妻 - 漢字私註
説文解字
婦與夫齊者也。从女从屮从又。又、持事、妻職也。
- 十二・女部
古文妻从𡭙、女。𡭙、古文貴字。
説文解字注
婦與己齊者也。从女从屮从又。又、持事、妻職也。屮聲。
古文妻。从肖女。肖、古文䝿字。
- 註に
「古文貴不見於貝部。恐有遺奪。
といふ。
康煕字典
- 部・劃數
- 女部五劃
- 古文
- 𡜌
- 𡜈
『廣韻』七稽切『集韻』『韻會』『正韻』千西切、𠀤音凄。『說文』妻、與己齊者也。『詩・邶風』士如歸妻、迨冰未泮。
又令妻、令善之妻。『詩・魯頌』令妻壽母。
又妻曰鄕里。『南史・張彪傳』呼妻曰、我不忍令鄕里落他處。《姚寬曰》猶會稽人言家里。
又『梵書・蓮經註』佛有妻、名耶須。
又『集韻』千咨切、恣平聲。義同。
又七計切、音砌。以女嫁人曰妻之。『論語』以其子妻之。一曰妻者、判合也。夫者、天也。故於字夫正而妻偏。
- 部・劃數
- 女部六劃
『玉篇』古文妻字。註詳五畫。
- 部・劃數
- 女部六劃
『集韻』妻古作𡜈。註詳五畫。
音訓
- 音
- (1) サイ(呉) セイ(漢) 〈『廣韻・上平聲・齊・妻』七稽切〉
- (2) サイ(呉) セイ(漢) 〈『廣韻・去聲・霽・砌』七計切〉
- 訓
- (1) つま
- (2) めあはす
解字
白川
象形。髮飾りを整へた婦人の形に象る。髮に三本の簪を加へて盛裝した姿で、婚儀のときの儀容をいふ。夫は冠して笄を加へた人の形。夫妻は結婚するときの儀容を示す字。
説文解字に婦なり。己と齊しき者なり。
(小徐本)とし、字形について又、屮、女に從ひ、又は事を持す。妻の職なり。
とするが、字形に又を含まず、字も屮聲ではない。
妻が祭事に勤しむ字は敏で、その字形は妻に手を添へた形。
藤堂
又(手)と簪をつけた女の會意。又は家事を處理することを表し、妻字は家事を扱ふ成人女性を表すが、妻といふ言葉は夫と肩を揃へる相手を表す。
落合
甲骨文は簪をつけた女の象形で、特に簪の部分が強調された字。夫と同じく簪は成人の象徵として使はれてゐる。(系統1)
また甲骨文に長髮の老女の象形、あるいはそれを又(手)で支へる形の會意字があるが、用法が異なる。(系統2)
甲骨文での用義は次のとほり。
- つま。配偶の女性。先王や神に對しても用ゐられる(系統2の字體)。《合集》938
貞、侑于示壬妻妣庚[⿱冖羊]、叀𣱼牛七十。
- 祭祀名(系統1の字體)。《殷墟小屯中村南甲骨》350・後半驗辭
己酉卜、烄妻。二月、庚、用之、夕雨。
- 地名(系統1の字體)。殷に敵對して妻方と呼ばれた。《合集》6641
己未卜㱿貞、王登三千人、呼伐妻方、[屮戈]。
篆文で簪をつけた女と又から成る字形となつた。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は又と長髮の女子に從ひ、手を用ゐて女子の長髮を捕らへるさまを表す。上古には女子を掠奪して妻とした(陳煒湛)ので、妻の字形は掠奪婚を反映してゐる。本義は妻。動詞に用ゐるときは、めあはせるの意。一説に女子が手を用ゐて髮を束ねるさまに象り、人妻を表す(李孝定)。後に又(手の形)と頭髮を合はせて一緒に書く。
(補註: 漢字多功能字庫の擧げる甲骨文は、落合の擧げる甲骨文のうち系統2に同じ。)
甲骨文、金文では妻を表す。
- 《合集》938:「㞢(侑)于示壬妻匕(妣)庚」は、示壬の妻の妣庚に對して侑祭を行ふの意。
- 叔皮父簋
其妻子用亯(享)考(孝)于弔(叔)皮父
は、彼の妻と子供は叔皮父を樂しませ良く仕へるの意。
金文ではまた嫁を表す。
- 農卣
吏(使)厥友妻農
の農は人名で、彼の朋友をして娘を農に嫁がせしむ、の意(劉心源、楊樹達)。『論語・公冶長』以其子妻之
邢昺疏納女於人曰妻
。
戰國竹簡の用義は次のとほり。
- 妻を表す。
- 《郭店簡・六德》簡28
為妻亦然
。 - 《郭店簡・六德》簡29
為昆弟絕妻、不為妻絕昆弟。
- 《九店楚簡》56號墓簡13
利以取(娶)妻
。 - 《上博竹書五・姑成家父》簡9
與亓(其)妻與亓(其)母
。 - 《清華簡二・繫年》簡5
周幽王取(娶)妻于西申,生平王。
- 《清華簡二・繫年》簡23
蔡哀侯取(娶)妻於陳
。
- 《郭店簡・六德》簡28
- めあはすことを表す。
- 《清華簡二・繫年》簡35
惠公安(焉)以其子懷公爲執(質)于秦、秦穆公以亓(其)子妻之。
- 《清華簡二・繫年》簡35
- 細の通假字となす。
- 《郭店簡・老子甲》簡18
道亙(恒)亡(無)名、僕(樸)唯(雖)妻(細)、天地弗敢臣。
(補註: 『老子・第三十二章』に相當)
屬性
- 妻
- U+59BB
- JIS: 1-26-42
- 當用漢字・常用漢字
- 𡜌
- U+2170C
- 𡜈
- U+21708
関聯字
妻聲の字
- 萋
- 郪
- 𪗍
- 悽
- 淒
- 霋
- 棲
- 緀
- 凄