弋 - 漢字私註
説文解字
橜也。象折木衺銳著形。从𠂆、象物挂之也。與職切。
- 十二・𠂆部
説文解字注
橜也。《木部》橜下曰「弋也」。二篆爲轉注。『爾雅〔釋宮〕』曰「橜謂之杙」。按俗用杙爲弋。顧用弋爲隿射字。其誤久矣。杙者「劉劉杙」也。不爲橜弋字。弋、象形。故不从木也。
象折木衺銳者形。者各本作著。不可通。今正。古箸與者無二字。箸卽者字。折木之衺銳者爲橜。故上體象其衺銳。𠂆象物挂之也。凡用橜者爲有所表識。所謂楬櫫也。故有物挂之。又若舟之𢍿𢎄亦是。所以系舟也。故用𠂆爲合體之象形。與職切。一部。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
『唐韻』與職切『集韻』『韻會』逸職切、𠀤音翊。〔音1〕『玉篇』繳射也。『韻會』弋、繳射飛鳥也。『周禮・夏官・司弓矢』矰矢、茀矢用諸弋射。『冬官・考工記』弓人爲弓、往體多、來體寡、謂之夾庾之屬、利射侯與弋。『詩・鄭風』弋鳧與鴈。《疏》弋謂以繩繫矢而射也。『列子・湯問篇』蒲且子之弋也。弱弓纖繳、乗風振之、連雙鶬於靑雲之際。《註》蒲且子、古善弋射者。
又左弋、官名。『前漢・百官表』少府屬有左弋。太初元年、更名爲佽飛、掌弋射。
又『韻會』弋、取也。『書・多士』非我小國、敢弋殷命。《註》弋、取也。《疏》弋、射也。射而取之、故弋爲取也。
又『玉篇』橛也。所以挂物也。『爾雅・釋宫』雞棲於弋爲榤。《疏》弋、橜也。『玉篇』一作杙。又『釋宮』樴謂之杙。《註》橜也。
又黑色。『前漢・文帝紀贊』身衣弋綈。《註》如淳曰、弋、皁也。師古曰、弋、黑色也。
又水名。『隋書・地理志』鄱陽郡弋陽縣、舊曰葛陽、有弋水。
又縣名。『後漢・郡國志』北地郡弋居縣。
又國名。『前漢・𨻰湯傳』南排、月氏、山離、烏弋。《註》山離、烏弋、去中國二萬里。『揚雄・長楊賦』登南山瞰烏弋。又『後漢・西域傳』栗弋、國屬康居、出名馬蒲萄酒、特有名焉。
又無弋、羌部名。『後漢・西羌傳』羌無弋爰劒者、秦厲公時爲秦所拘執、以爲奴隸、後得亡歸。羌人以奴爲無弋、以爰劒嘗爲奴隸、故因名之。
又姓。『姓苑』出河東。今蒲州有弋氏。『詩・鄘風』美孟弋矣。《註》弋、姓也。
又與㚤通。『韻會』㚤、婦官。通作弋。漢有鉤弋夫人。『前漢・外戚傳』孝武鉤弋趙倢伃。武帝巡狩過河閒、使使召之。旣至、女兩手皆拳、上自披之、手卽時伸。號曰拳夫人、居鉤弋宮。
音訓義
- 音
- ヨク(漢) イキ(呉)⦅一⦆
- 訓
- いぐるみ⦅一⦆
- とる⦅一⦆
- くひ⦅一⦆
- くろい⦅一⦆
- 官話
- yì⦅一⦆
- 粤語
- jik6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・職・弋』與職切
- 『集韻・入聲下・職第二十四・弋』逸織切
- 『五音集韻・入聲卷第十五・職第六・喻四弋』與職切
- 聲母
- 喩(喉音・次濁)
- 等呼
- 四
- 官話
- yì
- 粤語
- jik6
- 日本語音
- ヨク(漢)
- イキ(呉)
- 訓
- いぐるみ
- とる
- くひ
- くろい
- 義
- いぐるみ。矢に紐をつけて鳥を絡め取る仕掛け。弋射。弋繳。隿に同じ。
- いぐるみで鳥を捕る。獲物をとる。汎く物を取る。弋獲。遊弋。
- くひ。杙に通ず。
- 黑い。弋綈は黑いつむぎ。黓に通ず。
- 釋
- 『廣韻』
弋: 橜。亦弋射。又姓、出河東、今蒲州有弋氏、見『姓苑』。與職切。三十四。
- 『集韻』
弋: 逸織切。『說文』「橜也。象折木扆銳箸形。从𠂆、象物掛之也。」亦姓。文四十八。
- 『康煕字典』上揭。
解字
白川
象形。いぐるみの矢の形。その矢に紐をつけた形は弔で、繳の初文。
『說文』に橜なり。折木の衺めに銳く著く形に象る。𠂆に從ふ。物の之に挂るに象るなり。
とあり、鋭く打ち込んだ杙の形であるとするが、字は弋射の象。
叔の音で讀み、金文に伯叔、また淑善の意に用ゐる。
藤堂
象形。上端に叉のついた棒杙を描いたもので、棒杙の形をした矢に紐をつけて放つので弋射のこととなり、獲物を絡め取る意ともなつた。杙の原字。
落合
杙の象形で、その初文。
甲骨文では、地名またはその長を表す。第一期(武丁代)には領主を小臣弋と呼ぶ例もある。《合補》1965戊午卜㱿貞、令戉弋沚、其遘。
木を加へた杙字は古文に初出。
漢字多功能字庫
甲骨文は橛杙(くひ)の形に象り、木樁(木のくひ)のこと。金文の字形は簡化され、橛杙の中間を充塡するか否かに區別はない。小篆の字形は變形した後の形。『說文』はまた弋と柲の象形初文を混同して一字としてゐる。
甲骨文の弋は讀んで代となし、代替を表す。《合補》2425正+2427丁未卜、鼎(貞)、令韋弋(代)亯𠬞牛。
韋や亯は人名、𠬞は供奉を表す。韋に命じて亯の代はりに(祭祀の時に)牛を奉ぜしむの意。戰國竹書にもこの種の用法がある。《清華壹・金縢》簡14背周武王又(有)疾周公所自以弋(代)王之志。
金文での用義は次のとほり。
- 語氣の助詞に用ゐ、古書での式に相當する。曶鼎
曶曰、弋唯朕□□賞(償)。
- 用ゐて特となし、單身を表す。農卣
母(毋)卑(俾)農弋(特)、事(使)氒(厥)[友口](友)妻農。
は、王は農を單身の人とすることを欲せず、故に厥友をして農に娶せしむ、の意。(參・楊樹達、《金文形義通解》)
傳世古書では多く杙を以て橛杙の弋を表す。『玉篇・弋部』弋、橛也、所以挂物也。今作杙。
杙は弋の後起の字と見ることができて、弋に表意の偏旁の木を加へたもの。橛杙を表す杙と栻を一字と見る必要はない(裘錫圭)。
弋はまた繩をつけた矢(繳; いぐるみ)による狩獵を表す。
- 『詩・鄭風・女曰鷄鳴』
將翱將翔、弋鳧與鴈。
鄭玄箋弋、繳射也。
孔穎達疏繳射、謂以繩繫矢而射也。
- 『呂氏春秋・功名』
善釣者出魚乎十仞之下、餌香也。善弋者下鳥乎百仞之上、弓良也。
屬性
- 弋
- U+5F0B
- JIS: 1-55-21
関聯字
弋に從ふ字を漢字私註部別一覽・弋部に蒐める。