與言。『大戴記』竊盜歷法妄行。
疎也。『宋玉・登徒子好色賦』齞脣歷齒。《註》歷、猶疎也。『後漢・列女傳』蓬髮歷齒、未知禮則。
錯也。『莊子・天地篇』交臂歷指。
亂也。『大戴記』歷者、獄之所由生。《註》歷、歷亂也。『鮑照詩』黃絲歷亂不可治。
歷歷、行列貌。『古樂府』歷歷種白楡。
釜鬲謂之歷。『史記・滑稽傳』銅歷爲棺。『索隱曰』歷卽釜鬲也。
歷錄、文章之貌。見『詩疏』。
寂歷、猶寂寞也。『張說詩』空山寂歷道心生。
山名。『括地志』蒲州河東縣雷首山、一名中條、一名歷山、舜耕處。『廣輿記』蒲州今屬平陽府。又濟南有歷山、『漢志』充縣亦有歷山。
縣名。『前漢・地理志』信都國有歷縣。又歷城縣、屬濟南、卽齊州縣也。『地理通釋』田廣罷歷下兵、卽其地。後漢安帝建光三年、黃龍見歷城。
湖名。『廣輿記』歷湖、在和州城西、周七十里、爲郡之巨浸。
爰歷、書名。『說文・序』趙高作『爰歷篇』、所謂小篆。
與曆日之曆同。『前漢・律歷志』黃帝造歷。又『世本』曰容成造歷。『尸子』曰羲和造歷。或作曆。
與霹靂之靂同。『前漢・天文志』辟歷夜明。『後漢・蔡邕傳』辟歷數發。
與馬櫪之櫪同。『前漢・梅福傳』伏歷千駟。
同壢。坑也。
- 簡体字
- 历
- 訓
- へる
- 解字(白川)
- 厤は厂(崖)下に兩禾を竝べた軍門の象。軍行において經歷するところ、またその功歷のあることを歷といふ。のち、すべて時所を經過することをいひ、歷世、歷代のやうにもいふ。
- 解字(藤堂)
- 厤は厂(屋根)と二禾(稻)の會意字、禾本科の作物を次々と竝べて取り入れたさま。順序良く竝ぶ意を含む。歷は止と厤に從ひ、厤は亦た音符、順序良く次々と足で步いて通ること。
- 解字(落合)
- 甲骨文は秝と止に從ひ、秝は亦た聲符。秝は穀物が等間隔に植ゑられてゐる樣子を表すとされる。禾でなく木に從ふ形もある。甲骨文では供へ物を配列する意に用ゐる。
- 西周代に厂を加へ、歷につくる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は秝と止に從ひ、異體は林に從ふ。禾や木の竝んでゐる所を通り過ぎるの意か。歷の本義は經過、四時の運行に用ゐ、曆法の曆を派生する。
- 別の一説では、歷は會意字ではなく、止に從ひ秝聲の形聲字。秝、厤を純粹な聲符とするのも、義符を兼ねるとするのも可能。
- 金文は石の省の厂を加へるが、その用義は分からない。また、止に從はず、簡單に厤につくる。厤、歷は同じ字の異體。
- 金文に假借して𤯌となすものがある。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
- 《漢字表字體》歴
- 《人名用許容字體》歷
𣥹
- 説文解字
至也。从止叔聲。
- 康煕字典
- 止部八劃
『唐韻』『集韻』𠀤昌六切、音俶。『說文』至也。
躄
- 説文解字
- 𣦢
人不能行也。从止辟聲。
- 康煕字典
- 足部十三劃
『集韻』躃、或書作躄。『史記・平原君傳』民家有躄者、槃散行汲。『呂氏春秋』重水所多尰與躄之人。
- 躃 足部・十三劃
『廣韻』『集韻』『韻會』𠀤必益切、音辟。𣦢、或从足作躃。人不能行也。『禮・王制』瘖聾跛躃。『釋文』兩足不能行也。
『集韻』毗亦切、音擗。倒也。『類篇』仆也。
- 𣦢 止部十三劃
『唐韻』『集韻』𠀤必益切、音壁。『說文』人不能行也。與跛躄之躄同。
- 音
- ヘキ
- 訓
- ゐざり。あしなへ。
歸
- 説文解字
女嫁也。从止、从婦省、𠂤聲。
- 㱕
籒文省。
- 康煕字典
- 止部十四劃
- 《古文》𤾤
『唐韻』舉韋切『集韻』居韋切、𠀤音騩。還也、入也。『詩・小雅』薄音旋歸。
還所取之物亦曰歸。『春秋・定十年』齊人來歸鄆、讙、龜隂田。又『禮・祭義』父母全而生之、予全而歸之。『孟子』久假而不歸。皆還復之義。
『春秋・隱元年』歸惠公仲子之賵。『杜註』歸者、不反之辭。『桓七年』突歸于鄭。『穀梁傳』歸、易辭也。
依歸也。『詩・曹風』于我歸處。『毛傳』歸、依歸也。
歸附也。『穀梁傳・莊二年』王者、民之所歸往也。『詩・大雅』豈弟君子、民之攸歸。
『說文』女嫁也。『詩・周南』之子于歸。『禮・禮運』男有分、女有歸。又『穀梁傳・隱二年』婦人謂嫁曰歸、反曰來歸。《註》嫁而曰歸、明外屬也。反曰來歸、明從外至也。『左傳・莊二十七年』凡諸侯之女歸寧曰來、出曰來歸。夫人歸寧曰如某、出曰歸于某。
投也、委也。『左傳・襄三年』請歸死于司敗。又『前漢・申屠嘉傳』鼂錯恐自歸景帝。《註》師古曰、自首于天子。
與也、許也。『論語』天下歸仁焉。
合也。『禮・緇衣』私惠不歸德。《註》謂不合於德義。
終也。『左傳・宣十一年』以討召諸侯、而以貪歸之。
歸妹、卦名。
三歸、臺名。『史記註』三歸、取三姓女也。
指趨曰歸。『易・繫辭』殊途而同歸。『史記・李斯傳』覩指而識歸。
道家有八歸。『參同契』九還、七返、八歸、六居。《註》八歸者、天三生木、地八成汞、戊己一合、木汞之眞、歸煉鼎中、故曰八歸。
『謝察微・算經』有歸法、歸已入之數也。
歸藏、黃帝易名。一曰殷易。『周禮・春官』大卜掌三易之灋、二曰歸藏。《註》歸藏者、萬物莫不歸而藏之于中。此易以純坤爲首、故名。
『爾雅・釋親』女子謂晜弟之子爲姪、謂姪之子爲歸孫。
饋也。『論語』歸孔子豚。『晉語』不腆敝邑之禮、敢歸諸下執政。
山名。『山海經』太行之山、其首曰歸山、其上有金玉、其下有碧。
州名。『廣韻』本春秋夔子國、武德初、割夔州之秭歸巴東二縣、置州、取歸國爲名也。『廣輿記』今屬荆州府。
姓。
歸邪、星氣名。『前漢・天文志』如星非星、如雲非雲、名曰歸邪。歸邪出、必有歸國者、邪音虵。
忘歸、矢名、見『公孫子』。
姊歸、鳥名。當歸、藥名。
『集韻』求位切、音匱。同饋。『說文』餉也。亦讀如字。義見上。
籀省作㱕。漢𥓓作歸。
- 訓
- かへる。とつぐ。おくる。したがふ。
- 解字(白川)
- 𠂤と止と帚の會意。卜文、金文の字形は、𠂤と帚に從ひ、止は後に加へられた。𠂤は脤肉の形。軍が出行するときに軍社に祭つた肉で、これをひもろぎとして奉じた。軍が歸還すると、これを寢廟に收めて報告祭をした。帚は寢廟で灌鬯などを行ふとき、酒を振り掛けて用ゐるもので、寢廟を意味する。婦人の嫁することを歸といふのは、異姓の女が新たに寢廟に仕へることについて、祖靈の承認を求める儀式を行ふからである。帚は灌鬯に用ゐる束茅の形。
- 解字(藤堂)
- もと、帚に從ひ𠂤聲の形聲字。回と同形の言葉。女性が嫁いで箒を持ち家事に從事するのは、あるべきポストに落ち著くこと。のち止を加へて步いて戻ることを示す。
- 解字(落合)
- 甲骨文は𠂤と帚の會意。𠂤は師の初文、軍隊を意味する。軍務を終へ、夫人の許に歸ることを表すと推定。甲骨文に嫁ぐ意の用例はない。古文、籀文で、辵(彳と止を合はせた形)を加へた繁文が使はれ、篆文で、辵の上半の彳を取り去り、歸の形となつた。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は𠂤と帚に從ひ、𠂤は亦た聲符。𠂤は師の古字で、軍隊を表す。帚は箒を象る。戰爭中、軍隊を以て敵を掃除し歸るの意か。本義は凱旋して歸ること、歸還すること。一説に、歸は二つ聲符のある字で、帚と彗は古く同字、最初は彗と讀んだ可能性があり、彗と歸は音が近く、故に𠂤も帚も歸の聲符であるといふ。
- 金文で止を加へ、或は辵を加へ、戰國竹簡で多く辵に從ひ意符となし、往來の動作を強調する。
- 甲骨文では、元の所に戻ることを表し、また、方國名に用ゐる。
- 金文では、戻ることを表す。また、饋の通假字となし、贈ること、與へることを表す。また、國名、人名に用ゐる。
- 戰國竹簡では歸依を表す。
- 後に、女子が嫁ぐことを表すやうになる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
- 《漢字表字體》帰
𤴘
- 説文解字
機下足所履者。从止从又、入聲。
- 康煕字典・疌
- 疋部三劃
『說文』尼輒切、音聶。機下足所履者。
織機の踏板を指す。
歰
- 説文解字
不滑也。从四止。
- 康煕字典
- 止部九劃
『唐韻』色立切『集韻』色入切、𠀤音濇。『說文』不滑也。『玉篇』難轉也。
『博雅』歰、吃也。『揚子・方言』𧬯極、吃也。楚語也。或謂之軋、或謂之歰。『郭註』語歰難也。
『六書故』水涸行艱謂之歰、味苦歰亦謂之歰。
『集韻』色甲切、音箑。與翣同。棺羽飾也。『周禮・天官』縫人衣翣柳之材。《註》翣柳作接橮。鄭司農云、接讀爲歰、橮讀爲柳、皆棺飾。檀弓曰、周人牆置翣。『春秋傳』曰四歰不蹕。今『左傳』歰作翣。
『說文』从四止。『徐鉉曰』四皆止、故爲歰。當作歰。經典作歰。『集韻』或作澀、𣥒、澁。詳水部澀字註。歰从二𣥒。
- 𣥒 止部四劃
歰本字。『正譌』兩足相距不行也。从兩止上下、會意。
- 澀 水部十二劃
『唐韻』『韻會』色立切『集韻』『正韻』色入切、𠀤音濇。與歰同。『說文』不滑也。『風俗通・十反篇』冷澀比干寒蜒。
牆叠石作水文爲澀浪。『溫庭筠詩』澀浪浮瓊砌。
竹名。『范成大・桂海草木志』澀竹、膚麤澀如砂紙。
『集韻』或作瀒𣥒澁。
- 澁 水部十二劃
『玉篇』同澀。
- 音
- シフ
- (慣用) ジフ
- 訓
- しぶる。ゆきなやむ。とどこほる。しぶい。
- (國訓) しぶ
- 解字(白川)
- 二𣥠が相向かふ形。𣥠は兩足を揃へる形。兩足を揃へて相向かふ形なので、進むことが出來ず、澀滯の意となる。
- 解字(藤堂)
- 止は進む足の形。二止と逆向きの二止で、足が進まうとしても、逆行して進みかねる意を示す。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
- 《漢字表字體》渋
- 《人名用許容字體》澁