車 - 漢字私註
説文解字
輿輪之緫名。夏后時奚仲所造。象形。凡車之屬皆从車。尺遮切。
- 十四・車部
籒文車。
説文解字注
輿輪之緫名也。車之事多矣。獨言輿輪者、以轂輻牙皆統於輪、軾䡈軫軹轛皆統於輿、輈與軸則所以行此輿輪者也。故倉頡之制字、但象其一輿㒳輪一軸。許君之說字、謂之輿輪之緫名。言輪而軸見矣。渾言之則輿輪之緫名。析言之則惟輿偁車。以人所居也。故『〔周禮〕攷工記』曰、輿人爲車。
夏后時奚仲所造。『左傳〔定元年〕』曰、薛之皇祖奚仲居薛、以爲夏車正。杜云、奚仲爲夏禹掌車服大夫。然則非奚仲始造車也。『〔禮記〕明堂位』曰、鉤車、夏后氏之路也。毛詩『〔小雅・六月〕』元戎《傳》曰、元、大也。夏后氏曰鉤車。先正也。殷曰寅車。先疾也。周曰元戎。先良也。《箋》云、鉤者、鉤股曲直有正也。俗本譌甚。今依『釋名』及音義改正。葢奚仲時車制始僃。合乎句股曲直之法。『古史攷』云、少昊時加牛、禹時奚仲加馬。強爲之說耳。
象形。謂象㒳輪一軸一輿之形。此篆橫視之乃得。古音居。在五部。今尺遮切。『釋名〔釋車〕』曰、古者曰車聲如居。言行所以居人也。今曰車、車、舍也。行者所處若屋舍也。韋昭『辯釋名』曰、古惟尺遮切。自漢以來始有居音。按三國時尙有歌無麻。遮字衹在魚歌韵內。非如今音也。古音讀如袪、以言車之運行、不讀如居、但言人所居止。『老子〔十一〕』當其無有車之用。音義去於反。此車古音也。然『考工記』輿人爲車。是自古有居音。韋說未愜也。
凡車之屬皆从車。
籒文車。从戈者、車所建之兵。莫先於戈也。从重車者、象兵車䏈綴也。重車則重戈矣。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
- 古文
- 𠦴
『廣韻』九魚切『集韻』『韻會』『正韻』斤於切、𠀤音居。『廣韻』車、輅也。『古史考』黃帝作車、引重致遠。少昊時加牛、禹時奚仲爲車正、加馬。『書・舜典』車服以庸。『易・大有』大車以載。『論語疏』大車、牛車、平地載任之車也。小車、駟馬車、田車、兵車、乘車也。
又山車、自然之車也。『禮・禮運』山出器車。《疏》謂其政太平、山車垂鉤、不揉治而自員曲也。
又巾車、官名。『周禮・春官』巾車、掌公車之政令。《註》巾、猶衣也。巾車、車官之長、車皆有衣以爲飾、故名。
又公車、署名。『後漢・光武紀』詔公卿、司隸、州牧、舉賢良方正各一人、遣詣公車。《註》公車令一人、掌殿司馬門。天下上書及徵召、皆總領之。公車所在、因以名焉。
又揭車、香草名。『屈原・離騷』畦留夷與揭車。《註》留夷、揭車、皆香草也。
又覆車、網名。『爾雅・釋器』罦、覆車也。《註》今之翻車、有兩轅、中施罥以捕鳥。
又『廣韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤昌遮切、音硨。『說文』輿輪總名。
又牙車、牙所載也。『左傳・僖五年』輔車相依。《註》輔、頰輔。車、牙車。《疏》車、牙下骨之名也。或又謂之頷車。輔爲外表、車爲內骨、故云相依。
又姓。漢丞相田千秋、以年老、得乘小車出入省中、時人謂之車丞相。其子孫因以爲氏。又子車、複姓。『詩・秦風』子車仲行。
又叶倉何切、音磋。『程曉・伏日詩』平生三伏日、道路無行車。閉門避暑臥、出入不相過。
- 部・劃數
- 車部十五劃
籀文車字。
- 部・劃數
- 十部十一劃
『集韻』車古作𠦴。註詳部首。
異體字
簡体字。
音訓義
- 音
- シャ(漢)(呉)⦅一⦆
- キョ(漢) コ(呉)⦅二⦆
- キョ(推)⦅三⦆
- 訓
- くるま⦅一⦆⦅二⦆⦅三⦆
- 官話
- chē⦅一⦆
- jū⦅二⦆
- 粤語
- ce1⦅一⦆
- geoi1⦅二⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・下平聲・麻・車』尺遮切
- 『集韻・平聲三・麻第九・車』昌遮切
- 『五音集韻・中平聲卷第四・麻第十七・穿・三車』尺遮切
- 聲母
- 穿(正齒音・次清)
- 等呼
- 三
- 官話
- chē
- 粤語
- ce1
- 日本語音
- シャ(漢)(呉)
- 訓
- くるま
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・魚・居』九魚切
- 『集韻・平聲一・魚第九・居』斤於切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・魚第七・見・三居』九魚切
- 聲母
- 見(牙音・全清)
- 官話
- jū
- 粤語
- geoi1
- 日本語音
- キョ(漢)
- コ(呉)
- 訓
- くるま
- 義
- 古音。
- 象棋の車は本音に讀む。
⦅三⦆
- 反切
- 『集韻・平聲一・魚第九・虛』丘於切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・魚第七・溪・三虛』去魚切
- 聲母
- 溪(牙音・次清)
- 日本語音
- キョ(推)
- 訓
- くるま
- 義
- 『集韻』に
車也
とし、『老子・十一』有車之用
を引く。
解字
白川
象形。車の形に象る。籀文の字形には、轅を加へてゐる。
『説文解字』に輿輪の總名なり
とあり、車の全體をいふ。
古音は居、『詩』に居、魚と韻する例が多く、居の義に用ゐることがある。『禮記・禮運』天子以德為車
(天子は德を以て車と爲す)とは、居と爲す意。
藤堂
象形。車輪を軸止めで止めた二輪車を描いたもので、その上に尻を据ゑて乘る。または乘せるものの意。
もと居と同系の言葉。魚韻に讀むことがあるのは、上古音の殘つたもの。
落合
馬車(戰車)を表してをり、馬を除いた車體の象形。甲骨文は、上部に馬に繫ぐ衡(橫木)と、衡と車體を繫ぐ轅があり、下部に車軸と二つの車輪がある。車輪は橫から見た形。車輪の兩側の短線は車輪を車軸に留める轄(くさび)。甲骨文には異體字が多く、人が乘る部分を表現した形や、衡に馬首を繫ぐ軛を示した形、武器の戈と組み合はせた形などがある。また車輪、車軸、轄から成る簡略形もある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- くるま。馬車を指す。車馬とも稱される。《合集》10405・驗辭
甲午、王往逐兕小臣戴車馬、硪⿱兔丂王車、子央亦墜。
- 地名またはその長。殷金文の圖象記號にも見える。《合集》6834・驗辭
旬又一日癸亥、車弗⿻屮戈。之夕垔甲子、允⿻屮戈。
繁雜な字形は東周代まで殘り、『説文解字』に籀文(𨏖)として擧げるが、秦以降の出土資料には見られなくなる。
簡略形は、西周代に車輪を一つに略した字形が作られ、現用の字形の元となつた。現用字形の縱劃は車軸、田は車輪、上下の橫劃は轄に當たる。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は車の形に象る。字形は多く變はり、書き方は固定されず、時に車の輪、輿、軸、軛、轅、衡など全部を描き出す。本義は車輛。金文は通常車を縱に起こして作り、隸變の後に字形は簡化を經たが、金文の縱に起こして作る習慣は繼承されてゐる。按ずるに『説文解字』の籀文「𨏖」は西周金文の變形したもの。小臣宅𣪕の字形を參照のこと(孫詒讓、王國維)。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、車輛を指す。《合集》11452
六車。
- 卜辭中に「車馬」の語が屢々見える。《合集》11450
車馬。
- 地名に用ゐる。《合集》584正甲
才(在)車。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、車輛を指す。番生𣪕に
車電軫
の語があり、古代の車箱底部の周りに用ゐる木の棒で出來た軫(橫木)を指す。 - 轉じて兵車を指す。不𡢁𣪕
女(汝)休、弗㠯(以)我車圅(陷)于艱。
汝は休んで、我が兵車を艱難に陷らすことなかれ、の意。 - 族氏名に用ゐる。父己車鼎
車。
- 人名に用ゐる。車鼎
車乍(作)寶鼎。
金文の旅字は車を聲符とするときがあり、車を直接に旅の省文とするときもある。乍車𣪕乍(作)尊車(旅)寶彝。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、車輛を指す。《上博竹書一・緇衣》
句(苟)又(有)車、必視(見)丌(其)轍。
もし車があれば、屹度その車輪の跡を見附けることができる、の意。 - 「車轘」の語があり、車裂の刑を指す。《清華簡二・繫年》簡12
車轘高之巨(渠)爾(彌)、改立厲公
は、高渠彌に對して車裂の刑を行ひ、改めて厲公を擁立することを言ふ。
屬性
- 車
- U+8ECA
- JIS: 1-28-54
- 當用漢字・常用漢字
- 𨏖
- U+283D6
- 𠦴
- U+209B4
- 车
- U+8F66
関聯字
車に從ふ字を漢字私註部別一覽・車部に蒐める。