它 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
虫也。从虫而長。象冤曲𠂹尾形。𠂹各本作垂。今正。𠂹者、艸木華葉𠂹也。引申爲凡物下𠂹之偁。垂者遠邊。非其義。冤曲者、其體。垂尾者、其末。象其臥形、故詘尾而短。象其上冤曲而下垂尾、故長。詘尾謂之虫。垂尾謂之它。它與𠂹古音同也。『詩〔小雅・斯干〕』維虺維蛇、女子之祥。『〔國語〕吳語』爲虺弗摧、爲蛇將若何。虺皆虫之叚借。皆謂或臥或垂尾耳。臥者較易制。曳尾而行者難制。故曰爲虺弗摧、爲蛇將若何也。託何切。十七部。今人蛇與它異義異音。蛇、食遮切。
上古艸凥患它。故相問無它乎。上古者、謂神農以前也。相問無它、猶後人之不恙無恙也。語言轉移、則以無別故當之。而其字或叚佗爲之。又俗作他。經典多作它。猶言彼也。許言此以說叚借之例。『〔詩・召南〕羔羊・傳』曰、委蛇、行可從迹也。亦引申之義也。
凡它之屬皆从它。
它或从虫。它篆本以虫篆引長之而巳。乃又加虫左旁。是俗字也。
康煕字典
- 部・劃數
- 宀部・二劃
『玉篇』古文佗字。佗、蛇也。『說文』虫也。本作它、从虫而長。上古艸居、慮它、故相問無它乎。
又『玉篇』非也、異也。『正字通』與佗他同。『易・比卦』終來有它吉。『禮・檀弓』或敢有它志、以辱君義。又『揚子・法言』適堯舜文王爲正道、非堯舜文王爲它道、君子正而不它。
又『正譌』它、虫之大者。象寃曲𠂹㞑形。今文加虫作蛇、食遮切與托何切、二音通用。
音訓
- 音
- タ(漢、呉) 〈『廣韻・下平聲・歌・佗』託何切〉[tā]{taa1/to1}
- 訓
- へび。ほか。
解字
白川
象形。頭の大きな蛇の形で、蛇の初文。
『説文解字』に虫なり。虫に從ひて長し。冤曲垂尾の形に象る。
とし、上古、艸居して它を患ふ。故に相ひ問ひて它無きかといふ。
とあり、のち「恙無きか」といふのと同じ語。
卜辭に災禍の有無を問うて「⿱止它亡きか」、また「父乙は王に⿱止它するか」のやうに、祟と同じ意に用ゐる。祟は呪靈を持つ獸の象形字。⿱止它、祟いづれも、その呪靈によつて災禍を加へうるものと考へられた。
字はまた也、它(補註: ママ)に作り、它は金文や古籍に、他の初文として用ゐる。
藤堂
象形。毒蛇を描いたもの。古代には毒蛇が多かつたので、安否を尋ねるとき「無它乎」ときいた。轉じて「別條ないか」の意となり、そこから它は別のこと、ほかの、などの意となつた。
落合
虫から派生した同源字。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は蛇に象り、蛇の初文。後に借りて三人稱代名詞となす。
金文の它字の中間の縱劃は甲骨文の蛇身の模樣を簡化したもの。この縱劃を省くのは比較的晩期の書き方。古文字の它、也はいづれも蛇に象る。甲骨文、金文の它の身體の部分は比較的太く、也の蛇身は比較的細いことで分別する(參: 裘錫圭)。楷書は蛇頭が宀に變はり、蛇身が匕に變はる(沈培)。
後に、三人稱代名詞の它に借用されたため、它に虫を加へて蛇の本義を表す。しかるに它を三人稱代名詞に借用する所以は、其の實單純に同音であるからではなく、實は意義上の引伸の關係があり、『説文解字』の説明に手掛かりを見出すことができる。『説文解字』上古艸居、患它、故相問無它乎。
古人の居所は草に近く、蛇を恐れてゐたので、互ひに相見えると、「無它乎」と尋ねた。「有它」、「無它」は人と人とが相尋ねる對象、話題となつたので、它は段々と一般的な意義の三人稱代名詞へと轉化し、それが後世では它の主要な意義となつた。代名詞の它は、其它の它で、現代漢語「其他」の他は本來蛇の初文の它を假借して表した(裘錫圭)。『詩・小雅・鶴鳴』它山之石、可以攻玉。
この它は其他の他で、唐初に至つて初めて確かに人稱代名詞の他に發展した。『寒山詩集』可貴天然物、覓他無伴侶、覓他不可見、出入無門戶。
(參: 郭錫良)古くは三人稱代名詞に男、女、物の分別はなく、他と它は古い漢語では同じ語を表した。現代漢語は英語の影響を受け、他は男性を指し、她は女性を指し、它は物を指す。三人稱單數を指すのに他を用ゐるのは官話や書面語で、粵語の佢、閩語の伊のやうに、官話以外の方言では少なからず三人稱單數に他を用ゐない。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 蛇を表す。《合集》20332
丙戌卜、三十它(蛇)
。 - 人名、地名に用ゐる。
金文での用義は次のとほり。
- 其他、別人を表す。羌伯簋
它邦
は他國、別國のこと。」。 - 匜の通假字となす。白正父匜
乍(作)旅它(匜)
。匜は水器。隨行に用ゐる(?)匜を作ることを表す。
戰國文字での用義は次のとほり。
- 蛇を表す。
- 《郭店簡・老子甲》簡33
螝(蝟)蠆蟲它(蛇)弗蠚
は、虺蠆蟲蛇が刺さたり咬んだりしないことを表す。 - 《上博竹書二・容成氏》簡20
南方之旗以它(蛇)
は、南方の旗(の圖案)に蛇を用ゐることをいふ。
- 《郭店簡・老子甲》簡33
- 其他、他人を表す。
- 《上博竹書三・周易》簡9
冬(終)逨(來)又(有)它吉
は、つひにはその他の人が吉を得るだらう、の意(季旭昇)。 - 《上博竹書七・吳命》簡8
以陳邦非它也
。
- 《上博竹書三・周易》簡9
- 施の通假字となす。
- 《郭店簡・忠信之道》簡7-8
君子丌(其)它(施)也忠
の施は恩惠を表し、君子は恩を施し忠實で情に厚いの意。 - 《郭店簡・六德》簡14
因而它(施)錄(祿)安(焉)
は爵祿を布施することを表す。 - 《上博二・民之父母》簡12
它(施)﨤(及)子孫
は、子孫へ繼續するの意。 - 《上博二・民之父母》簡13
它(施)﨤(及)四國
の四國は四方、四方へと伸びるの意。
- 《郭店簡・忠信之道》簡7-8
屬性
- 它
- U+5B83
- JIS: 1-53-64
關聯字
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