匕 - 漢字私註

説文解字

匕
相與比敘也。从反。匕、亦所以用比取飯、一名。凡匕之屬皆从匕。卑履切。
匕部

説文解字注

匕
相與比敘也。比者、密也。敘者、次弟也。以妣籒作𡚧、䃾或作𥘇、秕或作𥝓等求之。則比亦可作匕也。此製字之本義。今則取飯器之義行而本義廢矣。从反人。相與比敘之意也。卑𡳐切。十五部。匕亦所㠯用比取飯。㠯者、用也。用字衍。比當作匕。漢人曰匕黍稷、匕牲體。凡用匕曰匕也。匕卽今之飯匙也。『〔儀禮〕少牢饋食禮・注』所謂飯橾也。『少牢饋食禮』廩人摡甑獻匕與敦。《注》曰、匕所以匕黍稷者也。此亦當卽飯匙。按禮經匕有二。匕飯、匕黍稷之匕葢小。經不多見。其所以別出牲體之匕。十七篇中屢見。䘮用桑爲之。祭用棘爲之。又有名疏、名挑之別。葢大於飯匙。其形製略如飯匙。故亦名匕。鄭所云有淺斗。狀如飯橾者也。以之別出牲體謂之匕載。猶取黍稷謂之匕黍稷也。匕牲之匕。『易』、『詩』亦皆作匕。『〔詩・小雅〕大東・傳』、『〔易〕震卦・王注』皆云、匕所以載鼎實是也。『禮記・襍記』乃作枇。本亦作朼。鄭注『特牲』引之。而曰朼畢同材曰朼載。葢古經作匕。漢人或作朼。非器名作匕。匕載作朼。以此分別也。若『〔儀禮〕士䘮』、『士虞』、『特牲』、『有司』篇匕載字皆作朼。乃是淺人竄改所爲。鄭注『易』亦云匕牲體薦鬯。未嘗作朼牲體也。注中容有木旁之朼。經中必無。劉昌宗分別。非是。一名柶。《木部〔字條〕》曰、【禮】有柶。柶、匕也。所以取飯。凡匕之屬皆从匕。

康煕字典

部・劃數
部首

『唐韻』𤰞履切『集韻』『韻會』補履切『正韻』補委切、𠀤音比。『說文』匕、相與比敘也。亦所以用取飯。一名柶。『玉篇』匙也。『易・震卦』不喪匕鬯。『詩・小雅』有捄棘匕。《註》以棘爲匕、所以載鼎肉、而升之于俎也。『三國志・劉先主傳』先生方食、失匕箸。

又匕首。『通俗文』劒屬。其頭類匕、短而便用、故曰匕首。『史記・吳世家』專諸置匕首于炙魚中、以刺吳王僚。『刺客傳』荆軻至秦獻燕督亢地圖、圖窮而匕首見。《註》荆軻懷數年之謀、而事不就者、尺八匕首不足恃也。『劉向・說苑』尺八短劒頭似匕。

音訓

ヒ(漢、呉) 〈『廣韻・上聲』卑履切〉[bǐ]{bei2/bei6}
さじ。あひくち(匕首)。

解字

白川

象形。の右向きの形。また、匙、小刀の形。これらの三義はもと異なるものであるが、字形が似てゐるので同形となつた。

『説文解字』に相ひともに比敍するなり。反人に從ふ。と比敍の意と解するが、比敍の字は、二人竝ぶ意であるから、この解は比に施すべきである。

『説文解字』にまた匕は亦た比をつて飯を取る所以なり。一名と匕杓の意とする。器としては匙の形で、是は柄の長いスプーン、それに匕を添へて匙とする。

卜文では妣の初文に用ゐ、「亡き母」の意とする。

藤堂

象形。匕は妣の原字で、もと細い隙間を挾み込む陰門を持つた女や牝を示したもの。

また、二叉のスプーンを描いた象形字と見ても良い。尖端が薄く尖り、骨と肉との隙間に差し込める食事用ナイフ。少し凹みをつけるとスプーンとなり、專ら切り突くのに用ゐれば合口(匕首)となる。

落合

象形。手を曲げてゐる人の側面形。甲骨文では女性祖先を意味して用ゐられてをり、女性の仕草を表現したものであらう。甲骨文ではと同じやうな形が用ゐられることも多い。またや豝の初文のなどで動物の牝を意味する記號として用ゐられてゐる。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 二世代以上前の女性祖先。妣と釋する。《殷墟甲骨輯佚》650、651・末尾記時乙卯貞、其大禦王于多妣眔祖、酒。在大宗卜。
  2. 捕獲の意。假借義か。狩獵の場合には匕禽ともいふ。
    • 《合集》28598叀匕豕。
    • 《合集》29354・末尾驗辭于辛田、禽。王匕禽。
  3. 地名またはその長。
  4. の異體の略體。

女性祖先の用法では、金文で意符のを加へて𡚧に作り、更に古文で匕を聲符のに替へて妣に作る。字義にも變化があり、甲骨文では二世代以上前の女性祖先として用ゐられたが、後代には死去した母親の意で使はれてゐる。

後代には匙としての用法があり、その象形とする説もあるが、甲骨文では匕字のほか、从や牝などでも匕が人の形と通用してゐる。匙の意については、字音による假借か、後代に字源が誤解されたものであらう。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は、人の匍匐する形(徐中舒、趙誠)、あるいは側臥(橫向きに臥す)する人の形を象るといふ。戰國の墓葬から側臥の女尸が出土し、仰臥の男尸の側に置かれてゐた。匕は妣の初文で、側臥する女子を象り、女祖先を表す(孫雍長)。湯匙を表す匕は、音が近く假借したもの。

一説に匕匙の形を象り、匕柶(さじ)の初文であるといふ(郭沫若、李孝定)。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

屬性

U+5315
JIS: 1-50-24

関聯字

匕に從ふ字を漢字私註部別一覽・匕部に蒐める。