尙 - 漢字私註
説文解字
曾也。庶幾也。从八向聲。
- 二・八部
康煕字典
- 部・劃數
- 小部五劃
『唐韻』『集韻』『韻會』時亮切『正韻』時樣切、𠀤音上。『說文』曾也、庶幾也。从八向聲。『爾雅・註』郉昺曰、尙、謂心所希望也。『詩・小雅』不尙息焉。『書・大禹謨』爾尙一乃心力。
又『廣韻』加也、飾也。『論語』好仁。
無以尙之。『詩・齊風』充耳以素乎而、尙之以瓊華乎而。
又崇也、貴也。『禮・檀弓』夏后氏尙黑、殷人尙白、周人尙赤。
又主也。
司進御之物者皆曰尙。『漢官儀』尙食、尙醫、尙方等是也。又尙書、主大計。
又『增韻』尊也。『詩・大雅』維師尙父。《註》太公望、太師而尊爲尙父者也。
又猶也。『詩・大雅』雖無老成人、尙有典𠛬。
又娶公主謂之尙。言帝王之女尊、而尙之、不敢言娶。『前漢・王吉傳』娶天子女曰尙公主、娶諸侯女曰承翁主、尙承皆𤰞下之名。一曰配也。『司馬相如傳』卓王孫自以使女得尙司馬長卿晚。《註》尙、配也。義與尙公主同。
又『易・泰卦』得尙乎中行。《註》謂合乎中行之道也。
又奉也。『司馬相如・長門賦』願賜問而自進兮、得尙君之玉音。
又矜伐也。『禮・表記』君子不自尙其功。
又姓。戰國尙靳、唐尙衡。
又與上通。『詩・魏風』上愼旃哉、猶來無止。《註》上猶尙也、言愼之可以來歸、無止於彼也。『尚書序』尚者、上也。言此上代以來書、故曰尚書。
又叶辰羊切、音常。『詩・大雅』肆皇天弗尚。叶亡方。
廣韻
- 卷・韻・小韻
- 下平聲・陽・常
- 反切
- 市羊切
尚書、官名。
又時仗切。
- 卷・韻・小韻
- 去聲・漾・尚
- 反切
- 時亮切
庶幾。
亦髙尚。
又飾也、曾也、加也、佐也。
『韻略』云、凡主天子之物皆曰尚、尚醫、尚食等是也。
又姓。後漢髙士尚子平。又漢複姓有尚方氏。
時亮切。四。
音訓義
- 音
- シャウ(漢) ジャウ(呉)⦅一⦆
- シャウ(漢)(呉)⦅二⦆
- 訓
- なほ⦅一⦆
- くはへる⦅一⦆
- こひねがふ⦅一⦆
- ねがはくば⦅一⦆
- たふとぶ⦅一⦆
- たかい⦅一⦆
- たかくする⦅一⦆
- ひさしい⦅一⦆
- つかさどる⦅一⦆
- 官話
- shàng⦅一⦆
- cháng⦅二⦆
- 粤語
- soeng6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・漾・尚』時亮切
- 『集韻・去聲下・漾第四十一・尚』時亮切
- 『五音集韻・去聲卷第十二・漾第一・禪・三尚』時亮切
- 聲母
- 禪(正齒音・全濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- shàng
- 粤語
- soeng6
- 日本語音
- シャウ(漢)
- ジャウ(呉)
- 訓
- なほ
- くはへる
- こひねがふ
- ねがはくば
- たふとぶ
- たかい
- たかくする
- ひさしい
- つかさどる
- 義
- 更に、その上に、なほ、尙且つ。
- その上に附け加へる。
- 願ふ。願はくば。
- 尊ぶ。崇める。尙賢、尙古、尙武など。
- 高い。高く上げる。尙志など。
- 久しい。古い。
- 天子のことを掌る。尙食、尙醫など。
- 天子の女を娶る。尙主。
- めあはす。『史記・司馬相如傳』
卓王孫喟然而嘆、自以得使女尙司馬長卿晚、而厚分與其女財、與男等同。
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・下平聲・陽・常』市羊切
- 『集韻・平聲三・陽第十・常』辰羊切
- 『五音集韻・下平聲卷第五・陽第一・禪・三常』市羊切
- 聲母
- 禪(正齒音・全濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- cháng: 藤堂に據る。漢語資料にも見えるが不詳。韻書における同音字とは一致する。
- 日本語音
- シャウ(漢)(呉): 疑義有り。左は凡例に示したやうに『学研新漢和大辞典』によるが、同音字の常や徜については呉音をジャウとする。
- 義
- 『廣韻』
尚書、官名。
『集韻』主也、漢官也。書主大計。
汉典は、尚書の音を、官名、書名いづれもshàng shūとする。 - 藤堂は、尚羊、尚佯を當音に讀み、あるいは徜徉に作るとする。さまよふ意。汉典は、尚羊の音をshàng yáng、徜徉の音をcháng yángとする。徜は『廣韻』に同音字とする。
解字
各資料の金文の字形を見るに、當初から八と向に從ふ字であつたとは思ひ難い。
白川
八と向の會意。向は窗。光の入るところに神を迎へて祀る。八は、そこに神氣が現はれ、漂ふことを示す。兄(祝)が祝禱して神氣を歆け、恍惚の狀となることを兌(悦、脱)といふやうに、八は神氣を表す。「ねがふ」「たかし」「くはふ」「たふとぶ」はみなその派生義。
金文に子々孫々是を尚とせよ
、永く典尚と爲せ
のやうに、常の意にも用ゐる。
掌と通じ、つかさどる意がある。
藤堂
向(窗)と八(分かれる)の會意。空氣拔きの窗から空氣が上に立ち上り、分散することを示す。上、上に上がるの意を含む。
また、上に持ち上げる意から、崇める、尊ぶ、身分以上の願ひなどの意を派生し、また、その上になほ、の意を含む副詞となる。
落合
指示。甲骨文は丙の上に指示記號の短線や方形があり、臺座にものを置いた形であらう。
後代には「たふとぶ」や「つかさどる」の意で用ゐられてをり、原義を祭祀儀禮とする説もあるが、甲骨文には地名の用例しかなく、確證は得られない。
甲骨文では地名またはその長を表す。第一期(武丁代)には領主が婦尚とも呼ばれてゐる。《合補》11139乙卯卜在尚貞、王步于…、亡災。
字形は金文で丙が冂と口に變はり、更に古文乃至篆文で上部が小のやうな形になつた。甲骨文の異體字に下部に口を加へた形が一例のみ見える。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、冂と、短い横劃二劃(後に八の形になる)と、口に從ふ。冂は堂の初文で、地面が高く出た堂基の象。尚字は冂に八と口を加へて分化した字。冂は地面より高く、故に尚は高尚の義を有し、轉じて崇尚、假借して尚且の意。
春秋戰國の尚字は八の間に丸い點を一つ加へ、その點は後に伸びて短い横劃や縱劃となつた。短い縱劃は八と合はさり、小篆で小の形に變はるに至つた。
金文での用義は次のとほり。
- 崇尚(尊重)を表す。中山王方壺
可灋可尚
は、見習ふべし、尊重すべし、の意。 - 「〜でさへ」の意を表す。弔䟒父卣
母(毋)尚為小子
。 - 常の通假字とし常法の常を表す。陳侯因𬁼敦
永為典尚(常)。
『易・繫辭下』既有典常。
『國語・越語下』無忘國常
、韋昭注常、舊法。
- 常の通假字となし守護の意。冶仲考父壺
子子孫孫永寶是尚(常)。
『詩・魯頌・閟宮』魯邦是常
、鄭玄箋常、守也。
- 人名に用ゐる。
漢簡では用ゐて上となし、登を表す。《銀雀山漢簡・晏子・一三》景公令脩(修)茖(路)𡨦(寢)之臺、臺成、公不尚(上)焉。
は、臺が出來た後、景公は上らうとしなかつたことをいふ。
尚は堂基の冂に從ひ分化して出來た字で、高尚の本義を表し、派生して堂基に登ることをまた尚と稱し、この意義の尚は傳世文獻では多く上、尚につくる。尚と上は音義が密接に關係する同源の語である。中山王方壺には上と尚よりなる雙聲の字が見える。
尚は後に多くの字の要素となつてゐる。常、裳、堂、嘗、黨など。
屬性
- 尙
- U+5C19
- 尚
- U+5C1A
- JIS: 1-30-16
- 常用漢字
関聯字
尙に從ふ字を漢字私註部別一覽・尙部に蒐める。