説文解字私註 又部
- 又
-
手也。象形。三指者、手之𠛱多略不過三也。凡又之屬皆从又。
- 右
-
手口相助也。从又从口。
- 二・口部に重出。
- 厷
-
臂上也。从又、从古文。
-
古文厷、象形。
-
厷或从肉。
- 叉
手指相錯也。从又、象叉之形。
- 㕚
-
手足甲也。从又、象㕚形。
- 父
矩也。家長率教者。从又舉杖。
- 叜
老也。从又从灾。闕。
- 燮
和也。从言从又、炎。籒文𤎬从𢆉。𢆉、音飪。讀若溼。
- 曼
-
引也。从又冒聲。
- 𠭙
-
引也。从又𢑚聲。𢑚、古文申。
- 夬
分決也。从又、[コ丨]象決形。
- 尹
-
治也。从又、丿、握事者也。
-
古文尹。
- 𠭯
又卑也。从又虘聲。
- 𠭰
引也。从又𠩺聲。
- 㕞
拭也。从又持巾在尸下。
- 及
-
逮也。从又从人。
-
古文及。《秦刻石》及如此。
-
亦古文及。
-
亦古文及。
- 秉
禾束也。从又持禾。
- 反
覆也。从又、厂反形。
- 𠬝
治也。从又从卪。卪、事之節也。
- 𠬢
滑也。『詩』云、𠬢兮達兮。从又、屮。一曰取也。
- 𠭥
楚人謂卜問吉凶曰𠭥。从又持祟、祟亦聲。讀若贅。
- 叔
拾也。从又尗聲。汝南名收芌爲叔。
- 𠬸
-
入水有所取也。从又在囘下。囘、古文回。回、淵水也。讀若沫。
- 取
捕取也。从又从耳。『周禮』獲者取左耳。『司馬法』曰、載獻聝。聝者、耳也。
- 彗
-
掃竹也。从又持甡。
-
彗或从竹。
-
古文彗从竹从習。
- 叚
借也。闕。
- 友
-
同志爲友。从二又。相交友也。
-
古文友。
- 𦐮
亦古文友。
- 度
法制也。从又、庶省聲。
排列
又部 舊版
叉
- 説文解字
手指相錯也。从又、象叉之形。
- 康煕字典
- 又部(一劃)
『唐韻』初牙切『集韻』『韻會』『正韻』初加切、𠀤音差。『說文』手指相錯。『玉篇』指相交也。『增韻』俗呼拱手曰叉手。『柳宗元詩』入郡腰常折、逢人手盡叉。
『酉陽雜俎』蘇都識匿國有夜叉城、城舊有野叉、其窟見在。『唐書・酷吏傳』監察御史李全交酷虐、號鬼面夜叉。
『唐韻』楚佳切『集韻』初佳切『正韻』初皆切、𠀤音釵。義同。
『正韻』婦人𡵨笄、同釵。
『正韻』兩枝也。
- 音
- サ。シャ。
- 訓
- はさむ。さしはさむ。さすまた。また。
- 解字(白川)
- 指の間に爪の現れてゐる形を象る。叉は一爪、㕚は二爪の現はれてゐる形。指爪を以て叉取することを原義とし、のち交叉、分岐する狀態をいふ。
- 解字(藤堂)
- 手指の間に物を挾んだ形を象る。Y型をなしてゐて物を挾み、または突くものを全て叉といふ。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 手指の間に點を畫き、指と指の間を指す。本義は指と指の間、轉じて交錯、交叉の意。
- 甲骨文は㕚につくり、手(又)の指の間に二點を置く。金文はそのうち一點を省き、叉につくる。説文解字は叉と㕚を分けるが、甲骨文、金文からの變遷を見るに、實は一字である。
- 一説に手指が相交錯する形を象るといふ。一説に㕚は爪の古字、丑、㕚、爪は同じ字で、爪の形を象るといふ。字形から見れば、㕚と丑、爪は大きく異なり、㕚の從ふところの二點は、手の形と繫がることはない。叉の本義は指の分かれるところ、轉じて分岐の意。
- 卜辭では地名に用ゐる。金文は商代にのみ見え、氏族名や人名に用ゐ、銅器に單獨で出現する。
- 表
- 人名用漢字
父
- 説文解字
矩也。家長率教者。从又舉杖。
段注は巨也。
とする。
- 康煕字典
- 部首
『唐韻』扶雨切『集韻』『韻會』奉甫切、𠀤音輔。『說文』矩也。家長率敎者。从又、舉杖。『釋名』父、甫也。始生已者。『書・泰誓』惟天地萬物父母。『爾雅・釋親』父爲考。父之考爲王父。王父之考爲曾祖王父。曾祖王父之考爲高祖王父。父之世父。叔父爲從祖祖父父。之晜弟先生爲世父。後生爲叔父。父之從父晜弟爲從祖父。父之從晜弟爲族父。
『詩・小雅』以速諸父。《傳》天子謂同姓諸侯、諸侯謂同姓大夫、皆曰諸父。
老叟之稱。『史記・馮唐傳』文帝輦過問唐曰、父老何自爲郞。
『廣韻』方矩切『集韻』『韻會』匪父切、𠀤音府。『集韻』同甫。『廣韻』男子之美稱。『詩・大雅』維師尚父。《箋》尚父、呂望也。尊稱焉。○按管仲稱仲父。孔子稱尼父。范增稱亞父。皆倣此。
野老通稱。『戰國策』田父見之。
『詩・小雅』祈父。《傳》司馬也。
『春秋・桓十三年』盟于武父。《註》武父、鄭地。『釋文』音甫、有父字者、皆同甫音。
『廣韻』漢複姓。三氏孔子弟子宰父黑、漢主父偃、左傳宋之公族皇父充石。漢初皇父鸞、改父爲甫。
『正韻』防父切、音附。父母。〇按父字古無去聲。正韻始收入五暮。俗音从之。防父切、父字誤。
叶扶缶切『蘇轍・釀酒詩』誰來共佳節、但約鄕人父、生理正艱難、一醉陶衰朽。
- 音
- フ。ホ。
- 解字(白川)
- 斧頭の形と又の會意。指揮權を持つ人を表す。
- 解字(藤堂)
- 手に石斧を持つて打つ姿を表す。斧の原字。もと拍と同系。
- 解字(落合)
- 手(又)に物を持つ形。持つ物は同聲の斧(石斧)とする説が有力。殷代の親族呼稱の用法から、權力の表示ではなく、單に力仕事をする壯年を表すと推定。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 手(又)に丨を持つ形。丨は石斧と考へられる。古代、成年男子は多く斧を持ち生産に從事し、故に手に斧を持つことが家長の象徵とされる。本義は父親の父。按ずるに説文解字は父字の手に持つものは杖を象るとし、手に杖を持ち教導するの意を有す。一説に、金文に據れば手に持つものは炬を象るといふ。一説に手に持つものは斧を象り、斧の初文といふ。一説に父と攴とは一字の分化したもので、動作主が父、敲く動作が攴。諸説それぞれ道理があるので竝べて擧げた。
- 甲骨文では生父や父輩を指す。
- 金文でも生父や父輩を指す。また男子の美稱や地名に用ゐる。
- 戰國竹簡では父親を指し、或は母と對にして擧げ、或は子と對にして擧げる。
- 傳世文獻では多く父輩を指す。また男性の長輩に對する通稱に用ゐる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
叟
- 説文解字
- 叜
老也。从又从灾。闕。
- 𡨎
籒文从寸。
- 𠋢
叜或从人。
- 康煕字典
- 又部八劃
- 《古文 》叜
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤蘇后切、音藪。『說文』老也。
『集韻』『韻會』『正韻』𠀤疎鳩切、音搜。叟叟、淅米聲。『詩・大雅』釋之叟叟、蒸之浮浮。《註》釋、淅米也。叟叟、聲也。『集韻』或作溞、通作溲。
『正韻』先侯切、漱平聲。尊老之稱。『劉琨・贈盧諶詩』惟彼太公望、昔是渭濱叟。鄧生何感激、千里來相求。
『集韻』蘇遭切、音騷。同搜。搜搜、動貌。或省作叟。
- 音
- サウ
- 訓
- おきな
- 解字(白川)
- 宀と火と又の會意。宀は廟屋で、廟中に火を秉る形。家の長老の職とするところであるから、また長老の意となる。
- 解字(藤堂)
- かまどの中を手で搜す意を表し、搜の原字。老人の意は假借的な用法。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 宀と火と又に從ひ、人が手に炬火を持ち屋内を搜す形。本義は搜索。搜の初文。後に假借して老人を表し、搜尋の義は手を加へた搜字で表す。
燮
- 説文解字
和也。从言从又、炎。籒文𤎬从𢆉。𢆉、音飪。讀若溼。
段注は籀文を𤍛につくり重文に掲げる。
- 《段注重文》𤍛
籒文燮。从𢆉。
- 康煕字典
- 火部十三劃
『唐韻』蘇叶切『集韻』『韻會』『正韻』悉協切、𠀤音蜨。『說文』从言、从又炎。『爾雅・釋詁』燮、和也。『書・洪範』燮友柔克。『周官』燮理隂陽。『詩・大雅』燮伐大商。
姓。『正字通』宋御史燮玄圖。
『玉篇』火熟也。『說文』籀文作𤍛。从𢆉。𢆉音飪。讀若溼。《註》徐鉉曰、𤍛燮二字義相出入。
○按『說文』『玉篇』合燮𤍛爲一。『集韻』燮專訓和。𤍛本作𤏻、專訓大熟。
- 音
- セフ
- 訓
- やはらぐ
- 解字(白川)
- 言と兩火と又の會意。言は神に對する盟誓。自己詛盟の語をいふ。その兩旁に聖火を加へ、これを修祓する。烹飪の字ではない。
- 金文の《秦公鐘》に
百邦を柔らげ燮む
、『書・顧命』に燮和天下
(天下を燮和す)、『書・周官』に燮理陰陽
(陰陽を燮理す)とあり、字の初義は、恐らく自己詛盟によつて神意を和らげる意であらう。
- 解字(藤堂)
- 言と炎と又(動詞の記號)の會意で、火で暖めるやうに調和させることを表す。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は二火と辛と又に從ひ、金文は辛を簡單に省く(丅の形)。棒や火をつける道具を手にするさまを象る。本義は薪火を管理すること、そこから煮込むこと、調和するなどの義を派生する。小篆に至つて辛を言と書き、言語が調和することを表す。
- 金文では協調、協和を表す。秦公鎛に
鎮靜不廷、柔燮百邦。
とあり、朝見に來なかつた部族を鎭壓し押さへ附け、多くの國々を安撫協和したることを謂ふ。また曾伯簠に克狄(逷、逖)淮尸(夷)、印(抑)燮繁湯。
とある。淮夷は部族の名。繁湯とは繁陽のことで、先秦の地名、楚國に屬し、汝南鮦陽縣の南に在る。淮夷を遠ざけ、敢へて侵犯せず、繁陽を抑へて協和するの意。
- 戰國竹簡では調和、協和を表す。《清華簡三・傅說之命・簡2-3》
故我先王滅夏、燮強、翦蠢邦、惟庶相之力乘。
我が先王は夏王朝を滅亡させ、協和し國を強くし、愚昧な國を討ち滅ぼしたが、これはすべて庶相(伊尹)の力によるものである、の意。《清華簡三・芮良夫毖・簡14》燮仇啓國
諸友と協和し國家を建立するの意。また征伐を表す。《清華簡三・芮良夫毖・簡13》恆靜(爭)獻亓(其)力、畏燮方讎。
相爭つて力を出し、四方の仇敵を征伐し、其れを畏懼せしむの意。按ずるに「畏燮方讎」は相爭つて力を出し、威名を遠くまで弘め、それにより四方の仇敵を協和することを表す。また人名に用ゐる。《清華簡二・繫年・簡88-89》明歲、楚王子罷會晉文子燮及者(諸)侯之大夫、明(盟)於宋。
「文子燮」は『左傳』では「士燮」につくり、晉國の臣。(補註: 范文子のこと)
夬
- 説文解字
- 夬叏
分決也。从又、[コ丨]象決形。
[]内は叏の上部に當たり、コ形を縱劃が貫き、㐄の左右逆の形。
- 康煕字典
- 大部(一劃)
『廣韻』『集韻』『韻會』古邁切『正韻』古壞切、𠀤音噲。『說文』分決也。『易・說卦』兌上乾下夬。『彖傳』夬、決也。剛決柔也。
『集韻』古穴切、音玦。所以闓弦者。
通作叏。『正字通』字彙、叏見子集又部、此重出、應刪。○按『說文』叏从又、入又部、但今經文夬从大、宜入大部、只可刪又部叏字訓註。
- 康煕字典・𡗒
- 大部(一劃)
俗夬字。
- 康煕字典・叏
- 又部三劃
『唐韻』古賣切『集韻』『韻會』古邁切『正韻』古壞切、𠀤音怪。『說文』分𣲺也。『易・叏彖』叏、𣲺也、剛𣲺柔也。
『集韻』『韻會』𠀤古穴切、音玦。『集韻』所以闓弦者。『韻會』詩𣲺拾旣佽。《註》本作叏、今文作𣲺。𣲺拾、射韝縱弦者曰𣲺、拾箭者曰拾。
『集韻』或作𢎹。
- 音
- クヮイ。ケツ。
- 訓
- わける。ゆがけ。
- 解字(白川)
- 弓懸(鉤弦)を持つ形、あるいは玉玦を持つ形。
- 解字(藤堂)
- コ印と又と指一本の會意。凹みに引つ掛ける、コ型に抉るなどの意。
𠭯
- 説文解字
又卑也。从又虘聲。
段注は叉卑也。
とする。
- 康煕字典
- 又部十一劃
『集韻』莊加切、音查。『說文』取也。或从手作摣。
- 音
- サ
- 訓
- とる。およぶ。ここに。ああ。
- 解字(白川)
- 虘と又の會意。虘は虎頭のものが且(腰掛け)に腰掛けてゐる形で、戲、劇の從ふところと近く、軍戲のとき虎頭して舞ふやうなことがあつたのであらう。
- 説文解字注に
𠭯は叉もて卑るなり
とあり、註に叉卑者、用手自高取下也。
(手を用て高きより下きを取るなり)といふ。
- 金文に
酒に𠭯ぶ
𠭯に
𠭯
などの用法があり、且と聲義の關係があるやうである。《許子鐘》に自ら鈴鐘を作る。中に翰く𠭯つ揚がる
と鐘聲の清揚なることをいひ、𠭯を且の義に用ゐてゐる。
𠭰
- 説文解字
引也。从又𠩺聲。
- 康煕字典
- 又部十一劃
『唐韻』里之切『集韻』陵之切、𠀤音釐。『說文』引也。
㕞
- 説文解字
拭也。从又持巾在尸下。
段注は飾也。
とする。
- 康煕字典
- 又部六劃
『唐韻』『集韻』𠀤所劣切、音刷。同刷。『說文』㕞、拭也。『廣韻』掃也、淸也。
- 音
- セツ
- 訓
- ぬぐふ
- 解字(白川)
- 尸と巾と又の會意。尸は人の側身形。その腰に巾を加へ、手(又)を添へて、㕞ふ意とする。
- 説文解字注に
飾ふなり
とあり、巾部飾字條に㕞ふなり
とあり、互訓。飾は食するとき巾を帶びる形。
- 解字(藤堂)
- 尸(尻)と巾(ぬの)と又(手)の會意。布で尻の汚れを拭き取るさま。
秉
- 説文解字
禾束也。从又持禾。
- 康煕字典
- 禾部三劃
『唐韻』兵永切『集韻』『韻會』『正韻』補永切、𠀤音丙。禾盈把也。『詩・小雅』彼有遺秉。《疏》秉、把也。『禮・聘禮』四秉曰筥。《註》此秉謂刈禾盈手之秉、筥穧名、今萊易閒刈稻聚把有名爲筥者。
米數。『禮・聘禮』十斗曰斛、十六斗曰籔、十籔曰秉。又『小爾雅』鐘二謂之秉、秉十六斛。○按『儀禮』禾米之秉,字同𢿘異。惟徐氏『韻譜』二石爲秉、又是一說。蓋石卽斛也。冉子與粟五秉。據『儀禮』爲八十石、據徐氏止十石、多寡迥別、俟考正。
執持也。『禮・禮運』天秉陽垂日、星地秉隂竅於山川。『詩・大雅』民之秉彝。『書・君奭』秉德明恤。
去聲、陂病切。與柄同。『史記・天官書』二十八舍主十二州、斗秉兼之。『絳侯世家』許負相周亞夫曰、君後三歲而侯、侯八歲爲將相、持國秉。
姓。
○按『說文』秉、从又持禾、『正字通』兼載鐘鼎文𥝐字重出。
- 康煕字典・𥝐
- 禾部二劃
『正字通』鐘鼎文秉字。
- 音
- ヘイ
- 訓
- とる。たば。
- 解字(白川)
- 禾と又の會意。禾を束ねて手に持つ形。その一束をいふ。
- 説文解字に
禾の束なり
、『爾雅・釋詁』に執也。
といふ。
- 『詩・小雅・大田』
彼有遺秉
(彼に遺秉有り)とは、田に殘されてゐる落穗をいふ。
- 四秉を筥とする。齊器の《國差𦉜》に
西郭の寶𦉜四秉なるを鑄る。用て旨酒を實さん。
とあつて、量の單位に用ゐる。
- 堅く執る意から、金文に
德を秉ること恭純
威儀を秉る
のやうに用ゐる。
- 『詩・大雅・烝民』に
民之秉彝、好是懿德。
(民の彝を秉る、是の懿德を好む。)の句がある。
- 解字(藤堂)
- 禾(いね)と手の形の會意。稻の穗の眞ん中を手に持つさまを表す。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文、早期金文は手(又の形)で禾を持つさまを象り、後の金文や小篆は又と禾の莖が交はる形。字の初義は執り持つこと。
- 金文では執り持つ意を表す。虢弔鐘
不(丕)顯皇考叀弔(叔)穆穆秉元明德
弔向父簋共明德、秉威義(儀)。
- 古書では兵器の類の器物を手に執るとき、秉字を用ゐるといふ。 『爾雅・釋詁』では
執也。
と釋し、『廣雅・釋詁』では持也。
と釋する。
- 執持の意より、つかさどる、管轄するの意を派生する。班簋に
秉緐蜀巢
の語が見える。ほかに、族氏名に用ゐる。秉觚に見える。
反
- 説文解字
覆也。从又、厂反形。
- 𠬡
古文。
- 康煕字典
- 又部二劃
- 《古文》𠬡
『唐韻』府遠切『集韻』『韻會』甫遠切、𠀤音返。『說文』覆也。从又、厂。『詩・周頌』福祿來反。《註》言福祿之來、反覆不厭也。
『前漢・𨻰勝傳』使者五反。《註》師古曰、反、謂回還也。
『唐韻』『集韻』『韻會』孚袁切『正韻』孚艱切、𠀤音幡。『廣韻』斷獄平反。『韻會』錄囚平反之、謂舉活罪人也。『增韻』理正幽枉也。『前漢・食貨志』杜周治之、獄少反者。《註》反、音幡。
通作翻。『前漢・張安世傳』反水漿。
『集韻』『韻會』𠀤部版切、翻上聲。『集韻』難也。『詩・小雅』威儀反反。沈重讀。
『集韻』方願切、音販。難也。『詩・小雅』威儀反反。毛萇說。一曰順習貌。
『正韻』販亦作反。『荀子・儒效篇』積反貨而爲商賈。
『集韻』孚萬切、音娩。覆也。
- 訓
- かへる。かへす。そむく。たがふ。もどる。かへりみる。かんがへる。ひるがへる。ひるがへす。ひさぐ。そる。そり。
- 解字(白川)
- 厂と又の會意。厂は崖の形。崖に手を掛け攀援する(よぢのぼる)形。そのやうな地勢を坂といひ、もし聖所ならば阪といふ。阪の從ふ𨸏は聖梯の形。聖所の攀援を試みるやうな行爲は反逆と看做された。
- 金文の《小臣單觶》に、厂下に土を加へてゐる字形があり、土は社の初文で聖所を示す字とみられる。《小臣謰𣪘》に
東夷、大いに反す
のやうに叛逆の意に用ゐ、また《頌鼎》瑾璋(灌鬯のための玉器)を反入(返納)す
のやうに往反の意に用ゐる。
- 解字(藤堂)
- 厂と又の會意。布または薄い板を手で押して反らせた姿。反つたものは元に返り、また、薄い布や板はひらひらと飜ることから、かへる、ひるがへるの意となる。
- 解字(落合)
- 厂と又の會意。
- 厂は石磬の象形で石の初文。甲骨文の要素としては石や石器の意に用ゐられる。
- 甲骨文、西周金文では、反亂の意に用ゐられてをり、石製の武器を手に反亂する意と考へられる。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は、厂と又に從ひ、あるいは石に從ふ。又は手の形を象る。石、厂は、山石厓巖を象る。人が手を以て崖をよぢ登ることをいふ。扳は反の後起加旁字で、攀援を表す。『莊子・馬蹄』
鳥鵲之巢可攀援闚
『釋文』攀又作扳。
また反覆、背叛の意を表すが、派生義である。
- 金文では通讀して返となし、返回(引き返す意)、歸還を表す。善父山鼎
反(返)入(納)堇(瑾)章(璋)。
また背叛を表す。白懋父簋東尸(夷)大反
。また鈑の通假字となし、金の板を表す。九年衛鼎帛(白)金一反(鈑)
。『爾雅・釋器』鉼金謂之鈑。
また人名や地名に用ゐる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
𠬝
- 説文解字
治也。从又从卪。卪、事之節也。
- 康煕字典
- 又部二劃
『集韻』房六切、音伏。『說文』治也。『正譌』从又、卪。卪、事之節也。又、手、所以治事也。
- 音
- フク
- 訓
- をさめる。したがふ。
- 解字(白川)
- 卩と又の會意。卩は人の跪坐する形。その後ろから手を加へ、壓服することを表す。もと俘人を意味する字であらう。故に服屬の意となる。
- 解字(藤堂)
- 人の背に手をぴたりとつけたさま。ぴつたり着けて離さない意を含み、服の原字。報にも含まれる。
- 解字(落合)
- 服の初文。卩と又の會意。卩は坐つた人、又はそれを後ろから捕らへる手の形で、降服した捕虜を表す。繁文の服にあたる甲骨文は、𠬝と聲符の凡より成り、凡は後に舟に變はつた。なほ、坐つた人を前から捕らへる形は、印。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文、金文は、卩と又に從ふ。卩は跪坐する人の形を象り、又は手の形を象り、全部で跪坐する人を手で執る形を象り、屈服させる意、服の初文。𠬝字は手の形が後に在り、手の形が前にある印字とは區別される。
- 甲骨文では動詞となし、征服を表す。名詞となし、征服された國や族の人を指し、祭祀の犧牲に用ゐられ、羊や豚など牲畜と地位が等しい。また人名に用ゐられる。金文㝬鐘
南國𠬝子
「𠬝子」は南國の首領の名稱ではないかと疑はれる。一説に、征服された者で、華夏族に非ざる種族の奴隸を指すといふ。
𠬢
- 説文解字
滑也。『詩』云、𠬢兮達兮。从又、屮。一曰取也。
- 康煕字典
- 又部三劃
『唐韻』土刀切『集韻』他刀切、𠀤音叨。『說文』滑也。一曰取也。
『舉要』𠬢、同挑。
『廣韻』腰鼓大頭名。『集韻』戎鼓大首謂之𠬢。
𠭥
- 説文解字
楚人謂卜問吉凶曰𠭥。从又持祟、祟亦聲。讀若贅。
- 康煕字典
- 又部十劃
『唐韻』之芮切『集韻』朱芮切、𠀤音贅。『說文』楚人謂卜問吉凶曰𠭥。
『集韻』輸芮切、音稅。又山芮切、音帥。義𠀤同。
- 音
- セイ。スイ。
- 訓
- うらなふ
- 解字(白川)
- 祟と又の會意。祟は呪靈を持つ獸の形。これを用ゐて呪詛を加へ、或は防禦する呪儀を殺、弑といふ。
- 説文解字に
楚人、吉凶を卜問することを謂ひて𠭥と曰ふ
とあり、贅の音で讀む。『儀禮・士冠禮』の注に筮は吉凶を問ふ所以なり
とあつて、筮と聲義の近い字であらう。
叔
- 説文解字
拾也。从又尗聲。汝南名收芌爲叔。
- 𡬧
叔或从寸。
- 康煕字典
- 又部六劃
- 《古文》𡭫𠁮𢆑
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤式竹切、音菽。『說文』拾也。从又、尗聲。汝南謂收芋爲叔。『徐曰』收拾之也。『詩・豳風』九月叔苴。《註》拾也。
『玉篇』伯叔也。『廣韻』季父也。『釋名』叔、少也。幼者稱也。
『爾雅・釋親』婦謂夫之弟曰叔。
『玉篇』同尗、豆也。『前漢・昭帝紀』得以叔粟當賦。《註》師古曰、叔、豆也。
姓。『韻會』魯公子叔弓之後。漢光武破虜將軍叔壽。
『集韻』或作𡬧。『玉篇』俗作𠦑。
『集韻』昌六切、與俶同。『說文』善也。詩、令終有俶。
- 訓
- ひろふ。すゑ。よい。
- 解字(白川)
- 尗と又の會意。尗は鉞頭の形、上は刃と柲部、小は刃光の放射する形。白色に光る銀や錫、また素巿をいふ。
- 拾の意や伯叔の意は假借。
- 解字(藤堂)
- 蔓の卷いた豆の形と小と又の會意。菽の原字。小さい豆や蕎麥の實を拾ふことを示す。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文は、弋と、廾と、地面を表す小さな方形あるいは短い横劃に從ひ、兩手で杭を持ち地面に樹てるさまを象り、本義は杭で穴を掘ること。本義での用例は見えず、埱が後起の本字。
- 金文は、廾に替へて、又あるいは丑に從ふ。秦簡では或は寸に從ふ。又も丑も寸も同義の旁である。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
取
- 説文解字
捕取也。从又从耳。『周禮』獲者取左耳。『司馬法』曰、載獻聝。聝者、耳也。
- 康煕字典
- 又部六劃
『唐韻』七庾切『集韻』『韻會』『正韻』此主切、𠀤娶上聲。『說文』捕取也。从又耳。『玉篇』資也、收也。『廣韻』受也。『增韻』索也。『禮・儒行』力行以待取。『史記・魯仲連傳』爲人排難解紛、而無取也。『管子・白心篇』道者、小取焉則小得福、大取焉則大得福。
『韻會』凡克敵不用師徒曰取。
『前漢・王莽傳』考論五經、定取禮。《註》師古曰、取、讀曰娶。
『集韻』『韻會』『正韻』𠀤逡須切、音趨。『集韻』取慮、縣名、在臨淮。
『集韻』雌由切、音秋。『前漢・地理志』𨻰留浚儀。《註》師古曰、取慮、縣名。音秋盧。取又音趨。
『集韻』『韻會』『正韻』𠀤此苟切、音趣。『杜甫・遭田父泥飮詩』今年大作社、拾遺能住否。呌婦開大瓶、盆中爲吾取。感此氣揚揚、須知風化首。
『正韻』索也。『詩・小雅』如酌孔取。《箋》謂度所勝多少。
『六書本義』𦥔通用伸、伸通取。訓索、取轉聲、與娶趣字同。
『古文奇字』朱謀㙔曰、古文取、疑當从与聲。人與而我取也。
- 訓
- とる。めとる。
- 解字(白川)
- 戰場で討ち取つた者の左耳を切り取る意。これを聝と言ひ、その數によつて戰功を定めた。首を取ることを馘といひ、聝耳を集めることを最、撮といひ、また聚といふ。妻を娶ることも取といふ。
- 解字(藤堂)
- 捕虜や敵の耳を戰功のしるしとして確り手に持つことを示す。
- 解字(落合)
- 獸の耳を手で取つて捕らへる樣子と言はれる。また、祭祀の名の用法は、犧牲の耳を切り取る儀禮をいふか。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 甲骨文、金文は、耳と又に從ひ、耳を手に持つ形に象る。本義は持取。古の戰爭では俘虜を聝した耳を數へて功を記した。轉じて一切を取獲するの義となる。『周禮』
獲者取左耳
。司馬法曰載獻聝。聝者耳也。
- 卜辭では「取牛」、「取馬」のやうに、取得の義を有す。また娶る意を派生し、娶の初文。金文では拿取、收取、選取などを表す。また地名、人名に用ゐる。
- 表
- 當用漢字・常用漢字
叚
- 説文解字
借也。闕。
- 𠖊
古文叚。
- 𠭊
譚長說、叚如此。
- 康煕字典
- 又部七劃
『唐韻』古馬切『集韻』舉下切、𠀤音賈。『說文』借也。『集韻』或作𠭊、通作假。
『集韻』何加切、音瑕。姓也。『春秋傳』晉有叚嘉。通作瑕。
- 音
- カ
- 訓
- かり。かりる。かす。
- 解字(白川)
- 手を以て巖石を切り取る形。また琢冶を加へない瑕玉の意。これを琢冶して眞玉を得るので、眞假の意となる。假は假面。
- 解字(藤堂)
- 厂と二印とコの下に又の會意。厂は布や皮を垂らしたさま。二印は下に置いたもの。コに又は手で行ふ動作。下に物を置きベールを被せる動作を表す。假の原字。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 金文は爪と又に從ひ、石聲。石字の口形の部分はは短い横劃二本に略される。一説に人の有する所を借りて己のために之を用ゐること、本義は借りることといふ。
- 金文では通讀して嘏となし、幸ひを表す。克鐘
用匄屯(純)叚(嘏)永命
。『詩・魯頌・閟宮』天錫公純嘏
、鄭玄箋受福曰嘏
。また通讀して瑕となし、過失を表す。曾伯陭壺為德無叚(瑕)。
また通讀して胡となし、疑問の副詞。曾伯簠叚(胡)不黃耇、萬年眉壽無疆。
文獻では或は遐につくる。『詩・小雅・南山有臺』遐不眉壽。
また可能を表す情態的助動詞。師㝨簋今余弗叚組(沮)
は、我は損なふことができない、の意。
度
- 説文解字
法制也。从又、庶省聲。
- 康煕字典
- 广部六劃
- 《古文》𡧪㡯
- 音
- (1) ド。ト。
- (2) タク
- 訓
- (1) ものさし。のり。わたる。
- (2) はかる
- 解字(白川)
- 席の省文と又の會意。席をひろげる意。席の大きさが長短の基準であつた故、測量、度量の意となる。
- 解字(藤堂)
- 説文解字に同じ。尺と同系で、はかる意。また、企圖の圖と近く、長さをはかる意から轉じて、推しはかる意。
- 解字(漢字多功能字庫)
- 又に從ひ、石聲。石字の口が訛變して廿の形となつた。手で長短を量る意。
- 表
- 當用漢字・常用漢字