説文解字私註 丂部
- 丂
-
气欲舒出。𠃑上礙於一也。丂、古文以爲亏字、又以爲巧字。凡丂之屬皆从丂。
- 甹
亟詞也。从丂从由。或曰甹、俠也。三輔謂輕財者爲甹。
- 寧
願詞也。从丂寍聲。
- 𠀀
-
反丂也。讀若呵。
舊版
甹
- 説文解字
亟詞也。从丂从由。或曰甹、俠也。三輔謂輕財者爲甹。
- 康煕字典
- 田部二劃
『唐韻』普丁切『集韻』傍丁切『韻會』滂丁切『正韻』彼耕切、𠀤音竮。『說文』亟詞也。『徐曰』甹者、任俠也。由用也、便捷任氣自由也。『爾雅・釋訓』甹、曳也。《註》謂相掣曳入于惡也。三輔謂輕財者爲甹。
- 音
- ヘイ
- 訓
- たすける。せはしい。ひく。おとこだて。
- 解字(白川)
- 丂と由の會意。丂の上に由を置く形。 金文は、丂の上に二由を置く形。由は恐らく禮器。寧が盤上に心(犧牲の心臟)を置く形であるやうに、甹も丂上に由を置き薦める形で、神意をたすけ安んずる意味を持つ儀禮であらう。
- 金文の班𣪘に
虢城公の服(職事)を更ぎて王位を甹けよ
(補註: 甹は二由に丂の形)、毛公鼎に朕が位を甹けよ
(補註: 甹は口偏に二由に丂の形)のやうに、輔弼の意に用ゐる。
- 甹俠とは男だての類をいふ。甹聲の字に俜、娉など敏捷の意があるので、その意をとるものであらう。婦人が祭祀にいそしむことを示す敏、捷にも、速やかの意がある。
- 『爾雅・釋訓』に
甹夆は掣曳なり
とあり、甹夆はまた屛蓬にも作り、『山海經・大荒西經』に見える怪獸の名である。その狀の娉婷たるところから名を得たものであらう。
- 金文に祝告の器の形の口を添へるものがあり、甹はもと神助を求める祝禱の儀禮に關する字であることが知られる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甹は財を輕んじ義に仗る英俠を指す。説文解字注の註に
今人謂輕生曰甹命、即此甹字。
といふ。甹と拼は音がとても近く、段注のいふところの「甹命」とは、今でいふところの「拼命」で、生命を投げ出し生死を顧みないことを指す。
- 甹はあるいは俜につくる。説文解字注に
俜、俠也。
とあり、註に丂部曰、甹、俠也。三輔謂輕財者爲甹、然則俜甹音義皆同。
といふ。
- 甲骨文の上部は甾で、竹で出來た器を象り、下部は丂で、枝を象る。構形不明。金文の上部は二甾。或は丂の傍らに口を加へる。
- 甲骨文辭殘では意義不詳。金文では屏の通假字となし、輔助、保護を表す。逆鐘
用甹朕身
班簋甹王立(位)
『左傳・哀公十六年』俾屏余一人以在位。
『逸周書・嘗麥』以屏助予一人
。包山楚簡では讀んで聘となし、聘問を表す。簡197甹於楚之歲
。
寧
- 字形
- 本來たるべし。
- 説文解字
願詞也。从丂寍聲。
- 康煕字典
- 宀部十一劃
- 《古文》寍
『唐韻』奴丁切『集韻』『韻會』囊丁切『正韻』奴經切、𠀤佞平聲。『說文』願詞也。从丂、寍聲。
安也。『易・乾卦』首出庶物、萬國咸寧。『詩・大雅』文王有聲、遹求厥寧。『書・康誥』裕乃以民寧。《註》行寬政、乃以安民也。
『書・洪範』五福、三曰康寧。《註》無疾病也。
女嫁歸省父母曰寧。『詩・周南』歸寧父母。
予寧居喪也。『前漢・哀帝紀』博士弟子父母喪、子寧三年。
無寧、寧也、願辭也。『左傳・隱十一年』無寧兹許公復奉其社稷。又『襄二十六年』若不幸而過、寧僭無濫。『書・大禹謨』與其殺不辜、寧失不經。
丁寧、屬付諄復也。『前漢・郞顗傳』丁寧再三。俗作叮嚀。
丁寧、鉦也。『左傳・宣四年』著於丁寧。『正義』言著於丁寧、則丁寧是器。『晉語』伐備鐘鼓、聲罪也。戰以錞于丁寧、儆其民也。是丁寧、戰之用也。
州名。秦北郡、魏置華州、西魏改寧州。
姓。
『集韻』乃定切、音佞。通甯。『前漢・郊祀歌』穰穰復正直往甯。『師古註』叶音平聲。言獲福旣多、歸於正道、克當往日所願也。
叶乃挺切、佞上聲。『張載・七命』王猷四塞、圅夏謐寧。丹冥投烽、靑徼釋警。
叶女良切、音娘。『蘇軾・富鄭公𥓓』堂堂韓公、與萊相望。再聘於燕、四方以寧。望平聲。
『韻會』本作寧〔下部の丁が丂の形〕、經史作寧、俗作寜。寧从丂。
- 簡体字
- 宁
- 訓
- やすらか。むしろ。なんぞ。いづくんぞ。
- 解字(白川)
- 宀と心と皿と丂の會意。宀は廟。皿上に犧牲の心臟を載せ、これを高く揭げてゐる形。
- 寧、寍、甯はみな安寧を願ひ祈る字で、もと同字と考へられる。
- 解字(藤堂)
- 寍は、宀と心と皿に從ひ、家の中に食器を置き、心を落ち着けて安んずるさまを示す。丂印は語氣の伸び出ようとして屈曲したさまで、やはりこちらに落ち著かうといふ語氣を表す。寧は丂印と寍の會意、寍は亦た音符。
- 清では宣宗(道光帝)の諱(旻寧)を避けて甯と書く。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は宀と皿と丂に從ふ。金文は心を加へ、或は丂に從はず寍につくり、寍と寧は古くもと一字。丂は木の枝の形を象り、皿は皿の形を象り、宀は家屋の形を象る。全部で皿を屋の下に置く形を象り、家庭の安定と解ける。一説に、居室があり、飲食のある人は、自づから必ず心安らぐの意といふ。晉姜鼎の字形は丂が于に變はり、《睡虎地秦簡・日書乙種》の字形と同樣である。
- 甲骨文では安靜、安寧を表し、また地名に用ゐる。金文では安寧を表す。また慰問を表す。また寧願(むしろ〜したい)を表す。中山王鼎
寡人聞之、與其溺於人也、寧溺於淵。
『大戴禮記・武王踐阼』與其溺於人也、寧溺於淵。溺於淵猶可游也、溺於人不可救也。
また人名や地名に用ゐる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
- 文字コード
- 互換領域のU+F95F(寧)、U+F9AA(寧)は本來の字形で表示されるが、韓國の同字異音を區別する文字コードを反映したもので、字形の區別に用ゐるべきものではない。