冰 - 漢字私註
説文解字
仌部仌字條
凍也。象水凝之形。凡仌之屬皆从仌。
- 十一・仌部
説文解字注
凍也。仌凍二篆爲轉注。絫𧦝之曰仌凍。如『〔禮記〕月令』冰凍消釋、是也。象水冰之形。冰各本作凝。今正。謂象水初凝之文理也。筆陵切。六部。凡仌之屬皆从仌。
仌部冰字條
水堅也。从仌从水。
- 註に
臣鉉等曰、今作筆陵切,以爲冰凍之冰。
といふ。 - 十一・仌部
俗𣲝从疑。
- 別條に揭出する。
説文解字注
水堅也。『易・象傳』〔註1〕初六履霜、陰始凝也、馴致其道、至堅冰也。古本當作、陰始冰也、至堅仌也。『〔爾雅〕釋器』冰、脂也。孫本冰作凝。按此可證『詩〔衛風・碩人〕』膚如凝脂、本作冰脂。以冰代仌、乃別製凝字。經典凡凝字皆冰之變也。从水仌。會意。魚陵切。六部。
俗冰。从疑。以雙聲爲聲。
- 註1: 『易・坤・初六』の經に
履霜、堅冰至。
とあり、象傳に履霜堅冰、陰始凝也。馴致其道、至堅冰也。
とある。
康煕字典
- 部・劃數
- 冫部四劃
- 古文
- 𣲝
『唐韻』筆陵切『集韻』『韻會』悲陵切、𠀤逼平聲。『說文』本作仌。《徐曰》今文作冰。『韓詩』說冰者、窮谷隂氣所聚、不洩、則結而爲伏隂。『禮・月令』孟冬水始冰、仲冬冰益壯、季冬冰方盛。水澤腹堅、命取冰、冰以入。『周禮・天官』淩人共冰。秋刷冰室、冬藏春啓、夏頒冰。
又『爾雅・釋器』冰、脂也。《註》莊子云、肌膚若冰雪。冰雪、脂膏也。《疏》脂膏一名冰脂。
又矢筩蓋曰冰。『左傳・昭二十五年』公徒釋甲執冰而踞。《註》冰、櫝丸蓋。《疏》盛弓者也。或云、櫝丸是箭筩、其蓋可以取飮。
又『集韻』『正韻』𠀤魚陵切、音凝。同凝。『正韻』古文冰作仌、凝作冰。後人以冰代仌、以凝代冰。
又『集韻』讀去聲、逋孕切。『唐書・韋思謙傳』涕泗冰須。《註》謂涕著須而凝也。『李商隱詩』碧玉冰寒漿。
又『韻補』叶筆良切、音近浜。『𨻰琳・大荒賦』心慇懃以伊感兮、愵永思以增傷。悵太息而攬涕、乃揮雹而淚冰。
- 部・劃數
- 部首
『唐韻』筆陵切『集韻』『韻會』悲陵切、𠀤逼平聲。『說文』凍也。『玉篇』冬寒水結也。『韻會』本作仌、今文作冰。仌字偏旁書作冫。
- 部・劃數
- 人部二劃
『廣韻』筆陵切『集韻』悲凌切。𠀤冰本字。『說文』象水凝之形。本作仌、旁省作冫。○按『說文』仌自爲部、今依【正字通】列人部。
- 部・劃數
- 水部(一劃)
俗冰字。
異體字
『康煕字典』に冰の古文として擧げるが、見出し字には採らず。
音訓
- 音
- ヒョウ(漢、呉) 〈『廣韻・下平聲・蒸・冫』筆陵切〉[bīng]{bing1}
- 訓
- こほり。こほる。ひ。
解字
白川
象形。正字は仌に作り、冰結の象形。
『説文解字』に凍るなり。水の冰るの形に象る。
(段注本)といふ。また次條に冰を出して水堅きなり。仌に從ひ、水に從ふ。
とするが、この二字を別字とするのは疑問。
齊器の《陳逆𣪘》に「冰月」の語があり、その字は水旁に冰塊の小點を加へた形。
また『説文解字』に凝、俗に冰は疑に從ふ。
と凝と冰を一字とするが、漢碑に「冰霜」と「凝成」の字を區別して用ゐる。
寒は仌に從ふ形の字であり、『蛾術篇・說字十五』のやうに冰を後起の字とする説もあるが、冰は既に齊器の金文に見えてゐる字形。
藤堂
冫
象形。冰を透かしたとき見える筋目を描いたもの。冰の原字。單獨で使ふことはない。金文はそれに水印を添へたもの。冰、冷たさなどの意を表す。
冰
水と音符冫の會意兼形聲。もと仌と書き、冰の割れ目を描いた象形字。それが冫の形となつた。
漢字多功能字庫
金文は水と二つの太い點に從ふ。二つの太い點は水が凝固した後の形態に象る。水の凝固の過程を冰ると稱し、凝結して成つた個體の水をまた冰と稱する。
冰字の從ふ二つの太い點は、小篆に多く仌に作る。仌を今は冫に作り、部首に用ゐる。古代、仌は冰の初文で、後に水を加へてその義を示す。桂馥『說文解字義證』の引く顧炎武に仌於隸、楷不能獨成文、故後人加水焉。
とある。按ずるに金文に既に仌と水に從ふ冰字があり、ただ隸書、楷書に至つてやつと冰が通用され仌は廢棄された。
『説文解字』は凝を冰の重文に擧げ、段注に以冰代仌、用別製凝字。經典凡凝字皆冰之變也。
といふ。按ずるに冰は凝の本字で、後に冰凍と凝固の義を分化し、ゆゑに別に疑に從ふ凝字を作つて凝固の過程を表す。
金文での用義は次のとほり。
- 「冰月」の語があり、齊國の月名で、十一月を指す。齊では十一月に至つて冰結が始まることによる(吳式芬、郭沫若)。陳逆𣪕
冰月丁亥陳氏裔孫逆。
- 人名に用ゐる。二年上郡守冰戈
上郡守冰造。
支那近代の著名な學者の梁啟超は任公と號し、また飲冰室主人と號した。「冰室」をまた「飲冰室」と稱し、廣東地區の清涼飲料やアイスキャンディーなどの冷たい飲み物や食べ物を小賣りする店舖のことで、茶餐廳の前身。「飲冰」の出典は『莊子・人間世』今吾朝受命而夕飲冰、我其內熱與。
「飲冰室」は梁啟超の天津における二層の洋館の名稱で、梁啟超はそれを借りて、己の當時の國運に對する内熱の如き、ただ冰を飲むことでのみ解ける憂慮を比喩した。
屬性
- 冰
- U+51B0
- JIS: 1-49-54
- 冫
- U+51AB
- JIS: 1-49-50
- 仌
- U+4ECC
- 氷
- U+6C37
- JIS: 1-41-25
- 當用漢字・常用漢字
- 𣲝
- U+23C9D
關聯字
仌に從ふ字を漢字私註部別一覽・仌部に蒐める。