聿 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
所㠯書也。以用也。聿者、所用書之物也。凡言所以者視此。
楚謂之聿、吳謂之不律、燕謂之弗。一語而聲字各異也。『〔爾雅〕釋器』曰「不律、謂之筆」。郭云「蜀人呼筆爲不律也。語之變轉。」按郭云蜀語與許異。郭注『爾雅』、『方言』皆不偁『說文』。弗同拂拭之拂。
从𦘒一。各本作「一聲」、今正。此从𦘒而象所書之牘也。余律切。十五部。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
『唐韻』余律切『集韻』允律切『韻會』『正韻』以律切、𠀤音遹。『說文』所以書之器也。楚謂之聿、吳謂之不律、燕謂之弗、秦謂之筆。
又『玉篇』遂也、述也、循也。『正韻』惟也。『書・湯誥』聿求元聖、與之戮力。《傳》聿、遂也。『釋文』聿、允橘切、述也。《疏》正義曰、聿訓述也。述前所以申遂、故聿爲遂也。『詩・唐風』蟋蟀在堂、歲聿其莫。《傳》聿、遂也。《疏》從始至末之言。『詩・大雅』無念爾祖、聿修厥德。《傳》聿、述也。『詩詁』助語。『左傳註』惟也。
又自也。『詩・大雅』爰及姜女、聿來胥宇。《箋》聿、自也。於是與其𡚱大姜、自來相可居者。
又『揚雄・羽獵賦』及至罕車飛揚、武騎聿皇。《註》聿皇、輕疾貌。
又『左思・吳都賦』陵絕嶛嶕、聿越巉險。《註》聿越、豹走貌。
又與曰通。『詩・豳風』曰爲改歲、入此室處。『前漢・食貨志』引【詩】作聿。《師古註》聿、卽曰也。
亦與遹通。『詩・大雅』遹求厥寧。《傳》遹與聿同。發語辭。
亦與欥通。『前漢・班固敘傳』欥中和爲庶幾。《師古註》欥聿、通由也。○按【說文】「聿、所以書之器也。」「欥、詮詞也。」【徐註】一曰發聲。引【詩〔大雅・文王有聲〕】欥求厥寧。今文作聿、後世束豪爲聿。加竹作筆、而聿字音以律切、專爲發語詞矣。柳宗元文作聿牘、則唐人尚以此爲筆字。
音訓義
- 音
- イツ(漢) イチ(呉)⦅一⦆
- 訓
- ここに⦅一⦆
- 官話
- yù⦅一⦆
- 粤語
- wat6 leot6 jyut6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・術・聿』餘律切
- 『集韻・入聲上・術第六・聿』允律切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・術第二・喻四聿』餘律切
- 聲母
- 喻(喉音・次濁)
- 等呼
- 四
- 官話
- yù
- 粤語
- wat6
- leot6(又讀、白讀)
- jyut6(又讀)
- 日本語音
- イツ(漢)
- イチ(呉)
- 訓
- ここに
- 義
- 助詞。義無く、句首あるいは句中に用ゐる。
- 發語の辭。ここに。
- つひに。
- 述べる。
- したがふ。
- 自ら。
- 聿皇は輕く疾き貌。
解字
白川
筆の形と又(手)の會意。
『説文解字』に書する所以なり
とあり、筆の初文。楚では聿、呉では不律、燕では弗といふ。『説文解字』にまた字を𦘒に從ひ、一聲。
とし、《段注》に𦘒一の會意字とする。𦘒は『説文解字』に手の疌巧なる
ことをいひ、巧筆の意であるとするが、疌は敏捷の捷の初文。敏、捷はいづれも婦人が祭祀に奔走することをいふ字。
藤堂
會意。聿は筆の原字で、筆を手に持つさまを表す。のち、ふでの意味の場合、竹印を添へて筆と書き、聿は、これ、ここに、など、リズムを調へる助詞を表すのに轉用された。
落合
筆を手(又)に持つ形の會意字。殷代には丮に從ふ異體字もある。
甲骨文では地名またはその長を表す。殷金文の圖象記號にも見える。
- 《合集》28169
…在聿。
- 《花東》505
…貞、目聿亡其侑甘。
後代には助辭や他字の聲符として多用され、原義については篆文で竹を加へた繁文の筆が作られた。
漢語多功能字庫
古文字の聿は又と竹に從ふ。竹は筆の管の形に象る。筆の軸は竹で出來てをり、中空である。全字で手に筆を持ち字を書くことを表し、筆の初文(劉釗)。『説文解字』所以書也。楚謂之聿、吳謂之不律、燕謂之弗。
卜辭では多く人名、地名に借用する。
金文での用義は次のとほり。
- 書寫の意。銘文
肆敢聿于彝
、『周禮・秋官・司約』凡大約劑、書於宗彝
(周名煇)。 - 多く族徽文字、人名となす。
- 通じて律となし、音律を表す。楚王𩑟鐘
楚王𩑟自乍鈴鐘、其聿(律)其言(音)。
- 通じて肆となし、縱恣の意。郾侯庫簋
[宀聿]樂母(毋)聿(肆)[戈者](諸)
。 - また通じて肆となし、列鐘の數を表す。郘鐘
大鐘八聿(肆)
。『左傳・襄公十一年』歌鐘二肆
杜預注肆、列也、縣鐘十六為一肆
。
屬性
- 聿
- U+807F
- JIS: 1-70-70
關聯字
聿に從ふ字を漢字私註部別一覽・又部・聿枝に蒐める。