勺 - 漢字私註
説文解字
挹取也。象形、中有實、與包同意。凡勺之屬皆从勺。之若切。
- 十四・勺部
説文解字注
枓也。二字依『玄應書・卷四』補。《木部》枓下云勺也。此云勺、枓也。是爲轉注、考老之例也。『〔周禮〕考工記』勺一𦫵。《注》曰、勺、尊斗也。斗同枓。謂挹以注於尊之枓也。『〔儀禮〕士冠禮・注』亦云、尊斗、所以𣂏酒也。今皆譌尊𦫵。不可通矣。『詩〔大雅・行葦〕』酌以大斗。毛云、長三尺。謂其柄。所㠯挹取也。所以二字依『〔漢書〕息夫躳傳・顏注』補。顏之訓詁多取諸許也。挹者、抒也。勺是器名。挹取者、其用也。刪所以、則體用溷矣。象形、中有實、與包同意。外象其哆口、有柄之形。中一象有所盛也。與包同意、謂包象人褢子。勺象器盛酒漿。其意一也。李陽冰曰、勺从裹之。失之。勺象張口。豈同弇口哉。此字當依『考工記』上灼反、『中庸』市若反、『篇』、『韵』時灼市若切。《大徐》之若切。非也。今俗語猶時灼切。二部。俗作杓。凡勺之屬皆从勺。
康煕字典
- 部・劃數
- 勹部(一劃)
『唐韻』之灼切『集韻』『韻會』『正韻』職略切、𠀤音灼。『說文』挹取也。象形、中有實。《徐曰》按【禮記】、一勺水之多、言少也。
又『廣韻』周公樂名。『儀禮・燕禮』若舞則勺。《註》勺、頌篇告成、大武之樂歌也。『前漢・禮樂志』周公作勺、言能勺先祖之道也。
『集韻』或作汋。
又通作酌。『前漢・禮樂志・郊祀歌』勺椒漿。《註》師古曰、勺、讀曰酌。
又『唐韻』市若切『集韻』實若切『韻會』是若切『正韻』裳灼切、𠀤音芍。『周禮・冬官考工記』梓人爲飮器、勺一升。《註》勺、尊升也。『儀禮・士冠禮』勺觶角柶。《註》勺、所以㪺酒也。
『玉篇』亦作杓。
又『韻會』長勺、魯地名。
音訓・用義
- 音
- (1) シャク(漢) 〈『廣韻・入聲・藥・妁』市若切〉[sháo/shuò]
- (2) シャク(漢、呉) 〈『廣韻・入聲・藥・灼』之若切〉[zhuó]
- 訓
- (2) くむ
柄杓を表す。藤堂は音(1)に讀むとする。
また柄杓で物を挹み取る意。藤堂は音(2)に讀むとする。
また體積の單位。一勺は一合の十分の一。藤堂は音(2)に讀むとする。
漢語の資料では、現代官話では主にsháoを用ゐ、あるいはshuòと讀み、『康煕字典』引『廣韻』周公樂名
をのみzhuóと讀む模樣。
粤語は資料にcoek3、soek3、zoek3の三音が見えるが、字音の使ひ分けについては不詳。
解字
白川
象形。柄杓の形に象る。
『説文解字』に枓なり。挹みて取る所以なり。
(段注本)とあり、柄杓をいふ。
酒には酌といふ。
藤堂
象形。スプーンで液體の一部をくんださまを縱に描いたもの。
落合
食器としての柄杓の象形。大きな匙の形狀をしてゐる。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 祭祀名。《合補》10639
丙寅貞、侑勺、歲于伊尹二牢。
- 地名またはその長。第一期(武丁代)には貞人(𠂤組)としても見える。《合集》19884
己卯卜勺、侑妣己。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文、小篆は勺に作り、食物をすくふ食器の形に象る。甲骨文、金文の中間の一點は食物を表す。本義は樽の中から酒をくむ柄のある用具。『説文解字』勺、挹取也。(後略)
勺と斗の形狀は相似るが、勺は小さく斗は大きい點で異なる。勺は酒をくむのに用ゐ、斗は食物をすくふのに用ゐる。『周禮・冬官考工記・玉人』黃金勺
鄭玄注引杜子春勺、謂酒尊中勺也。
つまり勺は酒樽に入つてゐる酒をくむのに用ゐる。『儀禮・鄉射禮』兩壺斯禁、左玄酒、皆加勺。
「斯禁」は古代の酒樽を置くための禮器。「玄酒」は古代の祭禮で酒として用ゐられた清水。斯禁の上に酒を二壺置く、左は玄酒で、二壺いづれにも勺を添へる、の意。勺をまた容量の單位に用ゐる。『周禮・冬官考工記・梓人』梓人為飲器、勺一升。
「勺一升」とは一勺(ここでは一すくひの意か)が一升に相當するの意。また量詞に用ゐる。蘇軾〈西山詩和三者三十餘人再用前韻為謝〉願求南宗一勺水、往與屈賈湔餘哀。
「南宗」は佛教の一派。「湔」は綺麗に洗ふこと。「屈賈」は屈原と賈誼。この句は、作者が、佛教の一勺水を得るのを望み、屈原と賈誼の哀怨を洗ひ流すために出向くことをいふ。
勺はまた古い樂舞の名。『儀禮・燕禮』若舞則『勺』。
鄭玄注『勺』、『頌』篇告成『大武』之樂歌也。
『禮記・內則』十有三年、學『樂』、誦『詩』、舞『勺』。
子供は十三歲で、『樂經』を學び、『詩經』を誦んじ、『勺』舞を學ぶの意。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 祭名に用ゐる。《合集》35356
王其有勺於文武帝。
勺は祖先を祀る祭禮。 - 地名に用ゐる。《合集》27861
王往于勺。
- 人名に用ゐる。《合集》21041
呼勺
。
金文では氏族名に用ゐる。勺鼎勺
。
漢帛書、漢簡での用義は次のとほり。
- 漢帛書では勺を借りて趙となし、解いて國名となす。《馬王堆帛書・戰國縱橫家書》第13行
臣之所患、齊勺(趙)之惡日益。
臣が憂ふのは齊趙兩國が日增しに關係を惡化させることである、の意。 - 漢帛書では勺を酌となし、解いて酒となす。《馬王堆帛書・養生方》第28行
為醪勺(酌)
の「醪」は酒の一種で、この句は「醪酌」を釀造する方法を記載する。 - 漢簡では勺を借りて芍となす。《威武漢代醫簡・第二類簡》
大黃、黃岑、勺(芍)樂(藥)各一兩。
- 漢簡では酌を借りて勺となす。《威武漢簡・儀禮・燕禮》
如舞則『酌(勺)』。
今本『儀禮・燕禮』は如舞則『勺』
に作る。
傳世文獻では勺を以て酌となす。『漢書・禮樂志』勺椒漿、靈已醉。
顏師古注勺、讀曰酌。
「椒漿」は椒を以て釀製し、神を祭る酒に用ゐる。神々は椒酒を飮み、みな醉ふの意。
勺字は後に義符の木を加へ、杓字を分化し、木製の物をすくふ用具を表す。
屬性
- 勺
- U+52FA
- JIS: 1-28-59
- 常用漢字(平成22年追加)