異 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
分也。分之則有彼此之異。
从廾畀。畀、予也。竦手而予人則離異矣。羊吏切。一部。
凡異之屬皆从異。
康煕字典
- 部・劃數
- 田部七劃
- 古文
- 𢄖
『唐韻』『集韻』『韻會』羊吏切『正韻』以智切、𠀤移去聲。『說文』分也、从廾从𢌿。𢌿予也。『博雅』異分也。『史記・商君傳』民有二男以上、不分異者、倍其賦。
又不同也。『書・旅獒』王乃昭德之、致于異姓之邦。『禮・儒行』同弗與異弗非也。《疏》謂彼人與己之疏異、所爲是善、則不非毀之也。
又怪也。『釋名』異者、異於常也。『左傳・昭二十六年』據有異焉。《註》異猶怪也。『史記・屈賈傳』化爲異物兮、又何足患。
又奇也。『周禮・地官・質人』掌成市之貨賄、人民、牛馬、兵器、珍異。《註》珍異、四時食物。『史記・仲尼弟子傳』受業身通者七十有七人、皆異能之士也。
又違也。
又姓。唐異牟尋歸唐、冊封南詔王、今白水蠻有此姓。
又異翹、草名。『爾雅・釋草』連異翹。
又無名異藥名、主治金創折傷。
又『韻補』叶延知切、音怡。『詩・邶風』洵美且異。叶下貽。
又叶弋質切、音逸。『詩・小雅』亦祇以異。《朱註》逸織反。『無名氏樂德歌』所見奇異、叶甘美酒食。
- 部・劃數
- 巾部十劃
『集韻』異古作𢄖。註詳田部七畫。
音訓
- 音
- イ(漢、呉) 〈『廣韻・去聲・志・異』羊吏切〉
- 訓
- ことなる。ことにする。わかつ。あやしい。あやしむ。わざわひ。
解字
白川
象形。
『説文解字』に分つなり
と分異の意とし、字を畀(與へる)と廾(兩手)の會意とする。
卜文、金文の字形によると、鬼頭のものが兩手を擧げてゐる形。畏はその側身形。神異のものを示す。
物を翼戴する形で、古くは翼の音で用ゐた。
藤堂
會意。大きな笊または頭と、兩手を出した身體に從ふ。一本の手のほか、もう一本の別の手を添へて物を持つさま。同一ではなく、別にもう一つとの意。
落合
會意。甲骨文は鬼(死者の靈魂)を表す假面を揭げた人の姿。田が假面、共のやうな形は、人が手を擧げた形が變はつたもの。
甲骨文では祭祀名として使はれてをり、原義は祭祀における舞踊とされる。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 祭祀儀禮。狩獵に先立つて行はれることもある。《合集》27349
鬯、異、酒。
- 動詞。軍事に関聯して記されてゐるが、詳細不明。《合補》8969
其禦羌方益人、羌方異…。
漢字多功能字庫
甲骨文は頭部が殊に異な人の形を象り、兩手を上に擧げてゐる。周忠兵は、兩手を上に擧げるのは區別の意義を發揮し、過去一般に言はれる手に物を持ち頭頂に戴くのを表すのではなく、戴の甲骨文とは區別があるとする。本義は、特異、別異。(補註: 落合が異の甲骨文に擧げる形を、漢字多功能字庫は異と戴に分かつ。)
甲骨文での用義は次のとほり。
- 主に田獵卜辭で用ゐられ、虛詞となし、可能、將要(間もなく)の意を表す。《合集》30757
王異其田、亡災。
は、王は間もなく田獵を行ふが、災禍はない、の意。 - 恐らく不同、別異の意を表す。《屯南》610
弜(勿)異酒。
酒は祭名、勿異酒の大意は、ある種の儀式と酒祭を分けて行ふべからず、の意(裘錫圭)。
金文での用義は次のとほり。
- 虛詞となし、乃と訓ず。召圜器
召弗敢忘王休、異用乍(作)□宮旅彝。
(陳英傑) - 小心(用心する、愼重である)、恭敬を表す。梁其鐘
不(丕)顯皇且(祖)考、穆穆異異。
- 假借して翼となし、輔翼、輔佐を表す。大盂鼎
古(故)天異(翼)臨子、灋(法)保先王、□有四方。
戰國秦漢の文献での用義は次のとほり。
- 不同、殊異の意を表す。
- 《郭店簡・性自命出》簡9「「四海之內其眚(性)[一戈](一)也、其甬(用)心各異、教史(使)肰(然)也。」
- 《睡虎地秦簡・法律答問》簡172
同母異父相與奸、可(何)論。棄市。
- 別の、其の他の、の意を表す。
- 『戰國策・秦策』
燕秦以不敢相欺者、無異故、欲攻趙而廣河間也。
- 『呂氏春秋・上農』
農不敢行賈、不敢為異事。
高誘注異、猶他也。
- 『戰國策・秦策』
- 詫異(訝る)の意を表す。
- 『孟子・梁惠王上』
王無異於百姓之以王為愛也。
- 戰國宋玉〈神女賦〉
某夜王寢、果夢與神女遇、其狀甚麗、王異之。
- 『孟子・梁惠王上』
- 異事、災異を表す。
- 『春秋公羊傳・隱公三年』
己巳、日有食之。何以書。記異也。
- 『漢書・楚元王傳』
往者衆臣見異、不務自修、深惟其故、而反晻昧說天、託咎此人。
顏師古注異、災異也。
- 『春秋公羊傳・隱公三年』
屬性
- 異
- U+7570
- JIS: 1-16-59
- 當用漢字・常用漢字
- 𢄖
- U+22116
関聯字
異に從ふ字
漢字私註部別一覽・鬼部・異枝に蒐める。
其の他
- 异
- 別字。異の簡体字として用ゐる。