巠 - 漢字私註
説文解字
水脈也。从川在一下。一、地也。𡈼省聲。一曰水冥坙也。
- 十一・川部
古文巠不省。
説文解字注
水𧖴也。巠之言濥也。濥者、水𧖴行地中濥濥也。故从川在地下。从川在一下。一、地也。會意。𡈼省聲。古靈切。十一部。一曰水冥巠也。冥巠、水大皃。今字作溟涬。司馬注莊曰、涬溟、自然氣也。
古文巠不省。
康煕字典
- 部・劃數
- 巛部・四劃
- 古文
- 𡿱
『唐韻』古靈切『集韻』堅靈切、𠀤音經。『說文』水脈也。从巛在一下。一、地也。𡈼省聲。『廣韻』直波爲巠。
又『玉篇』水冥巠也。
又『集韻』古頂切、經上聲。義同。
又『類篇』乎經切、婞平聲。地名。在趙。通作陘。
又『集韻』下頂切、音婞。義同。
- 部・劃數
- 巛部・五劃
『說文』古文巠字。註詳四畫。
- 部・劃數
- 備考・土部
『篇海類編』古靈切、音經。直波曰坙。○按卽坙字之譌。
音訓
- 音
- ケイ(漢) キャウ(呉) 〈『廣韻・下平聲・靑・經』古靈切〉[jīng]{ging1}
解字
白川
織機のたて絲をかけた形に象る。經の初文。
『説文解字』に字を水部(補註: 實は川部)に屬して水脈なり
とし、また古文の字形を錄して壬聲の字とするが、形義ともに誤る。
下部の工の部分は絲を卷き附けた橫木の形。的杠といはれるもの。
金文に巠を經の意に用ゐ、《大盂鼎》に德巠を敬雝す
とあるのは「德經」の意。
すべて垂直にして上下の緊張を保つものを巠といふ。
藤堂
象形。機織りの上下の枠の間に三本の經絲が眞つ直ぐに張られた姿を描いた字。真つ直ぐに通る意を含み、經(眞つ直ぐにとほる經絲)の原字。
落合
象形。機(機織りの道具)に經絲を張つた樣子を表してをり、原義は「たていと」。西周代には意符として糸を加へた繁文の經も作られてゐる。
東周代に異體が多く、下部を聲符の𡈼に替へたものがある。𡈼の上古音は巠、經と同じく耕部と推定されてゐる。この構造の異體は、『説文解字』も古文として擧げる。
後には『説文解字』の解釋に據つて、「水脈」の意味で使はれてゐる。
漢字多功能字庫
金文は紡織機の上の縱向きの絲に象り、經の初文。本義は垂直な經絲(林義光、郭沫若)。一説には血脈と同じやうに分布する水流に象るとする(『説文解字』、湯可敬)。《段注》巠之言濥也。濥者、水𧖴行地中濥濥也。故从川在地下。
我等は兩説いづれにも一定の道理があり、ひとまづ兩説が竝存すると認める。巠より派生した徑あるいは逕は『説文解字』の説を支持し、經字は郭の説を支持する。
戰國文字では下部が𡈼に變形し、巠の聲符となる。
金文での用義は次のとほり。
- 遵循(從ひ行ふこと)を表す。毛公鼎
余唯肇巠(經)先王命
は、我は先王の命令に遵ふの意(陳初生)。一説に遂行、實踐を表し、先王の命令を實行するの意。 - 經常(平常、通常)を表す。大克鼎
巠(經)念厥聖保且(祖)師華父
は、いつも彼の聖明な祖先の師華父を思ひ念ずるの意。 - 施行、實踐を表す。晉姜鼎
巠(經)雝(擁)明德
は、明るい德行を實踐し擁護するの意。 - 涇の通假字となし、涇水(渭水の支流)を表す。克鐘
王親令克遹巠(涇)東至于京𠂤(師)。
周王は親ら克に命じて涇水東部を巡視し京師に至らしめる、の意。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 輕の通假字となす。《郭店楚簡・唐虞之道》簡18-19
方才(在)下立(位)、不以匹夫為巠(輕)。
は、身が卑しいと雖も、匹夫は責を有すの意(參: 劉釗)。 - 勁の通假字となす。《郭店簡・尊德義》簡13
教以豊(禮)、則民果以巠(勁)。
は、禮儀を教へれば、百姓は果敢で強勁になるだらう、の意。
漢帛書でも輕の通假字となす。《馬王堆・老子甲本》第83行民之巠(輕)死、以其求生之厚也、是以巠(輕)死。
(補註: 『老子・第七十五章』相當)
屬性
- 巠
- U+5DE0
- JIS: 2-8-75
- 𡿱
- U+21FF1
- 坙
- U+5759