説文解字私註 𠬞部

𠬞
𠬞 竦手也。从𠂇从又。凡廾之屬皆从廾。今變隸作廾。
𢪒 楊雄說、廾从兩手。
承也。从手从廾、𡴀聲。
翊也。从廾从卩从山。山高、奉承之義。
取奐也。一曰大也。从廾、夐省。
蓋也。从廾从合。
𢍰
引給也。从廾睪聲。
𢍉
舉也。从廾甶聲。『春秋傳』曰:“晉人或以廣墜、楚人𢍉之。”黃顥說:廣車陷、楚人爲舉之。杜林以爲騏麟字。
舉也。从廾㠯聲。『虞書』曰:“岳曰:异哉!”
玩也。从廾持玉。
𢌻
兩手盛也。从廾𡴆聲。
𢍏
𢍏 摶飯也。从廾釆聲。釆、古文辦字。讀若書卷。
𢌳
持弩拊。从廾、肉。讀若逵。
警也。从廾持戈、以戒不虞。
械也。从廾持斤、并力之皃。
慤也。从廾龍聲。
圍棊也。从廾亦聲。『論語』曰:“不有博弈者乎!”
共置也。从廾、从貝省。古以貝爲貨。

𠬞部 舊版

説文解字
承也。从手从𡴀聲。
康煕字典
大部五劃
《古文》𠬻𢱵
『唐韻』扶壟切『集韻』『韻會』父勇切、𠀤音唪。
『說文』承也。『禮・曲禮』長者與之提攜、則兩手奉長者之手。
與也、獻也。『史記・藺相如傳』奉璧西入秦。
『集韻』房用切、音俸。養也、秩祿也。『史記・蕭何世家』高祖以吏䌛咸陽、吏皆送奉錢三、何獨以五。『前漢・宣帝紀』帝詔小吏、勤事而奉薄、其益百石以上奉十五。別作
姓。漢馬軍使奉揮、明奉科。
ホウ
たてまつる。うける。つかへる。ささげる。
解字(白川)
𠬞の會意。丰は秀つ枝。神の憑る所。夆はその枝に神靈が降る意。丰を兩手で捧げ、神を迎へることを奉といふ。それで神意をうけ、神意を奉ずる。丰が最も重要な字の要素。
解字(藤堂)
十字(捧げ物)と𠬞(兩手)と手の會意。物を兩手で捧げ持つ意。また、捧げて持てば兩手の形は△型となるので、兩方から近附き、△型に頂點で合ふ意を含む。捧の原字。
解字(漢字多功能字庫)
手とに從ひ、聲。捧げ持つこと、受け繼ぐことを表す。
當用漢字・常用漢字

説文解字
翊也。从从卩从山。山高、奉承之義。
康煕字典
一部五劃
『廣韻』署陵切『集韻』『韻會』辰陵切『正韻』時征切、𠀤音承。『玉篇』繼也。『廣韻』佐也。『正韻』副貳也。『禮・文王世子』虞、夏、商、周有師保、有疑丞。又『戰國策』堯有九佐、舜有七友、禹有五丞、湯有三輔。『前漢・百官表』丞相秦官金印紫綬、掌丞天子助理萬機。《註》應劭曰、丞者、承也。相者、助也。
『前漢・淳于長傳』扶丞左右、甚有甥舅之恩。
『宋史・天文志』紫微垣西蕃七星、第七星爲上丞。東蕃八星、第八星爲少丞。
通。『史記・張湯傳』於是丞上指。今本或作承。
『廣韻』常證切、承去聲。縣名。在沂州、匡衡所居。
『韻補』叶之郢切。與通。『揚雄・羽獵賦』丞民於豐桑。
ジョウ。ショウ。
たすける。うける。すくふ。
解字(白川)
卩と𠬞の會意。卩は人の坐する形。凵は坎、深い穴。坎中に陷つた人を、左右の兩手(𠬞)で引き上げて、拯ふ形。卜文の形によると、伏する姿勢の人を拯ひあげる形で、拯の初文。人を上に奉承する字は承。承は戴き、丞は拯ひあげる形。救拯の意より、丞相、丞史の意に用ゐる。
解字(藤堂)
會意。水の中へ落ちた人を兩手で助けて上に乘せるさまを示す。拯の原字。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文、金文は、(兩手の象)と卩(跪坐する人の形)と(坑坎)に從ひ、人が土坑の中に陷り、上にゐる人が兩手で救援する形を象る。拯や抍の初文。本義は拯救、轉じて幫助、輔弼。
古文字の丞と承は形が近いが、丞は凵に從ひ、承は凵に從はない。戰國文字で卩の腿の部分と凵が合はさつて山の形に變はつた。
金文では人名に用ゐ、小篆はまた官名に用ゐる。
人名用漢字

説文解字
奐𢍅 取奐也。一曰大也。从省。
康煕字典
大部六劃
『廣韻』呼貫切『集韻』『韻會』『正韻』呼玩切、𠀤音渙。大也。
暇豫貌。『詩・大雅』伴奐爾游矣。
文采粲明貌。『禮・檀弓』美哉奐焉。
姓。明永樂閒舉人奐忠、景泰閒知縣奐進。
本作𢍅。从廾、从夐省聲。
クヮン
おほきい。あきらか。さかん。
解字(白川)
の會意。免は分娩するときの象。廾は左右の手。生まれる子を取り上げる意。生まれるとき一種の勢ひを以て出るので、そのさまを渙然といふ。羊の子が生まれるのを羍といひ、達の意があるのと同じ。
解字(藤堂)
女性が股を開いたさまと𠬞(兩手)の會意。腹の中から胎兒を取り出すさまを示す。ゆとりをもつて、まるく拔き取るの意を含む。換の原字。
解字(漢字多功能字庫)
金文は人と穴とに從ふ。一説に他人の宅内から幾らか取る意といふ。金文では人名に用ゐる。
奐は古書中で多く衆多、盛大の意を表す。
伴奐はゆつたりとして自在であるさまの形容。
奐奐は、華麗、光彩鮮明を表し、後には煥と書く。

説文解字
蓋也。从
𥦦 古文弇。
康煕字典
廾部六劃
《古文》𢍔𥦦
『唐韻』一儉切『集韻』衣檢切『正韻』於檢切、𠀤音奄。『爾雅・釋言』蓋也。《註》謂覆蓋。又『釋天』弇日爲蔽雲。《註》暈氣五彩覆日也。
『爾雅・釋言』同也。
『類篇』弇中、隘道也。『左傳・襄二十五年』行及弇中。
器之口小中寬者曰弇。『周禮・春官』侈聲筰、弇聲鬱。《註》弇謂中央寬也。弇則聲鬱勃不出也。『冬官・考工記』侈弇之所由興。《疏》由鍾口侈弇、所興之聲、亦有柞有鬱。『呂氏春秋』其器宏以弇。《註》宏大弇深、象冬閉藏也。
內向也。『周禮・冬官考工記』棧車欲弇。《疏》棧車無革鞔輿、易可坼壞、故當弇向內爲之。
地名。『淮南子・地形訓』正西弇州曰幷土。
山名。『山海經』大荒西有弇州之山。『穆天子傳』天子賔於西王母、乃紀其迹於弇山、名曰西王母之山。《註》弇口之入。
弇兹、神名。『山海經』西海渚中有神、名曰弇兹。
『類篇』那含切、音南。姓也。
『唐韻』古南切、音蜬。亦蓋也。
『集韻』於豔切、音厭。『周禮・春官』弇聲鬱。『釋文』劉昌宗讀。
エム
おほふ。ふかい。
解字(白川)
小篆の字形には疑問があり、その古文の形から考へると婦人の分娩の形であらう。卜文に股間を開き、兩手を加へる形があり、分娩の意に用ゐる。『周禮・春官・典同』の注に弇謂中央寬也(弇は中央寬きを謂ふなり)とするのが初義に近い。
解字(藤堂)
(蓋をする)と兩手(手の動作)の會意。蓋を被せるやうに覆ふ動作を示す。
解字(漢字多功能字庫)
に從ひ、合の亦聲。兩手で蓋を合はせることを表し、本義は、覆ひ被せる、覆ひ隱すの意。
金文は廾とに從ふ。中山王鼎に見え、深いの意を持つ。

𢍰

説文解字
引給也。从睪聲。
康煕字典
廾部十三劃
『唐韻』羊益切『集韻』夷益切、𠀤音亦。『說文』引給也。
同。『集韻』擇或从廾。
簡体字
𪪴
解字(白川)
擇の初文、兩手で獸屍を釋く形。

擇の古い形と見て良いか。

𢍉

説文解字
舉也。从甶聲。『春秋傳』曰、晉人或以廣墜、楚人𢍉之。黃顥說、廣車陷、楚人爲舉之。杜林以爲騏麟字。
康煕字典
不採錄
廣韻
𢍁 上平聲・之・其 渠之切 舉也。
𢍁 去聲・志・忌 渠記切 舉也。『説文』音基。

説文解字
舉也。从聲。『虞書』曰、岳曰、异哉。
康煕字典
廾部三劃
『廣韻』與之切『集韻』『韻會』盈之切『正韻』延之切、𠀤音怡。『廣韻』已也。『書・堯典』异哉、試可乃已。《傳》异、已也、退也。言餘人盡巳、惟鯀可試、無成乃退。『正義』异聲近巳、巳訓止、是停住之意、故爲退也。
『集韻』發歎也。
『唐韻』『集韻』『韻會』羊吏切『正韻』以智切、𠀤怡去聲。『說文』舉也。
『廣韻』退也。
通。『列子・楊朱篇』何以异哉。
あげる。やめる。ことなる。
解字(白川)
と廾の會意。已は㠯、耜を奉ずる形。用例に乏しく、定解がない。
解字(藤堂)
廾(兩手で持つ)と已(とめる)の會意、已は亦た音符。

と通用し、また、異の簡体字に用ゐる。

説文解字
玩也。从
康煕字典
廾部四劃
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤盧貢切、籠去聲。『爾雅・釋言』玩也。《疏》謂玩好也。『詩・小雅』載弄之璋。『前漢・趙堯傳』高祖持御史大夫印弄之。
戲也。『左傳・僖九年』夷吾弱不好弄。《註》弄、戲也。『前漢・昭帝紀』上耕於鉤盾弄田。《註》師古曰、弄田、謂宴游之田。
『韻會』侮也。『前漢・東方朔傳』自公卿在位、朔皆敖弄、無所爲屈。
樂曲曰弄。『晉書・桓伊傳』王徽之泊舟靑溪側、令人謂伊曰:聞君善吹笛、試爲我一奏。伊便下車、踞胡牀、爲作三調。弄畢。便上車去。『南史・隱逸傳』宗少文善琴、古有金石弄、惟少文傳焉。『嵆康・琴賦』改韻易調、奇弄乃發。
『字彙』巷也。
ロウ
常用漢字(平成22年追加)

兩手で玉を弄するさまを表す會意字。

𢌻

説文解字
兩手盛也。从𡴆聲。
康煕字典
廾部五劃
『唐韻』余六切、音育。『說文』兩手盛也。『廣韻』兩手捧物。
『集韻』居六切、音匊。義同。

𢌳

説文解字
持弩拊。从、肉。讀若逵。 段注は肉聲とする。
康煕字典
廾部四劃
『唐韻』渠追切『集韻』渠龜切、𠀤音逵。『說文』持弩拊也。

説文解字
警也。从持戈、以戒不虞。
康煕字典
戈部三劃
《古文》𢦬
『唐韻』古拜切『集韻』『韻會』『正韻』居拜切、𠀤音介。『說文』警也。『書・大禹謨』警戒無虞。
諭也。『書・大禹謨』戒之用休。
告也。『儀禮・士冠禮』主人戒賔。《註》告也。『聘禮』戒上介亦如之。《註》猶命也。
『廣韻』愼也、具也。
備也。『易・萃卦』戒不虞。《註》備不虞也。
『易・繫辭』聖人以此齊戒。《註》洗心曰齊、防患曰戒。『朱子・本義』湛然純一之謂齊、肅然警惕之謂戒。
守也。『周禮・夏官・掌固』夜三鼜以號戒。《註》謂擊鼓行夜戒守也。又『司馬法』鼓夜半三通、號爲晨戒。
通作。『易・繫辭』小懲而大誡。『前漢・賈誼傳』前車覆、後車誡。
同。『史記・天官書』星茀於河戒。又『唐書・天文志』江河爲南北兩戒。
『韻補』叶居吏切、音記。『六韜』將不常戒、則三軍失其備。
叶紀力切、音亟。『詩・小雅』豈不日戒、玁狁孔棘。
カイ
いましめる。さとす。つげる。つつしむ。そなへる。まもる。
當用漢字・常用漢字

兩手で戈を持ち警戒する意の會意字。

説文解字
械也。从持斤、并力之皃。
𠉔 古文兵、从人、廾、
𠬿 籒文。
康煕字典
八部五劃
《古文》𠈯𠡿
『唐韻』甫明切『集韻』『韻會』晡明切『正韻』補明切、𠀤丙平聲。『說文』械也。『增韻』戎器也。『世本』蚩尤以金作兵。兵有五、一弓、二殳、三矛、四戈、五戟。
執兵器從戎者曰兵。『禮・月令』命將帥選士厲兵。『周禮・夏官』中秋敎治兵。『廣韻』戎也。
擊敵曰兵之。『左傳・定十年』公會齊景公于夾谷、齊犁彌使萊人以兵劫公。孔子以公退、曰、士兵之。《註》命士官擊萊人也。
『禮・曲禮』死𡨥曰兵。《註》言能捍國難爲𡨥所殺者、謂爲兵也。
必良切、音浜。『詩・衞風』擊鼓其鏜、踴躍用兵。土國城漕、我獨南行。『史記・天官書』五星同色、天下偃兵、百姓寧昌。『白虎通』武王望羊、是謂攝揚。盱目𨻰兵、天下富昌。◎按兵古音必良切、自『魏・王粲・刀銘』相時隂陽、制兹利兵。始與淸、呈、形、靈爲韻。『𨻰思王・孟冬篇』武官誡田、講旅統兵。與淸、停爲韻。『贈丁儀王粲』詩:皇佐揚天惠、四海無交兵。與淸、城、名、聲爲韻。『明帝・苦寒行』雖有吳蜀𡨥、春秋足耀兵。與齡、纓爲韻。
『韻補』叶犇謨切、音逋。『道藏歌』解帶天皇寢、停駕高上兵。玉眞啓角節、翊衞自相扶。
ヘイ。ヒャウ。
つはもの。いくさ。
當用漢字・常用漢字

兩手で斤(斧)を持つ形の會意字。

説文解字
慤也。从龍聲。
康煕字典
龍部三劃
『唐韻』紀庸切『集韻』居容切、𠀤音恭。『說文』慤也。
『字彙』升也。
『廣韻』居用切『集韻』欺用切、𠀤音供。義同。
『廣韻』於角切『集韻』乙角切、𠀤音渥。燭蔽也。
『六書正譌』从共省。會意。龍聲。俗作、非。
キョウ
つつしむ。うやうやしい。
解字(白川)
龍形のものを奉持する形。の初形。卜文の字形になほ广、宀に從ふものがあり、その禮は祠廟の中で行はれた。
解字(漢字多功能字庫)
甲骨文、金文は、龍とに從ひ、兩手で龍を奉ずる形を象る。龍も廾も聲符で、讀んで恭となし、恭敬の意を表す。後期金文に兄を旁に加へるものがあり、これもまた聲を標す。龏は龔の古字で、恭と音義が同じく、恭敬を表す。西漢以後、共聲に從ふ龔が見え始める。
甲骨文では地名、人名、神祖名に用ゐる。金文では人名、地名に用ゐる外、恭と同じく用ゐる。一に恭敬を表し、二に周の恭王を指す。龏王は、典籍では共王あるいは恭王につくる。
戰國竹簡では、恭に同じ。またと通用される。

説文解字
圍棊也。从亦聲。『論語』曰、不有博弈者乎。
康煕字典
廾部六劃
『唐韻』羊益切『集韻』『韻會』『正韻』夷益切、𠀤音亦。『說文』圍棋也。从廾亦聲。『論語』不有博弈者乎。『左傳・襄二十五年』弈者、舉棋不定、不勝其耦。《註》弈、圍棋也。《疏》『方言』云、圍棋謂之弈。自關東齊魯之閒皆謂之弈、蓋此戲名之曰弈。故說文弈从廾、言竦兩手而執之。孟子言弈秋善弈、秋自以善弈而著名也。棋者、所執之子、以子圍而相殺、故謂之圍棋。沈氏云、圍棋稱弈、取落弈之義也。
『廣韻』美貌。『廣雅』弈、容也。
帳也。『汲冢周書』解墠上帳赤弈隂羽。○按『說文』奕、弈二字音同義異。俗與奕通用、非。互詳大部奕字註。
エキ。ヤク。
解字(藤堂)
亦は、人の兩脇の下の部分を點で示した指示字。同じ物が同じ間隔で竝ぶ意を含む。弈は兩手()と亦の會意、亦は亦た音符。石を等間隔に竝べて碁を打つこと。

圍碁、博弈のこと。

説文解字
共置也。从、从貝省。古以貝爲貨。
康煕字典
八部六劃
『唐韻』其遇切『集韻』『韻會』衢遇切『正韻』忌遇切、𠀤音懼。『說文』共置也。『廣韻』備也、辦也、器具也。『儀禮・饋食禮』東北面告濯具。『前漢・劉澤傳』田生子請張卿臨、親修具。《註》師古曰、具、供具也。『荀子・王制篇』具具而王、具具而霸。《註》言具其所具也。
通。『詩・小雅』則具是違。『詩詁』俱也。
姓。『左傳』有具丙。
『詩・小雅』爾牲則具。《註》居律反、音橘。
『韻補』叶忌救切、求去聲。『漢・馬融・廣成頌』上無飛鳥、下無走獸。虞人植旍、獵者效具。車弊田罷、從入禁囿。
そなへる。つぶさに。
當用漢字・常用漢字

の會意、鼎を兩手で奉ずる形。