歍 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
心有所惡若吐也。心有所惡若欲吐而實非吐也。『山海經』曰、其所歍所尼。郭曰、歍嘔猶噴吒。『范注太玄』曰、歐歍、逆吐之聲也。按此所謂喑噁。噁卽歍之或字也。喑、於鴆切。噁、鳥路切。喑噁言其未發也。叱吒言其已發也。『太玄』則歐歍之歐謂吐。歍謂欲吐未吐。
从欠烏聲。哀都切。五部。
一曰歍𣤶。二字舊奪。今依『廣韵・一屋』蹴〔註1〕字下補。口相就也。謂口與口相就也。
康煕字典
- 部・劃數
- 欠部・十劃
『唐韻』哀都切『集韻』汪胡切、𠀤音烏。『說文』心有所惡、若吐也。一曰口相就也。『揚子・太玄經』七脂牛正肪、不濯釜而烹、則歐歍之疾至。《註》歐歍、吐逆聲。『山海經』共工臣名曰相繇、九首蛇身、自環食於九土。其所歍所尼、卽爲源澤。《註》郭璞曰、歍、嘔、猶噴叱。尼、止也。
『集韻』亦作嗚。歍欽猶歍𣤶。『通雅』【伯牙・水仙操】云、歍欽傷宮仙不還、【伯姬引】亦用歍欽何辜。『說文』歍𣤶、歍卽嗚。
又『古音獵要』歍音鴦。歍唈、失聲也。『淮南子・覽冥訓』雍門子撫心發聲、孟嘗君爲之增欷歍唈。《註》歍唈、音鴦遏。『謝朓・拜中軍記室辭隋王牋』岐路西東、或以歍唈。
音訓義
- 音
- ヲ(漢) ウ(呉)⦅一⦆
- 訓
- はく⦅一⦆
- 官話
- wū⦅一⦆
- 粤語
- wu1⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・模・烏』哀都切
- 『集韻・平聲二・模第十一・烏』汪胡切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・模第九・影一烏』哀都切
- 聲母
- 影(喉音・全清)
- 等呼
- 一
- 官話
- wū
- 粤語
- wu1
- 日本語音
- ヲ(漢)
- ウ(呉)
- 訓
- はく
- 義
- 吐く。
- 咽び泣く。
解字
藤堂
欠(身體を屈める)と音符烏の會意兼形聲。烏は、ああと鳴く鴉。歍は、身體を屈めて、おおと泣くこと。
漢字多功能字庫
金文、小篆は烏に從ひ欠聲。本義は惡心、嘔と解く。揚雄『太玄經・竈』脂牛正肪、不濯釜而烹、則歐歍之疾至。
范望注歐歍、吐逆之聲也。
この句は、綺麗に洗はざる釜で牛の脂肪の肉を煮れば惡心の疾を起こす、の意。『山海經・大荒北經』其所歍所尼、即為源澤、不辛乃苦、百獸莫能處。
郭璞注歍、嘔、猶噴吒。
この句は、相繇(共工の家臣で九頭蛇身)が噴吐する所や留まる所は、いづれも沼澤に變はり、臭氣は辣でなければ苦であり、百獸の住める所はない、の意。
『説文解字』に一曰、口相就
とあり、張舜徽『說文解字約注』に據れば許所云一曰義、今則通用餵字、謂以己口咀嚼之物、納彼之口、即所謂「口相就」也。今鄉僻餵嬰兒者、往往如此。
といふ。つまり「口相就」とは口移しに食餌を與へること。
金文では人名に用ゐる。二十二年臨汾守曋戈工歍造。
は、工匠の歍が鑄造することをいふ。
秦國壐印でも人名に用ゐる。《秦印文字編》に「董歍」、「王歍」などがある。
「歍唈」の連用は、嗚咽、聲を詰まらせ咽び泣くと解ける。『淮南子・覽冥訓』孟嘗君為之增欷歍唈,流涕狼戾不可止。
高誘注歍唈、哭失聲也。
全句で、孟嘗君は雍門子の歌聲に嘆息し、泣いて聲を成さず、涙が縱橫交錯して止まらなかつた、の意。
屬性
- 歍
- U+6B4D
- JIS X 0212: 37-83