尃 - 漢字私註
説文解字
布也。从寸甫聲。
- 三・寸部
康煕字典
- 部・劃數
- 寸部・七劃
『唐韻』『集韻』『韻會』芳蕪切『正韻』芳無切。𠀤與敷同。『說文』尃、布也。从寸甫聲。《徐曰》布以法度也。『玉篇』徧也。『易・說卦』震爲尃。『石經』作旉。又『史記・封禪書』雲旉霧散。
又『集韻』或作溥。『禮・祭義』溥之橫乎四海。《註》讀如尃。
又『集韻』本作佈、佈散也。博古切。或作尃。『正字通』尃有布義、不必改音布也。
通作敷。
音訓
- 音
- フ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・虞・敷』芳無切〉
- 訓
- しく
解字
白川
甫と寸の會意。金文の字形は、苗木の根を包んで、これを持つ形で、土に扶植する意。それで廣く施し行ふ意となる。説文解字に布くなり
とする。
金文の《毛公鼎》に命を尃き、政を尃く
とあつて、敷の初文。
《克鐘》に尃いに命を奠む
といふ。
尃に敷、溥の意があり、その初文と見てよい。
藤堂
寸と音符甫の會意兼形聲。甫は屮(草の芽)と田の會意で、平らに擴がる田。尃は、ぴたりと平らに當てること。敷の原字。
落合
【補註】漢字多功能字庫が尃の甲骨文として擧げる甫と廾に從ふ字を、落合は田と廾に從ふ亡失字(𢌿と隸定)の異體として擧げる。以下はその字についての解説。
𢌿
亡失字。農耕に關する字と思はれるが、甲骨文に原義や成り立ちを明らかにできる記述がない。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 地名またはその長。殷金文の圖象記號にも類似形が見える。《甲骨綴合集》69
貞、[⿱子共]及𢌿微。
- 祭祀名。《殷墟小屯中村南甲骨》468
乙未卜、于庚、[⿱𠔼止]𢌿。
漢字多功能字庫
甲骨文は廾と甫に從ふ。金文は又と甫に從ふ。廾、又は手の形。甫は田中に禾苗ありて生長する形に象る。尃は恐らく耕作する意。甫は聲符で、何琳儀は又を繁化の旁とする。後に又に一點を加へて寸となす。
金文での用義は次のとほり。
- 布くこと、發布、公布を表し、典籍では敷、賦に作る。毛公鼎
庶出入事于外、尃命尃政。
『詩・大雅・蒸民』賦政于外
。 - 勉勵と解き、典籍では薄に作る。叔尸鐘
余既尃乃心
。『廣雅・釋詁』薄、勉也。
- 大なりと釋する。叔尸鐘
尃受天命
。 - 人名に用ゐる。
屬性
- 尃
- U+5C03
- JIS: 2-8-13
關聯字
尃に從ふ字を漢字私註部別一覽・田部・尃枝に蒐める。