又 - 漢字私註

説文解字

又
手也。象形。三指者、手之𠛱多略不過三也。凡又之屬皆从又。
又部

康煕字典

部・劃數
部首

『唐韻』于救切『集韻』『韻會』尤救切『正韻』爰救切、𠀤音宥。『說文』手也。象形。三指者、手之𠛱多、略不過三也。『韻會』偏旁作𠂇

又『廣韻』又、猶更也。

又『韻補』叶夷益切、音亦。復也。『詩・小雅』人之齊聖、飮酒溫克。彼昏不知、壹醉日富。各敬爾儀、天命不又。富音偪。

音訓

イウ(漢) ウ(呉) 〈『廣韻・去聲・宥・宥』于救切〉
また。ふたたび。さらに。て。たすける。ゆるす。

解字

右手の象形での初文。左手の象形は𠂇。篆文は左右對稱。

古く、侑などに用ゐた。假借か、(右)手を以て有し佑けるの意かは、不詳。

字の要素としては手を表し、ときに⺕、𠂇、寸の形となる。

白川

象形。右の手の形を象り、の初文。左向の字(補註: 𠂇)は、の初文。

右は後起の字で、祝禱の器であるを持つ形。

左も後起の字で、呪具であるを持つ形。

又は後に副詞の「また」、動詞の佑助の意に用ゐ、左右の意には用ゐない。

金文では又を左右の右、有無の、保有、敷有の有、また佑助の、侑薦の侑に用ゐる。

詩經・小雅・小宛天命不又(天命ふたたびせず)、『儀禮・燕禮又命之(又之に命ず)は復の意、『禮記・王制』王三又(王三たび又す)はゆるす意。

藤堂

象形。物を庇ふ形をした右の手を描いたもので、の原字。外から輪を掛けたやうに庇ふ()の意を含み、轉じて、輪を掛けて、更にその上に、の意の副詞となる。

落合

偏旁の又

手(手首)の象形。五指が三指に簡略化されてゐる。甲骨文ではに從ふ字はなく、手の意味は、又のほか、手を橫から見た形のに從ふ。

手を使ふ動作を表す字に使はれることが多い。

後には⺕、𠂇、寸などの形に變形してゐるものもある。

單獨字の又

甲骨文は、自分の右手を見た形の指示字で、を表す。また假借して、侑などの意に用ゐる。それぞれ金文以降に字形が分化した。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 右。《殷墟花園莊東地甲骨》126貞、右馬其死。
  2. 軍隊の編成區分。後にいふ右軍に當たる。右師や右旅ともいふ。《合集》33006丁酉貞、王作三師右中左。
  3. ある。肯定の助辭。假借して有の意。《合補》100甲午卜爭貞、貯其有禍。
  4. 神の祐助。假借して祐の意。《甲骨綴合集》58勿呼伐[工口]方、弗其受祐。
  5. 祭祀の汎稱。假借して侑の意。《殷墟小屯中村南甲骨》326丁未卜、侑于嶽、求禾。
  6. 犧牲を捧げること。侑と釋す。《合補》7710癸巳卜卽貞、其侑于妣一牛。
  7. 竝列を表す助辭。數の桁の表示にも用ゐる。《甲骨綴合集》536癸丑卜荷貞、其⿱冖羊又一牛。《甲骨拼合集》195癸卯貞、王侑勺歳三牢羌十又五。
  8. 地名。㞢の字體。《合集》6571貞曰、子商至于㞢、丁作山⿻屮戈。
有祐 (㞢又、又又、又と二の合文)
神の祐助があること。祐有りと讀む説と、有を接頭語とする説がある。《天理大學附屬天理參考館 甲骨文字》468祖乙歳、叀⿱乇口、王受有祐。
有石
占卜用語。吉祥か。有石一橐ともいふ。《合集》13505王有石、在[鹿-比]北東、作邑于之。

有、祐、侑の意には㞢の字體を用ゐることもある。又の異體とも別字の假借とも言はれるが、甲骨文に㞢を手で持つ形の字があるので、後者であらう。字源は明らかではない。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は、右手の形の側面に象り、本義は右手。後に假借して、再、更の意義の又となし、が專ら、右手、左右の右を表す。

甲骨文、金文での用義は次のとほり。

手字條に、甲骨文では手を一般に又につくり、後に又字を多く接續詞に借用するため、字を別につくる、といふ。

㞢の甲骨文は角のある牛の頭の形に象る(黃錫全)。

甲骨文は通じて、又と讀み、早期甲骨文に見え、後期甲骨文では又を用ゐて表す。朱歧祥は㞢と又は同じ字の前と後の書き方であるとする。

金文では讀んで又となす。子黃尊琅九㞢(又)百

後世の字書は多く㞢をの古文とする。『玉篇』㞢、古文之字。

屬性

U+53C8
JIS: 1-43-84

関聯字

又に從ふ字

漢字私註部別一覽・又部に蒐める。

其の他

之の異體字を㞢に作るが、上に述べる㞢とは別字。