屯 - 漢字私註
説文解字
難也。象艸木之初生。屯然而難。从屮貫一。一、地也。尾曲。『易』曰、屯、剛柔始交而難生。
- 一・屮部
説文解字注
難也屯。『韵會』有。象艸木之初生。屯然而難。从屮貫一屈曲之也。一、地也。此依『九經字㨾』、『衆經音義』所引。『說文』多說一爲地、或說爲天。象形也。屮貫一者、木剋土也。屈曲之者、未能申也。《乙部〔乙字條〕》曰、春艸木冤曲而出、陰气尙彊、其出乙乙。屯字从屮而象其形也。陟倫切。十三部。『易』曰、屯、剛柔始交而難生。『周易・彖傳』文。『左傳〔閔元年〕』曰、屯固比入。『序卦傳』曰、屯者、盈也。不堅固、不盈滿。則不能出。
康煕字典
- 部・劃數
- 屮部(一劃)
『集韻』『韻會』𠀤株倫切、音肫。『說文』難也。象艸木之初生、屯然而難。从屮貫一。一、地也。尾曲。『玉篇』萬物始生也。
又『廣韻』厚也。『易・屯卦』屯、剛柔始交而難生。
又屯邅、難行不進貌。『易・屯卦』屯如邅如。別作迍。
又『增韻』吝也。『易・屯卦』屯其膏。
又『廣韻』『集韻』徒渾切『正韻』徒孫切、𠀤音豚。聚也、勒兵而守曰屯。『前漢・趙充國傳』分屯要害。
又兵耕曰屯田。『周禮・冬官』有屯部、今曰屯田司。
又姓、三國蜀漢法部尚書屯度。
又屯留、縣名、在上黨。
又『集韻』徒困切、音頓。亦姓。『風俗通』混屯、太昊之良佐、子孫因以爲氏。
又叶徒沿切、音田。『馬融・廣成頌』校隊案部、爲前後屯。甲乙相伍、戊己爲堅。
音訓・用義
- 音
- (1) トン(漢) 〈『廣韻・上平聲・䰟・屯』徒渾切〉[tún]{tyun4}
- (2) チュン(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・諄・屯』陟綸切〉[zhūn]{zeon1}
- 訓
- (1) あつまる。たむろする(駐屯)。
- (2) なやむ(屯難)
本邦では質量などの單位トンに當てる。あるいは噸や瓲を用ゐる。支那では噸を、あるいはその簡体字として吨を用ゐる。
解字
白川
象形。織物の緣飾りの形で、純の初文。屯は緣の絲を房飾りのやうに結んだ形。
『説文解字』に難むなり。艸木の初めて生じ、屯然として難むに象る。屮(艸の初生)の一を貫くに從ふ。一は地なり。尾曲る。
とし、『易・屯』の文を引く。『易』によつて文を解くものであるが、金文の字形は織物の緣飾りとして、絲を集めて結んだ形。
金文に字を「玄衣黹屯」、「康右(祐)屯(純)魯」のやうに用ゐ、「黹屯」は「黻純」、縫ひ取りの緣飾りのあることをいふ。織物では織絲を集め束ねて作るので、屯束、屯集の意がある。
屯難の義は引伸、字形は草の初生とは關係がない。
藤堂
一と屮、または屮と・印の會意。ずつしりと生氣を籠めて地上に芽を出さうとして、出惱むさま。一印は地面を、・印は籠もる意を示す。
春はもと日と屯に從ひ、生氣の下に籠もる季節のこと。
落合
純(緣飾り)の象形とする説もあるが、甲骨文にはその用法が確認できない。甲骨文では春の初文に使はれてをり、木の芽の象形とする説が妥當であらう。但し單獨では原義での用例がない。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 動詞。軍事攻撃の意。《合補》11242
甲戌王卜貞、今禍巫九…⿱雨龜。屯盂方、率伐。
- 敵対勢力を捕らへたもの。後代と同じく軍隊の意味とする説もあるが、祭祀犧牲の記述にしか見えず、詳細不明。《殷墟小屯中村南甲骨》319
辛…卜、今日辛、⿰奚戌屯。
- 牛骨の左右一對の意。これも假借の用法か。貢納の記錄に記される。《合補》495・貢納記錄
癸卯、婦井示四屯。
- 祭祀名。《屯南》3004
叀新稈屯、用上甲、有正。
- 人名。第一期(武丁代)。《合集》14201
庚午卜内、屯呼步。
- 春の略體。
- 屯日
- 時間帶を指す語。終日や湄日と同じやうに使はれてをり、「一日中」の意とする説が有力。《屯南》2341
王其田于刀、屯日亡災、泳王。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、構形不明。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 卜骨の單位に用ゐ、「一屯」は一對、牛の肩胛骨左右各一塊を指す。《合集》3286臼
癸卯帚(婦)井示四屯。
- 讀んで春となす。《合集》9652
今屯(春)受年。
- 「屯日」は全日、整日(一日中)を表す。《屯南》2341
王其田于乙屯日亡災。
「屯日亡災」は全日無災のこと。
金文での用義は次のとほり。
- 厚、大を表し、典籍に純に作る。秦公鐘
以受大福、屯魯多釐
は、魯を讀んで嘏となし、福を表し、「屯魯」は福が厚く大きい意。 - 衣の緣を表し、典籍にまた純に作る。頌簋
易(賜)女(汝)玄衣黹屯
の「玄衣黹屯」は、刺繡で緣取りをした黑い衣のこと。 - 人名、地名に用ゐる。
戰國竹簡では皆と訓ずる。《信陽簡》2-14二𨥽(鈃)、屯又(有)盍(蓋)。
釬(?)を李家浩は讀んで盂となし、食物を盛る器皿のこととする。「屯有蓋」は、みな蓋を有するの意。傳世文獻に純に作る。『周禮・考工記・玉人』諸侯純九、大夫純五。
鄭玄注純猶皆也。
純は屯聲に從ひ、二字は通用する(朱德熙)。
屯をまた讀んで純となす。《銀雀山漢簡(貳)・曹氏陰陽》簡1636屯(純)陰不生、屯(純)陽不長。
また讀んで淳となす。《馬王堆・老子乙本》第20行亓(其)正(政)𨵆=(閔閔)、亓(其)民屯=(屯屯)。
傳世本『老子』に「其民淳淳」に作り、「淳淳」は敦厚(實直、誠實、善良)なさまを表す。(補註: 『老子・五十八』に相當。)
傳世文獻では聚集の義を表す。『廣雅・釋詁三』屯、聚也。
- 『楚辭・離騷』
屯余車其千乘兮、齊玉軑而並馳。
- 三國魏・曹植〈七啟〉
鳥集獸屯、然後會圍。
引伸して軍隊の駐屯、戍守を表す。
- 『史記・吳王濞列傳』
大將軍竇嬰屯滎陽、監齊趙兵。
- 『漢書・傅常鄭甘陳段傳』
自張騫通西域、李廣利征伐之後、初置校尉、屯田渠黎。
「屯田」は戍卒を用ゐて荒地を開墾することを指す。 - また引伸して戍守する場所、防區を表す。『後漢書・郭陳列傳』
彭在別屯而輒以法斬人、固奏彭專擅、請誅之。
また難と訓ずる。『説文解字』屯、難也。
- 『周易・屯』
屯、元享
孔穎達疏屯、難也。
〈彖傳〉屯、剛柔始交而難生。
- 『文選・班孟堅・幽通賦』
紛屯邅與蹇連兮、何艱多而智寡。
李善注引曹大家曰屯、蹇、皆難也。
- 「屯難」と連用する。南朝宋・謝靈運〈撰征賦〉
民志應而願稅、國屯難而思撫。
「屯難」は艱難の意。
屬性
- 屯
- U+5C6F
- JIS: 1-38-54
- 常用漢字
關聯字
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