秋 - 漢字私註
説文解字
禾穀孰也。从禾、𪚰省聲。七由切。
- 七・禾部
籒文不省。
説文解字注
禾穀孰也。其時萬物皆老。而莫貴於禾穀。故从禾。言禾復言穀者、晐百穀也。『禮記〔鄉飲酒義〕』曰、西方者秋。秋之爲言揫也。从禾、𪚰省聲。七由切。三部。
籒文不省。
康煕字典
- 部・劃數
- 禾部・四劃
- 古文
- 𥤛
- 𪚼
- 龝
- 𪔁
『唐韻』七由切『集韻』『韻會』雌由切『正韻』此由切、𠀤音鰌。金行之時。『爾雅・釋天』秋爲白藏。《註》氣白而收藏也。『釋名』秋、就也、言萬物就成也。又繒也、繒迫品物使時成也。
又『說文』禾穀熟也。『禮・月令』孟夏麥秋至。《𨻰澔曰》秋者、百穀成熟之期、此於時雖夏、於麥則秋、故云麥秋。『書・盤庚』乃亦有秋。
又『禮・鄕飮酒義』西方者秋。秋、愁也。愁之以時、察守義者也。《註》愁讀爲揫、斂也。察嚴殺之貌。『春秋・繁露』秋之言猶湫也。湫者、憂悲狀也。
又九月爲三秋。『詩・王風』一日不見、如三秋兮。
又四秋。『管子・輕重乙篇』歲有四秋、而分有四時。故曰、農事且作、請以什伍農夫賦耜鐵。此謂春之秋。大夏且至、絲纊之所作、此謂夏之秋。大秋成、五穀之所會、此謂秋之秋。大冬營室中、女事紡績緝縷之所作、此謂冬之秋。
又『廣韻藻』竹秋、三月也。蘭秋、七月也。
又秋秋、馬騰驤貌。『前漢・禮樂志』飛龍秋游上天。又『揚雄・羽獵賦』秋秋蹌蹌入西園。『荀子・解蔽篇』鳳凰秋秋。《註》秋秋、猶蹌蹌。謂舞也。
又春秋、魯史名。
又大長秋、皇后官名。『前漢・百官表』景帝更將行爲大長秋。《師古註》將行、秦官名。秋者、收成之時、長者、恆久之義。
又姓。
又七遙切、音鍫。『揚雄賦』秋秋蹌蹌。蕭該讀。又『荀子・解蔽篇』鳳凰秋秋、其翼若干、其音若簫。秋與簫爲韻。
又楚俱切、音蒭。『水南翰記』北方老嫗八九十歲、齒落更生者、能於夜出、食人嬰兒、名秋姑。秋讀如蒭酒之蒭。
- 部・劃數
- 禾部・四劃
『說文』秋本字。
- 部・劃數
- 禾部・二十一劃
『集韻』秋、古作𥤛。註詳四畫。
- 部・劃數
- 黽部・十五劃
『字彙補』古文秋字。出【漢高陽令𥓓】。註詳禾部四畫。
- 部・劃數
- 龜部・五劃
『字彙補』古文秋字。註詳禾部四畫。
- 部・劃數
- 龜部・五劃
『集韻』秋、古作龝。註詳禾部四畫。
- 部・劃數
- 龜部・九劃
音訓
- 音
- シウ(漢) 〈『廣韻・下平聲・尤・秋』七由切〉[qiū]{cau1}
- 訓
- あき。とき。みのり。
解字
白川
『説文解字』に禾穀孰するなり
とあり、秋の收穫時をいふ。字を𪚰の省聲とするが、𪚰は龜卜の焦灼の字で、焦の音で讀む。
卜文に、秋に蟲害をなすものを焚く形の字があり、恐らく秋と關係ある字であらう。卜文に四季の名を確かめうる資料はない。
『書・盤庚上』に秋を稔りの意に用ゐる。豐凶を定める重要な時であるから、「危急存亡の秋」のやうに用ゐる。
秋は𥤛の字形から、その螟螣(螟蟲と葉食ひ蟲)などの形を除いた字形であらう。
藤堂
もと禾(作物)と束(束ねる)の會意で、作物を集めて束ね收めること。(補註: 甲骨文に擧げる形を、落合は稈として擧げる。)
もう一つの字(補註: 篆文に𪛁を擧げる)は禾と龜と火の會意で、龜を火で乾かすと收縮するやうに、作物を火や太陽で乾かして收縮させることを示す。
揪(引き縮める)、緧(締める)、愁(心が縮む)と同系の言葉。また縮とも緣が近い。
落合
甲骨文は、穀物につく害蟲の象形。いなごのやうな昆蟲であらう。昆蟲の脚は三對であるが、甲骨文では二本または一本に簡略化されてゐる。翅を表した字形もある。收穫後にこの害蟲を藁ごと燃やすことから、火を加へた異體字がある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 害蟲。原義での用法。出現を防ぐことを祈る祭祀も見られる。
- 《殷墟小屯中村南甲骨》259
壬午卜、其福秋于上甲、卯牛。
- 《懷特氏等所藏甲骨文集》1600
癸酉貞、秋不至。
- 《殷墟小屯中村南甲骨》259
- あき。殷代には季節區分が春と秋だけで、夏至から冬至と推定される。《合集》29908
乙亥卜、今秋多雨。
- 動詞。詳細な記述がなく、意義不明。《屯南》751
乙未卜、令微以望人秋、于臸示。
西周代の出土資料には季節の表示はない。
東周代の出土資料では、穀物を表す禾と太陽の運行を表す日の略體を加へた形。ここから日を省き、また昆蟲の象形が龜に似てゐることから、後には龝に作る。
そのほか、東周代には殷代の火を加へた形との折衷形であらう、禾と日と火からなる字形があり、更にそこから日を省いた形が後代に繼承され、秋の形となつた。秦代には篆文を秌に作る。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、蟋蟀に象る。秋季に啾啾と鳴くので、秋を表すのに用ゐる(郭沫若)。郭沫若はまた古く幽州人は蟋蟀を「趨織」と稱し、北京人は「趨趨」と稱し、いづれも啾啾の聲から變はつたものと指摘する。
蟋蟀は又の名を「促織」、「蜻蛚」といひ、秋蟲の一種。『文選・潘安仁・秋興賦』熠燿粲於階闥兮、蟋蟀鳴乎軒屏
李善注蟋蟀、秋蟲。
秋蟲とは秋の夜に鳴く蟲のこと。杜甫〈除架詩〉秋蟲聲不去、暮雀意何如。
『詩經・豳風・七月』に七月在野、八月在宇、九月在戶、十月蟋蟀入我床下。
と曰ふ。屈萬里はいづれも蟋蟀のことを言つてゐるとする(見: 『詩經詮釋』、頁266)。
『呂氏春秋・季夏紀』涼風始至、蟋蟀居宇。
高誘注夏至後四十六日立秋節、故曰、涼風始至。蟋蟀、蜻蛚、『爾雅』謂之暴陰氣應、故居宇、鳴以促織。
『文選・謝惠連・搗衣』李善注引『論衡』夏末寒、蜻蛚鳴、將感陰氣也。
『漢書・嚴朱吾丘主父徐嚴終王賈傳』蟋蟀竢秋唫、蜉蝤出以隂。
蟋蟀は秋が深くなるに至つて口を閉ぢ、蜉蝣は朝に生まれて夕に死す、の意。
秋季は四季の三番目。支那では立秋から立冬の間を指し、おほよそグレゴリオ曆の8月8日から11月7日まで。農歷(支那の太陰太陽曆)の7月から9月に相當する。氣象學では9月から11月を秋とする。西方各國では秋分から冬至までを秋とし、おほよそグレゴリオ曆9月23日から12月21日まで(谷衍奎)。
秋はまた禾穀が成熟し收穫する時期で、故に竹簡文字や小篆は禾に從ふ。『說文』禾穀孰也。
《段注》其時萬物皆老、而莫貴於禾穀、故从禾。
甲骨文、金文、戰國竹簡では秋季を表す。
- 《屯南》620
今秋受年、吉。
は、この秋は豐作で目出度いの意。 - 鄭太子之孫與兵壺
春秋歲嘗
。歲、嘗はいづれも祭名。歲祭は一年に一度行ひ、嘗は秋の祭。「春秋歲嘗」は廣く一年や四季に行ふ祭祀のこと。 - 《上博竹書六・用曰》簡10
春秋還轉
は、春、秋は循環して交替するの意。
戰國竹簡では秋字と春字を組み合はせて春秋の語を成す。春秋はもと季節の名、後に時代の名に用ゐ、東周の前半期を指す。この時代名は孔子の整理した魯國の史書『春秋』より取られた。《郭店簡・六德》簡25雚(觀)者(諸)『易』、『春秋』、則亦在矣。
は、『易』や『春秋』を讀めば、そこに記載されてゐる、の意(劉釗)。
屬性
- 秋
- U+79CB
- JIS: 1-29-9
- 當用漢字・常用漢字
- 秌
- U+79CC
- JIS: 2-82-81
- 𥤛
- U+2591B
- 𪔁
- U+2A501
- 𪚼
- U+2A6BC
- 龝
- U+9F9D
- JIS: 1-67-52
- 𪛁
- U+2A6C1
關聯字
秋に從ふ字を漢字私註部別一覽・秋部に蒐める。