委 - 漢字私註

説文解字

委
委隨也。从
註に臣鉉等曰、委、曲也。取其禾穀垂穗。委、曲之皃。故从禾。といふ。
十二女部

説文解字注

委
委、逗、隨也。《辵部》曰、隨、從也。『毛詩〔召南〕羔羊・傳』曰、委蛇者、行可從迹也。『〔同・鄘風〕君子偕老・傳』曰、委委者、行可委曲從迹也。按隨其所如曰委。委之則聚。故曰委輸、曰委積。所輸之處亦稱委。故曰原委。从女禾聲。十六十七部合音冣近。故讀於詭切也。『詩』之委蛇、卽委隨。皆㬪韵也。

康煕字典

部・劃數
女部五劃

『廣韻』於詭切『集韻』『韻會』鄔毀切、𠀤音骫。任也、屬也。『莊子・知北遊』生非汝有、是天地之委和也。性命非汝有、是天地之委順也。子孫非汝有、是天地之委蛻也。『左傳・昭元年』徐吾犯之妹美、公孫黑强委禽焉。

又頓也。『唐書・杜遜能傳』書詔雲委。『蘇頲傳』詔書塡委。

又棄置也。『孟子』委而去之。

又本曰原、末曰委。『禮・學記』或原也、或委也。

又端委、禮衣。『左傳・昭元年』劉子謂趙孟曰:吾與子弁冕端委。

又宛委、山名、在會稽東南。『汲冢周書』禹登宛委山、發金𥳑之書、得通水之理。

又姓。『風俗通』太原太守委進。

又『集韻』於僞切、音萎。委積牢米薪蒭之總名。少曰委、多曰積、委積以待施惠。

又籠貨物之府。漢少府有屬官、郡置轉輸、開委府于京師、以籠貨物。

又『廣韻』於爲切『集韻』邕危切、𠀤音逶。雍容自得之貌。『詩・召南』委蛇委蛇。『鄘風』委委佗佗。

『說文』委、隨也。从女从禾。《徐鉉曰》曲也。从禾垂穗、委曲之貌。

音訓・用義

(1) ヰ(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・紙・委』於詭切〉[wěi]{wai2}
(2) ヰ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・支・逶』於爲切〉[wēi]{wai1}
(1) ゆだねる。まかせる。したがふ。つむ。おく。すてる(委捐、委棄、委去)。つまびらか(委細、委曲)。すゑ。しをれる。

音(2)は、ゆつたりとして落ち著いたさまの意。

解字

白川

の會意。

『説文解字』に會意とするが、その意を説かず、徐鉉は其の禾穀の垂れし穗の委曲の皃を取るといふ。

禾は禾形の稻魂。これを被つて男女が歌舞し、豐作を祈る。その女は委、男はで、年は稔りを祈る意。女はしなやかに、低く臥すやうな姿勢で舞ふ。

藤堂

(曲がつて垂れた稻)との會意。しなやかに力無く垂れることを示す。

女と音符禾の會意兼形聲字と考へても良い。

落合

委は篆文に初出の形で、を用ゐた字。『説文解字』は原義を「したがふ」とし、多くの研究者も女を主體に字源を解釋する。

甲骨文に禾とから成る字があり、異體には匸の類似形の匚に從ふ形もある。

【補註】便宜上、でその字を表す。

甲骨文では地名またはその長を表す。《天理大學附屬天理參考館 甲骨文字》307丁丑卜、王呼狩。

殷代には固有名詞にのみ見えるが、東周代には同樣の字形が積み蓄へる意味で使はれてをり、そして委にもその意がある。そのためを初文、委を繁文と看做す説がある。(補註: 落合は『漢字字形史小字典』でこの説を採る。)

但し、この系統の用例は少ないため、繼承關係は確實ではない。

甲骨文に女と禾に從ひ姀に作る字があり、委の初文とする説があるが、これは穀物を用ゐた祭祀儀禮の樣子を表した字で、委とは繼承關係のない、亡失字。

【補註】 白川『字通』委字條にこの甲骨文を擧げる。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 祭祀名に用ゐる。《殷墟花園莊東地甲骨》5乙亥卜、婦好有使子、惟姀于丁曰婦好。
  2. 地名またはその長。《合集》36751庚寅卜在姀貞、王步于杞、亡災。

字書にある姀字は、女性のあざなとして作られた禾聲の形聲字で、やはり委とは關係がない。

屬性

U+59D4
JIS: 1-16-49
當用漢字・常用漢字

関聯字

委に從ふ字を漢字私註部別一覽・禾部・委枝に蒐める。