考 - 漢字私註
説文解字
老也。从老省、丂聲。
- 八・老部
説文解字注
老也。凡言壽考者、此字之本義也。引伸之爲成也。『〔詩・衛風〕考槃』『〔同・大雅〕江漢』『〔同・周頌〕載芟』『〔同〕絲衣』《毛傳》是也。凡『禮記』皇考、『春秋〔隱五年〕』考仲子之宫、皆是也。又假借爲攷字。『〔詩・唐風〕山有櫙』弗𡔷弗考、《傳》曰、考、擊也、是也。凡言考挍、考問字皆爲攷之假借也。从老省、丂聲。苦浩切。古音在三部。
康煕字典
- 部・劃數
- 老部(零劃)
- 古文
- 攷
『唐韻』『廣韻』『集韻』『類篇』『韻會』『正韻』𠀤苦浩切、音栲。『說文』老也。从老省、丂聲。『說文・序』轉注者、建類一首、同意相受、考老是也。『佩觿』考从丂。丂、苦杲反。老从匕。匕、火霸反。裴務齊【切韻】序云、左回右轉、非也。『毛晃・增韻』老字下从匕、考字下从丂、各自成文、非反匕爲丂也。『書・洪範』五曰考終命。『詩・大雅〔棫樸〕』周王壽考。
又『爾雅・釋親』父爲考。『釋名』父死曰考。考、成也。亦言槁也、槁于義爲成、凡五材、膠漆陶冶皮革、乾槁乃成也。『易・蠱卦』有子考無咎。『禮・曲禮』死曰考。
又『廣雅』考、問也。『易・復卦』敦復無悔、中以自考也。『詩・大雅』考卜維王。《傳》考、猶稽也。
又『書・周官』考制度于四岳。《註》考正制度。
又『詩・衞風〔考槃〕』考槃在㵎。《傳》考、成也。『左傳・隱五年』考仲子之宮。《註》成仲子之宮。
又『詩・唐風〔山有樞〕』子有鐘鼓、弗鼓弗考。《傳》考、擊也。
又『淮南子・汜論訓』夏后氏之璜、不能無考。《註》考、瑕釁。
又『楚辭・九歎』身憔悴而考旦兮。《註》考、猶終也。
又姓。『廣韻』出何氏姓苑。
又『韻補』叶去九切。『邊讓・章華賦』衆變已盡、羣樂旣考。攜西子之弱腕兮、援毛嬙之素肘。
又『韻補』叶口舉切。『易林』周旋歩驟、行中規矩。正恩有節、延命壽考。
- 部・劃數
- 老部(零劃)
『字彙補』俗考字。
音訓
- 音
- カウ(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・晧・考』苦浩切〉[kǎo]{haau2}
- 訓
- ちち(皇考、祖考)。おいる。かんがへる。たたく。なす。
解字
白川
形聲。聲符は丂。
『説文解字』に老なり
、また老字條に考なり
とあつて互訓。
『禮記・曲禮下』に生曰父、曰母、曰妻、死曰考、曰妣、曰嬪。
(生には父と曰ひ、母と曰ひ、妻と曰ひ、死には考と曰ひ、妣と曰ひ、嬪と曰ふ)とあり、父母を祀るときは考妣といふ。金文に文考、皇妣のやうにいひ、字はときに丂に作る。
考案、考驗の字はもと校の字義。
古音は舅、𣪘と近く、『詩・大雅・江漢』作召公考
(召公の考を作る)は召公の𣪘を作るの意で、その義は假借。
また『周禮・考工記』は「攷工記」の意。
藤堂
老(長髮の老人)の略體と丂の會意兼形聲。丂は丨線が上につかへて曲がりくねつた形。考は、腰の曲がつた老人。
かんがへるの意に用ゐるのは、攷に當てた用法で、曲がりくねりつつ、奧まで思ひ進むこと。
落合
金文で老から派生した同源字。字形、字音、字義のいづれも類似する。原義は死去した父親。老字の、老人が持つ杖の部分を、聲符の丂に置換した形聲字。
漢字多功能字庫
考の本義は父親。西周早期に老字を用ゐてその語義を表した。「年老いる」と「父親」の二つの言葉が同じく老字で表示されてゐたため、兩者を區別するために、老に聲符の丂を加へ、考字を分化した(林澐)。
老についての釋義には、合理的な二説がある。
第一の説。古文字では、一つの形を多用する情況があり、言ひ換へると、一つの字形で二つの異なる言葉を表示できる。西周早期金文では、老は「年老」と「父親」の二つの異なる概念を表すのに用ゐられた。老と考を區別するため、老に聲符の丂を加へた。耳尊を見よ。老に從ひ丂聲の考字は一般に匕の形(杖の形に象る)を省略する。それゆゑ『説文解字』は考字が老の省に從ふとする。
第二の説。『說文解字・敘』で六書のうちの「轉注」に論及するとき、老、考の二字を例に擧げ、「建類一首、同意相受」の語を加へて説明してゐる。しかし、結局のところ二字にいかなる關係があるのか、詳細に説明しなかつたのみならず、二千年の爭議を經ても、いまなほ定論は無い。近年、孫雍長は清代の儒學者の江聲、孔廣居、鄭子尹の説に據り、更に發展させて、「轉注」の構義機制(仕組み)について見識のある新しい解を示した。孫氏の見解によると、所謂「轉注」は、其の實は一より多種の用途を有すべき「轉注原體字」に出發し、そのまさに表現せらるべき事物の「類別」に基いて「義符」を加へることで、「原體字」と「轉注字」の用法の混淆を避けることができる。彼は老と考を例として、丂は「原體字」で、もとは斧の柄を指すが、「父考(父親)」を含む多くの用途に借用される。この意義の丂を區別するため、老といふ「類首」が義符として丂に加へられ、考字が作られる、と説明する。
按ずるに、早期金文では丂を以て父親の語を表してゐるので、この説明には根據がある。しかし、前説(第一の説)は、西周早期金文で老を以て考を表してゐることを更によく説明してゐる。
金文で考字は父親を指す。
- 兮仲鐘
其用追孝于皇考己白(伯)。
は、この鐘を用ゐて父親の己伯を追敬するの意。『爾雅・釋親』父為考。
- あるいは考は『禮記・曲禮』に
生曰父、死曰考
とあるやうに、逝世した父親を指す。郝懿行『爾雅義疏』は曾てこの説に反駁し斥け、引用した。『方言』云、「南楚瀑洭之閒謂婦妣曰母姼、稱婦考曰父姼。」郭注「古者通以考妣為生存之稱。」
今按ずるに「父考」は多く已に逝世した父親を指すが、例外もある。 - 金文では「壽考」、「文考」、「祖考」などの語が見え、考を均しく本義に用ゐ、父親を指す。
ほか、金文での考の用義は次のとほり。
- 考量(思慮)の意に借用する。中山王鼎
侖(論)其𢛳(德)、省其行、亡(無)不順道、考厇(度)隹(唯)型。
は、彼の德行を評し、彼の行爲を省みるに、道德に從はざることはなく、思慮推測は手本と一致してゐる、の意。 - 字を用ゐて孝となす。孟姬脂𣪕
其用追考(孝)于其辟君武公。
- 人名に用ゐる。伯考父鼎
伯考父乍(作)寶鼎。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 考を讀んで巧となす。《上博竹書一・孔子詩論》簡8
〈少(小)弁〉、〈考(巧)言〉、則言讒人之害也。
按ずるに〈小弁〉、〈巧言〉はいづれも『詩經・小雅』の篇名。 - 讀んで孝となす。《上博竹書四・內禮》簡8
君子㠯(以)城(成)丌(其)考(孝)。
は、君子は此れを以てその孝心を成就するの意。
屬性
- 考
- U+8003
- JIS: 1-25-45
- 當用漢字・常用漢字
- 考󠄁
- U+8003 U+E0101
- CID+13445
- 考󠄃
- U+8003 U+E0103
- MJ020754
- 𦒱
- U+264B1