犬 - 漢字私註
説文解字
狗之有縣蹏者也。象形。孔子曰、視犬之字如畫狗也。凡犬之屬皆从犬。
- 十・犬部
説文解字注
狗之有縣蹏者也。有縣蹏謂之犬。叩氣吠謂之狗。皆於音得義。此與後蹄廢謂之彘。三毛聚居謂之豬。竭尾謂之豕。同明一物異名之所由也。『莊子〔天下〕』曰、狗非犬。司馬彪曰、同實異名。夫異名必由實異。君子必貴游藝也。象形。苦泫切。十四部。孔子曰、視犬之字。如畫狗也。又曰、牛羊之字以形聲。今牛羊犬小篆卽孔子時古文也。觀孔子言、犬卽狗矣。渾言之也。凡犬之屬皆从犬。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤苦𥌭切、圈上聲。『說文』狗之有縣蹏者也。象形。孔子曰、視犬之字、如畫狗也。『埤雅』傳曰、犬有三種、一者田犬、二者吠犬、三者食犬。食犬若今菜牛也。『書・旅獒』犬馬非其土性不畜。『禮・曲禮』效犬者、左牽之。《疏》狗、犬通名。若分而言之、則大者爲犬、小者爲狗。故月令皆爲犬、而周禮有犬人職、無狗人職也。但燕禮亨狗、或是小者、或通語耳。
又『禮・曲禮』犬曰羹獻。『周禮・秋官・司寇・犬人疏』犬是金屬、故連類在此。犬有二義、以能吠止人則屬艮、以能言則屬兌。
又『史記・司馬相如傳』其親名之曰犬子。
又『左傳・隱八年』遇於犬丘。《註》犬丘、垂也。地有兩名。
音訓
- 音
- クヱン(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・銑・犬』苦泫切〉[quǎn]{hyun2}
- 訓
- いぬ
解字
白川
象形。犬の形に象る。
『説文解字』に狗の縣蹏有る者なり。象形。
とし、孔子曰く、犬の字を視るに畫狗の如きなり
といふ孔子説を引く。『説文解字』に引く「孔子説」には俗説が多い。縣蹏とは肉中に隱れる爪。
卜文の犬の字形は、犧牲として殺された形に見えるものがあり、犬牲を示すものとみられる。
金文の《員鼎》に犬を執らしむ
とは獵犬を扱ふ意。
中山王墓には、金銀製の首輪を嵌めた二犬が埋められてゐた。
藤堂
象形。犬を描いたもの。
字音は鳴き聲をまねた擬聲語。
落合
犬の象形。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 犬。甲骨文では主に祭祀犧牲として記されてゐる。《殷墟花園莊東地甲骨》142
戊子、歳妣庚一犬。
- 祭祀名。犬を捧げること。《合集》29544
叀黑犬、王受有祐。
- 職名。軍事擔當者。軍用犬からの派生義であらう。人名に附して「犬某」または「某犬」とする用法が見える。《合集》5665
己酉卜亘貞、呼多犬衞。
- 地名またはその長。領主は犬侯とも稱される。また殷金文の圖象記號にも見える。《合集》6812
己卯卜奚貞、令多子族、從犬侯、撲周、戴王使。五月。
- 犬師
- 軍隊の一種。職名としての犬の集團か。《英國所藏甲骨集》2326
王其從犬師、叀辛。
字の要素としては、殷代には主に犬に関聯する字において使はれる。甲骨文では良く似た形に豚を表す豕があり、一部に混同が見られる。
後代には獸に關係する字の要素として廣く使はれた。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、犬の側面の形に象る。商代の族氏銘文に犬字は多く橫向きに書かれ、後に文字を縱向きに竝べるため、犬字の方向を變へた。犬字の特徵は、腹が瘦せ尻尾が丸く卷いてゐることで、腹が肥え尻尾が下に垂れる豕と異なる。『説文解字』の釋の徐灝の箋に、狗と犬には大體において區別はないが、區別するなら犬は大きい犬、獵犬で、狗は小さい犬を指すといふ。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、犬を指す。《合集》738正
今日尞(燎)三羊、二豖、三犬。
は、今日は羊三頭、豖二頭、犬三匹を用ゐて燎祭を行ふといふ。 - 方國侯名に用ゐる。《合集》22471
犬方
は犬と稱する方國を指し、今の陝西省咸陽市西南の興平市の南の一帶。 - 「多犬」の語があり、田獵官名。《合集》10976正
乎(呼)多犬网(網)鹿于辳(農)。
は、多犬に命じて農の地で鹿を網で捕らへることをいふ。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、犬を指す。員方鼎
王令員執犬
は、王が員に令して犬を掌らしむることをいふ。 - 族氏名に用ゐる。
屬性
- 犬
- U+72AC
- JIS: 1-24-4
- 當用漢字・常用漢字
関聯字
犬に從ふ字を漢字私註部別一覽・犬部に蒐める。