屈 - 漢字私註
説文解字
- 屈
無尾也。从尾出聲。九勿切。
- 八・尾部
説文解字注
- 屈
無尾也。『韓非子〔說林下〕』曰「鳥有翢。翢者、重首而屈尾。」『高注淮南』云、屈讀如秋雞無尾屈之屈。『郭注方言』隆屈云屈尾。『淮南〔詮言訓〕』「屈奇之服」許注云「屈、短也。奇、長也。」凡短尾曰屈。『玉篇』巨律切。『玄應書』『廣韵』衢勿切。今俗語尙如是。引伸爲凡短之偁。山短高曰崛。其類也。今人屈伸字、古作詘申、不用屈字。此古今字之異也。鈍筆曰掘筆、短頭船曰撅頭、皆字之假借也。
从尾出聲。九勿切。十五部。按九勿當作衢勿乃合。俗分𡲬屈爲二字、不知屈乃𡲬之隷變。
康煕字典
- 部・劃數
- 尸部・五劃
- 古文
- 𡕜
- 𡲶
『廣韻』區勿切『集韻』『韻會』『正韻』曲勿切、𠀤音詘。〔音1〕『說文』無㞑也。从㞑出聲。又曲也、請也。又『增韻』鬱也、軋也。『正字通』凡曲而不伸者、皆曰屈。『易・繫辭』尺蠖之屈、以求信也。『孟子』威武不能屈。
又作絀。『荀子・非相篇』緩急羸絀。《註》猶屈伸也。
又通作詘。『史記・晏嬰傳』詘於不知已、而信於知己。
又『集韻』『韻會』『正韻』𠀤渠勿切、音掘。〔音2〕竭也、盡也。『前漢・食貨志』賈誼曰、用之無度、則物力必屈。與詘絀𠀤通。
又與倔通。倔彊、梗戾貌。『史記・陸賈傳』乃欲以新造未集之越、屈彊於此。《師古曰》不柔服也。
又『集韻』『韻會』『正韻』𠀤九勿切、音𠜾。〔音3〕地名。晉公子夷吾所居、出良馬。在今河東縣。『左傳・僖二年』屈產之乗。
又姓。楚公族屈原、楚大夫屈宜申。又屈侯、複姓。
又大屈、弓名。『左傳・昭七年』楚靈王享公於新臺、好以大屈、旣而悔、公反之。
又『廣韻』九月切『集韻』『類篇』丘月切、𠀤音闕。〔音5〕『歐陽修・程文𥳑墓銘』不學而剛、有摧必折。毅毅程公、其剛不屈。
又與絀通。『禮・玉藻』君命屈狄。《註》狄、翟也。后夫人之服、刻雉爲五采、子男之妻、受王后之命者、刻繒不畫、故曰屈狄。『周禮』作闕翟。
又叶居詣切、音計。『曹植・王陵贊』從漢有功、少文任氣。高后封呂、直而不屈。
- 部・劃數
- 尸部・九劃
『廣韻』『集韻』𠀤渠勿切、音倔。〔音2〕『埤蒼』短尾犬也。
『正字通』俗屈字。
- 部・劃數
- 尸部・十劃
『廣韻』衢物切、音掘。〔音2〕短尾鳥也。『正字通』同𡲶、省。『說文』屈、本作𡲬。从㞑出聲。凡物之短尾者、皆可曰𡲬。必分訓、𡲬爲短尾鳥、𡲗爲短尾犬、亦泥。
- 部・劃數
- 尸部・十劃
『集韻』屈古作𡲶。註詳五畫。
- 部・劃數
- 夂部八劃
『集韻』屈古作𡕜。註詳尸部五畫。
音訓義
- 音
- クツ(漢) クチ(呉)⦅一⦆
- クツ(漢) ゴチ(呉)⦅二⦆
- クツ(推)⦅三⦆
- キツ(推)⦅四⦆
- クヱツ(推)⦅五⦆
- クヱツ(推)⦅六⦆
- 訓
- かがむ⦅一⦆
- まげる⦅一⦆
- つきる⦅二⦆
- 官話
- qū⦅一⦆
- jué⦅二⦆
- 粤語
- wat1⦅一⦆
- gwat6⦅二⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・物・屈』區勿切
- 『集韻・入聲上・迄第九・屈』曲勿切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・溪三屈』區勿切
- 聲母
- 溪(牙音・次清)
- 等呼
- 三
- 官話
- qū
- 粤語
- wat1
- 日本語音
- クツ(漢)
- クチ(呉)
- 訓
- かがむ
- まげる
- 義
- かがむ。曲がる。頭を下げる。服從する。屈曲。屈伸。屈折。屈從。屈服。
- 曲げる。枉げる。抑へ附ける。屈辱。屈節。屈抑。委屈。冤屈。
- 釋
- 『廣韻』
屈: 拗曲。亦姓。又虜複姓、屈突氏。又羌複姓、有屈男氏。區勿切。三。
- 『集韻』
屈𡕜: 曲勿切。曲也、請也。亦姓。古作𡕜。文十二。
- 『康煕字典』上揭。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・入聲上・迄第九・倔』渠勿切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・羣三倔』具物切
- 聲母
- 羣(牙音・全濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- jué
- 粤語
- gwat6
- 日本語音
- クツ(漢)
- ゴチ(呉)
- 訓
- つきる
- 義
- 盡きる。
- 強い。屈強。倔と通用。
- 釋
- 『集韻』
𡲬屈: 『博雅』短也。一曰無尾。或省。
- 『康煕字典』上揭屈、𡲗、𡲬。
⦅三⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・物・𠀔』九勿切
- 『集韻・入聲上・迄第九・孒』九勿切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・見三𠀔』九勿切
- 聲母
- 見(牙音・全清)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- クツ(推)
- 義
- 姓。
- 地名。
- 釋
- 『廣韻』
屈: 屈産、地名、出良馬。亦姓、楚有屈平。又音詘。
- 『集韻』
𡲬屈: 『說文』無尾也。隷省。又地名。亦姓。
- 『康煕字典』上揭。
⦅四⦆
- 反切
- 『集韻・入聲上・質第五・屈』其述切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・術第二・羣三屈』其述切
- 聲母
- 羣(牙音・全濁)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- キツ(推)
- 義
- 狂ふ。僪に通ず。
- 釋
- 『集韻』
屈僪: 其述切。狂屈、侜張、似人而非也。李頣說。或作僪。文五。
(參: 『莊子集釋・知北遊』)
⦅五⦆
- 反切
- 『集韻・入上・月・闕』丘月切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・月第六・溪三闕』去月切
- 聲母
- 溪(牙音・次清)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- クヱツ(推)
- 義
- 𦁐に同じ。𦁐狄、屈狄あるいは闕翟は、王の后の禮服の一。
- 釋
- 『集韻』
𦁐屈: 𦁐狄、后夫人之服。或作屈。
- 『康煕字典』上揭。
⦅六⦆
- 反切
- 『集韻・入上・月・厥』居月切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・月第六・見三厥』居月切
- 聲母
- 見(牙音・全清)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- クヱツ(推)
- 義
- 地名。
- 釋
- 『集韻』
屈: 屈貉、地名。通作厥。
補注
無尾、短尾、短いの意には、資料によつて示す音が異なる。
- 『說文・尾部』
無尾也。
九勿切⦅三⦆。 - 『玉篇・尾部』
短尾也。
巨律切、⦅四⦆相當か。(篇韻データベースを參照。中國哲學書電子化計劃所載版は豆律切とするが過誤。) - 『集韻』上揭⦅二⦆⦅三⦆。
- 『康煕字典』は⦅一⦆に『說文』を引き、𡲗(短尾の犬)、𡲬(短尾の鳥)に⦅二⦆を示す。
解字
白川
象形。尸は獸の上體の形。出の部分は、尾毛を屈してゐる形。金文及び篆文の形は、共に尾の形に從ふ。
『說文』に尾無きなり。尾に從ひ、出聲。
とするが、聲も合はず、出は屈尾の形。
尾を屈することは屈服の意思表示であるので、屈服、屈從の意となる。
藤堂
尸(尻)と出の會意。からだを曲げて尻を後ろに突き出すことを示す。尻を出せばからだ全體は凹んで曲がることから、屈んで小さくなる、の意となる。
出を音符と考へる説もあるが、從ひがたい。
漢字多功能字庫
金文、小篆は尾に從ひ出聲。屈の本義は無尾あるいは短尾。音は掘。この古義は、北京で話される官話(普通話)では既に求め難いが、粵語では依然として生き生きと保留されてゐる。鉛筆の先が丸くなつたのを、粵人は「屈」と稱する。
- 『南齊書・王僧虔傳』
大明世、常用掘筆書
。 - 『太平御覽』卷五二引『幽明錄』
乘掘頭舟過水。
「掘頭舟」は頭の短い船を指す(裘錫圭)。
「屈擂槌」は物ををすり潰すための鋭利でない槌(槌あるいは擂粉木、杵、ばちの類)のことで、言葉が粗野で向かう見ずであるの比喩。粵語の「屈尾貓」あるいは「屈尾狗」は、尻尾がないか切り落とされた貓や狗を指す。廣東順德地方には更に「屈尾龍拜山」の傳説がある。『抱朴子・仙藥』又千歲燕、其窠戶北向、其色多白而尾掘。
轉じて首尾不全をまた「屈」と稱し、粵語「屈頭巷」は、袋小路、行き止まりを指す。窟字は穴と屈に從ひ、通り拔けて對面に行けない洞穴を表し、屈は音も義も標す。「屈頭掃把」の「屈頭」は箒の穗が長きの使用で脱落することを表し、箒の頭のないことに似てをり、一説に屈を通じて𩑡となし、禿、無髮を表し、禿頭の箒の意。
屈にまた曲がるの義がある。『玉篇・出部』屈、曲也。
事實が捻ぢ曲がり冤屈(不當な扱ひ)のあること、ゆゑに委屈(不當なことに遭つて辛いこと、辛い思ひをさせること)の意を派生する。粵語「屈尾十」は、すぐに考へを變へることを表す。屈はここでも曲がるの意、動物がくるりと廻れば尻尾は曲がり、くるりと廻ることは考へを變へることを表す。時間の短いことを強調する。
秦簡文字は尾に從ひ、あるいは省いて尸に從ひ、小篆の元となる。金文では姓に用ゐる。楚屈子赤角簠蓋楚屈子赤角朕(媵)仲嬭璜飤𠤳(簠)。
『廣韻・物韻』屈、姓、楚有屈平。
『通志・氏族略三』屈氏、羋姓、楚之公族也。莫敖屈瑕食邑於屈、因以為氏。三閭大夫屈平、字原、其後也。
また楚國の月名に用ゐる。
屬性
- 屈
- U+5C48
- JIS: 1-24-94
- 當用漢字・常用漢字
- 𡲗
- U+21C97
- 𡲬
- U+21CAC
- 𡲶
- U+21CB6
- 𡕜
- U+2155C