它 - 漢字私註

説文解字

它

虫也。从而長、象冤曲垂尾形。上古艸居患它、故相問無它乎。凡它之屬皆从它。託何切。

十三它部
蛇

它或从臣鉉等曰、今俗作食遮切。

別條に揭出する。

説文解字注

它

虫也。从虫而長。象冤曲𠂹尾形。𠂹各本作垂。今正。𠂹者、艸木華葉𠂹也。引申爲凡物下𠂹之偁。垂者遠邊。非其義。冤曲者、其體。垂尾者、其末。虫象其臥形、故詘尾而短。它象其上冤曲而下垂尾、故長。詘尾謂之虫。垂尾謂之它。它與𠂹古音同也。『詩〔小雅・斯干〕』維虺維蛇、女子之祥。『〔國語〕吳語』爲虺弗摧、爲蛇將若何。虺皆虫之叚借。皆謂或臥或垂尾耳。臥者較易制。曳尾而行者難制。故曰爲虺弗摧、爲蛇將若何也。託何切。十七部。今人蛇與它異義異音。蛇、食遮切。

上古艸凥患它。故相問無它乎。上古者、謂神農以前也。相問無它、猶後人之不恙無恙也。語言轉移、則以無別故當之。而其字或叚爲之。又俗作。經典多作它。猶言彼也。許言此以說叚借之例。『〔詩・召南〕羔羊・傳』曰、委蛇、行可從迹也。亦引申之義也。

凡它之屬皆从它。

蛇

它或从虫。它篆本以虫篆引長之而巳。乃又加虫左旁。是俗字也。

康煕字典

部・劃數
宀部・二劃

『玉篇』古文字。佗、蛇也。『說文』虫也。本作它、从虫而長。上古艸居、慮它、故相問無它乎。

又『玉篇』非也、異也。『正字通』與佗同。『易・比卦』終來有它吉。『禮・檀弓』或敢有它志、以辱君義。又『揚子・法言』適堯舜文王爲正道、非堯舜文王爲它道、君子正而不它。

又『正譌』它、虫之大者。象寃曲𠂹㞑形。今文加虫作、食遮切與托何切、二音通用。

音訓

タ(漢、呉) 〈『廣韻・下平聲・歌・佗』託何切〉[tā]{taa1/to1}
へび。ほか。

解字

白川

象形。頭の大きな蛇の形で、の初文。

『説文解字』に虫なり。虫に從ひて長し。冤曲垂尾の形に象る。とし、上古、艸居して它をうれふ。故に相ひ問ひて它無きかといふ。とあり、のち「恙無きか」といふのと同じ語。

卜辭に災禍の有無を問うて「⿱止它たたりきか」、また「父乙は王に⿱止它するか」のやうに、祟と同じ意に用ゐる。祟は呪靈を持つ獸の象形字。⿱止它、祟いづれも、その呪靈によつて災禍を加へうるものと考へられた。

字はまた也、它(補註: ママ)に作り、它は金文や古籍に、の初文として用ゐる。

藤堂

象形。毒蛇を描いたもの。古代には毒蛇が多かつたので、安否を尋ねるとき「無它乎」ときいた。轉じて「別條ないか」の意となり、そこから它は別のこと、ほかの、などの意となつた。

落合

から派生した同源字。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は蛇に象り、の初文。後に借りて三人稱代名詞となす。

金文の它字の中間の縱劃は甲骨文の蛇身の模樣を簡化したもの。この縱劃を省くのは比較的晩期の書き方。古文字の它、也はいづれも蛇に象る。甲骨文、金文の它の身體の部分は比較的太く、也の蛇身は比較的細いことで分別する(參: 裘錫圭)。楷書は蛇頭が宀に變はり、蛇身が匕に變はる(沈培)。

後に、三人稱代名詞の它に借用されたため、它にを加へて蛇の本義を表す。しかるに它を三人稱代名詞に借用する所以は、其の實單純に同音であるからではなく、實は意義上の引伸の關係があり、『説文解字』の説明に手掛かりを見出すことができる。『説文解字』上古艸居、患它、故相問無它乎。古人の居所は草に近く、蛇を恐れてゐたので、互ひに相見えると、「無它乎」と尋ねた。「有它」、「無它」は人と人とが相尋ねる對象、話題となつたので、它は段々と一般的な意義の三人稱代名詞へと轉化し、それが後世では它の主要な意義となつた。代名詞の它は、其它の它で、現代漢語「其他」のは本來蛇の初文の它を假借して表した(裘錫圭)。『詩・小雅・鶴鳴』它山之石、可以攻玉。この它は其他の他で、唐初に至つて初めて確かに人稱代名詞の他に發展した。『寒山詩集』可貴天然物、覓他無伴侶、覓他不可見、出入無門戶。(參: 郭錫良)古くは三人稱代名詞に男、女、物の分別はなく、他と它は古い漢語では同じ語を表した。現代漢語は英語の影響を受け、他は男性を指し、她は女性を指し、它は物を指す。三人稱單數を指すのに他を用ゐるのは官話や書面語で、粵語の佢、閩語の伊のやうに、官話以外の方言では少なからず三人稱單數に他を用ゐない。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

戰國文字での用義は次のとほり。

屬性

U+5B83
JIS: 1-53-64

關聯字

它に從ふ字を漢字私註部別一覽・它部に蒐める。