肇 - 漢字私註
説文解字
攴部肇字條
擊也。从攴肈省聲。治小切。
- 三・攴部
説文解字注
肈の俗字として刪去する。
戈部肈字條
説文解字注
上諱。按許原書無篆體、但言「上諱」、後人乃補此篆。說詳《示部〔祜字條〕》。「上諱」者、漢和帝諱也。『後漢書』作肈。李賢引『伏無忌古今注』曰「肈之字曰始、音兆。許愼『說文』肈音大小反。上諱也。伏許竝漢時人。而帝諱不同。葢應別有所據。」玉裁按古有肈無肇。从戈之肈、漢碑或从殳。俗乃从攵作肇。而淺人以竄入許書《攴部》中。『玉篇』曰「肇俗肈字」。『五經文字・戈部」曰「肈作肇、訛」。『廣韵」有肈無肇。伏侯作『古今注』時𣃔無从攵之肇。李賢注『後漢書』亦𣃔不至認肈肇爲二字。葢伏侯作肁、與許作肈不同。和帝命名之義取始。肁者、始開也。引申爲凡始。故伏云諱肁、而易之之字作始。實則漢人肁字不行。衹用肈字訓始。如『詩〔大雅〕生民・傳』、『夏小正傳』可證。外閒所諱者肈也。故許云諱肈此則伏許不同之由。章懷之所疑。而今日『後漢書』正文作肇譌也。李舟『切韵』云「肈、擊也」。其字从戈肁聲。形音義皆合直小切。許諱其字故不爲之解。今經典肈字俗譌从攵。不可不正。《攴部》妄竄之肇、今己芟去。
康煕字典
- 部・劃數
- 聿部・八劃
『廣韻』治小切『集韻』『韻會』『正韻』直紹切、𠀤音趙。『說文』擊也。
又『廣韻』始也。『書・舜典』肇十有二州。《傳》肇、始也。又『仲虺之誥』肇我邦于有夏。《傳》始我商家國于夏世。
又正也。『齊語』竱本肇末。《註》竱、等也。肇、正也。謂先等其本、以正其末也。
又敏也。『爾雅・釋言』肇、敏也。『書・酒誥』肇牽車牛、遠服賈。
又長也。『爾雅・釋詁』肇、謀也。『詩・大雅』肇敏戎公、用錫爾祉。《傳》肇、謀也。『釋文』韓詩云、長也。
又山名。『山海經』華山靑水之東有山、名曰肇山。
又與兆同。『詩・大雅』以歸肇祀。《傳》肇、始也。始歸郊祀也。《箋》肇、郊之神位也。《疏》肇、宜作兆。【春官・小宗伯】云「兆五帝于四郊」是也。又『商頌』肇域彼四海。《箋》肇、當作兆。《疏》言正天下之經界、以四海爲兆域。
又『集韻』杜皓切、音道。擊也。
- 部・劃數
- 聿部・八劃
『集韻』同肇。
又『韻會』戟屬。
音訓義
- 音
- テウ(漢) デウ(呉)⦅一⦆
- タウ(推)⦅二⦆
- 訓
- はじめる⦅一⦆
- ただす⦅一⦆
- 官話
- zhào⦅一⦆
- 粤語
- siu6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上聲・小・肇』治小切
- 『集韻・上聲下・小第三十・趙』直紹切
- 『五音集韻・上聲卷第八・小第十二・澄三肇』治小切
- 聲母
- 澄(舌上音・全濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- zhào
- 粤語
- siu6
- 日本語音
- テウ(漢)
- デウ(呉)
- 訓
- はじめる
- ただす
- 義
- 始める。
- 正す。
- 計る。謀る。
- 敏し。
- 擊つ。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・上聲下・晧第三十二・道』杜晧切
- 『五音集韻・上聲卷第八・皓第十四・定一道』徒皓切
- 聲母
- 定(舌頭音・全濁)
- 等呼
- 一
- 日本語音
- タウ(推)
- 義
- 『集韻』
肇、擊也。
- 『集韻』
肈、謀也、始也。
解字
白川
肇は戸と聿と攴の會意。攴は神戸。聿は書。神戸の扉を啓いて、祝禱の書を見ることを啓といふ。神意を承け、それによつてことをはじめる意。それでことを「肇め」、また繼承する意に用ゐる。
金文に「肇緟」といふ語があり、再命して承繼することをいふ。金文には肇、啓ともに戈に從つて肈、啔に作ることがあり、戈はその神戸を守る意と考へられる。『詩・大雅・江漢』に肇敏戎公
(戎公(軍事)に肇敏す)とあるのも、肇緟して敏しむ意であらう。
『説文解字』に擊つなり
と訓じ、字を肈の省聲に從ふとする。『同・戈部』に肈を錄して上の諱なり
(和帝の名)とする。肈は李舟の『切韻』にも擊つなり
とあり、肇、肈を別の字とするが、金文には「肇緟」にまた肈を用ゐてをり、同字と見てよい。また『同・戶部』に肁は始めて開くなり
とあり、それが肇字の意。肁、肇、肈の三形は、もと同字と見てよい。
藤堂
𢼄と聿の會意。𢼄は戸と攴(動詞の記號)から成り、戸を手で左右に開くこと。肇は、物事の絲口を左右に開くこと。
落合
啓の略體と、筆を持つた形の聿から成る會意字。
漢語多功能字庫
金文は◎と戈に從ひ聿聲。戈は武器。方稚松は◎は疑ふらくは盾の象形初文とする。本義は攻擊、擊打。
『説文解字』肇、擊也。(後略)
肇字はあるいは◎ではなく戶に從ひ、戈で戶を擊つ形に象る(丁山、李孝定)。
金文では舊くは多く語氣の詞で義無しと解釋した(楊樹達)。最新の考釋では勤敏の意を表すとする。
- 梁其鐘
梁其肇帥井皇且(祖)考、秉明德。
- 蔡侯盤
肇佐天子
。 - 䚄簋
肇亯(享)
の享は侍奉を表し、全句で勤しんで君主に仕へることを表す(參:陳英傑)。
後世では肇は開始を表す。『廣韻』肇、始也。
【補註】漢語多功能字庫は肇の甲骨文として擧げる字形(◎あるいは戶と戈に從ふ)に解説を加へてゐないが、落合はその字を捍とする。
屬性
- 肇
- U+8087
- JIS: 1-40-5
- 人名用漢字
- 肈
- U+8088
- JIS X 0212: 53-75