乙 - 漢字私註

説文解字

乙

象春艸木冤曲而出、陰气尚彊、其出乙乙也。與丨同意。乙承甲、象人頸。凡乙之屬皆从乙。於筆切。

十四・乙部

説文解字注

乙

象春艸木冤曲而出。侌气尙彊。其出乙乙也。冤之言𩰪、曲之言詘也。乙乙、難出之皃。『史記』曰、乙者、言萬物生軋軋也。『漢書』曰、奮軋於乙。『文賦』曰、思軋軋其若抽。軋軋皆乙乙之叚借。軋从乙聲、故同音相叚。『月令』《鄭注》云、乙之言軋也。時萬物皆抽軋而出。物之出土艱屯。如車之輾地澁滯。

與丨同意。謂與自下通上之丨同意也。乙自下出上礙於陰,其書之也宜倒行。於筆切。十二部。按李善、乙音軋。

乙承甲、象人頸。以下皆冡大一經曰言之。

凡乙之屬皆从乙。

康煕字典

部・劃數
部首

『唐韻』於筆切『集韻』億姞切『韻會』『正韻』益悉切、𠀤音鳦。〔音1〕十幹名。東方木行也。『爾雅・釋天』太歲在乙曰旃蒙。月在乙曰橘。『前漢・律歷志』奮軋於乙。『京房易傳』乙、屈也。

又凡讀書、以筆志其止處曰乙。『史記・東方朔傳』朔初上書、人主從上方讀之、止輒乙其處、讀三月乃盡。

又唐試士式、塗幾字、乙幾字。抹去譌字曰塗、字有遺脫、句其旁而增之曰乙。

又『太乙數』有君基太乙、五福太乙諸名。

又『前漢・藝文志』有天乙三篇。《註》天乙謂湯、其言非殷時、皆假託也。

又姓。漢南郡大守乙世、前燕護軍乙逸、明乙瑄、乙山。

又『爾雅・釋魚』魚腸謂之乙。『禮・內則』魚去乙。《註》魚餒必自腸始、形屈如乙字。一說魚腮骨、在目旁、如篆文乙、食之鯁不可出、去之乃食。

又『茅亭客話』虎有威如乙字、長三寸許、在脅兩旁皮下、取得佩之、臨官而能威衆。無官佩之、無憎疾者。『蘇軾詩』得如虎挾乙。

音訓義

音
イツ(漢) オツ(呉) オチ(呉)⦅一⦆
イツ(推)⦅二⦆
訓
きのと⦅一⦆
官話
yǐ
粤語
jyut3⦅一⦆
jyut6⦅一⦆

⦅一⦆

反切
『廣韻・入聲・質・乙』於筆切
『集韻・入聲上・質第五・乙』億姞切
『五音集韻・入聲卷第十四・質第一・影三乙』於筆切
聲母
影(喉音・全清)
等呼
三
官話
yǐ
粤語
jyut3
jyut6
日本語音
イツ(漢)
オツ(呉)
オチ(呉)
訓
きのと
義
十干の第二。甲の次、丙の前。
二番目を指す。
代名詞的に、一方を甲、もう一方を乙で表す。更に必要なら丙以下を用ゐる。
釋
『廣韻』乙: 辰名。『爾雅』云、太歳在乙曰旃蒙。亦姓、前燕有護軍乙逸。又虜複姓、三氏後魏獻帝命叔父之胤曰乙旃氏後改爲叔氏、前燕録有髙麗王乙弗利、後魏有都督乙干貴。又虜三字姓有乙速孤氏。於筆切。三。
『集韻』乙: 億姞切。『說文』象春艸木冤曲而出、隂气尚彊、其出乙乙也。亦姓。文七。
『康煕字典』上揭。

⦅二⦆

反切
『集韻・入聲上・迄第九・乙』於乞切
『五音集韻・入聲卷第十四・迄第四・影三乙』於乞切
聲母
影(喉音・全清)
等呼
三
日本語音
イツ(推)
釋
『集韻』乙: 於乞切。東方之日也、象春艸木冕曲其出乙乙也。文二。

解字

白川

象形。獸骨の象。

『說文』に春、艸木冤曲して出づ。侌气(陰氣)尙ほ彊つよく、其の出づること乙乙たるに象るなり。丨と意を同じうす。乙は甲を承けて人頸に象る。とするが、文意に一貫性を缺く。

『爾雅・釋魚』に魚腸謂之乙。(魚腸、之を乙と謂ふ)とし、魚尾を丙、魚枕(頭骨)を丁とするが、魚とは關係ない。

乙は獸骨で作つた骨べらの象。亂は𤔔(亂れた絲)を乙で解くので、これを乙治といふ。

藤堂

指示。支へ曲がつて止まることを示す。

𠃉は燕を描いた象形字で、もと別字であつたが、後に混用された。

落合

極めて簡略化された形で、字源は不明。

仰韶文化の陶文に類似の記號があり、それ以來のものかも知れない。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 十干の二番目。
乙門
殷都に存在した門の一つ。具體的な位置は不明。《合集補編》1244貞、勿于乙門令。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は、水流の形を象ると疑はれる(明義士、李孝定)。とても早くから十干名に借用され、順序の第二を表すのに用ゐられる。

甲骨文、金文の字形、本義に定論はない。『說文』は草木の長く出づる形を象るとする。董蓮池は、本義は卷曲と關係があり、亂の從ふ乙は、絲紐が亂れ卷曲する意を一層顯はにしてゐるといふ。吳其昌は刀の形を象るといふ。明義士、李孝定は、乙と𡿨は一字の異體で、一筋の小さい水流を象るとする。以上の説はいづれも確證を缺くが、李孝定の説は比較的に字形と符合する。甲骨文の兆は二人が相背いて逃れるさまを象り、二人の間に水、あるいは一曲筆を挾む形につくる。

裘錫圭は、十干の二番目を表し、上古最も常用された字であり、悠久の歴史のあること疑ひなしと指摘する。字形の意義を解釋するのはとても難しく、原始社會晩期の記號に同じ形、良く似た形を見附けることができる例である。十干の甲、乙、丁、癸の四字はその種の記號から取られたものである可能性がとても大きい。

甲骨文、金文では十干名として用ゐる。

戰國竹簡での用義は次のとほり。

屬性

乙
U+4E59
JIS: 1-18-21
當用漢字・常用漢字

関聯字

乙に從ふ字

乙聲の字